主人公はハクの相棒でヨナの護衛。国内でも有名な美人剣士。
千州
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およそ3年前、緋龍城武術大会での事。
風の部族ではテウの音頭で歓声を上げていた。
「今日は待ちに待った部族対抗の武術大会ィ!!
覚悟はいいか、野郎共ォォ!!風の部族優勝すっぞオオ!!」
「「「ウォォオオオオ!!」」」
地の部族でも同じように歓声が上がっている。
「優勝するのは!?」
「我ら地の部族!!」
「高華国最強は!?」
「グンテ将軍!!」
水の部族ではアユラとテトラが女性達に囲まれている。
「アユラとテトラならその辺の男には負けないわよ。」
「何故水の部族と席が隣なのだ。」
「それはこちらの台詞だよ。」
カン・スジンとアン・ジュンギは隣同士に座ってもめている。
勝ち抜きではなく部族対抗の点取り試合が繰り広げられるこの大会では、部族間で火花が散る。
そして最も見事な試合をした者には最強武人として報奨金を与えられるのだ。
風の部族でも最強武人を狙ってやる気に漲っていた。
「うおお、やっぱ盛り上がるなぁ武術大会。」
「年に一度のお祭りだもんね。」
「俺は今大会の最強武人目指すぞ!」
「わはは、テウがー?」
「何か文句あっか、ヘンデ。」
「だってハク様と姐さん差し置いてテウが最強武人って。」
「なれるかもしれねーだろ。良い試合したら!」
「ハク様が最強武人に決まってるだろー」
揉めている彼らを見ながら呆れたように歩いて来るのは私とハクだった。
「声がでけーよ、てめーら。」
『その元気は武術大会に残しておいてちょうだい。』
「あれ…」
「ハク…さま…姐さん…」
「服が…変わってる。」
「羽の髪飾りは?」
「ガキみてーだから外した。」
「姐さんもハク様と同じ服…?」
『少し作りは違うけどね。簪もちょっと華やかなものにしてもらったわ。』
「何急に大人ぶってー」
するとムンドクがやってきてハクの肩に手を乗せた。
「実はな…後程正式に任命式が行われるが、ハクはこの度高華国五将軍の一人、風の部族長となった。」
「「「…」」」
「ほんとにー!!?」
「リンもハクの補佐となる。それに相応しい格好をさせたという訳だ。」
「あんなに跡継ぐの嫌がってたのに。」
「急にどうして。」
「思ったより早かった!」
「えーっ、じゃあ今日からハク将軍じゃん、ハク将軍!!」
「リン姐さんはそのまま姐さんでいいけどさ!」
「というわけで、お前らわかっとるな?」
ムンドクは私とハクを背後から抱き寄せると得意気に言い放つ。
「ハクは弱冠13歳でグンテを負かしてから雷獣と称され、武術大会ではそこそこ有名じゃ。
リンもグンテとそれ相応にやり合い、舞姫として有名になっておる。
じゃが、今日は初めてハク将軍とリン将軍補佐としての参加…
つまりウチの部族長の御披露目じゃあああ!!」
テウやヘンデをはじめとする部族達と共にはしゃぐムンドクに、私とハクは呆れるばかり。
「『わかったからいい歳してはしゃぐなよ/はしゃがないで、ジジイ/じいや!!』」
そうしているうちに大会は開幕し、長い髪を結い上げたヨナも父であるイルの隣でミンスと話しながら戦闘を見守っていた。
「ねえねえ、今日の大会にはハクとリンも出るんでしょう?
2人はいつ出てくるのかしら?」
「ハク将軍とリン様は大会の目玉なので後半ですよ。」
「ふふっ、ハク将軍なんて変な感じ。」
武術大会では容赦なく血が舞う。それを見たイルはヨナを呼んだ。
「…ヨナ、もう下がりなさい。」
「えっ」
「武術大会はお前が見るものではないよ。」
「でもハクとリンが…」
「2人には今度稽古を見せてもらえばいいだろう。」
「だって父上、今年こそ見てもいいって…」
「ほら姫様、我儘を仰らないでお部屋へ。」
「父上っっ」
女官に連れられてヨナは部屋に戻らざるを得なかった。
「陛下…」
「大会とはいえ暴力は見ていられないな。ほら…あんな子供が怪我を。」
イルが見つめる先ではキョウガにこてんぱんにされるテウがいた。
「来年からはもっと制限を設けなくては。」
イルの弱気な発言に背後に控えていたジュドは顔を顰めたのだった。
テウはというと案の定キョウガに負けて帰って来た。
「うわーっ、テウが負けたっ」
「どうしたんだよ、最強武人―」
「うるせーっ」
「いや、よく闘った。カン・キョウガは火の部族一の武人じゃ。
テウ、お前が超えるべき壁はハクやリンだけじゃないぞ。」
「…」
その頃、私とハクは少し離れた場所でスウォンと話していた。
それをヘンデが見つけて声を上げる。
「あれっ、ハク様と姐さんが一緒にいる人…スウォン様だ。」
「あ、本当だ。王家の人と友達なんてすげーよな。」
「前に風牙の都に遊びに来てくれた事あったよな。挨拶行こー、テウ。」
「お、おぅ。」
彼らが駆けて来たのを感じた私はそちらを見て笑みを零す。
「こんにちはー」
「こんにちは。」
『お疲れ様、テウ。怪我してるじゃない…』
「負けた…」
『いい闘いっぷりだったわよ。もっと強くなればいいの。』
「…うん。」
「スウォン様は出場されないんですか?」
「私は応援専門でして。」
「ああ、そんな感じする。」
「こら」
『口を慎みなさい。』
「テウさん、先程の試合拝見しましたよ。とても良い試合でした。」
「無理して褒めないで下さい。俺は負けたんです。ヘンデ!稽古付き合え。」
「えーっ、今から?」
テウはヘンデを引き連れて駆けて行く。
『よっぽど悔しかったのね。』
「おぅ。」
「ハク様!姐さんも!風牙に帰ったら相手してくれよな。」
「あー、いや俺達は風牙には…」
『行っちゃった…』
言い終わるより先にテウとヘンデは立ち去ってしまった。
彼らと入れ違いにやってきたのはジュド。彼は私とハク…否、正しくはハクを睨み付けていた。
「ジュド将軍、お久しぶりです。」
「…スウォン様、御無沙汰しております。」
ジュドはスウォンに頭を下げるとこちらを一瞥して立ち去った。
「…なんか圧を感じたな。」
「次はジュド将軍とハクの試合ですよね。楽しみにしてます。」
『…』
「先程のリンと水の部族の方との対戦、素晴らしかったですよ。」
『ありがとう、スウォン。左腕を剣が掠ったのが悔しいけど。』
「油断するからだ。」
『すみません、将軍様。』
「茶化すな。」
「ふふっ」
そう言って笑いながら私達は顔を上げる。ただ来賓席にヨナの姿はなかった。
『あら?姫様は?』
「そういえばヨナはお部屋に戻されたとミンスさんが言ってました。」
「『ふーん…』」
私達は顔を見合わせるとヨナの部屋へと歩き始めた。
暫く歩いてから私は隣を歩くハクを見上げる。
『…ここまで来て言うのも何だけど、試合を放棄して良かったの?』
「気にするな。それより何か言いたそうだな。」
『さっきのジュドさんの様子が気になってね…
あれは恐らくイル陛下とハクに対する苛立ちよ。』
「俺とイル陛下?」
『貴方は陛下のお気に入りだから。
わざわざ風の部族から呼び寄せてヨナの護衛をさせるくらいだもの…ジュド将軍ではなく、ね。』
「ふぅん…まぁ、俺は自分の役目を果たすだけだ。」
『大事な姫様だものね?』
「…うるせぇ。お前も一緒に護衛をするのが条件だったって事、忘れるなよ。」
彼がこちらを見てニヤッと笑う為、私は自分への信頼を感じ嬉しくなってその背中に飛びついた。
『うんっ!!』
「うわっ…おい、リン…」
『ありがとう、ハク!!』
ハクは苦笑しつつ背中に私を乗せてくるっと回り、下ろした私の肩を抱いて再びヨナのもとへと歩き出した。
その頃、大会ではハクの出番が近づいてきていた。
「次はっ、いよいよ我が風の部族のソン・ハク将軍の御出座しだーっ」
「「「雷獣!雷獣!!」」」
「戦け!他部族共よ!!」
ただ大会にハクの姿はなく、ジュドだけが立ち尽くしていた。
「…あれ?」
「ハク様、どこ行った?」
「そういえば姐さんも…」
観客がざわつき始めると不戦勝について告げられた。
「風の部族ソン・ハク将軍棄権につき、空の部族ハン・ジュド将軍不戦勝となります。」
「ジュド将軍は命拾いしたんじゃないかね?」
「ははは」
「雷獣ハクと舞姫リンはイル陛下のお気に入りらしいぞ。
ヨナ姫の護衛も空の部族のジュド将軍ではなく、わざわざ風の部族から呼び寄せているのだから。」
陰口を叩かれながらジュドが立ち去って行くのを、スウォンは静かに見届けたのだった。
同じ頃、私とハクはヨナの部屋に到着し、座り込んで泣いている彼女を見つけた。
「姫さん。」
「……ハク勝った?」
「…いや、サボった。」
「なんで!?なにやってるのよ……リンは?勝った?」
『難なく。』
「馬鹿。怪我した癖によく言うぜ。」
『掠っただけよ。』
こちらを涙目で心配そうに見上げてくるヨナを見て、私達は困ったように顔を見合わせると膝を曲げて座っているヨナと目線を合わせた。
「今からでも見に行きます?武術大会。」
「えっ、でも父上が…」
『少しくらいなら私達が一緒なので大丈夫ですよ。』
「うん…!」
私とハクが差し出した手をヨナは取って笑顔で立ち上がった。
彼女に布を外套の如く被らせて私達は3人で城を抜け出した。
「姫さん、あんまん食べます?」
「たべるーっ」
私は熱々のあんまんをヨナに手渡して、彼女の髪がきちんと隠れるように外套を軽く引っ張った。
『試合が見たいならまだあちらでやっていますよ。行きます?』
「…あんまり興味ない。」
「なにぃ…」
「私はハクやリンの試合が見たかったの。」
私とハクは彼女の言葉に顔を染めながら、顔を見合う。
そして私は彼女と手を繋ぎ、ハクは照れたように呟いた。
「…来年は勝ちますよ。」
「…うん。」
私達が歩き出して暫くすると大きな歓声が聞こえてきた。
「優勝は空の部族―っ」
地の部族ではグンテに向けて兵達が頭を下げていた。
ちなみにグンテは今大会の最強武人に輝いたらしい。
「申し訳ありません、グンテ将軍!!俺達が勝てないばかりに…っ」
「鍛え直しだ」
「はいぃぃぃっ」
水の部族でもテトラとアユラが話していた。
「んー負けたか~」
「いいじゃない、個人戦では勝ったんだから。」
「美しい君達、試合は見させて貰ったよ。うちの娘の護衛をやらないか?」
「貴方様はもしや…!」
こうして彼女らは水の部族長の娘、リリの護衛となったのだ。
火の部族ではテジュンが勝手に帰ってしまっている事にキョウガが腹を立てていた。
「キョウガ様っ!テジュン様は失恋されたとの事でお帰りになられました。」
「吊し上げろ。」
最後に風の部族。悔しそうな民達とムンドクが話しているようだ。
「ちっくしょー、ハク様が不戦敗やらかさなきゃなー」
「風牙に帰ったら問い詰めてやる!一晩中一緒に遊ぶの刑に処す!!」
「あ、言い忘れてたがな。
ハクはヨナ姫様の専属護衛、リンもハクの補佐として姫様の護衛に任命されたから風牙には帰らんぞ。」
「「「「なにーッッ」」」」
彼らが驚きの真実に呆然としている頃、私達はスウォンを見つけていた。
「あ、姫さん。あそこにスウォン様がいますよ。」
「ええっ」
彼女が慌てて顔や身体を触って自分がおかしくないか確かめ始めた。
『ふふっ』
「あーはいはい、あんまんで丸々太って可愛い可愛い。」
するとヨナがぽかぽかとハクを殴り出す。
私もそれに加勢してハクを殴ろうとすると頭を軽く小突かれた。
「スウォン!」
彼に駆け寄って行くヨナの背中を見守るハクはとても優しい顔をしていた。
私はそれを見て複雑な心境になる。ハクの想いを知っているから。
『行こう、ハク。』
「あぁ。スウォン様、来年参加しましょうよ。」
「えー、陛下のお許し出るかなぁ。」
私達は笑い合いながら城へと戻って行くのだった。
風の部族ではテウの音頭で歓声を上げていた。
「今日は待ちに待った部族対抗の武術大会ィ!!
覚悟はいいか、野郎共ォォ!!風の部族優勝すっぞオオ!!」
「「「ウォォオオオオ!!」」」
地の部族でも同じように歓声が上がっている。
「優勝するのは!?」
「我ら地の部族!!」
「高華国最強は!?」
「グンテ将軍!!」
水の部族ではアユラとテトラが女性達に囲まれている。
「アユラとテトラならその辺の男には負けないわよ。」
「何故水の部族と席が隣なのだ。」
「それはこちらの台詞だよ。」
カン・スジンとアン・ジュンギは隣同士に座ってもめている。
勝ち抜きではなく部族対抗の点取り試合が繰り広げられるこの大会では、部族間で火花が散る。
そして最も見事な試合をした者には最強武人として報奨金を与えられるのだ。
風の部族でも最強武人を狙ってやる気に漲っていた。
「うおお、やっぱ盛り上がるなぁ武術大会。」
「年に一度のお祭りだもんね。」
「俺は今大会の最強武人目指すぞ!」
「わはは、テウがー?」
「何か文句あっか、ヘンデ。」
「だってハク様と姐さん差し置いてテウが最強武人って。」
「なれるかもしれねーだろ。良い試合したら!」
「ハク様が最強武人に決まってるだろー」
揉めている彼らを見ながら呆れたように歩いて来るのは私とハクだった。
「声がでけーよ、てめーら。」
『その元気は武術大会に残しておいてちょうだい。』
「あれ…」
「ハク…さま…姐さん…」
「服が…変わってる。」
「羽の髪飾りは?」
「ガキみてーだから外した。」
「姐さんもハク様と同じ服…?」
『少し作りは違うけどね。簪もちょっと華やかなものにしてもらったわ。』
「何急に大人ぶってー」
するとムンドクがやってきてハクの肩に手を乗せた。
「実はな…後程正式に任命式が行われるが、ハクはこの度高華国五将軍の一人、風の部族長となった。」
「「「…」」」
「ほんとにー!!?」
「リンもハクの補佐となる。それに相応しい格好をさせたという訳だ。」
「あんなに跡継ぐの嫌がってたのに。」
「急にどうして。」
「思ったより早かった!」
「えーっ、じゃあ今日からハク将軍じゃん、ハク将軍!!」
「リン姐さんはそのまま姐さんでいいけどさ!」
「というわけで、お前らわかっとるな?」
ムンドクは私とハクを背後から抱き寄せると得意気に言い放つ。
「ハクは弱冠13歳でグンテを負かしてから雷獣と称され、武術大会ではそこそこ有名じゃ。
リンもグンテとそれ相応にやり合い、舞姫として有名になっておる。
じゃが、今日は初めてハク将軍とリン将軍補佐としての参加…
つまりウチの部族長の御披露目じゃあああ!!」
テウやヘンデをはじめとする部族達と共にはしゃぐムンドクに、私とハクは呆れるばかり。
「『わかったからいい歳してはしゃぐなよ/はしゃがないで、ジジイ/じいや!!』」
そうしているうちに大会は開幕し、長い髪を結い上げたヨナも父であるイルの隣でミンスと話しながら戦闘を見守っていた。
「ねえねえ、今日の大会にはハクとリンも出るんでしょう?
2人はいつ出てくるのかしら?」
「ハク将軍とリン様は大会の目玉なので後半ですよ。」
「ふふっ、ハク将軍なんて変な感じ。」
武術大会では容赦なく血が舞う。それを見たイルはヨナを呼んだ。
「…ヨナ、もう下がりなさい。」
「えっ」
「武術大会はお前が見るものではないよ。」
「でもハクとリンが…」
「2人には今度稽古を見せてもらえばいいだろう。」
「だって父上、今年こそ見てもいいって…」
「ほら姫様、我儘を仰らないでお部屋へ。」
「父上っっ」
女官に連れられてヨナは部屋に戻らざるを得なかった。
「陛下…」
「大会とはいえ暴力は見ていられないな。ほら…あんな子供が怪我を。」
イルが見つめる先ではキョウガにこてんぱんにされるテウがいた。
「来年からはもっと制限を設けなくては。」
イルの弱気な発言に背後に控えていたジュドは顔を顰めたのだった。
テウはというと案の定キョウガに負けて帰って来た。
「うわーっ、テウが負けたっ」
「どうしたんだよ、最強武人―」
「うるせーっ」
「いや、よく闘った。カン・キョウガは火の部族一の武人じゃ。
テウ、お前が超えるべき壁はハクやリンだけじゃないぞ。」
「…」
その頃、私とハクは少し離れた場所でスウォンと話していた。
それをヘンデが見つけて声を上げる。
「あれっ、ハク様と姐さんが一緒にいる人…スウォン様だ。」
「あ、本当だ。王家の人と友達なんてすげーよな。」
「前に風牙の都に遊びに来てくれた事あったよな。挨拶行こー、テウ。」
「お、おぅ。」
彼らが駆けて来たのを感じた私はそちらを見て笑みを零す。
「こんにちはー」
「こんにちは。」
『お疲れ様、テウ。怪我してるじゃない…』
「負けた…」
『いい闘いっぷりだったわよ。もっと強くなればいいの。』
「…うん。」
「スウォン様は出場されないんですか?」
「私は応援専門でして。」
「ああ、そんな感じする。」
「こら」
『口を慎みなさい。』
「テウさん、先程の試合拝見しましたよ。とても良い試合でした。」
「無理して褒めないで下さい。俺は負けたんです。ヘンデ!稽古付き合え。」
「えーっ、今から?」
テウはヘンデを引き連れて駆けて行く。
『よっぽど悔しかったのね。』
「おぅ。」
「ハク様!姐さんも!風牙に帰ったら相手してくれよな。」
「あー、いや俺達は風牙には…」
『行っちゃった…』
言い終わるより先にテウとヘンデは立ち去ってしまった。
彼らと入れ違いにやってきたのはジュド。彼は私とハク…否、正しくはハクを睨み付けていた。
「ジュド将軍、お久しぶりです。」
「…スウォン様、御無沙汰しております。」
ジュドはスウォンに頭を下げるとこちらを一瞥して立ち去った。
「…なんか圧を感じたな。」
「次はジュド将軍とハクの試合ですよね。楽しみにしてます。」
『…』
「先程のリンと水の部族の方との対戦、素晴らしかったですよ。」
『ありがとう、スウォン。左腕を剣が掠ったのが悔しいけど。』
「油断するからだ。」
『すみません、将軍様。』
「茶化すな。」
「ふふっ」
そう言って笑いながら私達は顔を上げる。ただ来賓席にヨナの姿はなかった。
『あら?姫様は?』
「そういえばヨナはお部屋に戻されたとミンスさんが言ってました。」
「『ふーん…』」
私達は顔を見合わせるとヨナの部屋へと歩き始めた。
暫く歩いてから私は隣を歩くハクを見上げる。
『…ここまで来て言うのも何だけど、試合を放棄して良かったの?』
「気にするな。それより何か言いたそうだな。」
『さっきのジュドさんの様子が気になってね…
あれは恐らくイル陛下とハクに対する苛立ちよ。』
「俺とイル陛下?」
『貴方は陛下のお気に入りだから。
わざわざ風の部族から呼び寄せてヨナの護衛をさせるくらいだもの…ジュド将軍ではなく、ね。』
「ふぅん…まぁ、俺は自分の役目を果たすだけだ。」
『大事な姫様だものね?』
「…うるせぇ。お前も一緒に護衛をするのが条件だったって事、忘れるなよ。」
彼がこちらを見てニヤッと笑う為、私は自分への信頼を感じ嬉しくなってその背中に飛びついた。
『うんっ!!』
「うわっ…おい、リン…」
『ありがとう、ハク!!』
ハクは苦笑しつつ背中に私を乗せてくるっと回り、下ろした私の肩を抱いて再びヨナのもとへと歩き出した。
その頃、大会ではハクの出番が近づいてきていた。
「次はっ、いよいよ我が風の部族のソン・ハク将軍の御出座しだーっ」
「「「雷獣!雷獣!!」」」
「戦け!他部族共よ!!」
ただ大会にハクの姿はなく、ジュドだけが立ち尽くしていた。
「…あれ?」
「ハク様、どこ行った?」
「そういえば姐さんも…」
観客がざわつき始めると不戦勝について告げられた。
「風の部族ソン・ハク将軍棄権につき、空の部族ハン・ジュド将軍不戦勝となります。」
「ジュド将軍は命拾いしたんじゃないかね?」
「ははは」
「雷獣ハクと舞姫リンはイル陛下のお気に入りらしいぞ。
ヨナ姫の護衛も空の部族のジュド将軍ではなく、わざわざ風の部族から呼び寄せているのだから。」
陰口を叩かれながらジュドが立ち去って行くのを、スウォンは静かに見届けたのだった。
同じ頃、私とハクはヨナの部屋に到着し、座り込んで泣いている彼女を見つけた。
「姫さん。」
「……ハク勝った?」
「…いや、サボった。」
「なんで!?なにやってるのよ……リンは?勝った?」
『難なく。』
「馬鹿。怪我した癖によく言うぜ。」
『掠っただけよ。』
こちらを涙目で心配そうに見上げてくるヨナを見て、私達は困ったように顔を見合わせると膝を曲げて座っているヨナと目線を合わせた。
「今からでも見に行きます?武術大会。」
「えっ、でも父上が…」
『少しくらいなら私達が一緒なので大丈夫ですよ。』
「うん…!」
私とハクが差し出した手をヨナは取って笑顔で立ち上がった。
彼女に布を外套の如く被らせて私達は3人で城を抜け出した。
「姫さん、あんまん食べます?」
「たべるーっ」
私は熱々のあんまんをヨナに手渡して、彼女の髪がきちんと隠れるように外套を軽く引っ張った。
『試合が見たいならまだあちらでやっていますよ。行きます?』
「…あんまり興味ない。」
「なにぃ…」
「私はハクやリンの試合が見たかったの。」
私とハクは彼女の言葉に顔を染めながら、顔を見合う。
そして私は彼女と手を繋ぎ、ハクは照れたように呟いた。
「…来年は勝ちますよ。」
「…うん。」
私達が歩き出して暫くすると大きな歓声が聞こえてきた。
「優勝は空の部族―っ」
地の部族ではグンテに向けて兵達が頭を下げていた。
ちなみにグンテは今大会の最強武人に輝いたらしい。
「申し訳ありません、グンテ将軍!!俺達が勝てないばかりに…っ」
「鍛え直しだ」
「はいぃぃぃっ」
水の部族でもテトラとアユラが話していた。
「んー負けたか~」
「いいじゃない、個人戦では勝ったんだから。」
「美しい君達、試合は見させて貰ったよ。うちの娘の護衛をやらないか?」
「貴方様はもしや…!」
こうして彼女らは水の部族長の娘、リリの護衛となったのだ。
火の部族ではテジュンが勝手に帰ってしまっている事にキョウガが腹を立てていた。
「キョウガ様っ!テジュン様は失恋されたとの事でお帰りになられました。」
「吊し上げろ。」
最後に風の部族。悔しそうな民達とムンドクが話しているようだ。
「ちっくしょー、ハク様が不戦敗やらかさなきゃなー」
「風牙に帰ったら問い詰めてやる!一晩中一緒に遊ぶの刑に処す!!」
「あ、言い忘れてたがな。
ハクはヨナ姫様の専属護衛、リンもハクの補佐として姫様の護衛に任命されたから風牙には帰らんぞ。」
「「「「なにーッッ」」」」
彼らが驚きの真実に呆然としている頃、私達はスウォンを見つけていた。
「あ、姫さん。あそこにスウォン様がいますよ。」
「ええっ」
彼女が慌てて顔や身体を触って自分がおかしくないか確かめ始めた。
『ふふっ』
「あーはいはい、あんまんで丸々太って可愛い可愛い。」
するとヨナがぽかぽかとハクを殴り出す。
私もそれに加勢してハクを殴ろうとすると頭を軽く小突かれた。
「スウォン!」
彼に駆け寄って行くヨナの背中を見守るハクはとても優しい顔をしていた。
私はそれを見て複雑な心境になる。ハクの想いを知っているから。
『行こう、ハク。』
「あぁ。スウォン様、来年参加しましょうよ。」
「えー、陛下のお許し出るかなぁ。」
私達は笑い合いながら城へと戻って行くのだった。