第三幕

ちょうどそのころ、丘の麓の村の酒場で、数人の屈強な戦士たちが飲んだくれてたむろしていました。
戦士たちは魔王討伐に名乗りを上げた勇者たちでしたが、真っ昼間だというのに、皆一様に暗い顔で愚痴をこぼしながら酒をあおっています。
「まったくやってられねえぜ」
「五百金じゃ安すぎらあ」
そこへ、村の男たちがそんな彼らを非難しました。
「あんたら本当に名の知れた勇者かよ。一体魔王を倒すのに何ヶ月かかってるんだ?」
「あんたらがチンタラしてる間にも行方不明者は増えてるんだぞ」
戦士たちは顔をしかめて五月蝿そうにいいわけをします。
「そんなこと言ったってなあ、あの城は魔物がわんさかいて、魔王の元に着くのも一苦労だ。肝心の魔王は本物の化け物だしよ。冗談じゃねえよ」
他の戦士がさらに村人に抗議します。
「魔物退治でも金がいただけるはずじゃなかったのかよ。そのお給料はいついただけるんだよ?」
ちょっと偉い立場の村人が反論しました。
「魔物の首を取るぐらいじゃ金は払えん。人さらいの現場で魔物を倒したなら話は別だが、城の魔物なんてわんさか居るだろう。そんなものにいちいち金なぞ払ってられるか」
「なんだと?!話が違うぞ!」
戦士たちは村人たちと喧嘩を始めました。どすんばたんと取っ組み合いで暴れられたおかげで酒場はめちゃくちゃです。
ちょうどそこに、魔王城から帰ったスミレが顔を出しました。何事が起きたのか、驚いたスミレが事情を訊くと、村人の怒りの矛先はスミレにも向けられました。
「嬢ちゃんよ、勇ましいこと言っていたが、あんたも何ヶ月かかってるんだ?嬢ちゃんの細腕じゃ無理なんだよ、帰んな!」
スミレはその言葉にカチンと来ました。スミレだって努力しているのです。しかし、最近少し気が緩み始めたのは確かなので、上手く反論することができませんでした。すると、酒場の奥で黙って喧噪を見守っていた村長が口を開きました。
「違約金だな」
場が静まり返りました。
「勇者さんがたには違約金をいただかなくちゃな」
村人は口々に村長に賛同しました。黙っていられないのは戦士たちです。(勿論スミレもです)
「なんだと?そんな話は聞いてない!契約書にそんなことは書いてなかった!払えるものか!」
「我々は名のある勇者とお聞きして期待したのだ。話が違うと言いたいのはこちらのほうだ」
スミレも負けずに反論しました。
「敵の強さは並ではない。我々も努力している!なのに、感謝されこそすれ、違約金なんて払えるか!」
しかし、小娘の言い分など、男たちにとっては怖くも何ともありません。
「嬢ちゃんな、これも社会勉強だ。約束には責任を持ってもらわなくちゃならんのだよ」
村人は薄ら笑いを浮かべスミレを見下しました。
「ともかく、これ以上は我々も待っておれん。いずれ違約金をいただく。先生方には早めに努力していただかなくちゃな」
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