主人公はハクの相棒でヨナの護衛。国内でも有名な美人剣士。
金州・斉国
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宿で眠らされたヨナとリリは揺れる馬車の中で目を覚ました。
「ヨナ…」
「リリ…!」
「何これ…私達どうしたの…?」
「わからない。馬車の中…みたい。」
「降りろ。」
肩にアオを乗せたヨナはリリと共に馬車を降ろされた。
そこでは兵によって命じられるままに働く多くの人々がいた。
斉国に連れて来られた人々は鞭を振るわれて逆らえば殺され、奴隷として砦を造らされることになると言う。
「これは何の砦なの?」
「黙れ。問う事は許されない。お前らは何も考えず働けばいい。仕事さえすれば帰してやる。」
「…」
宿にいたヨナとリリがここに連れて来られたのはある人物の仕業…
その人物も近くにいてリリは彼女に駆け寄って行った。
「ツバル!お前も連れて来られたの?大丈夫?」
「リリ!その人から離れて。」
「…ヨナ?」
「ツバル…あなた何者?なぜ私とリリを斉国に連れて来たの?」
「ツバル…」
「そんな大層な身分ではないわ、お嬢さん。
申し遅れました、リリ様。私斉国で商人をやっているんです。」
「商人…」
「リリ様お探しの…ね。」
「麻薬商人!?」
「近頃貴女が麻薬を取り締まっているせいで商売が滞ってましてね。邪魔だったんですよ。」
「じゃあ息子が行方不明っていうのは…」
「そう言えばあなたを誘き寄せるでしょう?
そして祭の中騒ぎの種を一つずつ蒔いて、混乱に乗じて人間を回収。お陰で大漁。計画は上々でした。」
「ツバル!!!」
「そこ!大人しくしろ。」
「リリ!!」
鞭を振り上げる兵からヨナはリリを庇い何度も叩かれる。
それでも強い眼差しで兵を睨み返した。
「っ…」
「せっかく無傷で連れて来たんですよ、その辺で。」
「…い、いいだろう。」
荷物を回収された事でヨナの荷物、短剣…そしてスウォンから貰った簪も取り上げられた。
リリは泣きながらヨナに何度も謝った。
「ヨナ…ごめんなさい。やっぱり巻き込むんじゃなかった。まさかツバルが…」
「泣かないで、リリ。私は大丈夫。
寧ろこれは好機かもしれない。私達の目的は何?」
「…斉国からの麻薬の流通を潰すこと…」
「そう。ここはかなり重要な拠点だと思う。
しばらく耐えて彼らの目的を探ろう。」
「ヨナ…あんた…さっき撃たれたばかりで…やっぱりあんたは強いわ。」
「リリが居てくれるからよ。」
その後、彼女らは他の人々と共に仕事を始めた。
ヨナは鞭で叩かれた所を痛めていて、周囲の人々も腕の骨を折っていたり病気だったり…
兵は仕方なく薬と銘打って人々に飲み物を与える。
だがそれは麻薬…ナダイだった。
「麻薬はごく少量なら薬にもなる。斉国では合法なの。」
「麻薬が合法!?」
「麻薬でボロボロになってゆく人をたくさん見たわ。麻薬を使って働かせるなんて…」
「それは使い方が悪かったんでしょう。
ま、ここでそれをどれだけ飲むかは自己責任だけど。」
「飲むわけないでしょ、こんな…」
「ご勝手に。でも…ここでは水の代わりにそれを出すの。
こんなカラカラの場所でいつまで耐えられるかしらね。」
それから2日間…ヨナとリリは何も飲まずに働かされた。
麻薬を飲み過ぎた者は処分される。
渇きによってふらついたリリは兵によって無理矢理麻薬を飲まされそうになって、顔に麻薬を浴びる。
口に入った少量の麻薬を吐き出すとリリは怒りに震えた。
「リリ…」
「平気よ。ヨナ…私…腹が立って腹が立って仕方がない。
こんな…人の尊厳を踏みにじるような卑劣極まりない場所許されないし、許されるなんて思わせたくもない。
でも…一番腹が立つのは水が…欲しくて欲しくて何でもいいから少しくらいならって…
あの酒をみっともなく奪って飲んでしまいそうになった私よ…!
たとえ干からびたって屈服しないって思ってたのに、冷たい水の感触にあっという間に折れそうになるなんて…怖い…怖いよ…」
「リリ…リリはみっともなくなんかない。何も間違ってないよ。」
夜になるとヨナはリリの為に水を探すべく寝床を出た。
ただ彼女がいないことに気付いたリリが外を歩いていると兵に見つかってしまった。
殴りかかってくる兵に向けてリリが石を投げると剣を向けられた。
そんな兵をヨナが背後から木材で殴りつけるが、木材は兵の剣で斬られてしまう。
ヨナが危ないと思ったリリは近くにあった陶器の破片を兵の首に突き刺した。
それによって兵は死に、ヨナとリリは逃げ出した。
「リリ行こう。脱出するの、今なら見張りも少ない。」
「え…」
「このままでは私達、殺されてしまう。」
砦の建設現場を逃げ出してヨナは少しでも遠くへ向かおうとしていた。ただリリにはつらい道のりだった。
「リリ、大丈夫?」
「…へい…き…」
「少し休もう。」
木の根元に並んで座ると休み始め、アオは木から実を採って来てくれた。
「ありがとう、アオ。何の実だろ、毒ではない…かな?少しでも水分摂れれば…」
「ヨナ…わ、私…人を…刺…」
「リリ…リリが助けてくれなかったら私はきっと死んでたわ。今は忘れて眠って…」
自分の隣で身を小さくして眠ったリリをヨナはただ見つめていた。
―リリみたいな子に武器を持たせたりしない世がくればいい…
ハク…リン…みんな…心配してるだろうな…会いたい…―
そうして彼女もアオを撫でながら眠りに就いたのだった。
祭りの騒ぎの中で人を攫おうとしていた男達をシンアが捕らえ、私達はヨナやリリの身を案じて急いで宿に戻った。
『姫様…』
「くっ…」
そこにはヨナもリリもおらず、ツバルと呼ばれた女性も姿を消していた。
テーブルには睡眠薬入りのお茶が入っていたであろう湯呑が転がっていた。
『睡眠薬か…』
私とハクは並んで立つと誰もいなくなった室内を睨み付けた。
そのとき背後から物音がして私達は揃って振り返る。
「ハク、リン。おいで。ヨナちゃん達の消息がわかりそうだ。」
ジェハが呼びに来て私達が向かった先ではシンアが捕らえた人攫いの男達が縄で縛られていた。
アユラとテトラも駆けつけて来ていてこれからの事について考え始めていた。
「ヨナとリリが斉国に?」
「ああ、こいつらが言うにはヨナちゃん達は宿の女将ツバルによって斉国に送られたと。」
『ツバル…』
「ツバルが斉国の麻薬商人だったなんて。」
「麻薬調査をしているリリ様が邪魔で今回の祭で騒ぎを起こし連れ去る計画だったみたいです。」
「あの事故の中、行方不明者も多数出ている。」
『一部の人攫いはシンアが捕らえて…今目の前にいるけどね…』
「…それで姫さんとリリの居場所は?」
「斉国では今…国境近くに砦を築く為人を集めている。
攫った人間はまずそこに連れて行かれるだろう。」
捕らわれた男のうち一人が渋々説明を始めた。
「ヨナちゃん達はそこで砦を造らされてるわけだね?」
「それなら殺される事はありませんわよね?」
「大人しくしてればな…」
「大人しくしてるかな…」
ユンは不安気な表情をするが、私は彼の頭にそっと手を乗せながら同意を示しつつ何も言わなかった。
『砦建設の目的は?』
「知らねェよ。」
男の返答の瞬間、ハクが男の足に自分の足を乗せた。
私も彼の隣で男の後ろ手に縛られた手首を握っていた。
「答えねぇと脚をへし折るが、いいか?」
『それとも手首を砕いて今後一切何も握れないようにしてあげましょうか?』
私達の暗い声と殺気の込められた目に男は怯えたように叫んだ。
「とっ…と、砦の目的は防衛と水の部族への攻撃…っ!!」
「水の部族へ…!?」
「斉国は戦を仕掛ける気か?」
「王家や貴族の考えまではわからねぇ…俺らは雇われて人攫いしてるだけなんでね。」
「とにかくその砦に行って助けなきゃ。」
「えぇ。」
「言い忘れたが…砦を築く労働者には水の代わりに酒を与えるんだ。麻薬入りの酒をな。
早くしねェと嬢ちゃん達…麻薬漬けにされちまうぞ。」
その言葉にアユラとテトラは目を見開き、私達は眉間に皺を寄せた。
「可哀想にたかが貴族の娘の分際で妙な正義の味方を気取るからこんな事に…」
その瞬間、テトラの拳とアユラの短刀が男の顔の両側に突き付けられた。
「…ただの貴族の娘ではございません。
リリ様は水の部族長アン・ジュンギ様最愛のお嬢様でいらっしゃいます。」
「部族長…の娘…っ」
「覚悟なさって?ジュンギ様と水の部族は決してツバルを…あなた方を許さない。」
「穏やかな水は津波となってあなた達を飲み込む。」
それに続くようにキジャが龍の右手を構え、私も爪を出して男の前に仲間を従えて立った。
「君達は龍の逆鱗を知っているかい?」
『触れた時点で生きて戻れるとは思わない事ね。』
「姫様に何かあれば如何なる国でも焦土にする事厭わぬぞ。」
男達はとんでもない相手を敵に回してしまった、と冷汗を流すのだった。
男を脅して砦の場所を聞き出した結果、2ヶ所に分かれている事が判明した。
「えっ、砦は2か所ありますの?」
「うん。ヨナ達がどっちの砦に送られたかわからないから二手に分かれて潜入する事にした。」
ハク・ユン・キジャ・シンア組と私・ジェハ・ゼノ・アユラ組に分かれた。
「どちらかがヨナちゃん達を助け出し、機会を見てその砦をぶっ壊す。それでいいね?」
『テトラはここで待機してて。』
「私もご一緒したいのですけど。」
「大丈夫よ。あんたさっきの拳かなり調子取り戻してたから。」
「いつでも出動出来るように鍛えとくわ。…アユラ、リリ様をお願い。」
「…わかってる、命にかえても。」
アユラとテトラは手を取り合ってリリを思う。
「ユン君、細かい事はこっちも臨機応変でいくけど暴走しすぎた時は手綱よろしくね。」
『特にキジャとかね…』
「…頑張る。」
「ハク…彼女なら絶対に大丈夫だよ。」
ジェハの言葉にハクは何も返さない。私はそんなハクの服の裾を掴んで引き留めた。
「リン…」
『ハク…何かあったら空に向かって私を呼んで…』
「わかった…お前と別行動なんて珍しいな。」
『そっちにはシンアがいる。何かあれば私達を見つけられるでしょう?
私は気配を追えるし、遠くにいても声が分かる。
姫様を見つけるのにも私とシンアが分かれた方がいい。そうでしょ?』
「あぁ…それに戦力的に考えてもお前はタレ目やゼノと行くべきだろ…」
『…また後で。』
「…その時は姫さんも一緒だ。」
『うん…!』
「じゃあ行こう。ゼノ君、アユラちゃん。」
「ご武運を。」
「リン!行くよ。」
『うん!!』
私とハクは頷き合うとそれぞれ行動を開始した。
ハクは胸元にあるヨナから貰った首飾りを握り締めると心を落ち着け駆け出した。
暫くして残されたテトラが兵から行方不明者や残党に関する報告を受けているとジュンギがやってきた。
―なぜ…?どうして今ここにジュンギ様が…!?―
彼に向けて膝をつき頭を下げた彼女に対してジュンギは静かに問いかける。
「私は斉国の調査で灯水町(ここ)に来たのだが、なぜ君がここにいる?
聞けば昨夜ここで事故があったらしいな。答えなさい、あの子は…リリはどこだ?」
テトラは考えた、ここで正直にリリの居場所を言えばヨナや私達の居場所まで知られてしまう、と。
すると迷っていた彼女を助ける為、ラマルという兵が口を開いた。
「申し上げます、リリ様は昨夜事故に巻き込まれ斉国に誘拐されました!!」
「…それで?」
「…申し訳ありません!!私の不徳の致すところで…」
「私は謝罪を要求しているのではない。」
「…アユラが今リリ様をお救いする為、斉国に潜入を。」
「アユラだけでか?」
「……はい。」
「リリ様がどうされました?」
そこに突然柔らかくとも凛とした声が聞こえてきた。
ジュンギの後ろに立っていたのは外套を羽織り顔がわからない青年と彼の後ろに控えた武人だった。
「お耳に入れる程の事ではございません。」
「水の部族長のご息女が他国に攫われた事がですか?随分大事な気がしますが…
今日は斉国の砦の調査に来たのですが、それと関係しているのでは?話して下さい。」
「は…はい。」
ヨナや私達の事を省いて説明を終えたテトラの前で青年達は考え込む。
「軍事目的で造られている砦はいずれ取り除くつもりでいましたが…
リリ様が麻薬を飲まされているかもしれないとなると一刻を争いますね。
うーん…仕方ない。乗り込みますか、斉国に。」
「陛下!!」
―陛下!?―
「一体何を言いだすんですか!?
一国の王が他国に少人数で乗り込むなど!!
無事で済むと思ってるんですか!?」
「しかし、ジュド将軍…」
「お転婆も大概にして下さい!!」
「ジュド将軍面白いなあ。」
テトラは漸く彼らの正体がスウォン陛下と空の部族のジュド将軍だと気付いたようだった。
―もしかしなくてもこの方とヨナ様やハク様…リン様を会わせてはならないのでは…?
でも陛下が手を貸して下さるのなら、リリ様をお助けするのにこんなに心強いことはない…!!!―
テトラの葛藤を他所にスウォンは一つの提案を口にしたのだった。
地の部族グンテ将軍、そして風の部族ムンドクに応援を頼むように…と。
二手に分かれた私達もそれぞれ目的地に潜入する事が出来ていた。
ハク達は奴隷として捕らわれる形で入り込み、私達はジェハの脚ですっと砦建設場の物陰に入り込んだのだ。
キジャは木材を運びながら倒れた男性の前に立って鞭を振るおうとする兵を角材で殴った。
「とっとと働け…ぐおふっ!」
「すまぬ、ぶつかったか。」
「貴様…っ」
「周囲には気をつけるがよい。そなた大丈夫か。その荷、私が持とう。」
「えっ…」
「勝手な事をするな!」
「問題なかろう。私がこの者の分まで運ぶと言っておるのだ。」
「い、言う事を聞けえっ!!」
兵が振るった鞭は仮面を外し目を布で覆ったシンアが片手で止めた。
「なっ…」
「シンア!手は大丈夫か?」
するとシンアは小さく頷いた。倒れた男性にはユンが駆け寄った。
「大丈夫?足が折れてる。これは痛いね。休まないと…」
「貴様ら!何をしている。勝手な行動は厳罰に処す。動けないのなら酒を飲め!」
「勝手なのはどっちだよ。強制的に連れて来て怪しげな酒飲ませて。
そういう事はあんたも足が折れて同じ目に遭って、一声も上げられなくなってから言いなよ。」
生意気なユンに鞭を振るおうとした兵は喉元を掴まれハクに持ち上げられた。
「ななな…降ろせぇ!」
「ああ、すみませんね。荷物と間違えて持ち上げちまった。」
「き、貴様ら!奴隷の分際で反抗的な態度を…」
「反抗的…?心外ですね。こんなに働いてるのに?」
ハク、キジャ、シンアは木材や石材などを抱えて尻もちをついた兵を見下ろし、再び作業に戻った。
「何だ、あいつらは。」
「昨夜高華国から連れて来た奴隷です。」
「どこの屈強の戦士連れて来たんだよ。
あんなに生命力に溢れた奴隷がいるか!?」
「捕えた時は大人しかったんですが…
本当に仕事量は凄いので困った事にお役立ちなんです!!」
「ぐぬ…とにかく出しゃばったマネはさせるな。他の奴に影響する。」
「はっ!」
武器を取り上げられた彼らは作業の途中に物陰に隠れて話し合う。
「シンア、どうだ?」
「ヨナ…ここにはいない。」
「周りの人にも聞いてみたけど、ヨナやリリらしき女の子は見てないらしいよ。」
「となるとジェハ達の向かった砦に姫様とリリが。」
「おそらくね。もしヨナと合流したら何らかの方法で伝えるってジェハとリンが言ってたからもう少し待ってみよう。
この砦の破壊はヨナ達の無事を確認してからだね。」
「破壊は任せよ。この様な腐った場所廃墟にしてくれる。」
ハクは一言も話さないまま一点を見つめたまま動かない。
「ハク、案ずるな。リンやジェハ、ゼノなら必ず姫様をお救いする。」
「…わかってる。あいつらに任せる。」
するとハクの様子にキジャは嬉しそうに微笑んだ。
「…何だよ。」
「そなたが動揺しているようなのでな。
そのような時にリンだけでなくジェハやゼノを信頼してくれて嬉しいぞ。」
「俺が動揺…」
「雷獣って動揺すると黙るよね。」
ユンの言葉にハクは顔を背け苦い表情をする。
「雷獣が動揺するとキジャって逆に落ちつくんだね。
今日は久々にキジャが雷獣より年上だって事思い出したよ。」
「私の事は兄と呼ぶが良「うるせー」
―もしもこれが姫さんを守って俺とリンだけが進む旅のままで、頼れる奴がいなかったらと思うとぞっとする…
友を失い、風の部族を離れ、お前らに逢えるとは思わなかった…―
「白蛇、シンア、ユン…」
「ん?」
「…や、何でもね。」
「うむ?」
―今お前らがここに居てくれること…感謝する―
感謝を素直に言えないハクが仲間達と共に作戦通り活動を開始したのと同じ頃、私、ジェハ、ゼノ、アユラも建設現場に到着していた。
倒れそうになった女性をジェハが片手で支える。
「きゃ…」
「おっと。大丈夫?」
「あ…はい。」
ジェハの整った容姿に女性は頬を染める。
彼は女性を連れて物陰に隠れ少し質問をする。
私はゼノと並んで立ち周囲に意識を集中していた。
「可哀想に、こんなにやつれて…
ここに座って。大丈夫、兵士からは死角だ。
一つ聞きたいんだけど、ここで赤い髪の女の子を見なかった?」
「赤い髪…?…あまり覚えてません…ちょっと…お酒を飲みすぎて…」
「いいんだ、無理しないで。近いうちに必ず助けてあげるから。
それまで極力あの酒を飲んではダメだ。」
「え…でも…」
「いいね?」
「は、はい…」
「お~い、緑龍。貴重な青春を邪魔して悪ィがちょっと来い来い。」
女性に優しく絡むジェハをゼノが声を掛ける。
私は目を閉じて気配を追っていたがヨナもリリもいなかった。
「リリ様とヨナ様らしき少女の目撃情報はいくつか入手しました。」
「じゃあ、彼女らはここに?」
『正しくは“居た”…かな。気配は感じられなかったわ。』
「同室で寝てた子に聞いたから朝になったら2人共いなくなってたって。」
「いなくなって…?」
「ここで逆らう者は処分…リリ様達は反抗的だったから殺されたのではと言う者も…」
アユラの言葉に私とジェハはすっと立ち上がった。
「…緑龍行けるか?」
「当然。」
「お嬢も行くんだろ?」
『えぇ。』
「えっ…行くとはどちらに?」
「勿論、ヨナちゃん達を探しにね。」
『見つけ出す為には私が気配を追うべきよね。』
「娘さんは生きてるから絶対に。」
「きっとリリちゃんを連れてどこかに逃げたんだ。
あの子がこんな所で大人しく殺されるなんてあってはならない。
探し出してみせるよ、この脚で。」
『私も行く。』
「うん…無理はしちゃいけないけど、気配を追ってくれると助かるよ。…すぐに戻るから待ってて。」
「おー」
「ゼノ様。」
ジェハはアユラと共にゼノをその場に残そうとしたが、アユラはゼノを送り出した。
「行って下さい。私は機会を見てハク様達に状況を伝えます。
私達のリリ様をどうかお願いします。」
「うし!」
ゼノはアユラの頭を撫でた。私とジェハは周囲を見ながら空に舞い上がる機会を探っていた。
すると少し離れた場所でアユラが木材を倒して音を立てて、それを聞きつけた人々が集まって行った。
ジェハは彼女に向けて小さく頷くと私を抱いて地面を蹴った。
ただその瞬間ゼノが駆けて来てジェハの背中に飛びついた。
「『うわっ!?』」
「ゼノ君…突然飛び乗らないでくれるかな。」
「悪ィ悪ィ」
『ビックリした…』
「君が来たらヨナちゃんとリリちゃん抱えて跳べないだろ?」
「大丈夫、ゼノ走るから。」
『私も走るつもりだったから。』
「ゼノの能力も役に立つから、たぶん。」
「君の能力は年の功だけで十分だよ。」
私とゼノを抱いたり負ぶったジェハは空を高く舞いながらヨナ達を探し始めたのだった。
私はジェハにしがみ付いたまま気配を追い続ける…ただ早くヨナを見つけられるように。
同じ頃、スウォンはのんびり灯水の町でお茶を飲んでいた。
話し合いを進めただけで特に何かの行動をしたわけではないのだ。
「…遅い。」
「おいおい、どれだけ馬を飛ばして来たと思ってるんだ。地心は隣町じゃねぇんだぞ。」
ジュドが不機嫌そうに声を掛けたのはグンテだった。
「ご足労お掛けしてすみません。」
「いえ、陛下のお呼びとあらば。ところでどうなんだ状況は、ジュンギ将軍。」
「まだ詳しい事は解っていないよ。まさか君の手を借りる事になるとはね。」
「リリが斉国に誘拐されたんだろ。あんたに“貸しだ”とは言わんよ。
冷静に振る舞っちゃいるが、内心死ぬ程心配してんだろ?
あんなか弱い娘が攫われたんだからよ。」
―か弱い娘…?―
リリの事を知っているスウォンとジュドは目を丸くしている。
リリはか弱いというには少々お転婆だからだ。
「あの…恐れながらグンテ様はリリ様を…」
「おう、これから行って取り戻す。」
「リリ様をお助けするにはジュド将軍が納得するだけの戦力が必要でしたから。」
「当たり前です。王自ら斉国に乗り込もうというんですよ?」
「取り急ぎ腕利きの者ばかり数人連れて来たぞ。」
「地の部族だけでは足りん。」
「あ?」
「もう一組お呼びしてます。」
その言葉に応えるようにやって来たのはヘンデとテウを従えたムンドクだった。
「こいつは驚いた。」
「風の部族、召集に従い参上致しました。」
「よく来て下さいました。」
ムンドク達が頭を下げるとスウォンは優しく感謝を口にする。
「まさか貴方が来られるとは。」
「ジュンギの娘が誘拐されたとあってはな。
水の部族の麻薬の剣も片付けねばなるまい。
風の部族も微力ながら手を貸そう。」
「格別のお心配りを頂き感謝に堪えません、ムンドク様。」
「これなら問題ありませんよね?ジュド将軍。」
「…良いでしょう。しかし陛下は決して先頭に立たれないように。闘いは我々が…」
「はい。」
空と風と地の将軍、英雄ムンドク、そして国王陛下…恐ろしい程の最強の布陣が集まったのだ。
驚いているテトラの目の前で作戦会議が始まる。
「斉国には現在3人の王がいます。」
「ホツマとクシビ、そしてカザグモ…」
「はい。王座に就いているのはカザグモですが、彼は力が無く実際はカザグモの母クヴァ、叔父のホツマとクシビが政をしていたようです。
クヴァが2か月前亡くなったのです。
これまでは民衆から絶大な支持を誇るクヴァ、軍事力を持つホツマ、経済力を有するクシビ…
三者の利害が一致し協力体制にあったのですが…」
「ホツマとクシビが王座を狙い始めたと…?」
「ええ。ホツマとクシビは競うように砦を造り高華国への侵攻を目論んでいます。
水の部族は麻薬の件で弱りきっていましたから、まずはそこを制圧し、それぞれの名を民に知らしめようと考えたのでしょう。」
「ナメられたもんだ。」
「その通りです、テウ将軍。元より砦は近いうちに取り除く予定でした。」
「…」
「砦はホツマとクシビの権力そのもの。
ここを崩せば双方にかなりの損害を与える事が出来ます。」
「だがまずはリリだな。」
「はい、どちらかの砦に捕らえられているであろうリリ様を救出する事が今回の目的。
風の部族と地の部族の方々は派手に暴れて兵の注意を引きつけて頂きたい。」
「…御意。」
「派手に!いいですね。俺向きの仕事だ。」
ジュンギは目を患っている為後方支援に回るらしい。
「駆けつけたのはジュンギ将軍の為だけではないですよ。」
「え?」
「リリ…いや、リリ様は将来貴方の妃となられる御方ですから。」
「………はい?」
「取り戻したらその勢いで式でも挙げますか!」
「え!?は!?ちょっちょっと待って下さい!」
「陛下も隅に置けませんな。先日は開いてなどいないとはぐらかされましたが、リリとそんなに親密になっていたとは。」
「!!??何の話です、グンテ将軍!?
何か誤解を受けているんですがっどの様な説明を!?」
「無粋な事は申しますまい。」
「意味が分かりませんっ」
「え?ですが我らを召集する程の事態。
これは陛下余程リリに惚れておられるのだろうと。」
「誤解です。」
実はムンドクもグンテと同じ事を思っていた為、少し残念そう。
「なんだぁ。近いうちに世継ぎを拝めると思ったのによぉ。」
「それはいきなり飛びすぎでは…
ともかく明朝、ホツマの砦から行動を開始します。」
彼らが向かう事にしたホツマの砦はハク達が潜入している方の砦だった。
そこではハク、ユン、キジャ、シンアが頭を突き合わせて話し合っていた。
「…ねぇ、ある事に気付いちゃったんだけどさ。」
「何だ?」
「キジャ達の仕事量で働いてるとさ…破壊するはずの砦が完成間近なんだけど。」
「何と!?…では今から少しずつ崩そう。」
「やめなさい、目立つから。」
ユンは歩き出そうとするキジャとシンアを引き留めた。
そんなシンアをハクがそっと呼ぶ。
「シンア、タレ目やリンから合図らしきもん見えたか?」
「…見えたらすぐ知らせる、ハクに。」
一瞬きょとんとしたハクはシンアの肩をポンと叩くと部屋を出て行った。
シンアはその行動の意味が分からず首を傾げた。
「ありがとう、だって。」
ユンに行動の解説をされたハクは外と隔てられた壁の近くに腰を下ろし、胸元に揺れる首飾りを握った。
―ヤベェな…シンアにまで気を遣われている…―
「俺の事より姫さんを守ってくれよ…」
その時近くの壁から人の気配を感じハクは壁に触れた。
「…おい、そこにいるのは誰だ?
俺は高華国の人間だ。ここに見張りはいない。そこで何をしている?」
彼の言葉に返事はなかった。
―聞こえてねぇのか、答えたくねぇのか…ま、いいや…―
その場を離れようとしたハクの背中に声を掛けられた。
「あの…高華国…の方ですか?」
―この…声…この声は…!!―
「夜分に…この様な所からすみません。少し…良いですか?」
―どうしてこんな所に…どうして!!お前が…ここにいる!!?スウォン…!!―
ハクは足を止めたが怒りで震え始めていた。
殺気が溢れてしまっているが、暴れる事は抑えているようだ。
「…あの…もしもし?居ますか…?」
「…」
「…えっとですね。そちらに連れて来られた人の中に長い黒髪の…リリという17歳の女性を見かけませんでしたか?」
ハクは怒りを抑えようと壁にガリッと詰めを立て、血が壁を汚す。
「…いません…か?…あなたしかいないのであなたにお伝えします。
私達は早朝ここから砦を壊し、そちらに侵入します。
その時…そちらに囚えられた人に被害がないよう避難させておいて頂きたい。
あなたが手を貸して下さったら怪我人を出さず速やかに人々を助け出す事が出来ます。…お願い…出来ますか…?」
ハクが返事をしない為、壁の向こうにいるスウォンはその場を去ろうとしていた。
「……暁に…合図する。」
「……ありがとう…ございます。」
ハクは悔しそうでありながらも自分のすべき事を考えて返答するとその場を去った。すると彼を探しに来たユンと合流した。
「雷獣…!どこ行ってたの。」
「…夜明けにこの砦を破壊するぞ。」
「ええっ!?ちょっと…」
「いよいよか。」
そこにキジャが駆けつけて来たがハクの顔色の変化に気付いた。
「…何があった?」
「……別になんもねぇよ。」
「ハク!私が必要になったら呼べ。」
ハクは血の滲んだ指先…手で顔を覆った。
―リン…俺は…―
彼は隣にいない相棒である私を迷う心で呼びながら穏やかではない心のまま夜明けを迎える事になった。
壁の向こうにいたスウォンも空を見上げて気付いたようだった…壁の向こうにいた人物がハクなのだと。
「夜明けだ…」
「白蛇、こっちだ。」
「うむ。」
早朝にハクとユンが話しているとキジャが大きな石の玉を持って合流した。
その場にシンアがいない事にユンが首を傾げる。
「シンアは?」
「取り上げられた武器を探しに行ってる。
ユン、奴隷達を安全な場所へ誘導しろ。
砦の向こうにリリを奪還しに来た奴らがいる。」
「えっ、誰!?あっ、水の部族長…!?」
「…かもな。」
ハクはそれ以上言わずに砦の向こうを見た。
―壁の向こうにあいつがいる…ここをぶち破ったらあいつが…!―
鼓動が大きくなり暴れそうなハクを引き留めるように頭の中でヨナが彼を呼んだ。
それだけで彼の目が少しだけ優しくなった。
「陛下、準備整いました。いつでも行けますよ。」
「もう少し待って下さい。合図がきます。」
壁を挟んだ反対側でスウォンも待機していた。
ハク達が行動を開始した事で兵達がガヤガヤとやって来た。
「貴様らぁっ」
「何をしている!?」
「白蛇。」
「うむ。」
ハクの合図で抛石機(ほうせきき)にキジャが大きな石の玉を落とした。石は砦にぶつかり派手に破壊された。
これには壁の向こうにいるスウォン、ムンドク、グンテ、ジュドも驚いた様だった。
「派手な合図だなぁ、ハク…」
兵も茫然と大きな穴が開いた砦の壁を見つめるばかり…
「なんて事だ…」
「砦を壊しやがった…!!」
「兵を集めろ!反逆者を殺せ!!」
暴れる兵達とは反してハクやキジャは冷静だった。
「白蛇、抛石機を全て壊せ。これを水の部族領に向けられねぇように。」
「そなたは?」
「俺は火薬を処分してくる。」
「心得た。」
キジャは龍の右手を構え、ハクはこれから入って来るであろうスウォン達に背中を向けた。
―今俺がすべき事はいち早くここをぶっ壊して姫さんとリリを助け出す事だ…!―
「向こうに協力者がいたとは聞いていませんが。」
「…すみません。向こうがどう来るか分からなかったもので。」
「…」
壁の向こうでスウォンとジュドが話し合っていた。
そんな彼らの前を颯爽と進み出て砦の壁の穴を通ろうとしたのはムンドクとグンテ…そしてテウやヘンデだった。彼らの睨みに兵は足を竦めた。
「侵入者だぁっ!!」
「暴れるぞ、ついて来い。」
「はいっ♡♡グンテ様!!」
グンテの後ろについてくる地の部族は頬を染めながら戦闘態勢に入る。
「長老~先日やった腰がまだ痛いんじゃないの?」
「やかまし。」
「陛下はここでお待ち下さい。」
グンテの剣とムンドクの槍が兵を襲い、ジュドはスウォンを庇うように一歩前に出た。
ちなみにスウォンの後ろにはテトラの姿もある。
「つ…強ぇ…」
「何者だ!?」
「まさかあなたの勇姿が拝めるとは。」
「こんなもんお遊戯じゃ。」
兵達の中央でグンテとムンドクが背中合わせに立つ。
「ほう…まだまだ現役って事ですか。」
「阿呆、ワシのようなヨボヨボジジイに後れを取るようなら…前世からやり直せいっ!!」
「風の部族のヨボヨボの基準よ…」
呆れながらもグンテも戦闘に参加したのだった。
その頃訓練場から多くの兵が出て来たのを武器を見つけたシンアも追いかけ戦場に足を踏み入れていた。
彼に襲い掛かろうとした兵に飛び掛かったのは槍を振るう青年だった。
脚を止めた青年はシンアに目を向ける。
「…あんた武器持ってるけどここの兵士じゃねぇよな?」
シンアはただコクリと頷くだけ。
「じゃあ、高華国から連れて来られた人?」
「武器…は取り返した。」
「そっかすげェな。」
―似てる…誰かに…―
「俺達今からここぶっ壊すから上手く逃げろよ。」
―あ…小さいハクだ…!―
テウの戦い方にシンアはハクを重ねていたのだった。
「ヘンデ、遊んでないで働けよ!」
「ヘンデにおまかせー」
テウとヘンデはそのまま戦場に戻った。ユンは人々を避難させる為葛藤していた。
「落ちついて。今のうちに逃げるんだ。」
「殺される…は…働かなきゃ…」
「待って!バラバラにならないで!」
―ここの人達は普通の精神状態じゃない…俺だけじゃ止められないよ…!―
「貴様ら!誰が逃げていいと言った。」
兵がユンに切りかかり身の危険を感じた途端、血しぶきが舞った。
兵が背後から槍で切られたのだ。
彼を切ったのはムンドク。彼は易々と周囲の兵を倒していく。
―すごい…―
「大丈夫か、ボウズ。」
「う、うん。」
―リリを助けに来た人かな…でも何か水の部族って感じじゃない…
リリを助けに来た人なら言わなきゃ、ここにはいないって…!―
「壁沿いに歩いた先に脱出口がある。そこから逃げなさい。そこには清浄な水もある。」
「ありがとう!あ、あの…」
ユンはムンドクにリリがここにいない事を告げようとする。
「すまんな。生憎ワシは水は持っておらんのじゃが、飴をあげよう。」
「あ、ありがと…」
袋に入った飴をユンは押し付けられ頭をわしゃわしゃ撫でられる。
「こんな所に来て辛かったじゃろうに皆を守ろうと…ボウズは偉いな。」
「あ…ううん。あ、あのねっ!」
その時ドォンと大きな音が響いて聞こえてきた。
「何じゃ!?おのれ…火薬を使いおるか。ボウズ生きろ。」
「あっ、ちょっと!」
音がする方へユンの制止を聞きもせずムンドクは走って行ってしまった。
「あの爆発…もしかしなくても…」
ユンの想像通り火薬を爆発させて処理しているのはハク。
「火薬など邪道なもん、持ち出しおって。」
―あそこか…―
火薬の爆発によって起こった煙の中に見えた人影にムンドクは槍を振るった。
「そこじゃあぁ!」
その瞬間、ちょうど火をつけた火薬を投げようとしたハクとムンドクが目を見開いたまま対峙した。
2人の間で火薬が爆発してムンドクは倒れる。
―…………今…なんか一瞬…ジジイの幻が見えたような…
いや、ないない…それはない…
早いとここの火薬球を砦にぶち込んで壊しちまおう―
「長老っ…長老!!やられちゃったの、長老っ!?」
「ハ…ハク…ハクが…」
倒れたムンドクをヘンデが抱き起こす。
「駄目っ三途の川は渡るな。駄目絶対!!
ハク様が向こうから呼んでてもまだ逝かないでーっ!!」
するとヘンデの前でユラッと煙の向こうの人影が揺れた。
「あいつか…老人相手に火薬なんか使いやがって…
長老の弔い合戦じゃああああ!!!」
「生きてるつもりじゃ…」
槍を持って走り出すヘンデの背中に向けてムンドクが倒れたまま生きている事を主張する。
そしてヘンデが煙の中で会ったのはハクだった。
目を見開きつつもヘンデはすぐに反応して火薬を槍で弾いた。
流石風の部族一素早い男…反応が早かった為ムンドクの二の舞にはならなかったようだ。
「ハク…さま…?」
「ヘンデ…か…?」
ムンドクも頭を抱えながら立ち上がった。
「…ハ、ハク…」
「…ジジイ…?」
そしてハクはボロボロのムンドクを見て純粋に尋ねる。
「誰にやられた?」
「お前じゃ。」
「え…本物?」
「本物だよぉーってかこっちの台詞だよぉー」
「お前らなんで…」
「それもこっちの台詞だよぉー」
ヘンデはハクにしがみついてとても嬉しそう。
「何やってんだよ。わけわかんねーな。」
「みんな俺の台詞だよぉー
だってだってちょびーーーっとちょびーーーっとだけね。
もしかしたら死んでるかなー?って思ってて。」
「死んでねーよ。」
「あっ、いた!長老!ヘンデ!何やってんだよ!!まだ終わってねーぞ!」
そこにテウが駆け寄って来た。
「テウ!見て見て。ハク様!ハク様生きてたー」
「………………………………は?」
「なー、わけわかんないよなー」
「………………は?」
「俺もわかんないー」
「…………は?」
「“は?”はもう飽きたー他はないのかよ、テウ将軍ー」
ハクを見つめて驚きすぎたテウは茫然と立ち尽くしヘンデにツッコまれる始末。
「……ハクさま…」
ついにヘンデは泣き出し、それを見たテウも泣きそうになる。
2人はぐっと堪えて俯くのだが、ハクはどうしていいか分からず2人を見つめるだけ。
「ハク、姫様はどこじゃ。」
ムンドクの言葉にハクは現状を簡単に説明し始めるのだった。
「ヨナ…」
「リリ…!」
「何これ…私達どうしたの…?」
「わからない。馬車の中…みたい。」
「降りろ。」
肩にアオを乗せたヨナはリリと共に馬車を降ろされた。
そこでは兵によって命じられるままに働く多くの人々がいた。
斉国に連れて来られた人々は鞭を振るわれて逆らえば殺され、奴隷として砦を造らされることになると言う。
「これは何の砦なの?」
「黙れ。問う事は許されない。お前らは何も考えず働けばいい。仕事さえすれば帰してやる。」
「…」
宿にいたヨナとリリがここに連れて来られたのはある人物の仕業…
その人物も近くにいてリリは彼女に駆け寄って行った。
「ツバル!お前も連れて来られたの?大丈夫?」
「リリ!その人から離れて。」
「…ヨナ?」
「ツバル…あなた何者?なぜ私とリリを斉国に連れて来たの?」
「ツバル…」
「そんな大層な身分ではないわ、お嬢さん。
申し遅れました、リリ様。私斉国で商人をやっているんです。」
「商人…」
「リリ様お探しの…ね。」
「麻薬商人!?」
「近頃貴女が麻薬を取り締まっているせいで商売が滞ってましてね。邪魔だったんですよ。」
「じゃあ息子が行方不明っていうのは…」
「そう言えばあなたを誘き寄せるでしょう?
そして祭の中騒ぎの種を一つずつ蒔いて、混乱に乗じて人間を回収。お陰で大漁。計画は上々でした。」
「ツバル!!!」
「そこ!大人しくしろ。」
「リリ!!」
鞭を振り上げる兵からヨナはリリを庇い何度も叩かれる。
それでも強い眼差しで兵を睨み返した。
「っ…」
「せっかく無傷で連れて来たんですよ、その辺で。」
「…い、いいだろう。」
荷物を回収された事でヨナの荷物、短剣…そしてスウォンから貰った簪も取り上げられた。
リリは泣きながらヨナに何度も謝った。
「ヨナ…ごめんなさい。やっぱり巻き込むんじゃなかった。まさかツバルが…」
「泣かないで、リリ。私は大丈夫。
寧ろこれは好機かもしれない。私達の目的は何?」
「…斉国からの麻薬の流通を潰すこと…」
「そう。ここはかなり重要な拠点だと思う。
しばらく耐えて彼らの目的を探ろう。」
「ヨナ…あんた…さっき撃たれたばかりで…やっぱりあんたは強いわ。」
「リリが居てくれるからよ。」
その後、彼女らは他の人々と共に仕事を始めた。
ヨナは鞭で叩かれた所を痛めていて、周囲の人々も腕の骨を折っていたり病気だったり…
兵は仕方なく薬と銘打って人々に飲み物を与える。
だがそれは麻薬…ナダイだった。
「麻薬はごく少量なら薬にもなる。斉国では合法なの。」
「麻薬が合法!?」
「麻薬でボロボロになってゆく人をたくさん見たわ。麻薬を使って働かせるなんて…」
「それは使い方が悪かったんでしょう。
ま、ここでそれをどれだけ飲むかは自己責任だけど。」
「飲むわけないでしょ、こんな…」
「ご勝手に。でも…ここでは水の代わりにそれを出すの。
こんなカラカラの場所でいつまで耐えられるかしらね。」
それから2日間…ヨナとリリは何も飲まずに働かされた。
麻薬を飲み過ぎた者は処分される。
渇きによってふらついたリリは兵によって無理矢理麻薬を飲まされそうになって、顔に麻薬を浴びる。
口に入った少量の麻薬を吐き出すとリリは怒りに震えた。
「リリ…」
「平気よ。ヨナ…私…腹が立って腹が立って仕方がない。
こんな…人の尊厳を踏みにじるような卑劣極まりない場所許されないし、許されるなんて思わせたくもない。
でも…一番腹が立つのは水が…欲しくて欲しくて何でもいいから少しくらいならって…
あの酒をみっともなく奪って飲んでしまいそうになった私よ…!
たとえ干からびたって屈服しないって思ってたのに、冷たい水の感触にあっという間に折れそうになるなんて…怖い…怖いよ…」
「リリ…リリはみっともなくなんかない。何も間違ってないよ。」
夜になるとヨナはリリの為に水を探すべく寝床を出た。
ただ彼女がいないことに気付いたリリが外を歩いていると兵に見つかってしまった。
殴りかかってくる兵に向けてリリが石を投げると剣を向けられた。
そんな兵をヨナが背後から木材で殴りつけるが、木材は兵の剣で斬られてしまう。
ヨナが危ないと思ったリリは近くにあった陶器の破片を兵の首に突き刺した。
それによって兵は死に、ヨナとリリは逃げ出した。
「リリ行こう。脱出するの、今なら見張りも少ない。」
「え…」
「このままでは私達、殺されてしまう。」
砦の建設現場を逃げ出してヨナは少しでも遠くへ向かおうとしていた。ただリリにはつらい道のりだった。
「リリ、大丈夫?」
「…へい…き…」
「少し休もう。」
木の根元に並んで座ると休み始め、アオは木から実を採って来てくれた。
「ありがとう、アオ。何の実だろ、毒ではない…かな?少しでも水分摂れれば…」
「ヨナ…わ、私…人を…刺…」
「リリ…リリが助けてくれなかったら私はきっと死んでたわ。今は忘れて眠って…」
自分の隣で身を小さくして眠ったリリをヨナはただ見つめていた。
―リリみたいな子に武器を持たせたりしない世がくればいい…
ハク…リン…みんな…心配してるだろうな…会いたい…―
そうして彼女もアオを撫でながら眠りに就いたのだった。
祭りの騒ぎの中で人を攫おうとしていた男達をシンアが捕らえ、私達はヨナやリリの身を案じて急いで宿に戻った。
『姫様…』
「くっ…」
そこにはヨナもリリもおらず、ツバルと呼ばれた女性も姿を消していた。
テーブルには睡眠薬入りのお茶が入っていたであろう湯呑が転がっていた。
『睡眠薬か…』
私とハクは並んで立つと誰もいなくなった室内を睨み付けた。
そのとき背後から物音がして私達は揃って振り返る。
「ハク、リン。おいで。ヨナちゃん達の消息がわかりそうだ。」
ジェハが呼びに来て私達が向かった先ではシンアが捕らえた人攫いの男達が縄で縛られていた。
アユラとテトラも駆けつけて来ていてこれからの事について考え始めていた。
「ヨナとリリが斉国に?」
「ああ、こいつらが言うにはヨナちゃん達は宿の女将ツバルによって斉国に送られたと。」
『ツバル…』
「ツバルが斉国の麻薬商人だったなんて。」
「麻薬調査をしているリリ様が邪魔で今回の祭で騒ぎを起こし連れ去る計画だったみたいです。」
「あの事故の中、行方不明者も多数出ている。」
『一部の人攫いはシンアが捕らえて…今目の前にいるけどね…』
「…それで姫さんとリリの居場所は?」
「斉国では今…国境近くに砦を築く為人を集めている。
攫った人間はまずそこに連れて行かれるだろう。」
捕らわれた男のうち一人が渋々説明を始めた。
「ヨナちゃん達はそこで砦を造らされてるわけだね?」
「それなら殺される事はありませんわよね?」
「大人しくしてればな…」
「大人しくしてるかな…」
ユンは不安気な表情をするが、私は彼の頭にそっと手を乗せながら同意を示しつつ何も言わなかった。
『砦建設の目的は?』
「知らねェよ。」
男の返答の瞬間、ハクが男の足に自分の足を乗せた。
私も彼の隣で男の後ろ手に縛られた手首を握っていた。
「答えねぇと脚をへし折るが、いいか?」
『それとも手首を砕いて今後一切何も握れないようにしてあげましょうか?』
私達の暗い声と殺気の込められた目に男は怯えたように叫んだ。
「とっ…と、砦の目的は防衛と水の部族への攻撃…っ!!」
「水の部族へ…!?」
「斉国は戦を仕掛ける気か?」
「王家や貴族の考えまではわからねぇ…俺らは雇われて人攫いしてるだけなんでね。」
「とにかくその砦に行って助けなきゃ。」
「えぇ。」
「言い忘れたが…砦を築く労働者には水の代わりに酒を与えるんだ。麻薬入りの酒をな。
早くしねェと嬢ちゃん達…麻薬漬けにされちまうぞ。」
その言葉にアユラとテトラは目を見開き、私達は眉間に皺を寄せた。
「可哀想にたかが貴族の娘の分際で妙な正義の味方を気取るからこんな事に…」
その瞬間、テトラの拳とアユラの短刀が男の顔の両側に突き付けられた。
「…ただの貴族の娘ではございません。
リリ様は水の部族長アン・ジュンギ様最愛のお嬢様でいらっしゃいます。」
「部族長…の娘…っ」
「覚悟なさって?ジュンギ様と水の部族は決してツバルを…あなた方を許さない。」
「穏やかな水は津波となってあなた達を飲み込む。」
それに続くようにキジャが龍の右手を構え、私も爪を出して男の前に仲間を従えて立った。
「君達は龍の逆鱗を知っているかい?」
『触れた時点で生きて戻れるとは思わない事ね。』
「姫様に何かあれば如何なる国でも焦土にする事厭わぬぞ。」
男達はとんでもない相手を敵に回してしまった、と冷汗を流すのだった。
男を脅して砦の場所を聞き出した結果、2ヶ所に分かれている事が判明した。
「えっ、砦は2か所ありますの?」
「うん。ヨナ達がどっちの砦に送られたかわからないから二手に分かれて潜入する事にした。」
ハク・ユン・キジャ・シンア組と私・ジェハ・ゼノ・アユラ組に分かれた。
「どちらかがヨナちゃん達を助け出し、機会を見てその砦をぶっ壊す。それでいいね?」
『テトラはここで待機してて。』
「私もご一緒したいのですけど。」
「大丈夫よ。あんたさっきの拳かなり調子取り戻してたから。」
「いつでも出動出来るように鍛えとくわ。…アユラ、リリ様をお願い。」
「…わかってる、命にかえても。」
アユラとテトラは手を取り合ってリリを思う。
「ユン君、細かい事はこっちも臨機応変でいくけど暴走しすぎた時は手綱よろしくね。」
『特にキジャとかね…』
「…頑張る。」
「ハク…彼女なら絶対に大丈夫だよ。」
ジェハの言葉にハクは何も返さない。私はそんなハクの服の裾を掴んで引き留めた。
「リン…」
『ハク…何かあったら空に向かって私を呼んで…』
「わかった…お前と別行動なんて珍しいな。」
『そっちにはシンアがいる。何かあれば私達を見つけられるでしょう?
私は気配を追えるし、遠くにいても声が分かる。
姫様を見つけるのにも私とシンアが分かれた方がいい。そうでしょ?』
「あぁ…それに戦力的に考えてもお前はタレ目やゼノと行くべきだろ…」
『…また後で。』
「…その時は姫さんも一緒だ。」
『うん…!』
「じゃあ行こう。ゼノ君、アユラちゃん。」
「ご武運を。」
「リン!行くよ。」
『うん!!』
私とハクは頷き合うとそれぞれ行動を開始した。
ハクは胸元にあるヨナから貰った首飾りを握り締めると心を落ち着け駆け出した。
暫くして残されたテトラが兵から行方不明者や残党に関する報告を受けているとジュンギがやってきた。
―なぜ…?どうして今ここにジュンギ様が…!?―
彼に向けて膝をつき頭を下げた彼女に対してジュンギは静かに問いかける。
「私は斉国の調査で灯水町(ここ)に来たのだが、なぜ君がここにいる?
聞けば昨夜ここで事故があったらしいな。答えなさい、あの子は…リリはどこだ?」
テトラは考えた、ここで正直にリリの居場所を言えばヨナや私達の居場所まで知られてしまう、と。
すると迷っていた彼女を助ける為、ラマルという兵が口を開いた。
「申し上げます、リリ様は昨夜事故に巻き込まれ斉国に誘拐されました!!」
「…それで?」
「…申し訳ありません!!私の不徳の致すところで…」
「私は謝罪を要求しているのではない。」
「…アユラが今リリ様をお救いする為、斉国に潜入を。」
「アユラだけでか?」
「……はい。」
「リリ様がどうされました?」
そこに突然柔らかくとも凛とした声が聞こえてきた。
ジュンギの後ろに立っていたのは外套を羽織り顔がわからない青年と彼の後ろに控えた武人だった。
「お耳に入れる程の事ではございません。」
「水の部族長のご息女が他国に攫われた事がですか?随分大事な気がしますが…
今日は斉国の砦の調査に来たのですが、それと関係しているのでは?話して下さい。」
「は…はい。」
ヨナや私達の事を省いて説明を終えたテトラの前で青年達は考え込む。
「軍事目的で造られている砦はいずれ取り除くつもりでいましたが…
リリ様が麻薬を飲まされているかもしれないとなると一刻を争いますね。
うーん…仕方ない。乗り込みますか、斉国に。」
「陛下!!」
―陛下!?―
「一体何を言いだすんですか!?
一国の王が他国に少人数で乗り込むなど!!
無事で済むと思ってるんですか!?」
「しかし、ジュド将軍…」
「お転婆も大概にして下さい!!」
「ジュド将軍面白いなあ。」
テトラは漸く彼らの正体がスウォン陛下と空の部族のジュド将軍だと気付いたようだった。
―もしかしなくてもこの方とヨナ様やハク様…リン様を会わせてはならないのでは…?
でも陛下が手を貸して下さるのなら、リリ様をお助けするのにこんなに心強いことはない…!!!―
テトラの葛藤を他所にスウォンは一つの提案を口にしたのだった。
地の部族グンテ将軍、そして風の部族ムンドクに応援を頼むように…と。
二手に分かれた私達もそれぞれ目的地に潜入する事が出来ていた。
ハク達は奴隷として捕らわれる形で入り込み、私達はジェハの脚ですっと砦建設場の物陰に入り込んだのだ。
キジャは木材を運びながら倒れた男性の前に立って鞭を振るおうとする兵を角材で殴った。
「とっとと働け…ぐおふっ!」
「すまぬ、ぶつかったか。」
「貴様…っ」
「周囲には気をつけるがよい。そなた大丈夫か。その荷、私が持とう。」
「えっ…」
「勝手な事をするな!」
「問題なかろう。私がこの者の分まで運ぶと言っておるのだ。」
「い、言う事を聞けえっ!!」
兵が振るった鞭は仮面を外し目を布で覆ったシンアが片手で止めた。
「なっ…」
「シンア!手は大丈夫か?」
するとシンアは小さく頷いた。倒れた男性にはユンが駆け寄った。
「大丈夫?足が折れてる。これは痛いね。休まないと…」
「貴様ら!何をしている。勝手な行動は厳罰に処す。動けないのなら酒を飲め!」
「勝手なのはどっちだよ。強制的に連れて来て怪しげな酒飲ませて。
そういう事はあんたも足が折れて同じ目に遭って、一声も上げられなくなってから言いなよ。」
生意気なユンに鞭を振るおうとした兵は喉元を掴まれハクに持ち上げられた。
「ななな…降ろせぇ!」
「ああ、すみませんね。荷物と間違えて持ち上げちまった。」
「き、貴様ら!奴隷の分際で反抗的な態度を…」
「反抗的…?心外ですね。こんなに働いてるのに?」
ハク、キジャ、シンアは木材や石材などを抱えて尻もちをついた兵を見下ろし、再び作業に戻った。
「何だ、あいつらは。」
「昨夜高華国から連れて来た奴隷です。」
「どこの屈強の戦士連れて来たんだよ。
あんなに生命力に溢れた奴隷がいるか!?」
「捕えた時は大人しかったんですが…
本当に仕事量は凄いので困った事にお役立ちなんです!!」
「ぐぬ…とにかく出しゃばったマネはさせるな。他の奴に影響する。」
「はっ!」
武器を取り上げられた彼らは作業の途中に物陰に隠れて話し合う。
「シンア、どうだ?」
「ヨナ…ここにはいない。」
「周りの人にも聞いてみたけど、ヨナやリリらしき女の子は見てないらしいよ。」
「となるとジェハ達の向かった砦に姫様とリリが。」
「おそらくね。もしヨナと合流したら何らかの方法で伝えるってジェハとリンが言ってたからもう少し待ってみよう。
この砦の破壊はヨナ達の無事を確認してからだね。」
「破壊は任せよ。この様な腐った場所廃墟にしてくれる。」
ハクは一言も話さないまま一点を見つめたまま動かない。
「ハク、案ずるな。リンやジェハ、ゼノなら必ず姫様をお救いする。」
「…わかってる。あいつらに任せる。」
するとハクの様子にキジャは嬉しそうに微笑んだ。
「…何だよ。」
「そなたが動揺しているようなのでな。
そのような時にリンだけでなくジェハやゼノを信頼してくれて嬉しいぞ。」
「俺が動揺…」
「雷獣って動揺すると黙るよね。」
ユンの言葉にハクは顔を背け苦い表情をする。
「雷獣が動揺するとキジャって逆に落ちつくんだね。
今日は久々にキジャが雷獣より年上だって事思い出したよ。」
「私の事は兄と呼ぶが良「うるせー」
―もしもこれが姫さんを守って俺とリンだけが進む旅のままで、頼れる奴がいなかったらと思うとぞっとする…
友を失い、風の部族を離れ、お前らに逢えるとは思わなかった…―
「白蛇、シンア、ユン…」
「ん?」
「…や、何でもね。」
「うむ?」
―今お前らがここに居てくれること…感謝する―
感謝を素直に言えないハクが仲間達と共に作戦通り活動を開始したのと同じ頃、私、ジェハ、ゼノ、アユラも建設現場に到着していた。
倒れそうになった女性をジェハが片手で支える。
「きゃ…」
「おっと。大丈夫?」
「あ…はい。」
ジェハの整った容姿に女性は頬を染める。
彼は女性を連れて物陰に隠れ少し質問をする。
私はゼノと並んで立ち周囲に意識を集中していた。
「可哀想に、こんなにやつれて…
ここに座って。大丈夫、兵士からは死角だ。
一つ聞きたいんだけど、ここで赤い髪の女の子を見なかった?」
「赤い髪…?…あまり覚えてません…ちょっと…お酒を飲みすぎて…」
「いいんだ、無理しないで。近いうちに必ず助けてあげるから。
それまで極力あの酒を飲んではダメだ。」
「え…でも…」
「いいね?」
「は、はい…」
「お~い、緑龍。貴重な青春を邪魔して悪ィがちょっと来い来い。」
女性に優しく絡むジェハをゼノが声を掛ける。
私は目を閉じて気配を追っていたがヨナもリリもいなかった。
「リリ様とヨナ様らしき少女の目撃情報はいくつか入手しました。」
「じゃあ、彼女らはここに?」
『正しくは“居た”…かな。気配は感じられなかったわ。』
「同室で寝てた子に聞いたから朝になったら2人共いなくなってたって。」
「いなくなって…?」
「ここで逆らう者は処分…リリ様達は反抗的だったから殺されたのではと言う者も…」
アユラの言葉に私とジェハはすっと立ち上がった。
「…緑龍行けるか?」
「当然。」
「お嬢も行くんだろ?」
『えぇ。』
「えっ…行くとはどちらに?」
「勿論、ヨナちゃん達を探しにね。」
『見つけ出す為には私が気配を追うべきよね。』
「娘さんは生きてるから絶対に。」
「きっとリリちゃんを連れてどこかに逃げたんだ。
あの子がこんな所で大人しく殺されるなんてあってはならない。
探し出してみせるよ、この脚で。」
『私も行く。』
「うん…無理はしちゃいけないけど、気配を追ってくれると助かるよ。…すぐに戻るから待ってて。」
「おー」
「ゼノ様。」
ジェハはアユラと共にゼノをその場に残そうとしたが、アユラはゼノを送り出した。
「行って下さい。私は機会を見てハク様達に状況を伝えます。
私達のリリ様をどうかお願いします。」
「うし!」
ゼノはアユラの頭を撫でた。私とジェハは周囲を見ながら空に舞い上がる機会を探っていた。
すると少し離れた場所でアユラが木材を倒して音を立てて、それを聞きつけた人々が集まって行った。
ジェハは彼女に向けて小さく頷くと私を抱いて地面を蹴った。
ただその瞬間ゼノが駆けて来てジェハの背中に飛びついた。
「『うわっ!?』」
「ゼノ君…突然飛び乗らないでくれるかな。」
「悪ィ悪ィ」
『ビックリした…』
「君が来たらヨナちゃんとリリちゃん抱えて跳べないだろ?」
「大丈夫、ゼノ走るから。」
『私も走るつもりだったから。』
「ゼノの能力も役に立つから、たぶん。」
「君の能力は年の功だけで十分だよ。」
私とゼノを抱いたり負ぶったジェハは空を高く舞いながらヨナ達を探し始めたのだった。
私はジェハにしがみ付いたまま気配を追い続ける…ただ早くヨナを見つけられるように。
同じ頃、スウォンはのんびり灯水の町でお茶を飲んでいた。
話し合いを進めただけで特に何かの行動をしたわけではないのだ。
「…遅い。」
「おいおい、どれだけ馬を飛ばして来たと思ってるんだ。地心は隣町じゃねぇんだぞ。」
ジュドが不機嫌そうに声を掛けたのはグンテだった。
「ご足労お掛けしてすみません。」
「いえ、陛下のお呼びとあらば。ところでどうなんだ状況は、ジュンギ将軍。」
「まだ詳しい事は解っていないよ。まさか君の手を借りる事になるとはね。」
「リリが斉国に誘拐されたんだろ。あんたに“貸しだ”とは言わんよ。
冷静に振る舞っちゃいるが、内心死ぬ程心配してんだろ?
あんなか弱い娘が攫われたんだからよ。」
―か弱い娘…?―
リリの事を知っているスウォンとジュドは目を丸くしている。
リリはか弱いというには少々お転婆だからだ。
「あの…恐れながらグンテ様はリリ様を…」
「おう、これから行って取り戻す。」
「リリ様をお助けするにはジュド将軍が納得するだけの戦力が必要でしたから。」
「当たり前です。王自ら斉国に乗り込もうというんですよ?」
「取り急ぎ腕利きの者ばかり数人連れて来たぞ。」
「地の部族だけでは足りん。」
「あ?」
「もう一組お呼びしてます。」
その言葉に応えるようにやって来たのはヘンデとテウを従えたムンドクだった。
「こいつは驚いた。」
「風の部族、召集に従い参上致しました。」
「よく来て下さいました。」
ムンドク達が頭を下げるとスウォンは優しく感謝を口にする。
「まさか貴方が来られるとは。」
「ジュンギの娘が誘拐されたとあってはな。
水の部族の麻薬の剣も片付けねばなるまい。
風の部族も微力ながら手を貸そう。」
「格別のお心配りを頂き感謝に堪えません、ムンドク様。」
「これなら問題ありませんよね?ジュド将軍。」
「…良いでしょう。しかし陛下は決して先頭に立たれないように。闘いは我々が…」
「はい。」
空と風と地の将軍、英雄ムンドク、そして国王陛下…恐ろしい程の最強の布陣が集まったのだ。
驚いているテトラの目の前で作戦会議が始まる。
「斉国には現在3人の王がいます。」
「ホツマとクシビ、そしてカザグモ…」
「はい。王座に就いているのはカザグモですが、彼は力が無く実際はカザグモの母クヴァ、叔父のホツマとクシビが政をしていたようです。
クヴァが2か月前亡くなったのです。
これまでは民衆から絶大な支持を誇るクヴァ、軍事力を持つホツマ、経済力を有するクシビ…
三者の利害が一致し協力体制にあったのですが…」
「ホツマとクシビが王座を狙い始めたと…?」
「ええ。ホツマとクシビは競うように砦を造り高華国への侵攻を目論んでいます。
水の部族は麻薬の件で弱りきっていましたから、まずはそこを制圧し、それぞれの名を民に知らしめようと考えたのでしょう。」
「ナメられたもんだ。」
「その通りです、テウ将軍。元より砦は近いうちに取り除く予定でした。」
「…」
「砦はホツマとクシビの権力そのもの。
ここを崩せば双方にかなりの損害を与える事が出来ます。」
「だがまずはリリだな。」
「はい、どちらかの砦に捕らえられているであろうリリ様を救出する事が今回の目的。
風の部族と地の部族の方々は派手に暴れて兵の注意を引きつけて頂きたい。」
「…御意。」
「派手に!いいですね。俺向きの仕事だ。」
ジュンギは目を患っている為後方支援に回るらしい。
「駆けつけたのはジュンギ将軍の為だけではないですよ。」
「え?」
「リリ…いや、リリ様は将来貴方の妃となられる御方ですから。」
「………はい?」
「取り戻したらその勢いで式でも挙げますか!」
「え!?は!?ちょっちょっと待って下さい!」
「陛下も隅に置けませんな。先日は開いてなどいないとはぐらかされましたが、リリとそんなに親密になっていたとは。」
「!!??何の話です、グンテ将軍!?
何か誤解を受けているんですがっどの様な説明を!?」
「無粋な事は申しますまい。」
「意味が分かりませんっ」
「え?ですが我らを召集する程の事態。
これは陛下余程リリに惚れておられるのだろうと。」
「誤解です。」
実はムンドクもグンテと同じ事を思っていた為、少し残念そう。
「なんだぁ。近いうちに世継ぎを拝めると思ったのによぉ。」
「それはいきなり飛びすぎでは…
ともかく明朝、ホツマの砦から行動を開始します。」
彼らが向かう事にしたホツマの砦はハク達が潜入している方の砦だった。
そこではハク、ユン、キジャ、シンアが頭を突き合わせて話し合っていた。
「…ねぇ、ある事に気付いちゃったんだけどさ。」
「何だ?」
「キジャ達の仕事量で働いてるとさ…破壊するはずの砦が完成間近なんだけど。」
「何と!?…では今から少しずつ崩そう。」
「やめなさい、目立つから。」
ユンは歩き出そうとするキジャとシンアを引き留めた。
そんなシンアをハクがそっと呼ぶ。
「シンア、タレ目やリンから合図らしきもん見えたか?」
「…見えたらすぐ知らせる、ハクに。」
一瞬きょとんとしたハクはシンアの肩をポンと叩くと部屋を出て行った。
シンアはその行動の意味が分からず首を傾げた。
「ありがとう、だって。」
ユンに行動の解説をされたハクは外と隔てられた壁の近くに腰を下ろし、胸元に揺れる首飾りを握った。
―ヤベェな…シンアにまで気を遣われている…―
「俺の事より姫さんを守ってくれよ…」
その時近くの壁から人の気配を感じハクは壁に触れた。
「…おい、そこにいるのは誰だ?
俺は高華国の人間だ。ここに見張りはいない。そこで何をしている?」
彼の言葉に返事はなかった。
―聞こえてねぇのか、答えたくねぇのか…ま、いいや…―
その場を離れようとしたハクの背中に声を掛けられた。
「あの…高華国…の方ですか?」
―この…声…この声は…!!―
「夜分に…この様な所からすみません。少し…良いですか?」
―どうしてこんな所に…どうして!!お前が…ここにいる!!?スウォン…!!―
ハクは足を止めたが怒りで震え始めていた。
殺気が溢れてしまっているが、暴れる事は抑えているようだ。
「…あの…もしもし?居ますか…?」
「…」
「…えっとですね。そちらに連れて来られた人の中に長い黒髪の…リリという17歳の女性を見かけませんでしたか?」
ハクは怒りを抑えようと壁にガリッと詰めを立て、血が壁を汚す。
「…いません…か?…あなたしかいないのであなたにお伝えします。
私達は早朝ここから砦を壊し、そちらに侵入します。
その時…そちらに囚えられた人に被害がないよう避難させておいて頂きたい。
あなたが手を貸して下さったら怪我人を出さず速やかに人々を助け出す事が出来ます。…お願い…出来ますか…?」
ハクが返事をしない為、壁の向こうにいるスウォンはその場を去ろうとしていた。
「……暁に…合図する。」
「……ありがとう…ございます。」
ハクは悔しそうでありながらも自分のすべき事を考えて返答するとその場を去った。すると彼を探しに来たユンと合流した。
「雷獣…!どこ行ってたの。」
「…夜明けにこの砦を破壊するぞ。」
「ええっ!?ちょっと…」
「いよいよか。」
そこにキジャが駆けつけて来たがハクの顔色の変化に気付いた。
「…何があった?」
「……別になんもねぇよ。」
「ハク!私が必要になったら呼べ。」
ハクは血の滲んだ指先…手で顔を覆った。
―リン…俺は…―
彼は隣にいない相棒である私を迷う心で呼びながら穏やかではない心のまま夜明けを迎える事になった。
壁の向こうにいたスウォンも空を見上げて気付いたようだった…壁の向こうにいた人物がハクなのだと。
「夜明けだ…」
「白蛇、こっちだ。」
「うむ。」
早朝にハクとユンが話しているとキジャが大きな石の玉を持って合流した。
その場にシンアがいない事にユンが首を傾げる。
「シンアは?」
「取り上げられた武器を探しに行ってる。
ユン、奴隷達を安全な場所へ誘導しろ。
砦の向こうにリリを奪還しに来た奴らがいる。」
「えっ、誰!?あっ、水の部族長…!?」
「…かもな。」
ハクはそれ以上言わずに砦の向こうを見た。
―壁の向こうにあいつがいる…ここをぶち破ったらあいつが…!―
鼓動が大きくなり暴れそうなハクを引き留めるように頭の中でヨナが彼を呼んだ。
それだけで彼の目が少しだけ優しくなった。
「陛下、準備整いました。いつでも行けますよ。」
「もう少し待って下さい。合図がきます。」
壁を挟んだ反対側でスウォンも待機していた。
ハク達が行動を開始した事で兵達がガヤガヤとやって来た。
「貴様らぁっ」
「何をしている!?」
「白蛇。」
「うむ。」
ハクの合図で抛石機(ほうせきき)にキジャが大きな石の玉を落とした。石は砦にぶつかり派手に破壊された。
これには壁の向こうにいるスウォン、ムンドク、グンテ、ジュドも驚いた様だった。
「派手な合図だなぁ、ハク…」
兵も茫然と大きな穴が開いた砦の壁を見つめるばかり…
「なんて事だ…」
「砦を壊しやがった…!!」
「兵を集めろ!反逆者を殺せ!!」
暴れる兵達とは反してハクやキジャは冷静だった。
「白蛇、抛石機を全て壊せ。これを水の部族領に向けられねぇように。」
「そなたは?」
「俺は火薬を処分してくる。」
「心得た。」
キジャは龍の右手を構え、ハクはこれから入って来るであろうスウォン達に背中を向けた。
―今俺がすべき事はいち早くここをぶっ壊して姫さんとリリを助け出す事だ…!―
「向こうに協力者がいたとは聞いていませんが。」
「…すみません。向こうがどう来るか分からなかったもので。」
「…」
壁の向こうでスウォンとジュドが話し合っていた。
そんな彼らの前を颯爽と進み出て砦の壁の穴を通ろうとしたのはムンドクとグンテ…そしてテウやヘンデだった。彼らの睨みに兵は足を竦めた。
「侵入者だぁっ!!」
「暴れるぞ、ついて来い。」
「はいっ♡♡グンテ様!!」
グンテの後ろについてくる地の部族は頬を染めながら戦闘態勢に入る。
「長老~先日やった腰がまだ痛いんじゃないの?」
「やかまし。」
「陛下はここでお待ち下さい。」
グンテの剣とムンドクの槍が兵を襲い、ジュドはスウォンを庇うように一歩前に出た。
ちなみにスウォンの後ろにはテトラの姿もある。
「つ…強ぇ…」
「何者だ!?」
「まさかあなたの勇姿が拝めるとは。」
「こんなもんお遊戯じゃ。」
兵達の中央でグンテとムンドクが背中合わせに立つ。
「ほう…まだまだ現役って事ですか。」
「阿呆、ワシのようなヨボヨボジジイに後れを取るようなら…前世からやり直せいっ!!」
「風の部族のヨボヨボの基準よ…」
呆れながらもグンテも戦闘に参加したのだった。
その頃訓練場から多くの兵が出て来たのを武器を見つけたシンアも追いかけ戦場に足を踏み入れていた。
彼に襲い掛かろうとした兵に飛び掛かったのは槍を振るう青年だった。
脚を止めた青年はシンアに目を向ける。
「…あんた武器持ってるけどここの兵士じゃねぇよな?」
シンアはただコクリと頷くだけ。
「じゃあ、高華国から連れて来られた人?」
「武器…は取り返した。」
「そっかすげェな。」
―似てる…誰かに…―
「俺達今からここぶっ壊すから上手く逃げろよ。」
―あ…小さいハクだ…!―
テウの戦い方にシンアはハクを重ねていたのだった。
「ヘンデ、遊んでないで働けよ!」
「ヘンデにおまかせー」
テウとヘンデはそのまま戦場に戻った。ユンは人々を避難させる為葛藤していた。
「落ちついて。今のうちに逃げるんだ。」
「殺される…は…働かなきゃ…」
「待って!バラバラにならないで!」
―ここの人達は普通の精神状態じゃない…俺だけじゃ止められないよ…!―
「貴様ら!誰が逃げていいと言った。」
兵がユンに切りかかり身の危険を感じた途端、血しぶきが舞った。
兵が背後から槍で切られたのだ。
彼を切ったのはムンドク。彼は易々と周囲の兵を倒していく。
―すごい…―
「大丈夫か、ボウズ。」
「う、うん。」
―リリを助けに来た人かな…でも何か水の部族って感じじゃない…
リリを助けに来た人なら言わなきゃ、ここにはいないって…!―
「壁沿いに歩いた先に脱出口がある。そこから逃げなさい。そこには清浄な水もある。」
「ありがとう!あ、あの…」
ユンはムンドクにリリがここにいない事を告げようとする。
「すまんな。生憎ワシは水は持っておらんのじゃが、飴をあげよう。」
「あ、ありがと…」
袋に入った飴をユンは押し付けられ頭をわしゃわしゃ撫でられる。
「こんな所に来て辛かったじゃろうに皆を守ろうと…ボウズは偉いな。」
「あ…ううん。あ、あのねっ!」
その時ドォンと大きな音が響いて聞こえてきた。
「何じゃ!?おのれ…火薬を使いおるか。ボウズ生きろ。」
「あっ、ちょっと!」
音がする方へユンの制止を聞きもせずムンドクは走って行ってしまった。
「あの爆発…もしかしなくても…」
ユンの想像通り火薬を爆発させて処理しているのはハク。
「火薬など邪道なもん、持ち出しおって。」
―あそこか…―
火薬の爆発によって起こった煙の中に見えた人影にムンドクは槍を振るった。
「そこじゃあぁ!」
その瞬間、ちょうど火をつけた火薬を投げようとしたハクとムンドクが目を見開いたまま対峙した。
2人の間で火薬が爆発してムンドクは倒れる。
―…………今…なんか一瞬…ジジイの幻が見えたような…
いや、ないない…それはない…
早いとここの火薬球を砦にぶち込んで壊しちまおう―
「長老っ…長老!!やられちゃったの、長老っ!?」
「ハ…ハク…ハクが…」
倒れたムンドクをヘンデが抱き起こす。
「駄目っ三途の川は渡るな。駄目絶対!!
ハク様が向こうから呼んでてもまだ逝かないでーっ!!」
するとヘンデの前でユラッと煙の向こうの人影が揺れた。
「あいつか…老人相手に火薬なんか使いやがって…
長老の弔い合戦じゃああああ!!!」
「生きてるつもりじゃ…」
槍を持って走り出すヘンデの背中に向けてムンドクが倒れたまま生きている事を主張する。
そしてヘンデが煙の中で会ったのはハクだった。
目を見開きつつもヘンデはすぐに反応して火薬を槍で弾いた。
流石風の部族一素早い男…反応が早かった為ムンドクの二の舞にはならなかったようだ。
「ハク…さま…?」
「ヘンデ…か…?」
ムンドクも頭を抱えながら立ち上がった。
「…ハ、ハク…」
「…ジジイ…?」
そしてハクはボロボロのムンドクを見て純粋に尋ねる。
「誰にやられた?」
「お前じゃ。」
「え…本物?」
「本物だよぉーってかこっちの台詞だよぉー」
「お前らなんで…」
「それもこっちの台詞だよぉー」
ヘンデはハクにしがみついてとても嬉しそう。
「何やってんだよ。わけわかんねーな。」
「みんな俺の台詞だよぉー
だってだってちょびーーーっとちょびーーーっとだけね。
もしかしたら死んでるかなー?って思ってて。」
「死んでねーよ。」
「あっ、いた!長老!ヘンデ!何やってんだよ!!まだ終わってねーぞ!」
そこにテウが駆け寄って来た。
「テウ!見て見て。ハク様!ハク様生きてたー」
「………………………………は?」
「なー、わけわかんないよなー」
「………………は?」
「俺もわかんないー」
「…………は?」
「“は?”はもう飽きたー他はないのかよ、テウ将軍ー」
ハクを見つめて驚きすぎたテウは茫然と立ち尽くしヘンデにツッコまれる始末。
「……ハクさま…」
ついにヘンデは泣き出し、それを見たテウも泣きそうになる。
2人はぐっと堪えて俯くのだが、ハクはどうしていいか分からず2人を見つめるだけ。
「ハク、姫様はどこじゃ。」
ムンドクの言葉にハクは現状を簡単に説明し始めるのだった。