【番外】スミレに勝機?
スミレは剣を大きく振り上げると、勢いよく魔王にそれを投げつけました。
「?!」
切れ味のいい肉厚の大剣が魔王めがけて飛んできます。魔王はこの攻撃に面食らいました。飛び退りながらすんでのところでたたき落とすと、次の瞬間にはスミレが魔王の目の前に来ていました。そしてスミレは魔王に、隠し持っていた短剣で深く斬りつけたのです。
この攻撃に魔王は驚きました。まるでスミレではない戦い方だと思ったのです。
久しく味わったことの無かった激痛に魔王がひるむと、スミレはもう一太刀浴びせました。たまらず魔王は瞬間移動魔法を使って退避しました。
「貴様……」
話している余裕はありませんでした。魔王は何も無い空間から魔法で長剣を取り出しました。魔界で魔王が使っている愛用の魔剣です。
(これをこいつに使うことになるとは)
この隙にスミレは先ほど投げた大剣を回収し、構えました。
魔王は魔法しか使わないわけではありません。本当は剣も鈍器も弓矢も一通り扱えるのです。しかし、本気で殺すつもりにならなければ持ち出さない物でした。
魔王もスミレも同時に地を蹴り、刃と刃がぶつかりました。しかしスミレにはまだ隠していた手があったのです。斬撃の合間に彼女は小さなナイフを投げました。一本や二本ではありません。スミレは鎧のそこかしこに暗器をいくつも忍ばせていました。それがバレないようにする為に、マントを羽織ったのです。
「こしゃくな!!」
魔王は本気で怒りました。かなり強い魔法でスミレを吹き飛ばすと、スミレに斬撃を与え転倒させ、力任せにスミレの腹部に剣を突き立て、鎧を突き破って刺しました。
「ぐあああ!!」
勝負は決まりました。魔王は肩で息をし、剣を引き抜きました。スミレの傷口から血が溢れ出しました。
「………」
魔王は苦しむスミレを、敵を見るような目つきで見下ろしていました。とてもこの女が自分の妻には思えませんでした。
すぐさま回復の得意な魔物がスミレと魔王に駆け寄り、回復魔法をかけました。
「貴様……今まで私に隠れてこんなことを考えていたのか?」
「倒せると……思ったんだがな……」
回復魔法で痛みが引いてきたスミレは、力無く笑いました。やはり魔王には勝てない。そう思っても、魔王に攻撃が届いただけでもスミレは誇らしく思えました。
魔王は破れた服を弄ると、不意におかしくなってきて高笑いをあげました。自分の服が破れている。しかもボロボロになっている。こんなことは何年ぶりでしょう。こんなに本気で戦ったのは何年ぶりでしょう。そして、相手はあのか弱かったスミレです。笑いが止まりませんでした。
「面白い!やはり貴様は面白い!ふはははは!私に隠れてこんなことを企むとは!」
ひとしきり笑うと、魔王はわくわくしてきました。
「また私に挑むがいい。貴様に殺されるならこんなに愉快なことは無い。また私を楽しませてくれ。二度は同じ手は食わんがな」
「ならば、わたしの武装や剣の鍛錬を許してくれるか?」
スミレのこの戦いの意図はここにありました。どうしてもまた剣の道を極めたかったのです。その為には魔王を納得させる理由がどうしても必要でした。
「よかろう。許す。くっくっく……。まったく、退屈せんわ」
ギャラリーはわあっと拍手をしました。
次の日から、スミレは度々剣の稽古をするようになりました。その瞳は、とても輝いていました。
「やはりわたしは身体を動かしているほうが性に合っている。次こそは魔王に勝ってみせるぞ」
おしまい。
「?!」
切れ味のいい肉厚の大剣が魔王めがけて飛んできます。魔王はこの攻撃に面食らいました。飛び退りながらすんでのところでたたき落とすと、次の瞬間にはスミレが魔王の目の前に来ていました。そしてスミレは魔王に、隠し持っていた短剣で深く斬りつけたのです。
この攻撃に魔王は驚きました。まるでスミレではない戦い方だと思ったのです。
久しく味わったことの無かった激痛に魔王がひるむと、スミレはもう一太刀浴びせました。たまらず魔王は瞬間移動魔法を使って退避しました。
「貴様……」
話している余裕はありませんでした。魔王は何も無い空間から魔法で長剣を取り出しました。魔界で魔王が使っている愛用の魔剣です。
(これをこいつに使うことになるとは)
この隙にスミレは先ほど投げた大剣を回収し、構えました。
魔王は魔法しか使わないわけではありません。本当は剣も鈍器も弓矢も一通り扱えるのです。しかし、本気で殺すつもりにならなければ持ち出さない物でした。
魔王もスミレも同時に地を蹴り、刃と刃がぶつかりました。しかしスミレにはまだ隠していた手があったのです。斬撃の合間に彼女は小さなナイフを投げました。一本や二本ではありません。スミレは鎧のそこかしこに暗器をいくつも忍ばせていました。それがバレないようにする為に、マントを羽織ったのです。
「こしゃくな!!」
魔王は本気で怒りました。かなり強い魔法でスミレを吹き飛ばすと、スミレに斬撃を与え転倒させ、力任せにスミレの腹部に剣を突き立て、鎧を突き破って刺しました。
「ぐあああ!!」
勝負は決まりました。魔王は肩で息をし、剣を引き抜きました。スミレの傷口から血が溢れ出しました。
「………」
魔王は苦しむスミレを、敵を見るような目つきで見下ろしていました。とてもこの女が自分の妻には思えませんでした。
すぐさま回復の得意な魔物がスミレと魔王に駆け寄り、回復魔法をかけました。
「貴様……今まで私に隠れてこんなことを考えていたのか?」
「倒せると……思ったんだがな……」
回復魔法で痛みが引いてきたスミレは、力無く笑いました。やはり魔王には勝てない。そう思っても、魔王に攻撃が届いただけでもスミレは誇らしく思えました。
魔王は破れた服を弄ると、不意におかしくなってきて高笑いをあげました。自分の服が破れている。しかもボロボロになっている。こんなことは何年ぶりでしょう。こんなに本気で戦ったのは何年ぶりでしょう。そして、相手はあのか弱かったスミレです。笑いが止まりませんでした。
「面白い!やはり貴様は面白い!ふはははは!私に隠れてこんなことを企むとは!」
ひとしきり笑うと、魔王はわくわくしてきました。
「また私に挑むがいい。貴様に殺されるならこんなに愉快なことは無い。また私を楽しませてくれ。二度は同じ手は食わんがな」
「ならば、わたしの武装や剣の鍛錬を許してくれるか?」
スミレのこの戦いの意図はここにありました。どうしてもまた剣の道を極めたかったのです。その為には魔王を納得させる理由がどうしても必要でした。
「よかろう。許す。くっくっく……。まったく、退屈せんわ」
ギャラリーはわあっと拍手をしました。
次の日から、スミレは度々剣の稽古をするようになりました。その瞳は、とても輝いていました。
「やはりわたしは身体を動かしているほうが性に合っている。次こそは魔王に勝ってみせるぞ」
おしまい。