それでも地獄は続いていく
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からん、空き缶が別の空き缶とぶつかって軽い音を奏でる。
「また飲んだのゲー?」とこちらに笑いかけながら、あにまんまんはしゃがみこんだ。文字通り足の踏み場もないゴミ山からいくつかの空き缶を拾い上げる。
カフェイン、アルコール、添加物。長い永い寿命を削り取り、この長い苦しみから救ってくれると思っていた。けれど、どんなにそれを待ち望んでも、解放されることはなかった。
塵芥の墓場から顔を見せた風邪薬の瓶底には一錠ぶんの絶望が残っていた。残りは全て腹の中へ、血液へ、全身へ収めてしまった。過剰摂取した絶望は断頭台どころか、百均のカッターナイフにすらなってくれなかった。
ぐるぐると視界が回る。こちらを一度も見ずに、カルテに何事かを書き付けた医者から処方された薬。アレを全部飲み下せば。そう思ったところで、とっくに薬のパッケージはゴミの中に埋もれていた。
だいたい冷たい煎餅布団に横たわって、息をするだけの日々を過ごしているというのに、薬を探す気力などない。俺と遺体との違いは心臓が動いて、辛うじて呼吸をしているかどうか。それだけだ。
何もやりたくない、ではない。何もできない。ろくに死ぬことすら選べない。
あにまんまんが片手のゴミ袋に、缶やらプラスチックやらを放り込んでいく。手際良いその作業を、眼球だけを動かして追う。
何日かぶりに開け放たれたカーテンは、混沌とした一室へ光を招きいれた。自己嫌悪の跡が照らされて、より自己嫌悪の渦に引きずり込まれる。
「俺くん、窓も開けるゲーよ」
ガラス窓ががらりと動き、きんと冷えた外気が風となって流れ込む。ちりちりと宙を舞うホコリの一粒一粒が、太陽に照らされて輝いた。
忙しなく汚部屋を片付けながら、あにまんまんは他愛もない話を口にする。「この間あったことなんだゲー、」なんて明日になれば忘れるような、至極どうでも良い話。俺はそれに相槌を返すでもなく、ただ黙って耳を傾けていた。一方の彼はそれを気にすることも無く、延々とひとりで “会話“ を続けた。
床が見え始めた頃、ようやくあにまんまんの口が閉じた。ゴミ袋の擦れ合う音と、ゴミ同士がぶつかる音だけが部屋に響く。狭苦しい部屋も、今だけは随分広く見えた。
なあ。乾ききった唇が動いた。なぜかは自分でもわからない。ただこの静寂に耐えきれなかっただけかもしれない。
掠れた声に、あにまんまんがこちらを振り向く。
「終わりにしてくれ」
俺が絞り出した言葉を聞いて、あにまんまんは一瞬だけ苦しげな表情を見せた。
あるいは、それは気の所為だったのかもしれない。瞬きの間に、彼はいつもの馬鹿みたいに明るい笑顔に戻っていたから。
「全くもう、まだまだ掃除は終わらないゲーよ! シンクも片付けないといけないゲー」
愚者を演じて、道化の笑みを貼り付けて、言葉の意味を汲み取れないフリをする。
あにまんまんは救ってくれない。俺の人生にピリオドを付けてくれないし、一緒にエンドロールを観てくれない。ただ、隣でヘラヘラと笑っているだけだ。
目尻からつうと液体が流れ落ち、潰れた枕に染み込む。あにまんまんはそれに言及することもなく、優しく俺の背中を撫でた。
「また飲んだのゲー?」とこちらに笑いかけながら、あにまんまんはしゃがみこんだ。文字通り足の踏み場もないゴミ山からいくつかの空き缶を拾い上げる。
カフェイン、アルコール、添加物。長い永い寿命を削り取り、この長い苦しみから救ってくれると思っていた。けれど、どんなにそれを待ち望んでも、解放されることはなかった。
塵芥の墓場から顔を見せた風邪薬の瓶底には一錠ぶんの絶望が残っていた。残りは全て腹の中へ、血液へ、全身へ収めてしまった。過剰摂取した絶望は断頭台どころか、百均のカッターナイフにすらなってくれなかった。
ぐるぐると視界が回る。こちらを一度も見ずに、カルテに何事かを書き付けた医者から処方された薬。アレを全部飲み下せば。そう思ったところで、とっくに薬のパッケージはゴミの中に埋もれていた。
だいたい冷たい煎餅布団に横たわって、息をするだけの日々を過ごしているというのに、薬を探す気力などない。俺と遺体との違いは心臓が動いて、辛うじて呼吸をしているかどうか。それだけだ。
何もやりたくない、ではない。何もできない。ろくに死ぬことすら選べない。
あにまんまんが片手のゴミ袋に、缶やらプラスチックやらを放り込んでいく。手際良いその作業を、眼球だけを動かして追う。
何日かぶりに開け放たれたカーテンは、混沌とした一室へ光を招きいれた。自己嫌悪の跡が照らされて、より自己嫌悪の渦に引きずり込まれる。
「俺くん、窓も開けるゲーよ」
ガラス窓ががらりと動き、きんと冷えた外気が風となって流れ込む。ちりちりと宙を舞うホコリの一粒一粒が、太陽に照らされて輝いた。
忙しなく汚部屋を片付けながら、あにまんまんは他愛もない話を口にする。「この間あったことなんだゲー、」なんて明日になれば忘れるような、至極どうでも良い話。俺はそれに相槌を返すでもなく、ただ黙って耳を傾けていた。一方の彼はそれを気にすることも無く、延々とひとりで “会話“ を続けた。
床が見え始めた頃、ようやくあにまんまんの口が閉じた。ゴミ袋の擦れ合う音と、ゴミ同士がぶつかる音だけが部屋に響く。狭苦しい部屋も、今だけは随分広く見えた。
なあ。乾ききった唇が動いた。なぜかは自分でもわからない。ただこの静寂に耐えきれなかっただけかもしれない。
掠れた声に、あにまんまんがこちらを振り向く。
「終わりにしてくれ」
俺が絞り出した言葉を聞いて、あにまんまんは一瞬だけ苦しげな表情を見せた。
あるいは、それは気の所為だったのかもしれない。瞬きの間に、彼はいつもの馬鹿みたいに明るい笑顔に戻っていたから。
「全くもう、まだまだ掃除は終わらないゲーよ! シンクも片付けないといけないゲー」
愚者を演じて、道化の笑みを貼り付けて、言葉の意味を汲み取れないフリをする。
あにまんまんは救ってくれない。俺の人生にピリオドを付けてくれないし、一緒にエンドロールを観てくれない。ただ、隣でヘラヘラと笑っているだけだ。
目尻からつうと液体が流れ落ち、潰れた枕に染み込む。あにまんまんはそれに言及することもなく、優しく俺の背中を撫でた。
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