第四幕

スミレが、これが最後の挑戦として意を決して魔王城にやってきた時、魔王は城よりもずっと手前の薔薇の生け垣の前で待っていました。無表情で腕を組み、真っ直ぐこちらを見つめています。
こんなに城から離れて待っていることは今まで無かったので、スミレは驚きました。ですが、ちょうどいいと思いました。最後の戦いにふさわしく思えました。
馬の背中から降り、背中から剣を引き抜き、魔王の目の前に剣を突きつけた時、魔王は口を開きました。
「私を殺したいか?」
それは、とても冷たく、とても寂しそうな響きを含んでいました。
「………当たり前だ。今日こそは貴様を倒す。今日はその為に来たのだ」
すると魔王は剣を掴み、自分の喉元にあてがいました。
「なら、死のう」
「何?」
「私は抵抗するのをやめる。そうすればすぐ死ねる。やるがよい」
これにスミレは憤慨しました。命を賭して魔王に真剣勝負を挑んできた彼女にとって、今までのどんな侮辱よりも耐え難い侮辱に思えました。
スミレは彼の手から剣を引き離し、空いた左手でその頬をぴしゃりと叩きました。
「ふざけるな!そんなに簡単に死なれたら許さんぞ!わたしは今まで何の為に努力してきたというのだ!」
すると、魔王の目からひとしずくの涙がこぼれました。
魔王はくぐもった声で
「じゃあなぜ私に挑むのだ?」
と訊きました。彼が瞬きをするたびに、目から涙がぽたり、ぽたりとこぼれました。
スミレは動揺しました。
「な、なぜ泣く?わたしは戦士として貴様に挑むのだ。貴様は魔王なんだから、わたしが挑むのは……そうだ、世の摂理なのだ!」
魔王はため息をつきました。
「そうか……私が魔王だからいけないのか。ならば、魔王をやめよう。そうすれば、戦わずに済むな」
スミレは力無く剣を背中に収め、魔王の瞳を覗き込みました。
「貴様……戦いたくないのか…?」
その瞬間。
魔王の腕が素早くスミレの肩を掻き抱き、唇と唇が重なりました。
しばしの沈黙。
長い、長い沈黙。
唇が離れると、魔王はスミレの手を引き、城の中へ連れ去りました。
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