第一幕

「ふぅ…私としたことが…小娘相手に少し力を使いすぎたな…」
娘に近づいてみると、幸いまだ息はあるようでした。
(小娘ごときに本気を出して殺したとなれば寝覚めが悪いからな…私のプライドも許さぬし…)
魔王はちょっぴりほっとしました。
(なかなか綺麗な顔をしている。何故死にに来たのか・・・。腕は立つようだが、殺すには惜しいな)
「………」
魔王が立ち去ろうとすると、娘は「うぅ…」と呻き、目を覚ましました。
「ほう、もう気が付いたか」
「!!貴様!…うぐっ!」
スミレは起き上がりかけ、激しい激痛にまた倒れました。「さすが魔王というところか…」
憎々しげに睨み上げると
「無理は止せ。骨の数本は無事ではなかろう。城の部屋を一部屋貸す。数日寝ていくがいい」
思いがけない魔王の優しい気遣いに、スミレは戸惑いました。
「こ、殺さない…のか?」
魔王は振り返らず、寝室へとすたすた歩きだしました。
「待て!勝負はまだ付いてはいない!」
敵に情けを掛けられるなどとは。
スミレは屈辱に怒り震え、体の痛みを押し殺して立ち上がり、再び剣を取りました。
「やめておけ。相手にならぬ」
「まだまだこれしき!」
スミレは魔王におどりかかろうとしましたが、体に力を入れるたびに激痛が走り、よろよろと膝をついてしまいました。
「立ち上がる気力があるなら自力で帰れるか。無理はするな。また挑むがよい」
「おのれ…な、名前の可愛い魔王め!」
スミレの挑発に、もう魔王は反応しませんでした。ただ、「また来るがよい」とだけ言って、広間を出てゆきました。
スミレは腑に落ちないながらも、「望むところだ、次は倒す!」と再び決意を燃やし、城を後にしました。

寝室の窓から、スミレがよろめきながら帰るのが見えました。
「変わった女だ…」
魔王は小さくなってゆく後ろ姿を見つめながら、ため息とともに呟きました。
「必ずまた来い。…私を殺しに…」
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