【番外】効果的に人を泣かせる方法

魔王とスミレが結婚してしばらく経ったある夜のことです。
夜の営みを終えた二人は抱き締め合って眠ろうとしていました。
不意に魔王はスミレのことが可愛くて仕方なくなり、珍しくスミレに愛をささやきました。
「スミレ、可愛い」
いつも淡白であまり愛を表さない魔王が急に熱っぽく褒めてきたので、スミレは驚きました。
「な、なんだよ、急に」
魔王は今までも全く褒めなかったわけではありません。たまに気が向いたときにスミレを褒めていました。
しかし本当にごくたまにしか愛を表さないので、スミレは未だに耐性がありませんでした。急に褒められるとドキドキしてしまいます。
「スミレはどんどん可愛くなるな。昔に比べたらずっと女らしくなった」
「……」
スミレは嬉しくてしかたない反面、どう反応していいのか困惑しました。
少し前は意地を張って喧嘩したスミレでしたが、なぜだか今はとても満たされて、反発する気になりません。
困ったような顔をして黙り込むスミレを見て、魔王は心配になりました。
「どうしたスミレ?私、何か変なこと言ったか?」
「……ううん……。……嬉しい、よ……?」
表情と発言が矛盾するスミレに、魔王は困惑しました。全然嬉しそうに見えません。
「嬉しいなら、もっと嬉しそうにしろ。せっかく褒めてるのに」
「う、嬉しいよ。ほんとに喜んでるんだ。でも、その、お前、あんまりそんなこと言わないから、なんか、慣れてないんだ」
スミレがどんどん嬉しくなさそうな顔になっていくので、魔王はもっと熱っぽく愛を語りました。
「そんな顔をするなスミレ。嬉しいなら笑ってくれ。私は確かにあまり好きだとは言わないが、いつだってお前を愛しているんだ」
この言葉に、ついにスミレの涙腺が決壊しました。本当に珍しく嬉しくなったので、感情がおさえられなくなったのです。
しかし、魔王は困りました。喜ばせようとしたことが逆の結果を招いたのです。
「な、なぜ泣くんだ?私全然苛めてないぞ?」
「違う、違うんだ、魔王。わたしは、本当は、すごく、泣き虫なんだ……」
困惑しながら、泣きじゃくるスミレを見ていた魔王の心に、不意に火がつきました。それは実に久しぶりな部分、嗜虐性です。
魔王は気がつきました。
苛めてもなかなか泣かないスミレも、魔王の理解できない部分で突然泣くことがあるのです。スミレは逆境には強いのですが、順境には滅法弱く、嬉しいと泣くのです。
魔王はワクワクしてきました。スミレをもっと泣かせたい。スミレをもっと困らせたい。かつて見たことのない反応に新鮮な感動を感じました。
明日、また誉めちぎって泣くかどうか実験しよう。
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