【番外】スミレに勝機?

またある日の夜。魔王がベッドに寝転がり、スミレが洗った髪を乾かして鏡台に向かっていた時のことです。魔王はふと疑問に思ってスミレに訊ねました。
「そういえばおまえ、昼間は何をしているんだ?」
スミレはびくっと身体を竦め、少し考えて、曖昧に答えました。
「んーーーー……、色んなことをしているぞ」
「例えば?」
これに、スミレは困りました。剣の練習をしてると答えたらまた叱られかねませんし、お花を活けている、などというあまりにもかけ離れた嘘はあとで苦しくなります。本当は、スミレはこっそり取り組んでいることがあったのですが、嘘にならない程度に、合間にしている息抜きを答えることにしました。
「魔界で見つけた蔵書を運んできて、読んでいる。たいてい読めない言葉だが、読める物もあったのでな。なかなか面白いぞ?」
「ふーん。他には?」
「ん………色々しているが……料理を覚えたり?考え事をしたり?工作をしたり?」
魔王は腑に落ちない様子でした。
「本当か……?」
「本当だとも。疑うなら料理長に聞いてこい。簡単なお菓子なら作れるぞ」
生来人間不信の魔王は、こういう時にやたらと勘が働きます。スミレが歯に物が挟まったような言い訳をするので、疑念が生まれました。
「まさか浮気でもしているんじゃないだろうな?」
「はあ?なんでそうなるんだ?考えたことも無いぞ?」
「本当か?」
「嘘なんかついてないって」
「ふーーーん……」
魔王が不機嫌そうになったので、スミレは目一杯甘えた態度で話題を反らせることにしました。これ以上詰問されては、なんと嫌疑をかけられるか分かりません。
「そんなことどうでもいいじゃないか魔王。わたしはお前に愛される女になろうと努力することが色々あるのだ。さあ、今夜もわたしを愛しておくれ」
そう言ってスミレは魔王の胸に飛び込みました。
「私を裏切ったら呪いをかけるぞ」
「どうぞどうぞ」

またある日、魔王が魔界に出掛けて帰ってこない日があったので、スミレは久しぶりに全身鎧に身を包み、強い魔物を相手に剣の稽古をしました。
かつて魔王討伐をしていた時に幾度か倒している相手でしたが、なかなか歯ごたえのある相手なので、スミレは時々この魔物と戦っていました。
「そこだ!」
スミレの必殺の一撃が魔物の胸を裂いた時です。魔物は生命の危機を感じたので「まいった!」と声を上げました。
「ま……まさかそんな戦い方を編み出すとは……思っていませんでした……」
スミレは肩で息をしながら剣を収めました。
「これでいけると思うか……?」
「ええ……きっと、今までのスミレ様の戦い方を知っていればいるほど、意表をつかれることと思います」
「そうか……ならば、他にも試してみたいことがある。おい!」
スミレはそばに侍していた回復魔法を使う魔族に声をかけました。
「はい!」
「こいつに致命傷を与えるつもりでやるから、用意しておけ」
「ええ!まだやるんですか?!」
魔物は震え上がりました。
「頼む。殺しはしないから、もうしばらく付き合ってくれ」
「スミレ様はそれ以上強くなってどうなさるおつもりですか……」
回復魔法を受けながら、魔物はがっくりと肩を落としました。
「あいつに……。魔王に、今度こそ勝つ……。その為には、もう少し、実際に身体を動かす必要があるのだ。頼む」
魔物は確信しました。スミレは、魔王に勝つことが出来ないとしても、確実に魔王に傷を負わせることが出来るのではないかと。
そして二人は再び対峙しました。
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