【番外】ガーリィ☆マジック
季節は春でした。
野の花が咲き乱れ、蝶や蜂が舞い、吹く風も心地よい、うららかな昼下がり。
魔王とスミレは数人の侍女を侍らせ、中庭で紅茶をすすり、お菓子をつまんで日向ぼっこをしていました。
不意に、スミレの目の前に蝶が一匹舞い込んできて、カップをつまむ指先に止まりました。しばらく眺めていると、無意識にピクリと指が動いた拍子に、蝶は逃げてしまいました。
一同は舞い上がり逃げて行く気まぐれな蝶を目で追い、春だな、と溜め息をつきました。
「なあ」
スミレが口を開きました。
「わたし、新しいドレスが欲しいんだ」
「ほう?どんな?」
今までは魔王の一方的な趣味とセンスでドレスを買い与えていたので、魔王は少しだけ嬉しくなりました。
「ピンクベージュというか、ベージュピンクというか、落ち着いた優しい感じのピンクのドレスがいいな」
それを聞いた魔王は思わずガタッと立ち上がり、息を飲みました。
「お前……今までピンクのドレスには一度しか袖を通さなかったじゃないか……」
「う、うん……だが、ああいうデザインじゃないのがいいんだ」
魔王は眉間にシワを寄せ、ゴクリと喉をならしました。
「ど、どんな感じのがいいんだ?」
スミレは、うーんと唸りながら、唇に指をあて、ぽつりぽつりと希望を挙げました。
「なんか、袖にレースのフリルがたくさん重ねてあって、あちこちにリボンがついてて、裾に…そうだなあ、馬車の刺繍が欲しい……な……?」
スミレが顔を上げると、魔王は幽霊でも見たかのような怯えた表情でこちらを凝視しています。
見回してみると、そばに侍していた侍女達も、口を覆い、すごい目をして固まっています。
スミレ以外の一同は、まさかスミレの口から一生聞くことはないだろうと思っていた単語がつらつらと出てきた衝撃に、現実が受け止められませんでした。
ピンクの、レースの、フリルの、リボンの、あまつさえ裾に刺繍……。
スミレは皆がそれに驚いていることに気付き、俯いていじけてしまいました。
「うん……おかしいよな……どうせわたしなんかに似合わないよな……わかってる……ごめん……どうせ……」
その様子に、固まっていた一同は、はっと我に帰り、スミレの肩に腕にすがり付いて彼女をなだめました。
「そ、そんなことないぞスミレ!名案に驚いたぞ!似合う似合う!」
「素晴らしいデザインですわスミレ様!是非拝見しとうございます!」
「素敵ですわ!なんと可愛らしい!絶対にお似合いですわ!」
「よ、よーし!一流の仕立て屋に今すぐ作らせよう!おい、お前達!」
「天才刺繍職人ギルドに手配しましょうね!下絵は宮廷画家に描かせましょう!」
周りの騒ぎようが、わざとらしく聞こえたスミレはますます不機嫌になってしまいました。
野の花が咲き乱れ、蝶や蜂が舞い、吹く風も心地よい、うららかな昼下がり。
魔王とスミレは数人の侍女を侍らせ、中庭で紅茶をすすり、お菓子をつまんで日向ぼっこをしていました。
不意に、スミレの目の前に蝶が一匹舞い込んできて、カップをつまむ指先に止まりました。しばらく眺めていると、無意識にピクリと指が動いた拍子に、蝶は逃げてしまいました。
一同は舞い上がり逃げて行く気まぐれな蝶を目で追い、春だな、と溜め息をつきました。
「なあ」
スミレが口を開きました。
「わたし、新しいドレスが欲しいんだ」
「ほう?どんな?」
今までは魔王の一方的な趣味とセンスでドレスを買い与えていたので、魔王は少しだけ嬉しくなりました。
「ピンクベージュというか、ベージュピンクというか、落ち着いた優しい感じのピンクのドレスがいいな」
それを聞いた魔王は思わずガタッと立ち上がり、息を飲みました。
「お前……今までピンクのドレスには一度しか袖を通さなかったじゃないか……」
「う、うん……だが、ああいうデザインじゃないのがいいんだ」
魔王は眉間にシワを寄せ、ゴクリと喉をならしました。
「ど、どんな感じのがいいんだ?」
スミレは、うーんと唸りながら、唇に指をあて、ぽつりぽつりと希望を挙げました。
「なんか、袖にレースのフリルがたくさん重ねてあって、あちこちにリボンがついてて、裾に…そうだなあ、馬車の刺繍が欲しい……な……?」
スミレが顔を上げると、魔王は幽霊でも見たかのような怯えた表情でこちらを凝視しています。
見回してみると、そばに侍していた侍女達も、口を覆い、すごい目をして固まっています。
スミレ以外の一同は、まさかスミレの口から一生聞くことはないだろうと思っていた単語がつらつらと出てきた衝撃に、現実が受け止められませんでした。
ピンクの、レースの、フリルの、リボンの、あまつさえ裾に刺繍……。
スミレは皆がそれに驚いていることに気付き、俯いていじけてしまいました。
「うん……おかしいよな……どうせわたしなんかに似合わないよな……わかってる……ごめん……どうせ……」
その様子に、固まっていた一同は、はっと我に帰り、スミレの肩に腕にすがり付いて彼女をなだめました。
「そ、そんなことないぞスミレ!名案に驚いたぞ!似合う似合う!」
「素晴らしいデザインですわスミレ様!是非拝見しとうございます!」
「素敵ですわ!なんと可愛らしい!絶対にお似合いですわ!」
「よ、よーし!一流の仕立て屋に今すぐ作らせよう!おい、お前達!」
「天才刺繍職人ギルドに手配しましょうね!下絵は宮廷画家に描かせましょう!」
周りの騒ぎようが、わざとらしく聞こえたスミレはますます不機嫌になってしまいました。