第二幕

スミレはゆっくりと身を起こし、しばし茫然と手渡されたドレスを見つめていました。
何の飾り気もない白く地味なドレス…しかし、生地も作りも上質で、決して安くはないだろうことがわかりました。
「優遇されているのか?」
体のあちこちを動かしてみると少しズキリと痛みましたが、そう重症ではないようでした。もしくは、体が回復するまで眠っていたのかもしれません。
(いったいどれほどの時間わたしは眠っていたのだろう…)
ぼぅっと、またドレスに目を落としていると…
「具合はどうだ?」
ノックも無しに突然魔王が扉を開け放ちずかずかと部屋に入ってきました。
「うわあああ!!?」
まだ着替えていないスミレは慌てて上掛けを被りました。
「貴様!ノックぐらいしろ!」
悲鳴に近い非難の声をあげ、「変態」「助兵衛」と、考えられるだけの罵倒の言葉をぶつけました。恥ずかしくて顔から火が出そうでした。
「介抱してやったのに、そのいい方はないだろう」
魔王はむっとしながらも、ベッドの側に椅子を引っ張ってきて腰掛け、枕元に肘を突いてスミレの様子をうかがいました。
「具合はどうだ?」
魔王が再びきくと、スミレはもごもごと小さな声で「大丈夫だ…」とだけ答えました。
「貴様、何を考えている?わたしは貴様を殺しにきているのだ。なぜ倒れたわたしを介抱する?」
魔王は、さも当たり前のように答えました。
「死んでしまってはつまらなかろう」
スミレは目が点になりました。
「それだけの理由か?」
「それだけの理由だ」
スミレはガクッと力が抜けました。魔王は「しかし」と続けました。
「私は楽しいのだ。スミレと遊ぶのがな」
スミレがなぜか問うと、魔王は楽しそうに答えました。
「ここ最近急に人間共が私に挑んでくるようになった。そいつらは皆汗臭い野郎共ばかりだ。しかし見かけによらずあっけないやつらばかりだ。いい加減飽きていたところに現れたのがお前だ。お前は女なのに、汗臭い野郎共よりは遊びごたえがある。まあ、それでも弱いがな。しかし、あのアスターを一撃で倒すのはなかなか居ない。私は、楽しいのだ」
遊ばれている。それはスミレにとって屈辱でした。今までの魔王の態度を思い起こしてスミレは腹が立ちました。
「わたしは遊んでやっているわけでは無い!貴様、自分が何をやってきたかわかっているのか?!」
魔王は怪訝な顔になりました。話の筋が見えていないようです。
「貴様は罪の無い村人をおもしろ半分に喰らい、お前に挑んだ戦士たちをおもしろ半分になぶり殺してきたのだ。わたしは、貴様を許さない!」
魔王は驚いたようでした。そして
「そんなことをした覚えは無いぞ?」
と否定したのですが、スミレは「とぼけるな!」と激昂しました。
「いいから出て行け!介抱してもらったことは礼を言う。だが、傷が癒えたら今度は貴様を倒してやる!必ずだ!」
あまりの剣幕に、魔王は渋々部屋を出て行きました。
スミレはいそいそと身支度をし、魔王の城を後にしました。
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