丘の魔王 第一部

ある穏やかな昼下がり、スミレが魔王の城の自室で本を読んでいると、一仕事雑務を終えた魔王が甘えに来ました。
「スミレ!私は疲れた!抱っこ!」
スミレは毎度のことなので、しょうがないなあと言いながら、ベッドに腰を下ろしました。
そして、ポンポンと膝を叩き、魔王にこちらに来るように促しました。
魔王はスミレのとなりに座り、体を倒して膝枕をして甘えました。
猫だったらごろごろと喉を鳴らしていそうな幸せそうな顔です。
「スミレ、私は夢ができたぞ」
スミレは魔王の艶やかで手触りのいい髪を撫でました。
「ん?なんだ?」
「私は、スミレと正式に結婚するまで、スミレと結ばれるのを我慢する。スミレと結婚したら、沢山沢山スミレを愛すのだ」
まるで乙女のような可愛らしい夢でした。
スミレは幸せを感じました。
「そうか。では、婚礼の日をわたしも楽しみにしているぞ。わたしも……早く魔王に愛されたいものだ」
そうか?と魔王は嬉しくなって、なおも夢を語ります。しかし、とんでもない夢でした。
「スミレと結婚したら、毎夜スミレをベッドに縛り付けてヒィヒィ言わすのだ。泣いて喜ぶ姿が目に浮かぶわ」
スミレは固まりました。
「ん?……ちょっとまて。縛り付ける?」
「スミレが快楽で気が狂うまでいじり倒すのだ。飴と鞭の波状攻撃だ。ふふふ。泣いても許してやらぬぞ」
魔王は普段はおとなしくして見せていますが、実はとても残忍で嗜虐的な性格でした。
スミレは青くなって魔王を放り投げました。
「誰がそんなこと喜ぶか!」
魔王は床をごろごろ転がりましたが、夢から覚めていませんでした。ヒョコリと起き上がり、なおも夢を語ります。
「恥ずかしがることはないぞスミレ。喜ぶがよい。楽しいぞ。ああ、あんなこともしてみたいなあ。こんなこともしてみたいなあ」
諸事情で伏せましたが、魔王はここではとても語れないような鬼畜なアイデアをポンポンと語りました。瞳はそう、夢を見ているようなうっとりとした様子で。
しかし、内容はただの拷問です。
「そんなことされたら死んでしまうわ!ええい、魔王!そこに直れ!今すぐ貴様を処分してくれる!」
スミレはとても久しぶりに魔王に殺意を覚えました。そして、「惚れたわたしが間違っていた!やはりあのとき一思いに殺しておけばよかったのだ!」と、心の底から後悔しました。
「なにを殺気立ってるんだスミレー!スミレは楽しくないのか?私を愛してないのか?」
「そうだな、いうなれば、これは『殺し愛』だ!死ね!」
「スミレー!」

騒ぎを聞き付けた手下の魔物たちは、久しぶりに魔王とスミレが戦っているので、やんややんやと盛り上がりました。
今日も魔王の城は賑やかでした。

おしまい。
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