主人公はハクの相棒でヨナの護衛。国内でも有名な美人剣士。
金州・斉国
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旅の途中のある夜、私とジェハは仲間達が眠る天幕から離れた場所にある木に登ると星空を眺めていた。
ジェハは幹に凭れて座っていて私を自分の脚の間に抱いていた。
私はふとジェハのいつも隠されている右足を撫でた。
「リン?」
『あ、ごめん…』
彼は自分の右足の見た目を好んでいないため、包帯で巻いて滅多に靴を脱がない。
「見たい?」
『え…でも…』
「温泉に行った時にも見せてたし、見た目はあまり好きではないけど能力は気に入ってるからね♡」
ジェハは靴を脱ぐと緑色の鱗で覆われた右脚を見せてくれた。
私はその脚を撫でて感嘆の声を上げる。
『凄い…』
「お世辞にも綺麗とは言えないけどね。」
『ううん…緑龍の名に相応しい…いつもこの脚に守られてるの…』
「…そう言って貰えるならこの脚も嫌ではないかもね。」
ジェハは自分の脚を撫でる私の手を握りながら空を見上げたまま昔の事を思い出していた。
「リン…」
『ん?』
「つまらないかもしれないけど、僕の昔話に付き合ってくれないかな。」
私は目を丸くすると彼の胸に凭れかかって彼を見上げた。
『聞かせて…ジェハの事、もっと知りたい。』
彼は自分の脚を包帯で巻くと靴を履いてから私を抱き締めて、私の首筋に顔を埋めると甘い香りを吸い込んで心を落ち着けた。
「…これは今から13年前のこと。
緑龍の里の人は長い年月をかけて流浪しながら緑龍の能力をひっそりと隠しその力が外部に漏れないよう生き続けていたんだ。」
私は初めて彼の口から伝えられる彼自身の過去に静かに耳を澄ませた。
「先代の名前はガロウ…彼の役目は里で12歳のガキ…僕を追いかけることだった。」
彼は懐かしそうにでもどこか寂しそうに話してくれた…
「ジェハがまた空に…!!」
村人の声にガロウは飛び出しまだ完全に龍の力を持っている訳ではないジェハを捕まえると村から少し離れた場所にある石造りの小屋にジェハを繋いだ。
彼の両手両足には枷があり鎖で壁に繋がれている。
「ねぇ、先代様(あんた)。いつ死ぬの?」
「酷ェな。俺に死ねって言うのか、ジェハ。
お前が生まれたせいで俺の寿命減ってんのにずいぶんだなァ…」
「減ってる?新しい緑龍が生まれたら普通3~4年で先代は死ぬんだろ!?
僕はもう12だよ。いい加減隠居してくれないかな。
僕が鎖を断ち切り空へ跳んでも、あんたがやって来て僕を地面へ引きずり下ろす。
もう何年も!何度でも!!あんたさえいなくなれば僕は自由だ!」
ジェハの右脚の蹴りをガロウも右脚で難なく受け止める。
「自由…?」
「うわっ」
ガロウはジェハの右脚の靴を奪ってその脚を見せつけた。
それによってバランスを崩したジェハは冷たい床に倒れ込む。
「頭が悪いなァ。こんな脚で外の人間に受け入れて貰える訳ねーだろ。
こんな…緑色の鱗が生えた気味の悪い化け物の脚で!!
里人でさえ病気か何かのように扱う。外に出たってお前に居場所なんて無いんだよ、バーカ。」
「ここにあるのはこの牢獄だけだろ。」
「知るかよ、お前の不幸なんか。」
「あんただって僕が生まれるまで足枷を付けられてたんだろ?外に出たいとは思わなかったの?」
「……お前をいじめるのが俺の余生100年の楽しみなんだよ。せいぜい苦しめ。」
「くっ…」
ジェハは手枷を引っ張ったがただ彼の手首が傷つき血が流れるだけだった。
ガロウはジェハを捉える事で食糧を長老から貰っているようだった。
受け取った食糧を持って自分の家へ戻ろうとした時、彼の脚から突然力が抜けた。
―重い…龍の脚に力が入らねぇ…まさか…―
その夜、ガロウは牢獄で眠るジェハのもとへ行った。
―俺は死ぬのか…?こいつに力を命を吸い取られて…
誰が長生きだって?俺はまだ生きたい…死にたくない…!―
「ん…誰…?」
ジェハの問いに返って来たのはガロウの拳だった。
狂ったようにガロウは無抵抗なジェハを何度も殴ったのだ。
そしてボロボロになったジェハの顔を見て正気に戻った。
「あ…ぁあ…あ…」
―俺は…俺はクズか…―
ジェハはガロウを責めるでもなく壁に凭れて目の前に座り込んでしまったガロウを見つめていた。
「…気が済んだ?」
「こ…これ位で済むかよ。殺してやりたいくらいだ。」
「僕…あんたの事嫌いだけど…あんたの叫び声を聞くと心(ココ)がバラバラになりそうだよ。」
ジェハは自分の胸を苦しそうに押さえながら言った。
―やめてくれ…厄介な血だ。
痛みも鼓動も筒抜け…一番知られたくない相手なんだよ…―
「なに言ってんだ、そんな状態で。殴られすぎて変になったのか…?」
ジェハは静かに右脚を振り上げて鎖を粉々に砕いた。
それによって両手両足が解放されたのだ。
―龍の脚の力で簡単に鎖を断ち切った…俺の能力が今全てジェハに…―
「い…行くのか?」
「あんたはもう僕を追って来れない。」
「馬鹿に…するなよ。俺はまだ生き生きしてる。お前を止める位なんでもないっ!!」
ガロウの蹴りをジェハはただ右脚を当てるだけで止めた。
ガロウはそれだけで地面に倒れてしまう。
―そりゃねェよ…12年ももった能力がこんなにも突然無くなるなんてよ…なんだよ…行っちまうのかよ…―
「惨めな奴だと思ってんだろ…俺の事…
心の中では笑ってんだろ、俺の事…」
「あんたは惨めじゃない。」
「綺麗事行ってんじゃねーよ!!」
「だってあんたは長老や里人にどんな扱いを受けても決して龍の力で捻じ伏せようとはしなかっただろ。」
「そ…それは…だってガキの頃から何だかんだ皆には迷惑かけたり世話になったりしたんだよ…
地獄のような毎日だったけど、やっぱり俺にはここしか居場所がねーんだよ。」
ガロウは十五の時一度だけ里から逃げ出した。
雁字搦めの里から抜け出して彼は気付いたのだ、自由になったって特に行きたい場所も会いたい人もいないのだと。
いつか憧れた里に伝わる緋龍王伝説のような王が迎えに来てくれる事もついには無かった。
自分はいらないのか、そう思って全てが空しくなった。
だがそんな時彼は里で新しい緑龍が生まれたと思った。なぜだかそう思ったのだ。
自らの天命が尽きたと絶望し、煮えたぎる想いで緑龍を確認しに里へ戻った。
そして見つけたのが新しい緑龍、ジェハ。
生まれたばかりのジェハの龍の脚はとても小さかった。
それを見てガロウは何故だか涙が零れたのだ。
その日からジェハだけが唯一の話相手だった。
ガロウは扉を開けて去ろうとするジェハの背中を見つめる事しかできずにいた。
―これが…これが俺の最期か…
能力を無くし話し相手も無くして二度と空を舞う事も無い…―
だが俯きかけていたガロウが見た先でジェハは彼を振り返り手を差しだしていた。
「行こう。僕と行こう、ガロウ。空へ…一緒に飛ぼう。」
ガロウは素直になれず泣きそうな顔でジェハに言い返した。
「お前…何言ってんだよ…そんな…俺に殴られたボロッボロの顔でよぉ。
バカじゃねぇの…俺なんか…死にかけの俺なんかを…」
「それは許さん。お前達を外に出す訳にはいかん。」
「長老…」
「言ったはずだ。85年前龍の力が外部に漏れたばかりに力を狙う者達に里人が捕らわれどのような目に遭わされたか。
里の掟だ。逃げ出せばジェハ、お前を射落とす。」
ジェハは少し怯えながら身を引いた。
長老の横で村人達が弓矢を彼に向けて構えていたからだ。
「動くな。大人しくしていれば危害は加えん。」
「うおぉおおおお!!」
その時ジェハの横を通り過ぎたガロウが村人達に飛び掛かって行った。
「よせ!」
「何をする、やめろ!!」
「ジェハ!!」
ガロウは笑いながらジェハを見た。
彼は彼なりにジェハを自由にしてやりたかったのだ。
自分が掴めなかった自由を唯一彼を一瞬だけでも受け入れてくれ共に飛ぼうと言ってくれたジェハに与えようとしたのだ。
「バーカ!!誰がてめェなんかと一緒に行くかよ!!
俺はもうガキの御守は飽き飽きだ。行っちまえ。
一人でとっととどこへでも飛んで行け!!
お前なんか大嫌いだからな。いなくなった方がせいせいするわ!!
二度と帰って来んじゃねーぞ!!バーカ!!」
滝のように涙を流すガロウを見てジェハは零れそうな涙を堪えると背中を向けて空高く跳び上がった。
「くっ…矢が届かない。」
「追えっ」
跳んでいくジェハを見ながらガロウは仰向けに地面に倒れた。
―ほら、お前には矢なんか届かない…どんな奴も敵わない…
どこまでもどこまでも飛んでゆけ…
ああ、目が霞む。ちくしょう、待てよ。
もう少しあいつを見せてくれ…緑の龍神さんよ、長いこと御守してやっただろ?
ジェハのやつをちょっとたのむよ…どうかあいつを護ってやってくれ…―
そして彼は静かに瞼の裏に空を舞うジェハを描きながら眠りに就いたのだった。
ジェハはそこまで話すとふわっと微笑んだ。私の頬には涙が伝っていた。
『ガロウさんが居たから…だから私はジェハに会えたのね…』
「そうだね…そう思うと先代様に感謝かな。」
彼の少し無邪気な声に私はジェハが心のどこかでガロウの事を想っていて、牢獄にいた彼にとってもガロウが唯一の相手だったのだと感じた。
『ガロウさんってどこかジェハに似てる…』
「え!!?」
『本当は優しいのに不器用で…大切なのに言葉に出来ない…』
「リン…」
ジェハは甘い微笑みを浮かべると私の頬を撫でて自分の方を向かせて唇を重ねた。
そして自分の胸に閉じ込めるように抱き締めた。
私はされるがまま彼の胸に擦り寄って目を閉じる。
―ガロウ…どこかで僕を見てるかい…?
一緒に飛ぶ事は出来なかったけど、僕は大切な居場所を見つけたんだ…
大切な人もできた…あんたが生きたくて僕を殴った気持ち、今ならわかる気がする…
僕も少しでも長く生きたい…リンやヨナちゃん、へんてこな仲間達もいるからね…―
私を抱き締めたまま彼は視線を緑色に一瞬だけ光った星に向けた。
―僕に自由をくれたんだよね、ガロウ…
今ならあんたの涙の理由も暴言の中にあった優しさもわかるのに…―
彼の頭の中でガロウが意地悪な、でも少し優しい笑顔を浮かべている気がした。
ジェハはその笑顔に笑いかけて彼がよく自分に言っていた言葉を返してやった。
「ありがとう…“バーカ”…」
ジェハは幹に凭れて座っていて私を自分の脚の間に抱いていた。
私はふとジェハのいつも隠されている右足を撫でた。
「リン?」
『あ、ごめん…』
彼は自分の右足の見た目を好んでいないため、包帯で巻いて滅多に靴を脱がない。
「見たい?」
『え…でも…』
「温泉に行った時にも見せてたし、見た目はあまり好きではないけど能力は気に入ってるからね♡」
ジェハは靴を脱ぐと緑色の鱗で覆われた右脚を見せてくれた。
私はその脚を撫でて感嘆の声を上げる。
『凄い…』
「お世辞にも綺麗とは言えないけどね。」
『ううん…緑龍の名に相応しい…いつもこの脚に守られてるの…』
「…そう言って貰えるならこの脚も嫌ではないかもね。」
ジェハは自分の脚を撫でる私の手を握りながら空を見上げたまま昔の事を思い出していた。
「リン…」
『ん?』
「つまらないかもしれないけど、僕の昔話に付き合ってくれないかな。」
私は目を丸くすると彼の胸に凭れかかって彼を見上げた。
『聞かせて…ジェハの事、もっと知りたい。』
彼は自分の脚を包帯で巻くと靴を履いてから私を抱き締めて、私の首筋に顔を埋めると甘い香りを吸い込んで心を落ち着けた。
「…これは今から13年前のこと。
緑龍の里の人は長い年月をかけて流浪しながら緑龍の能力をひっそりと隠しその力が外部に漏れないよう生き続けていたんだ。」
私は初めて彼の口から伝えられる彼自身の過去に静かに耳を澄ませた。
「先代の名前はガロウ…彼の役目は里で12歳のガキ…僕を追いかけることだった。」
彼は懐かしそうにでもどこか寂しそうに話してくれた…
「ジェハがまた空に…!!」
村人の声にガロウは飛び出しまだ完全に龍の力を持っている訳ではないジェハを捕まえると村から少し離れた場所にある石造りの小屋にジェハを繋いだ。
彼の両手両足には枷があり鎖で壁に繋がれている。
「ねぇ、先代様(あんた)。いつ死ぬの?」
「酷ェな。俺に死ねって言うのか、ジェハ。
お前が生まれたせいで俺の寿命減ってんのにずいぶんだなァ…」
「減ってる?新しい緑龍が生まれたら普通3~4年で先代は死ぬんだろ!?
僕はもう12だよ。いい加減隠居してくれないかな。
僕が鎖を断ち切り空へ跳んでも、あんたがやって来て僕を地面へ引きずり下ろす。
もう何年も!何度でも!!あんたさえいなくなれば僕は自由だ!」
ジェハの右脚の蹴りをガロウも右脚で難なく受け止める。
「自由…?」
「うわっ」
ガロウはジェハの右脚の靴を奪ってその脚を見せつけた。
それによってバランスを崩したジェハは冷たい床に倒れ込む。
「頭が悪いなァ。こんな脚で外の人間に受け入れて貰える訳ねーだろ。
こんな…緑色の鱗が生えた気味の悪い化け物の脚で!!
里人でさえ病気か何かのように扱う。外に出たってお前に居場所なんて無いんだよ、バーカ。」
「ここにあるのはこの牢獄だけだろ。」
「知るかよ、お前の不幸なんか。」
「あんただって僕が生まれるまで足枷を付けられてたんだろ?外に出たいとは思わなかったの?」
「……お前をいじめるのが俺の余生100年の楽しみなんだよ。せいぜい苦しめ。」
「くっ…」
ジェハは手枷を引っ張ったがただ彼の手首が傷つき血が流れるだけだった。
ガロウはジェハを捉える事で食糧を長老から貰っているようだった。
受け取った食糧を持って自分の家へ戻ろうとした時、彼の脚から突然力が抜けた。
―重い…龍の脚に力が入らねぇ…まさか…―
その夜、ガロウは牢獄で眠るジェハのもとへ行った。
―俺は死ぬのか…?こいつに力を命を吸い取られて…
誰が長生きだって?俺はまだ生きたい…死にたくない…!―
「ん…誰…?」
ジェハの問いに返って来たのはガロウの拳だった。
狂ったようにガロウは無抵抗なジェハを何度も殴ったのだ。
そしてボロボロになったジェハの顔を見て正気に戻った。
「あ…ぁあ…あ…」
―俺は…俺はクズか…―
ジェハはガロウを責めるでもなく壁に凭れて目の前に座り込んでしまったガロウを見つめていた。
「…気が済んだ?」
「こ…これ位で済むかよ。殺してやりたいくらいだ。」
「僕…あんたの事嫌いだけど…あんたの叫び声を聞くと心(ココ)がバラバラになりそうだよ。」
ジェハは自分の胸を苦しそうに押さえながら言った。
―やめてくれ…厄介な血だ。
痛みも鼓動も筒抜け…一番知られたくない相手なんだよ…―
「なに言ってんだ、そんな状態で。殴られすぎて変になったのか…?」
ジェハは静かに右脚を振り上げて鎖を粉々に砕いた。
それによって両手両足が解放されたのだ。
―龍の脚の力で簡単に鎖を断ち切った…俺の能力が今全てジェハに…―
「い…行くのか?」
「あんたはもう僕を追って来れない。」
「馬鹿に…するなよ。俺はまだ生き生きしてる。お前を止める位なんでもないっ!!」
ガロウの蹴りをジェハはただ右脚を当てるだけで止めた。
ガロウはそれだけで地面に倒れてしまう。
―そりゃねェよ…12年ももった能力がこんなにも突然無くなるなんてよ…なんだよ…行っちまうのかよ…―
「惨めな奴だと思ってんだろ…俺の事…
心の中では笑ってんだろ、俺の事…」
「あんたは惨めじゃない。」
「綺麗事行ってんじゃねーよ!!」
「だってあんたは長老や里人にどんな扱いを受けても決して龍の力で捻じ伏せようとはしなかっただろ。」
「そ…それは…だってガキの頃から何だかんだ皆には迷惑かけたり世話になったりしたんだよ…
地獄のような毎日だったけど、やっぱり俺にはここしか居場所がねーんだよ。」
ガロウは十五の時一度だけ里から逃げ出した。
雁字搦めの里から抜け出して彼は気付いたのだ、自由になったって特に行きたい場所も会いたい人もいないのだと。
いつか憧れた里に伝わる緋龍王伝説のような王が迎えに来てくれる事もついには無かった。
自分はいらないのか、そう思って全てが空しくなった。
だがそんな時彼は里で新しい緑龍が生まれたと思った。なぜだかそう思ったのだ。
自らの天命が尽きたと絶望し、煮えたぎる想いで緑龍を確認しに里へ戻った。
そして見つけたのが新しい緑龍、ジェハ。
生まれたばかりのジェハの龍の脚はとても小さかった。
それを見てガロウは何故だか涙が零れたのだ。
その日からジェハだけが唯一の話相手だった。
ガロウは扉を開けて去ろうとするジェハの背中を見つめる事しかできずにいた。
―これが…これが俺の最期か…
能力を無くし話し相手も無くして二度と空を舞う事も無い…―
だが俯きかけていたガロウが見た先でジェハは彼を振り返り手を差しだしていた。
「行こう。僕と行こう、ガロウ。空へ…一緒に飛ぼう。」
ガロウは素直になれず泣きそうな顔でジェハに言い返した。
「お前…何言ってんだよ…そんな…俺に殴られたボロッボロの顔でよぉ。
バカじゃねぇの…俺なんか…死にかけの俺なんかを…」
「それは許さん。お前達を外に出す訳にはいかん。」
「長老…」
「言ったはずだ。85年前龍の力が外部に漏れたばかりに力を狙う者達に里人が捕らわれどのような目に遭わされたか。
里の掟だ。逃げ出せばジェハ、お前を射落とす。」
ジェハは少し怯えながら身を引いた。
長老の横で村人達が弓矢を彼に向けて構えていたからだ。
「動くな。大人しくしていれば危害は加えん。」
「うおぉおおおお!!」
その時ジェハの横を通り過ぎたガロウが村人達に飛び掛かって行った。
「よせ!」
「何をする、やめろ!!」
「ジェハ!!」
ガロウは笑いながらジェハを見た。
彼は彼なりにジェハを自由にしてやりたかったのだ。
自分が掴めなかった自由を唯一彼を一瞬だけでも受け入れてくれ共に飛ぼうと言ってくれたジェハに与えようとしたのだ。
「バーカ!!誰がてめェなんかと一緒に行くかよ!!
俺はもうガキの御守は飽き飽きだ。行っちまえ。
一人でとっととどこへでも飛んで行け!!
お前なんか大嫌いだからな。いなくなった方がせいせいするわ!!
二度と帰って来んじゃねーぞ!!バーカ!!」
滝のように涙を流すガロウを見てジェハは零れそうな涙を堪えると背中を向けて空高く跳び上がった。
「くっ…矢が届かない。」
「追えっ」
跳んでいくジェハを見ながらガロウは仰向けに地面に倒れた。
―ほら、お前には矢なんか届かない…どんな奴も敵わない…
どこまでもどこまでも飛んでゆけ…
ああ、目が霞む。ちくしょう、待てよ。
もう少しあいつを見せてくれ…緑の龍神さんよ、長いこと御守してやっただろ?
ジェハのやつをちょっとたのむよ…どうかあいつを護ってやってくれ…―
そして彼は静かに瞼の裏に空を舞うジェハを描きながら眠りに就いたのだった。
ジェハはそこまで話すとふわっと微笑んだ。私の頬には涙が伝っていた。
『ガロウさんが居たから…だから私はジェハに会えたのね…』
「そうだね…そう思うと先代様に感謝かな。」
彼の少し無邪気な声に私はジェハが心のどこかでガロウの事を想っていて、牢獄にいた彼にとってもガロウが唯一の相手だったのだと感じた。
『ガロウさんってどこかジェハに似てる…』
「え!!?」
『本当は優しいのに不器用で…大切なのに言葉に出来ない…』
「リン…」
ジェハは甘い微笑みを浮かべると私の頬を撫でて自分の方を向かせて唇を重ねた。
そして自分の胸に閉じ込めるように抱き締めた。
私はされるがまま彼の胸に擦り寄って目を閉じる。
―ガロウ…どこかで僕を見てるかい…?
一緒に飛ぶ事は出来なかったけど、僕は大切な居場所を見つけたんだ…
大切な人もできた…あんたが生きたくて僕を殴った気持ち、今ならわかる気がする…
僕も少しでも長く生きたい…リンやヨナちゃん、へんてこな仲間達もいるからね…―
私を抱き締めたまま彼は視線を緑色に一瞬だけ光った星に向けた。
―僕に自由をくれたんだよね、ガロウ…
今ならあんたの涙の理由も暴言の中にあった優しさもわかるのに…―
彼の頭の中でガロウが意地悪な、でも少し優しい笑顔を浮かべている気がした。
ジェハはその笑顔に笑いかけて彼がよく自分に言っていた言葉を返してやった。
「ありがとう…“バーカ”…」