主人公はハクの相棒でヨナの護衛。国内でも有名な美人剣士。
真国
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演説を終えたコウレンはタオの消息をネグロとヨタカに問う。
「部下に探させてはいますが、はっきりとした場所はまだ…」
「町の者の話では数日前アルギラはこの辺で猫と戯れていたらしいです。
タオ姫もこの町に身を寄せておられる可能性は高いかと。」
「アルギラ…相変わらず自由だな、あやつは。
ヴォルドもこの私に叛き(そむき)タオについた…」
「2人を五星から外されるおつもりですか?」
「当然だ。元々五星とは最強の武人として私が与えた称号だなのだから。
タオを見つけ次第捕らえよ。傷つけるなよ、私は妹を殺したいわけではない。
タオには解らないのだ。我が国が高華国にどの様な仕打ちを受けたのか。どの様な裏切りを受けたのか。
ましてやあのユホンの息子スウォンなどに我が国は決して屈してはならないのだ。」
彼女らが話している間に私、ヨナ、ハクは後をつけられないよう注意しながら隠れ家としている宿へ戻った。
「コウレンお姉様がこの町にいらしている…!?」
『えぇ。この町に戦に必要なものを運び込むと言っていたわ。』
「迂闊に動けねぇな。」
「止めなくては…!手遅れになってしまう。」
「タオ姫…!あの…」
ヨナは自分がスウォンに面会し、戦を避ける方法を探ろうとしている事を言い出そうとする。
だが緋龍城へ向かっている間にコウレンが先制攻撃をしてしまうと戦は止められない。
どうすればいいのか考えているヨナを私とハクはそっと止める。
『ヨナ、焦らないで。』
「そう容易くいく話じゃない。機会を待ちましょう。」
―リン…ハク…そうだ、落ち着かなきゃ…―
「タオ姫…彼女は…コウレン姫は民に対し慈しみの心を持っている人に見えたの。
でもなぜ民を犠牲にする戦の道を選ぶのかしら。」
「…それはコウレンお姉様がスウォン王の父であるユホン将軍を深く憎んでいるからだと思います。
ジュナム王時代に高華国と真国は度々戦を繰り返し、血を流して来ました。
そして17年前の戦で真国軍は敗れ、高華国軍に降伏したのです。
しかし当時空の将軍であったユホンは捕虜にした真国の兵士や民衆の首を次々と刎ね、釈放すると言って真国の城門へ捕虜の首を投げ入れたのです。」
『っ…』
「その中にはお姉様と親しかった兵士もいました。まだ幼かったお姉様の絶望は計り知れません。
イル王はその事を謝罪し、占領地を返還して、両国の和平の為にあらゆる努力をして下さいました。
ですがスウォン王が即位して後、次々と戦を制し力をつける高華国を見てユホン将軍が蘇り、真国を滅ぼしに来るような悪夢にコウレンお姉様は苛まれているのだと思います。」
タオの言葉に私達は何も言う事が出来なかった。
暗くなってくると食料調達がてら周辺の様子を見に私と四龍は外套を被り宿を出た。
「屋台飯美味そうだから。」
「はい、真っ直ぐ歩こうね。」
『ふふっ、ジェハが保護者みたい。』
気楽に話しながらも私達は周囲の様子を見ていた。
「…兵が増えてるね。」
『うん…国境の警備も厳しくなってるでしょうね。』
そのときシンアはある視線に気付きキジャを呼んだ。
「キジャ、あの人がこっちを見てる…」
「誰だ?」
「目を合わせない方がいい。行こう。」
『って、こっち来た!』
それは白い髪を靡かせたヨタカだった。彼はタオの捜索をしていたのだ。
私は彼をどこかで見かけた気がして顔を見られないようジェハの背後へ隠れた。
「リン?」
『あの人…どこかで…どこだったかしら…』
コウレンの演説のとき、後ろに立っていたのだがはっきりとその姿を覚えているわけではなかった私はすぐに敵対する事が出来なかった。ヨタカはキジャを見て問う。
「おい、お前。肌の手入れはどうしている?」
「…は?」
「肌の手入れだ。なんだその驚きの美白は。何か特別な薬でも塗っているのか?」
「特に何もしておらぬ。」
「憎たらしい。美人は皆そう言うんだ。
この町に肌に良い薬があれば紹介して欲しかったんだが。」
「えーと…あっちに薬屋あるかもよ?じゃ。」
ジェハが私を庇ったままキジャの背中を押してその場を立ち去ろうとするとヨタカはジェハを見て言う。
「待て。よく見たらお前も美形だな。」
「やだなぁ♡一目ホレする程美しいって?
そんな事言われたら僕も君をちょっぴり好きになってしまうじゃないか。以後よろしく。」
「言ってない。」
『ジェハ…!』
「髪もツヤサラじゃないか。何で洗っている?」
「水。」
「努力なしでそうなったのか。憎たらしい。」
「そなたもその髪、獅子のようで凜々しいぞ。」
「僕が使ってる美容薬をあげるよ。」
「助かる…戦を前にどう美を保つかずっと考えていた。」
「わかる!戦闘って肌が荒れるよね。」
「お前達は戦闘経験があるのか?」
私はジェハの外套を背後からぎゅっと握る。
すると彼は漸く私の異変と自分が話しすぎた事に気付いた。
「…戦の前だからね。」
「この町は戦への意識が高くて良いな。力を見たい、何が得意だ?」
「披露するような技なんてないよ。」
「ちょっとそこの人~顔を上げて下さい~~~」
ゼノをはじめとして私達が顔を上げるとミザリが笑顔で剣を振るっていた。
「見ぃつけた。」
シンアがゼノを引き寄せ、キジャは身を引き、私はジェハに腕を引かれて後ろへ飛び退いた。
騒ぎを聞きつけて町の人達がぞろぞろと集まって来た。
「ヨタカ先輩、見て下さい。この人達です、タオ姫が連れて来た高華国の化け物。」
「…本当か?」
「疑り深いですね。じゃあ証明します。この人が…不死の人ですよ!!」
ミザリがゼノに斬りかかろうとしたためキジャが龍の手でミザリを捕らえて地面に叩きつけた。
「高華国の白き化け物…!!」
「ほらほらいたでしょ、化け物!この人達がタオ姫と一緒にいた人です。きっとタオ姫達もその辺にいますよ!」
―どうする…!?4人抱えては跳べないし、タオちゃん達がいる所へは戻れない…!―
―あの白髪の人…見た事があると思ったらコウレン姫と一緒にいた人だわ…!
ってことは五星?そうだとすると強いんじゃ…!?―
その瞬間、ヨタカが錘(スイ)のような柄の先端に球状の重りをつけた武器を振るってこちらへ殴りかかってきた。
私とジェハは咄嗟に飛び退いて躱していくうちに、被っていた外套が外れ顔が露わになる。ジェハは脚で錘を止めると口を開く。
「戦闘は肌が荒れるよ。」
「お前は高華国の化け物か。スウォン王の命で我が国を滅ぼしに来たんだな?」
『っ!!』
キジャは手を構え、シンアも剣を抜くとゼノを庇うように戦闘態勢に入る。
『キジャ!シンア!!』
「闘っては駄目だ!!僕らはこの国では侵入者だ…!」
『私達の行動が全て高華国の…スウォンの意志として戦を引き起こしてしまう…!!』
私達は背中合わせになるように立ち、ミザリやヨタカと対峙する。
私とジェハはヨタカの錘を躱して交渉を試みる。
「どうした!?高華国の化け物の力とやらを見せてみろ。俺が叩き潰してやる…!!」
『待って!!貴方達と争うつもりはないわ!!』
「信用出来るか!お前達はスウォン王の命で動いているのだろう!?」
「違うと言っても聞く耳を持たないみたいだね。」
「もしもし、不死の人。隠れてないで出て来て下さいよ。
あなたが生き返るとこ、すごくすごくもう一度見たいんですっ」
ミザリに斬りかかられて避けているシンアとゼノを見て私とジェハは声を上げる。
「ゼノ君!シンア君!!」
『ジェハ、危ない!!』
そのとき私達を庇ったキジャがヨタカの攻撃を受け倒れてしまう。私は彼を抱き留めてその場に膝をつく。
『キジャ!』
「リン!!!」
続けざまにヨタカが錘を振りかざし、キジャを庇った私の背中や頭を次々と殴られる。
『うあっ…』
「やめろ!」
動けなくなる私とキジャを突き飛ばして攻撃から逃がしたジェハへ矛先が向く。
「く…っ」
『やめてっ…ジェハ!!』
何度も殴られて血だらけになったジェハは最終的に頬を殴り飛ばされ地面に倒れる。
まとめていた髪も解けてぱさっと舞い、頭や口元から血が流れる。
私はまだかろじて動けるキジャから離れて身動きひとつしないジェハに無理矢理身体を動かして駆け寄ると、彼の頭を抱き寄せた。
『お願い…これ以上はやめて…殺さないで!』
「うるさい!!」
「リン…っ」
「お嬢!!!」
身を屈めてジェハを抱く私の顔や腹をヨタカは殴る。
私はそれに耐え、血を吐きつつもジェハを離そうとはしなかった。
そんな私達へ錘がトドメとばかりに錘を振りかざしたその瞬間、倒れている私達の前にユンが飛びだしてきた。
彼は私達の帰りが遅くて探しに来ていたらしい。
「待って!!ジェハ達はもうボロボロだよ!これ以上殴らないで!!」
「ボウズ…!」
「仲間か…?」
「そうだよ。」
「ならば死ね。」
「なんでだよ!俺達は殺されるような事はしていない!!
真国の武人は無抵抗の人間に死ぬまで武器を振るい続けるの!?それがあんた達の誇りなの!?」
『ユン…駄目…』
「駄目だ、どいて…」
「やだよ、バカっ!俺はみんなを怪我させないのが仕事なんだからね。絶対に動かない!
俺は高華国の人間で暴力も戦も大嫌いだ。殺す前にそれだけは頭に入れておいてよね。」
その後、武器を収めたヨタカの前でユンは緊張が解けたように座り込んだ。
『ユン…どうして…』
「みんなが遅いから迎えに来たんだよ…!」
「危ないじゃないか…」
「でも…俺にはこれくらいしか…!」
『ユン……ありがとう。』
「リン…!!」
泣きそうなユンはボロボロの私を抱き寄せてくれた。
ジェハもそんな私達を見ながら動く事は出来ない。
そうしているとミザリがゼノを斬り付けた。
「「『っ!!』」」
「やめて!」
「ほら、傷が治るでしょ~?」
ゼノの傷が治り、不死だという事を見て取った兵士達は息を呑む。
そして化け物とその仲間である私達はミザリやヨタカ達に連れられて屋敷の監獄に囚われる事となったのだ。
「…ユン、リン達と会えたかな。」
「さすがに遅いな。」
「タオ姫!い、今町でミザリ様とヨタカ様が四龍様やリン様と乱闘をされて…」
「ジェハ達が!?」
駆け込んで来たタオ側の兵士による報告に彼らは目を見開く。
「四龍様とリン様は重傷を負い捕らわれました…!!」
「シンアにゃん達が!?」
「まさか!?彼らが負けるなんて。」
「それが…彼らはそんなに攻撃を受けてもなぜか反撃せず…」
「民衆を前に暴れたら戦を誘発してしまう…リンとタレ目がそう判断したんだろ。」
「ユンは?ユンは見かけなかった!?」
「は、はい…彼はヨタカ様を止めようとして…」
「まさか怪我を…!?」
「いえ、ヨタカ様はそこで闘いをおやめになり、全員をコウレン殿下の滞在されている屋敷へ連行なさいました。」
「くそっ!俺が助け出してやる。」
「アルギラ!待って下さい、私が行きます。
私が行ってコウレン姉様に皆様をお助け頂くようお願いします。」
「お待ち下さい!今穹城の反戦派の方々に応援を頼みます。」
「時間がありません!高華国の化け物と呼ばれる彼らに姉様は何をなさるかわからないのです。全ては私が招いたこと…
ヨナさん、四龍の皆様は私が命にかえても高華国にお帰しします。あなた方は一刻も早く真国から脱出を。」
自分に頭を下げるタオをヨナはそっと呼んである事を頼んだのだった。
その頃、コウレンは高華国の化け物と呼ばれる私達について報告を受けていた。
「…黒髪の女と言ったか。」
「はい。化け物の中に女がいて、戦闘能力が高いようだったためヨタカが重傷を負わせたそうです。」
「その女は整った顔立ちで、銀色の美しい剣を持ってはいなかったか。」
「持っていましたが…」
―赤い髪の少女と一緒にいた女か…―
ネグロが差し出した私から取り上げた剣を見てコウレンは息を吐いた。
そのとき入口辺りで騒ぎが起きているのを聞き取って、コウレンはネグロと共に外へ出た。
「何事だ!」
「よぉ、ネグロのおっさん。」
「お久しぶりです。」
「アルギラ…ヴォルド…タオ姫…!」
「タオか。」
「コウレン姉様、お話があって参りました。」
「意見の対立からしばらく姿を見せなかったお前が高華国の化け物の為に動くとはな。そこまでスウォンに阿るか?」
「お姉様…今こちらに捕らえられている方々は私の大切なお客様です。
どなたもスウォン王とは何ら関わりありません。どうか釈放して下さい。」
「それはあの者達を拷問すればわかる事だ。」
「お姉様!」
「許されると思っているのか!?
こそこそと高華国の人間と接触し、国家の内情を暴露した。王家の人間だとて大罪だぞ!!」
彼女らが言い合っていると、ヨナがハクを引き連れて一歩前へ進み出た。
「コウレン姫。」
「お前は確か弓の…」
「私は高華国から来たの。あなたが捕らえた私の仲間は町では一つも暴力を振るっていないし、スウォンとは本当に無関係よ。
でも私はスウォンと関わりある人間なの。」
「……何者だ。」
ヨナは被っていた外套を外し赤い髪と顔を晒した。
「私は先王イルの子、ヨナ。」
これにはその場にいたハク以外の全員が目を見開いた。
「ヨナさん…あなた…」
「黙っていてごめんなさい、タオ姫。」
「ではやはりスウォンの命で来たのか?」
「父イルはスウォンに弑逆され、私と従者であるハクとリンは城を追放されたの。
依頼私達は国を放浪して生きてきた。
厳しい日々の中助けてくれたのがあなたが捕らえた私の仲間達よ。」
「…ハクとは後ろにいる男だろう。それならリンとは…?」
「捕らえられている黒髪の女性よ。」
「これを持っていた者か。」
「「っ!!」」
私の剣を見せたコウレンはネグロをチラッと見た。
それによってネグロを駆け出し、ヨナ達は口を閉じた。
ネグロは監獄へやってきてボロボロの私を見下ろした。
「女。」
『…』
私はジェハと並んで壁に凭れるように座っていたが、ネグロを霞む視界で見上げた。
「来い。」
彼は監獄に入ってくると私の腕を掴んで立ち上がらせ、無理矢理連れ出した。
ふらつくまま私は足を進め、背後では仲間達が心配そうに私を呼んでいたが返事は出来なかった。
連れて来られたのは外で私はネグロに両手を背後で掴まれたままコウレンの横に引っ張り出され、その場に膝をついた。
「「リン!!」」
「リンさん!」
「リンにゃん!」
『姫…様…ハク…』
私は血で地面を汚しながら彼らを見つめた。
霞む視界でもヨナの赤い髪ははっきりと見る事が出来た。
「…コウレン姫、これだけは断言する。
私は決してスウォンの命令で動いたりしない。
お願い、リンとユン、そして四龍を返して!彼らは私の何より大切な家族なの。」
「…一つ問う。お前はスウォンを憎んでいるのか?」
「……憎んでいたとしたらどうするの?」
「私と来る事を許そう。仲間は解放してやる。
我らに協力し、憎きスウォンとそれを支持する高華国の者共に復讐するがよい。」
「…断る。」
「なぜだ?奴が恐いのか?
おい、従者。お前はどうだ?王に復讐したくはないのか?
甘い香りを漂わすリンとやら。お前もどうなのだ。」
「今あいつらを…リン達を助け出す以上に大事なことなんて俺にはねぇよ。」
『ハク…』
「…」
「私は戦に手を貸す事は出来ない。
私の民にもあなたの民にも二度と絶望を繰り返させたくないから。」
「どうせよと?スウォンは必ずこの国に攻め込んで来る。
タオのように白旗を上げよと申すか?
17年前の敗戦でユホンは我が民を奴隷のように扱ったのだぞ!?」
「少し時間をちょうだい。私がスウォンに会って、戦を回避出来ないか交渉してくる。」
「父を殺し、城をも奪った男と、身一つで対等に話が出来ると思っているのか?」
それでも目を逸らさないヨナにコウレンは言い放った。
「…いいだろう。お前が戻るまで戦支度をして開戦は待とう。
その間、お前の仲間もこの女も人質だ。裏切ったり、スウォンが先に戦を仕掛けたら人質を殺す。不死の男は拷問だ。」
『姫さm…』
「…1分やろう。」
『コウレン姫…感謝します。』
「ふっ…敵だぞ。」
ネグロが私の手を離すとヨナとハクが駆け寄ってきた。私は身体を支えきれずヨナに抱きしめられる。
「リン…!」
『このような姿で…申し訳ありません…』
「そんなこと…っ」
「お前はここで傷を癒してろ。」
『うん…これから辛いと思います。傍に居られず申し訳ありません、姫様…』
「絶対助けるから…みんなと待ってて。」
『はい…ハク…』
「なんだ。」
『ヨナをお願い。』
「あぁ。」
『それにこの簪…持って行って…』
「え…」
『私は一緒に居られないから…でも私だけなんだからね、貴方の相棒は。』
「当然だろ。」
ハクは私の髪から羽の簪を抜き、解けた髪を撫でた。
そしてその手のまま私をヨナごと抱きしめた。
「信じて待ってろ。」
「行って来るわね、リン。」
『ご武運を…』
「時間だ。」
私はネグロに腕を掴まれてヨナやハクから引きはがされる。
無理矢理立ち上がらされるとそのまま彼に引き寄せられて、支えがなければ立てない私は彼に凭れる形になる。
ふらつきそうになるのを耐えながらヨナやハクを見ていると、彼女はタオに声を掛けた。
ハクは簪を胸元に挿してぐっと拳を握る。
「タオ姫、私ちょっと行って来る。」
「四龍さんとリンさん、それからユンさんは私が必ずお守りします…」
「…ありがとう。」
「アルギラ、ヴォルド。」
「「はいっ」」
タオは2人を小さな身体で抱きしめた。
「あなた達はヨナ姫をお守りして。私は大丈夫です。
あの方は皆を繋ぐ希望の光。死なせてはだめ。」
「……わかった。」
「必ず戻ります。」
「帰ったらにゃん達と遊ぼうな。」
「ふふ、はい。」
するとヨナとハクの背中を追うようにアルギラとヴォルドも歩み去った。
「…随分勝手をするな、タオ。」
「交渉には真国の人間も必要でしょう。」
「…まあ、よい。あいつらがここにいても面倒だ。
ネグロ、タオを部屋へ閉じ込めておけ。
その女は監獄に戻せ。私は戦の支度にかかる。」
『姫様…どうぞご無事で…』
私はネグロに抱え上げられ監獄までやってくるとそのまま投げ飛ばされた。
『うっ…』
「リン!」
「お嬢…!」
「あれ…簪はどうしたんだい…?」
『ハクに…託したの…』
「どういう事…?」
そう話しながらも私は出血が多い事もあり、意識を保つのもギリギリでジェハの脚に頭を預けるようにして横になった。
ジェハは片手で私の髪を撫でる。怪我が酷くて息を乱している私達を見てユンは声を上げる。
「ねえ、お願い!俺の鞄返して!
仲間が怪我してるんだ。治療したいんだよ!お願い!お願いだから!!」
「うるさいです。静かにして下さい。」
「近付かないで!またゼノを刺しに来たの!?」
ミザリがやって来るとユンはゼノを庇うように立つ。
「あなたが呼んだから来たのに我が儘ですね。
あなた達の仲間がやって来ましたよ。
驚きました、赤い髪の人はイル王の娘さんだったんですね。」
「ヨナが自分で言ったの…?」
「はい。そうですよね?」
『…えぇ。』
「それで戦を止めさせる為にスウォン王と交渉すると言って出て行きました。あなた達を人質に置いてね。
高華国が攻めて来たらあなた方は殺されます。不死の人は拷問。
赤い髪のお姫様はたぶん戻って来ませんよ。
あなた達はどちらにしろ殺されるんです。」
「俺達は人質なんだろ?人質は今死んだら人質にならない。
白龍と緑龍、それにお嬢は俺と違って不死身じゃねぇんだ。
だからボウズの鞄と水と食い物を持って来てくれよ。」
「また生き返るとこ見せてくれます?」
「いくらでも見せてやるから。」
「わかりました、持って来ます。」
「ゼノっ!ばかっ、あんな事言って。」
「ゼノはどうとでもなるから。」
『ごめんね…ゼノ…』
「お嬢、無理しちゃ駄目だから。」
ジェハとキジャは壁に凭れて座り、私は横になったまま話をする。
「今回の事は全て我らの不注意だ…
姫様に我々と両国の命運を全て背負わせてしまう事になるとは…」
「本当に…まさか王に交渉しに行くなんて…」
『どこまでも一緒に行くって…その先に何があっても傍に居るって約束したのに…』
「リン…」
『イル陛下…お願いですから…姫様とハクをお守り下さい…』
私は涙を流しながらジェハの服をぎゅっと握り締めた。するとジェハはか細い声で言う。
「ヨナちゃんもだけどハクも心配だね。王を前に冷静でいられるかどうか…」
『大丈夫…ハクは今私達を助ける事を第一に考えてる…だから…きっと大丈夫…』
「高華国と真国の溝は深い。交渉は難しいだろうな。」
「そんな…」
「…」
そのときシンアが俯いたのを見てゼノが声を掛ける。
「どした、青龍?」
「ゼノ…町中で俺が一瞬力を使おうとした時、止めた…?」
「青龍の能力はまだ知られてないから使わない方がいい。
お嬢も黒龍としての爪の能力の方は知られてないみたいだから切り札にはなりそうだな。」
「俺は使う…ヨナやみんなが傷つけられるのなら使う、誰が相手でも。全てが敵になっても俺は闘う。」
「『シンア…』」
「…あー、やめて。お兄さん、ちょっぴり涙出て来ちゃった。」
「わかった。でも今は体力を温存して闘うべき時まで待とう。そしてみんなで娘さんのとこに帰ろうな。」
ヨナはと言うと息を上げ、ふらつきながらも何かに取り憑かれたかのように一睡もせず歩き続けていた。
「姫さん、少し休まねぇと。」
「でも…早くしないと戦が…みんなが…」
「ヨナ様、無茶です。真国を出て一睡もされず歩き詰めなんですから。」
「そーだぜ、ヨにゃん。ちょっと休んだ方が効率いいって。」
そのときヨナが過呼吸になり、ハクは彼女の背中に手を添えてゆっくり息をさせる。
そして落ち着くとヨナは緊張が解けたようにハクに倒れ込むように意識を失った。
―この人はまだ16の少女だ。仲間と高華国と真国の民の命が何も持たないこの少女の肩にかかっている…それはどれ程の恐怖か…―
天幕を張りヨナを寝かすとハクは傍に座った。
片手で私の預けた羽の簪を撫でながらヨナが目覚めるのを待つ。
暫くしてヨナがふと目を開くと彼はそっと言う。
「あいつらは大丈夫ですよ。俺は暗黒龍なんでね、あいつらがピンピンしてるってわかるんです。」
「暗黒龍?四龍なのに?」
「先週から五龍…あ、リンが黒龍なんで六龍か。六龍になったんです。」
それを聞いてヨナがクスクス笑うと、漸くハクもほっとしたように笑みを零した。
「…だから安心して今は休んで下さい。何かして欲しい事とか持って来て欲しい物とかありますか?」
「………アオ。」
「………ぷっきゅー」
「可愛くない。」
困った末にアオのマネをしたハクをヨナは笑う。
「アオはね、いつも私の肩口に寝るの。」
「ぷっきゅー…」
「アオでかい。」
ハクがヨナの隣で丸くなると大きすぎて違和感がある。そんな彼の髪をヨナは撫でた。
「よしよし、ねんねねんね。」
「あのな、姫さん…」
「よしよし………お前も四龍やリンがいない分まで気を張らないで。私頼りないけど傍にいるから。」
自分を撫でるヨナをハクはぎゅっと胸に閉じ込めた。
「ハ…ハク?」
「……姫さ…」
「え?」
「……きです。」
「…ハク?なに…?」
「……何でもありません。もう寝て下さい。」
「…?あの…」
「ぷっきゅー」
アオのマネで誤魔化したハクはヨナの隣で彼女に背中を向けて眠った。
彼女はハクの背中に縋るようにして目を閉じたのだった。
翌朝、ぼーっとしたヨナはハクがいない事に気付き天幕を出る。
「おはようございます、姫さん。よく眠れました?」
「…うん、すっきりした。」
「そりゃ良かった。朝メシにしますよ。」
その後、彼らは当てであるリリの屋敷に行くが、彼女は留守だった。
どこに行ったかも屋敷の者は知らず、王に関わる事で里に頼れはしない為風の里へ行くわけにもいかない。
そのときヴォルドが情報交換をしている取引相手がいると告げた。
「え、お前高華国にそんな知り合いいたの?」
「タオ姫から高華国を調べろとご指示があったのだ。何度も偵察について来いと言っただろうが。」
「まさか真国の人に助けてもらうなんて…」
「いや、まだ助けになるかどうかは。
でも我々では不足かもしれませんが、どうか使って下さい。」
「ありがとう。」
そうして彼らが移動した先で話をつけると情報屋の頭が水の部族領にいる事がわかった。
「今日は幸運ですよ。情報屋の頭が来てるそうです。
彼が来ているとかなり濃い情報が手に入るんです。
空都や緋龍城の様子がわかるかもしれません。」
部屋に通されヴォルド、アルギラ…そしてヨナとハクが入ると、情報屋の頭がハクをチラッと見て目を背けた。
「……おい、気分が悪い。今日はもう帰る。」
「え…ちょっと待って下さい。今日はいい情報を…」
「待て。」
ハクはその男の腕を掴んで引き留めた。
「俺を知ってるな?」
「ハク?」
「…いや、初めて見る顔だ。」
「じゃあ…ウォンという男を知ってるか?」
「ウォン…」
「…よくある名前だからなぁ。どいつの事やら…」
「昔…俺やリンと一緒に姫さんを探してくれたよな?忘れちまったのかよ、オギさん?」
「…目つきの悪さは変わらねぇな。高華の雷獣、ハク。」
オギは振り返ってハクを見ると冷や汗を流すのだった。
「部下に探させてはいますが、はっきりとした場所はまだ…」
「町の者の話では数日前アルギラはこの辺で猫と戯れていたらしいです。
タオ姫もこの町に身を寄せておられる可能性は高いかと。」
「アルギラ…相変わらず自由だな、あやつは。
ヴォルドもこの私に叛き(そむき)タオについた…」
「2人を五星から外されるおつもりですか?」
「当然だ。元々五星とは最強の武人として私が与えた称号だなのだから。
タオを見つけ次第捕らえよ。傷つけるなよ、私は妹を殺したいわけではない。
タオには解らないのだ。我が国が高華国にどの様な仕打ちを受けたのか。どの様な裏切りを受けたのか。
ましてやあのユホンの息子スウォンなどに我が国は決して屈してはならないのだ。」
彼女らが話している間に私、ヨナ、ハクは後をつけられないよう注意しながら隠れ家としている宿へ戻った。
「コウレンお姉様がこの町にいらしている…!?」
『えぇ。この町に戦に必要なものを運び込むと言っていたわ。』
「迂闊に動けねぇな。」
「止めなくては…!手遅れになってしまう。」
「タオ姫…!あの…」
ヨナは自分がスウォンに面会し、戦を避ける方法を探ろうとしている事を言い出そうとする。
だが緋龍城へ向かっている間にコウレンが先制攻撃をしてしまうと戦は止められない。
どうすればいいのか考えているヨナを私とハクはそっと止める。
『ヨナ、焦らないで。』
「そう容易くいく話じゃない。機会を待ちましょう。」
―リン…ハク…そうだ、落ち着かなきゃ…―
「タオ姫…彼女は…コウレン姫は民に対し慈しみの心を持っている人に見えたの。
でもなぜ民を犠牲にする戦の道を選ぶのかしら。」
「…それはコウレンお姉様がスウォン王の父であるユホン将軍を深く憎んでいるからだと思います。
ジュナム王時代に高華国と真国は度々戦を繰り返し、血を流して来ました。
そして17年前の戦で真国軍は敗れ、高華国軍に降伏したのです。
しかし当時空の将軍であったユホンは捕虜にした真国の兵士や民衆の首を次々と刎ね、釈放すると言って真国の城門へ捕虜の首を投げ入れたのです。」
『っ…』
「その中にはお姉様と親しかった兵士もいました。まだ幼かったお姉様の絶望は計り知れません。
イル王はその事を謝罪し、占領地を返還して、両国の和平の為にあらゆる努力をして下さいました。
ですがスウォン王が即位して後、次々と戦を制し力をつける高華国を見てユホン将軍が蘇り、真国を滅ぼしに来るような悪夢にコウレンお姉様は苛まれているのだと思います。」
タオの言葉に私達は何も言う事が出来なかった。
暗くなってくると食料調達がてら周辺の様子を見に私と四龍は外套を被り宿を出た。
「屋台飯美味そうだから。」
「はい、真っ直ぐ歩こうね。」
『ふふっ、ジェハが保護者みたい。』
気楽に話しながらも私達は周囲の様子を見ていた。
「…兵が増えてるね。」
『うん…国境の警備も厳しくなってるでしょうね。』
そのときシンアはある視線に気付きキジャを呼んだ。
「キジャ、あの人がこっちを見てる…」
「誰だ?」
「目を合わせない方がいい。行こう。」
『って、こっち来た!』
それは白い髪を靡かせたヨタカだった。彼はタオの捜索をしていたのだ。
私は彼をどこかで見かけた気がして顔を見られないようジェハの背後へ隠れた。
「リン?」
『あの人…どこかで…どこだったかしら…』
コウレンの演説のとき、後ろに立っていたのだがはっきりとその姿を覚えているわけではなかった私はすぐに敵対する事が出来なかった。ヨタカはキジャを見て問う。
「おい、お前。肌の手入れはどうしている?」
「…は?」
「肌の手入れだ。なんだその驚きの美白は。何か特別な薬でも塗っているのか?」
「特に何もしておらぬ。」
「憎たらしい。美人は皆そう言うんだ。
この町に肌に良い薬があれば紹介して欲しかったんだが。」
「えーと…あっちに薬屋あるかもよ?じゃ。」
ジェハが私を庇ったままキジャの背中を押してその場を立ち去ろうとするとヨタカはジェハを見て言う。
「待て。よく見たらお前も美形だな。」
「やだなぁ♡一目ホレする程美しいって?
そんな事言われたら僕も君をちょっぴり好きになってしまうじゃないか。以後よろしく。」
「言ってない。」
『ジェハ…!』
「髪もツヤサラじゃないか。何で洗っている?」
「水。」
「努力なしでそうなったのか。憎たらしい。」
「そなたもその髪、獅子のようで凜々しいぞ。」
「僕が使ってる美容薬をあげるよ。」
「助かる…戦を前にどう美を保つかずっと考えていた。」
「わかる!戦闘って肌が荒れるよね。」
「お前達は戦闘経験があるのか?」
私はジェハの外套を背後からぎゅっと握る。
すると彼は漸く私の異変と自分が話しすぎた事に気付いた。
「…戦の前だからね。」
「この町は戦への意識が高くて良いな。力を見たい、何が得意だ?」
「披露するような技なんてないよ。」
「ちょっとそこの人~顔を上げて下さい~~~」
ゼノをはじめとして私達が顔を上げるとミザリが笑顔で剣を振るっていた。
「見ぃつけた。」
シンアがゼノを引き寄せ、キジャは身を引き、私はジェハに腕を引かれて後ろへ飛び退いた。
騒ぎを聞きつけて町の人達がぞろぞろと集まって来た。
「ヨタカ先輩、見て下さい。この人達です、タオ姫が連れて来た高華国の化け物。」
「…本当か?」
「疑り深いですね。じゃあ証明します。この人が…不死の人ですよ!!」
ミザリがゼノに斬りかかろうとしたためキジャが龍の手でミザリを捕らえて地面に叩きつけた。
「高華国の白き化け物…!!」
「ほらほらいたでしょ、化け物!この人達がタオ姫と一緒にいた人です。きっとタオ姫達もその辺にいますよ!」
―どうする…!?4人抱えては跳べないし、タオちゃん達がいる所へは戻れない…!―
―あの白髪の人…見た事があると思ったらコウレン姫と一緒にいた人だわ…!
ってことは五星?そうだとすると強いんじゃ…!?―
その瞬間、ヨタカが錘(スイ)のような柄の先端に球状の重りをつけた武器を振るってこちらへ殴りかかってきた。
私とジェハは咄嗟に飛び退いて躱していくうちに、被っていた外套が外れ顔が露わになる。ジェハは脚で錘を止めると口を開く。
「戦闘は肌が荒れるよ。」
「お前は高華国の化け物か。スウォン王の命で我が国を滅ぼしに来たんだな?」
『っ!!』
キジャは手を構え、シンアも剣を抜くとゼノを庇うように戦闘態勢に入る。
『キジャ!シンア!!』
「闘っては駄目だ!!僕らはこの国では侵入者だ…!」
『私達の行動が全て高華国の…スウォンの意志として戦を引き起こしてしまう…!!』
私達は背中合わせになるように立ち、ミザリやヨタカと対峙する。
私とジェハはヨタカの錘を躱して交渉を試みる。
「どうした!?高華国の化け物の力とやらを見せてみろ。俺が叩き潰してやる…!!」
『待って!!貴方達と争うつもりはないわ!!』
「信用出来るか!お前達はスウォン王の命で動いているのだろう!?」
「違うと言っても聞く耳を持たないみたいだね。」
「もしもし、不死の人。隠れてないで出て来て下さいよ。
あなたが生き返るとこ、すごくすごくもう一度見たいんですっ」
ミザリに斬りかかられて避けているシンアとゼノを見て私とジェハは声を上げる。
「ゼノ君!シンア君!!」
『ジェハ、危ない!!』
そのとき私達を庇ったキジャがヨタカの攻撃を受け倒れてしまう。私は彼を抱き留めてその場に膝をつく。
『キジャ!』
「リン!!!」
続けざまにヨタカが錘を振りかざし、キジャを庇った私の背中や頭を次々と殴られる。
『うあっ…』
「やめろ!」
動けなくなる私とキジャを突き飛ばして攻撃から逃がしたジェハへ矛先が向く。
「く…っ」
『やめてっ…ジェハ!!』
何度も殴られて血だらけになったジェハは最終的に頬を殴り飛ばされ地面に倒れる。
まとめていた髪も解けてぱさっと舞い、頭や口元から血が流れる。
私はまだかろじて動けるキジャから離れて身動きひとつしないジェハに無理矢理身体を動かして駆け寄ると、彼の頭を抱き寄せた。
『お願い…これ以上はやめて…殺さないで!』
「うるさい!!」
「リン…っ」
「お嬢!!!」
身を屈めてジェハを抱く私の顔や腹をヨタカは殴る。
私はそれに耐え、血を吐きつつもジェハを離そうとはしなかった。
そんな私達へ錘がトドメとばかりに錘を振りかざしたその瞬間、倒れている私達の前にユンが飛びだしてきた。
彼は私達の帰りが遅くて探しに来ていたらしい。
「待って!!ジェハ達はもうボロボロだよ!これ以上殴らないで!!」
「ボウズ…!」
「仲間か…?」
「そうだよ。」
「ならば死ね。」
「なんでだよ!俺達は殺されるような事はしていない!!
真国の武人は無抵抗の人間に死ぬまで武器を振るい続けるの!?それがあんた達の誇りなの!?」
『ユン…駄目…』
「駄目だ、どいて…」
「やだよ、バカっ!俺はみんなを怪我させないのが仕事なんだからね。絶対に動かない!
俺は高華国の人間で暴力も戦も大嫌いだ。殺す前にそれだけは頭に入れておいてよね。」
その後、武器を収めたヨタカの前でユンは緊張が解けたように座り込んだ。
『ユン…どうして…』
「みんなが遅いから迎えに来たんだよ…!」
「危ないじゃないか…」
「でも…俺にはこれくらいしか…!」
『ユン……ありがとう。』
「リン…!!」
泣きそうなユンはボロボロの私を抱き寄せてくれた。
ジェハもそんな私達を見ながら動く事は出来ない。
そうしているとミザリがゼノを斬り付けた。
「「『っ!!』」」
「やめて!」
「ほら、傷が治るでしょ~?」
ゼノの傷が治り、不死だという事を見て取った兵士達は息を呑む。
そして化け物とその仲間である私達はミザリやヨタカ達に連れられて屋敷の監獄に囚われる事となったのだ。
「…ユン、リン達と会えたかな。」
「さすがに遅いな。」
「タオ姫!い、今町でミザリ様とヨタカ様が四龍様やリン様と乱闘をされて…」
「ジェハ達が!?」
駆け込んで来たタオ側の兵士による報告に彼らは目を見開く。
「四龍様とリン様は重傷を負い捕らわれました…!!」
「シンアにゃん達が!?」
「まさか!?彼らが負けるなんて。」
「それが…彼らはそんなに攻撃を受けてもなぜか反撃せず…」
「民衆を前に暴れたら戦を誘発してしまう…リンとタレ目がそう判断したんだろ。」
「ユンは?ユンは見かけなかった!?」
「は、はい…彼はヨタカ様を止めようとして…」
「まさか怪我を…!?」
「いえ、ヨタカ様はそこで闘いをおやめになり、全員をコウレン殿下の滞在されている屋敷へ連行なさいました。」
「くそっ!俺が助け出してやる。」
「アルギラ!待って下さい、私が行きます。
私が行ってコウレン姉様に皆様をお助け頂くようお願いします。」
「お待ち下さい!今穹城の反戦派の方々に応援を頼みます。」
「時間がありません!高華国の化け物と呼ばれる彼らに姉様は何をなさるかわからないのです。全ては私が招いたこと…
ヨナさん、四龍の皆様は私が命にかえても高華国にお帰しします。あなた方は一刻も早く真国から脱出を。」
自分に頭を下げるタオをヨナはそっと呼んである事を頼んだのだった。
その頃、コウレンは高華国の化け物と呼ばれる私達について報告を受けていた。
「…黒髪の女と言ったか。」
「はい。化け物の中に女がいて、戦闘能力が高いようだったためヨタカが重傷を負わせたそうです。」
「その女は整った顔立ちで、銀色の美しい剣を持ってはいなかったか。」
「持っていましたが…」
―赤い髪の少女と一緒にいた女か…―
ネグロが差し出した私から取り上げた剣を見てコウレンは息を吐いた。
そのとき入口辺りで騒ぎが起きているのを聞き取って、コウレンはネグロと共に外へ出た。
「何事だ!」
「よぉ、ネグロのおっさん。」
「お久しぶりです。」
「アルギラ…ヴォルド…タオ姫…!」
「タオか。」
「コウレン姉様、お話があって参りました。」
「意見の対立からしばらく姿を見せなかったお前が高華国の化け物の為に動くとはな。そこまでスウォンに阿るか?」
「お姉様…今こちらに捕らえられている方々は私の大切なお客様です。
どなたもスウォン王とは何ら関わりありません。どうか釈放して下さい。」
「それはあの者達を拷問すればわかる事だ。」
「お姉様!」
「許されると思っているのか!?
こそこそと高華国の人間と接触し、国家の内情を暴露した。王家の人間だとて大罪だぞ!!」
彼女らが言い合っていると、ヨナがハクを引き連れて一歩前へ進み出た。
「コウレン姫。」
「お前は確か弓の…」
「私は高華国から来たの。あなたが捕らえた私の仲間は町では一つも暴力を振るっていないし、スウォンとは本当に無関係よ。
でも私はスウォンと関わりある人間なの。」
「……何者だ。」
ヨナは被っていた外套を外し赤い髪と顔を晒した。
「私は先王イルの子、ヨナ。」
これにはその場にいたハク以外の全員が目を見開いた。
「ヨナさん…あなた…」
「黙っていてごめんなさい、タオ姫。」
「ではやはりスウォンの命で来たのか?」
「父イルはスウォンに弑逆され、私と従者であるハクとリンは城を追放されたの。
依頼私達は国を放浪して生きてきた。
厳しい日々の中助けてくれたのがあなたが捕らえた私の仲間達よ。」
「…ハクとは後ろにいる男だろう。それならリンとは…?」
「捕らえられている黒髪の女性よ。」
「これを持っていた者か。」
「「っ!!」」
私の剣を見せたコウレンはネグロをチラッと見た。
それによってネグロを駆け出し、ヨナ達は口を閉じた。
ネグロは監獄へやってきてボロボロの私を見下ろした。
「女。」
『…』
私はジェハと並んで壁に凭れるように座っていたが、ネグロを霞む視界で見上げた。
「来い。」
彼は監獄に入ってくると私の腕を掴んで立ち上がらせ、無理矢理連れ出した。
ふらつくまま私は足を進め、背後では仲間達が心配そうに私を呼んでいたが返事は出来なかった。
連れて来られたのは外で私はネグロに両手を背後で掴まれたままコウレンの横に引っ張り出され、その場に膝をついた。
「「リン!!」」
「リンさん!」
「リンにゃん!」
『姫…様…ハク…』
私は血で地面を汚しながら彼らを見つめた。
霞む視界でもヨナの赤い髪ははっきりと見る事が出来た。
「…コウレン姫、これだけは断言する。
私は決してスウォンの命令で動いたりしない。
お願い、リンとユン、そして四龍を返して!彼らは私の何より大切な家族なの。」
「…一つ問う。お前はスウォンを憎んでいるのか?」
「……憎んでいたとしたらどうするの?」
「私と来る事を許そう。仲間は解放してやる。
我らに協力し、憎きスウォンとそれを支持する高華国の者共に復讐するがよい。」
「…断る。」
「なぜだ?奴が恐いのか?
おい、従者。お前はどうだ?王に復讐したくはないのか?
甘い香りを漂わすリンとやら。お前もどうなのだ。」
「今あいつらを…リン達を助け出す以上に大事なことなんて俺にはねぇよ。」
『ハク…』
「…」
「私は戦に手を貸す事は出来ない。
私の民にもあなたの民にも二度と絶望を繰り返させたくないから。」
「どうせよと?スウォンは必ずこの国に攻め込んで来る。
タオのように白旗を上げよと申すか?
17年前の敗戦でユホンは我が民を奴隷のように扱ったのだぞ!?」
「少し時間をちょうだい。私がスウォンに会って、戦を回避出来ないか交渉してくる。」
「父を殺し、城をも奪った男と、身一つで対等に話が出来ると思っているのか?」
それでも目を逸らさないヨナにコウレンは言い放った。
「…いいだろう。お前が戻るまで戦支度をして開戦は待とう。
その間、お前の仲間もこの女も人質だ。裏切ったり、スウォンが先に戦を仕掛けたら人質を殺す。不死の男は拷問だ。」
『姫さm…』
「…1分やろう。」
『コウレン姫…感謝します。』
「ふっ…敵だぞ。」
ネグロが私の手を離すとヨナとハクが駆け寄ってきた。私は身体を支えきれずヨナに抱きしめられる。
「リン…!」
『このような姿で…申し訳ありません…』
「そんなこと…っ」
「お前はここで傷を癒してろ。」
『うん…これから辛いと思います。傍に居られず申し訳ありません、姫様…』
「絶対助けるから…みんなと待ってて。」
『はい…ハク…』
「なんだ。」
『ヨナをお願い。』
「あぁ。」
『それにこの簪…持って行って…』
「え…」
『私は一緒に居られないから…でも私だけなんだからね、貴方の相棒は。』
「当然だろ。」
ハクは私の髪から羽の簪を抜き、解けた髪を撫でた。
そしてその手のまま私をヨナごと抱きしめた。
「信じて待ってろ。」
「行って来るわね、リン。」
『ご武運を…』
「時間だ。」
私はネグロに腕を掴まれてヨナやハクから引きはがされる。
無理矢理立ち上がらされるとそのまま彼に引き寄せられて、支えがなければ立てない私は彼に凭れる形になる。
ふらつきそうになるのを耐えながらヨナやハクを見ていると、彼女はタオに声を掛けた。
ハクは簪を胸元に挿してぐっと拳を握る。
「タオ姫、私ちょっと行って来る。」
「四龍さんとリンさん、それからユンさんは私が必ずお守りします…」
「…ありがとう。」
「アルギラ、ヴォルド。」
「「はいっ」」
タオは2人を小さな身体で抱きしめた。
「あなた達はヨナ姫をお守りして。私は大丈夫です。
あの方は皆を繋ぐ希望の光。死なせてはだめ。」
「……わかった。」
「必ず戻ります。」
「帰ったらにゃん達と遊ぼうな。」
「ふふ、はい。」
するとヨナとハクの背中を追うようにアルギラとヴォルドも歩み去った。
「…随分勝手をするな、タオ。」
「交渉には真国の人間も必要でしょう。」
「…まあ、よい。あいつらがここにいても面倒だ。
ネグロ、タオを部屋へ閉じ込めておけ。
その女は監獄に戻せ。私は戦の支度にかかる。」
『姫様…どうぞご無事で…』
私はネグロに抱え上げられ監獄までやってくるとそのまま投げ飛ばされた。
『うっ…』
「リン!」
「お嬢…!」
「あれ…簪はどうしたんだい…?」
『ハクに…託したの…』
「どういう事…?」
そう話しながらも私は出血が多い事もあり、意識を保つのもギリギリでジェハの脚に頭を預けるようにして横になった。
ジェハは片手で私の髪を撫でる。怪我が酷くて息を乱している私達を見てユンは声を上げる。
「ねえ、お願い!俺の鞄返して!
仲間が怪我してるんだ。治療したいんだよ!お願い!お願いだから!!」
「うるさいです。静かにして下さい。」
「近付かないで!またゼノを刺しに来たの!?」
ミザリがやって来るとユンはゼノを庇うように立つ。
「あなたが呼んだから来たのに我が儘ですね。
あなた達の仲間がやって来ましたよ。
驚きました、赤い髪の人はイル王の娘さんだったんですね。」
「ヨナが自分で言ったの…?」
「はい。そうですよね?」
『…えぇ。』
「それで戦を止めさせる為にスウォン王と交渉すると言って出て行きました。あなた達を人質に置いてね。
高華国が攻めて来たらあなた方は殺されます。不死の人は拷問。
赤い髪のお姫様はたぶん戻って来ませんよ。
あなた達はどちらにしろ殺されるんです。」
「俺達は人質なんだろ?人質は今死んだら人質にならない。
白龍と緑龍、それにお嬢は俺と違って不死身じゃねぇんだ。
だからボウズの鞄と水と食い物を持って来てくれよ。」
「また生き返るとこ見せてくれます?」
「いくらでも見せてやるから。」
「わかりました、持って来ます。」
「ゼノっ!ばかっ、あんな事言って。」
「ゼノはどうとでもなるから。」
『ごめんね…ゼノ…』
「お嬢、無理しちゃ駄目だから。」
ジェハとキジャは壁に凭れて座り、私は横になったまま話をする。
「今回の事は全て我らの不注意だ…
姫様に我々と両国の命運を全て背負わせてしまう事になるとは…」
「本当に…まさか王に交渉しに行くなんて…」
『どこまでも一緒に行くって…その先に何があっても傍に居るって約束したのに…』
「リン…」
『イル陛下…お願いですから…姫様とハクをお守り下さい…』
私は涙を流しながらジェハの服をぎゅっと握り締めた。するとジェハはか細い声で言う。
「ヨナちゃんもだけどハクも心配だね。王を前に冷静でいられるかどうか…」
『大丈夫…ハクは今私達を助ける事を第一に考えてる…だから…きっと大丈夫…』
「高華国と真国の溝は深い。交渉は難しいだろうな。」
「そんな…」
「…」
そのときシンアが俯いたのを見てゼノが声を掛ける。
「どした、青龍?」
「ゼノ…町中で俺が一瞬力を使おうとした時、止めた…?」
「青龍の能力はまだ知られてないから使わない方がいい。
お嬢も黒龍としての爪の能力の方は知られてないみたいだから切り札にはなりそうだな。」
「俺は使う…ヨナやみんなが傷つけられるのなら使う、誰が相手でも。全てが敵になっても俺は闘う。」
「『シンア…』」
「…あー、やめて。お兄さん、ちょっぴり涙出て来ちゃった。」
「わかった。でも今は体力を温存して闘うべき時まで待とう。そしてみんなで娘さんのとこに帰ろうな。」
ヨナはと言うと息を上げ、ふらつきながらも何かに取り憑かれたかのように一睡もせず歩き続けていた。
「姫さん、少し休まねぇと。」
「でも…早くしないと戦が…みんなが…」
「ヨナ様、無茶です。真国を出て一睡もされず歩き詰めなんですから。」
「そーだぜ、ヨにゃん。ちょっと休んだ方が効率いいって。」
そのときヨナが過呼吸になり、ハクは彼女の背中に手を添えてゆっくり息をさせる。
そして落ち着くとヨナは緊張が解けたようにハクに倒れ込むように意識を失った。
―この人はまだ16の少女だ。仲間と高華国と真国の民の命が何も持たないこの少女の肩にかかっている…それはどれ程の恐怖か…―
天幕を張りヨナを寝かすとハクは傍に座った。
片手で私の預けた羽の簪を撫でながらヨナが目覚めるのを待つ。
暫くしてヨナがふと目を開くと彼はそっと言う。
「あいつらは大丈夫ですよ。俺は暗黒龍なんでね、あいつらがピンピンしてるってわかるんです。」
「暗黒龍?四龍なのに?」
「先週から五龍…あ、リンが黒龍なんで六龍か。六龍になったんです。」
それを聞いてヨナがクスクス笑うと、漸くハクもほっとしたように笑みを零した。
「…だから安心して今は休んで下さい。何かして欲しい事とか持って来て欲しい物とかありますか?」
「………アオ。」
「………ぷっきゅー」
「可愛くない。」
困った末にアオのマネをしたハクをヨナは笑う。
「アオはね、いつも私の肩口に寝るの。」
「ぷっきゅー…」
「アオでかい。」
ハクがヨナの隣で丸くなると大きすぎて違和感がある。そんな彼の髪をヨナは撫でた。
「よしよし、ねんねねんね。」
「あのな、姫さん…」
「よしよし………お前も四龍やリンがいない分まで気を張らないで。私頼りないけど傍にいるから。」
自分を撫でるヨナをハクはぎゅっと胸に閉じ込めた。
「ハ…ハク?」
「……姫さ…」
「え?」
「……きです。」
「…ハク?なに…?」
「……何でもありません。もう寝て下さい。」
「…?あの…」
「ぷっきゅー」
アオのマネで誤魔化したハクはヨナの隣で彼女に背中を向けて眠った。
彼女はハクの背中に縋るようにして目を閉じたのだった。
翌朝、ぼーっとしたヨナはハクがいない事に気付き天幕を出る。
「おはようございます、姫さん。よく眠れました?」
「…うん、すっきりした。」
「そりゃ良かった。朝メシにしますよ。」
その後、彼らは当てであるリリの屋敷に行くが、彼女は留守だった。
どこに行ったかも屋敷の者は知らず、王に関わる事で里に頼れはしない為風の里へ行くわけにもいかない。
そのときヴォルドが情報交換をしている取引相手がいると告げた。
「え、お前高華国にそんな知り合いいたの?」
「タオ姫から高華国を調べろとご指示があったのだ。何度も偵察について来いと言っただろうが。」
「まさか真国の人に助けてもらうなんて…」
「いや、まだ助けになるかどうかは。
でも我々では不足かもしれませんが、どうか使って下さい。」
「ありがとう。」
そうして彼らが移動した先で話をつけると情報屋の頭が水の部族領にいる事がわかった。
「今日は幸運ですよ。情報屋の頭が来てるそうです。
彼が来ているとかなり濃い情報が手に入るんです。
空都や緋龍城の様子がわかるかもしれません。」
部屋に通されヴォルド、アルギラ…そしてヨナとハクが入ると、情報屋の頭がハクをチラッと見て目を背けた。
「……おい、気分が悪い。今日はもう帰る。」
「え…ちょっと待って下さい。今日はいい情報を…」
「待て。」
ハクはその男の腕を掴んで引き留めた。
「俺を知ってるな?」
「ハク?」
「…いや、初めて見る顔だ。」
「じゃあ…ウォンという男を知ってるか?」
「ウォン…」
「…よくある名前だからなぁ。どいつの事やら…」
「昔…俺やリンと一緒に姫さんを探してくれたよな?忘れちまったのかよ、オギさん?」
「…目つきの悪さは変わらねぇな。高華の雷獣、ハク。」
オギは振り返ってハクを見ると冷や汗を流すのだった。