第四幕

魔王はこちらに背を向けたまま、ぱちんと指を鳴らしました。すると、スミレの着ている鎧の留め金が次々はずれて、スミレは危うく裸になるところでした。
「ま、魔法か?!何をする?!」
すると魔王はもう一度指をぱちんと鳴らして、スミレの頭の上から絹の寝間着を降らせました。便利な魔法です。
「それに着替えてこっちにこい。背中を向けていてやるから気にするな」
一応デリカシーはあるようです。
「だから、貴様何を………!」
「一緒に寝る」
スミレは逃げられないとわかると、覚悟をしました。貞操が危なくなったら殺すことを。ですが、ふっと先ほどの涙を思い出したら、殺すに殺せなくなりました。
なるようにしかならない。
本当に嫌だったら魔王を殺す。殺せなかったら舌を噛む。もし嫌でなければ……。あらゆるパターンを、考えつく限り考えて、スミレは与えられた寝間着に着替えて、魔王の寝ているそばへ寄り、枕に頭をつけました。
「一緒に寝るだけで良いのか?」
スミレの胸は緊張と恐ろしさと恥ずかしさでドキドキと高鳴っていました。
しかし、魔王はぴくりとも動きません。しばらく待ってみても、魔王は動きません。
スミレは不思議に思い、魔王の顔を覗き込みました。
「……本当に『寝る』だけなのか?」
魔王は目をつぶってじっとしていました。その顔はよく見ると端正でとても美しいと思いました。
(こんな顔をしていたんだ……)
思わず見とれていると、急に魔王が素早く動き出し、こちらに寝返りを打ってスミレを抱きしめました。
「だっこ」
「……はあ?」
スミレは眉間に皺を寄せ、言っている意味がわかりませんでした。
「だっこしてくれ」
「……抱きしめろということか?」
「うん」
スミレはおそるおそる手を伸ばし、魔王の背中に手を回しました。
「寝るぞ」
そういうと、魔王は本当に寝息を立て始めました。
「……」
スミレはとても複雑な気持ちになりました。
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