石に刻む
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暗い部屋でブルーライトを浴び、一人孤独に端末を操作する。画面をスクロールし、時々くだらないレスをつけ、ハートを押す。その繰り返し。
随分長いこと、この単調な繰り返しを続けてきた気がする。何度も何度も呆れるほど時間を費やしてきた作業にはすっかり手慣れて、それでもなお辞められないのだから参ってしまう。
初めてこの掲示板を訪れてから、もう何年経つだろうか?もはやそれすらも曖昧だった。
ふと、顔をあげた。ブルーライトに痛めつけられ、ぼやけた視界のその先に、とても良く見知った……そして、このところ久しく会っていなかった、奇妙な姿が映り込む。
「……あにまんまん、か……?」
目の前の事象が信じられない。恐る恐る尋ねると、その鳥とも怪獣ともつかない奇妙な生物は、屈託ない笑顔で笑った。
「そうだゲー!僕あにまんまん!俺くんに会いにきたんだゲー!」
太陽のような明るい表情が、この暗い部屋をたちまち照らし出した。
思わず端末から手を離し、一歩、二歩、ふらふらと彼に近づく。おぼつかない足取りに「俺くん、大丈夫だゲーか?」と心配される。その声は耳へと届くのに、言葉の意味はまるでわからなかった。それほど、衝撃だったのだ。
あにまんまんの前に膝を折り、崩れ落ちるように掻き抱いた。突然の抱擁にあにまんまんは一瞬驚いたような顔をして、それから「どうしたんだゲー?ふふ、甘えたがりだゲな?」と微笑み、俺の背に腕を伸ばした。
しばしの時間、無言だった。俺も、あにまんまんも、何も言わずに、ただ抱きしめあっていた。二人(あるいは一人と一匹)の体温が混ざりあって、溶け合っていく。やがて俺の口から、言葉が零れ出した。
「……久しぶり、だな」
最後にあにまんまんに会ったのはいつだったか覚えていない。かつては毎日のように顔を合わせ、時にはもううんざりだと思っていた日さえあった。
ゆっくりと懐抱を解き、あにまんまんの顔を見つめる。最後に会ったときと、否、初めて会った日とすら、何も変わっていない顔。いつも通りの笑みをこちらに向けて、いつも通りの口調が続く。
「そうかもしれないゲー!俺くんは最近どうしてたんだゲー?」
その一言で、あにまんまんに言いたいことがいくつも浮かび、そして消えていった。とめどなく溢れる思考の中で、唯一出力された「みんないなくなったよ」に、俺自身も驚かされた。
俺の言葉に極彩色の目を丸くして、少し驚いたような表情で、あにまんまんが首を傾げる。そんな姿を横目に、俺はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「みんな、みんないなくなったんだ。めががも、あにおじも、ツチノコも、宣言ちゃんも、みんな、みんな……。管理人ちゃんは、今やどこのカテでも『ネカピン』呼び。蔓延る荒らしを駆逐するためにたくさんのアク禁があって、あの頃のあにまん民もいなくなった。カテゴリが消えて、増えて、分かれて。常駐スレも、人が変わって、雰囲気が変わって、もういつかの、俺が好きだったスレじゃなくなった。」
たどたどしく、ひとつひとつの単語を噛み締めるような俺の喋りを、あにまんまんは辛抱強く聞いてくれた。あにまんまんはいつもそうなんだ。いつも、俺にずっと寄り添ってくれる。
……いつもって、いつの事だっけ?
「暗黙の了解が無くなって、また別の暗黙の了解が新しくできて。他所から人がやって来て、人が他所に流れて言って。俺だって、常駐カテゴリやスレが変わった。めががや、あにおじは、まだ良い方だ。時々スレが立って、覚えてる奴らが集まって……。でも、それも10レスかそこらで終わる。」
2021年、8月。あの夏に起きたビッグバンから生まれてきた幾つものオリキャラ達。彼らを今も覚えている者は、俺と、ほんの数人だけなのだろう。
「あにまんまんのことも、このところ、ずっと見なかった。今度こそ、死んだかと。不死身だ復活だなんだ言って、やっぱりいつかは、みんなから忘れられて、死んじゃうんだ。」
「俺も、忘れるのが怖い。何よりも。あにまんまんが、忘れられて、死んでいくのが寂しい。」
とめどなく、心のうちから溢れてくるものをひたすらに語って。それから俺は、またあにまんまんをぎゅうと抱き寄せた。
あにまんまんは、いつもは底抜けに明るくて、ゲーゲー騒がしいのに、さっきからずうっと黙ったままだった。黙ったまま、俺の腕の中にいた。
先程の抱擁とは違って、あにまんまんは腕を回してこなかった。ぬいぐるみのようにただ抱かれ続けて……やがて、目を伏せた。
「確かに、みんなは僕の、僕たちのことを忘れて行くゲー」
俯いたままぽつぽつと喋りだしたあにまんまんの表情は、見えなかった。
「俺くんも、いつかは僕のことを忘れてしまうかもしれないゲー」
あにまんまんの声は、やっぱり包み込むような優しい薄紫のままで。そこに少しの影が差した気がしたのは、気のせいにした。
「それでも!」
いきなり腕の中で声を張り上げられて、思わず手を離した。
そこには、もう俯いているあにまんまんはいなかった。ただひたすらまっすぐに、俺の目と向き合っていた。
「俺くんが、みんなが、僕のことを好きだった過去は、いつまでも変わらないゲー!いつか掲示板すら無くなっても、俺くんの思い出の片隅で、ずっと……例え思い出されなくても!ずーーーっと生き続けるんだゲー!!」
あにまんまんは、不死身だゲーよ!
そう宣言したあにまんまんは、陰りの欠片もない、晴れ渡った青空のような笑顔だった。
目が覚めると、爽やかな陽がカーテンの隙間から差し込んだ。夢だったのか、と、あの笑顔のような空を見て考える。
スリープモードを解除した端末の中には、かつて創った作品が並んでいた。
残そうと思った。例え思い出されなくても。俺以外、誰も覚えていなくても。
あにまんまんを永遠に、不死身のままでいさせるために。
随分長いこと、この単調な繰り返しを続けてきた気がする。何度も何度も呆れるほど時間を費やしてきた作業にはすっかり手慣れて、それでもなお辞められないのだから参ってしまう。
初めてこの掲示板を訪れてから、もう何年経つだろうか?もはやそれすらも曖昧だった。
ふと、顔をあげた。ブルーライトに痛めつけられ、ぼやけた視界のその先に、とても良く見知った……そして、このところ久しく会っていなかった、奇妙な姿が映り込む。
「……あにまんまん、か……?」
目の前の事象が信じられない。恐る恐る尋ねると、その鳥とも怪獣ともつかない奇妙な生物は、屈託ない笑顔で笑った。
「そうだゲー!僕あにまんまん!俺くんに会いにきたんだゲー!」
太陽のような明るい表情が、この暗い部屋をたちまち照らし出した。
思わず端末から手を離し、一歩、二歩、ふらふらと彼に近づく。おぼつかない足取りに「俺くん、大丈夫だゲーか?」と心配される。その声は耳へと届くのに、言葉の意味はまるでわからなかった。それほど、衝撃だったのだ。
あにまんまんの前に膝を折り、崩れ落ちるように掻き抱いた。突然の抱擁にあにまんまんは一瞬驚いたような顔をして、それから「どうしたんだゲー?ふふ、甘えたがりだゲな?」と微笑み、俺の背に腕を伸ばした。
しばしの時間、無言だった。俺も、あにまんまんも、何も言わずに、ただ抱きしめあっていた。二人(あるいは一人と一匹)の体温が混ざりあって、溶け合っていく。やがて俺の口から、言葉が零れ出した。
「……久しぶり、だな」
最後にあにまんまんに会ったのはいつだったか覚えていない。かつては毎日のように顔を合わせ、時にはもううんざりだと思っていた日さえあった。
ゆっくりと懐抱を解き、あにまんまんの顔を見つめる。最後に会ったときと、否、初めて会った日とすら、何も変わっていない顔。いつも通りの笑みをこちらに向けて、いつも通りの口調が続く。
「そうかもしれないゲー!俺くんは最近どうしてたんだゲー?」
その一言で、あにまんまんに言いたいことがいくつも浮かび、そして消えていった。とめどなく溢れる思考の中で、唯一出力された「みんないなくなったよ」に、俺自身も驚かされた。
俺の言葉に極彩色の目を丸くして、少し驚いたような表情で、あにまんまんが首を傾げる。そんな姿を横目に、俺はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「みんな、みんないなくなったんだ。めががも、あにおじも、ツチノコも、宣言ちゃんも、みんな、みんな……。管理人ちゃんは、今やどこのカテでも『ネカピン』呼び。蔓延る荒らしを駆逐するためにたくさんのアク禁があって、あの頃のあにまん民もいなくなった。カテゴリが消えて、増えて、分かれて。常駐スレも、人が変わって、雰囲気が変わって、もういつかの、俺が好きだったスレじゃなくなった。」
たどたどしく、ひとつひとつの単語を噛み締めるような俺の喋りを、あにまんまんは辛抱強く聞いてくれた。あにまんまんはいつもそうなんだ。いつも、俺にずっと寄り添ってくれる。
……いつもって、いつの事だっけ?
「暗黙の了解が無くなって、また別の暗黙の了解が新しくできて。他所から人がやって来て、人が他所に流れて言って。俺だって、常駐カテゴリやスレが変わった。めががや、あにおじは、まだ良い方だ。時々スレが立って、覚えてる奴らが集まって……。でも、それも10レスかそこらで終わる。」
2021年、8月。あの夏に起きたビッグバンから生まれてきた幾つものオリキャラ達。彼らを今も覚えている者は、俺と、ほんの数人だけなのだろう。
「あにまんまんのことも、このところ、ずっと見なかった。今度こそ、死んだかと。不死身だ復活だなんだ言って、やっぱりいつかは、みんなから忘れられて、死んじゃうんだ。」
「俺も、忘れるのが怖い。何よりも。あにまんまんが、忘れられて、死んでいくのが寂しい。」
とめどなく、心のうちから溢れてくるものをひたすらに語って。それから俺は、またあにまんまんをぎゅうと抱き寄せた。
あにまんまんは、いつもは底抜けに明るくて、ゲーゲー騒がしいのに、さっきからずうっと黙ったままだった。黙ったまま、俺の腕の中にいた。
先程の抱擁とは違って、あにまんまんは腕を回してこなかった。ぬいぐるみのようにただ抱かれ続けて……やがて、目を伏せた。
「確かに、みんなは僕の、僕たちのことを忘れて行くゲー」
俯いたままぽつぽつと喋りだしたあにまんまんの表情は、見えなかった。
「俺くんも、いつかは僕のことを忘れてしまうかもしれないゲー」
あにまんまんの声は、やっぱり包み込むような優しい薄紫のままで。そこに少しの影が差した気がしたのは、気のせいにした。
「それでも!」
いきなり腕の中で声を張り上げられて、思わず手を離した。
そこには、もう俯いているあにまんまんはいなかった。ただひたすらまっすぐに、俺の目と向き合っていた。
「俺くんが、みんなが、僕のことを好きだった過去は、いつまでも変わらないゲー!いつか掲示板すら無くなっても、俺くんの思い出の片隅で、ずっと……例え思い出されなくても!ずーーーっと生き続けるんだゲー!!」
あにまんまんは、不死身だゲーよ!
そう宣言したあにまんまんは、陰りの欠片もない、晴れ渡った青空のような笑顔だった。
目が覚めると、爽やかな陽がカーテンの隙間から差し込んだ。夢だったのか、と、あの笑顔のような空を見て考える。
スリープモードを解除した端末の中には、かつて創った作品が並んでいた。
残そうと思った。例え思い出されなくても。俺以外、誰も覚えていなくても。
あにまんまんを永遠に、不死身のままでいさせるために。
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