単発

 ―最近、技にキレがない。
 修行中、明らかに以前より腕が鈍っていると感じて、俺は呟いた。
 ―やはり、雅人への気持ちの…。
 雅人に「そういう想い」を抱いていると自覚してからというもの、雅人のことが頭から離れず眠れない夜が続く。眠れたとしても毎晩夢に雅人が出てくる。
 かつて数人の女性から誘われてデートしたことはあったものの、ここまで四六時中意識に出てくる人はいない。
 雅人は俺の気持ちなど知るわけもなく、俺の前で平気で着替えたり大浴場に入ったりするので、こっちの欲情をそそられているのを隠すのもなかなか大変だ。スケッチブックに雅人の絵を描いてみても、気が晴れるどころか想いは募るばかり(ちなみに昨日五冊目を描き終えたところだ。)。
 …とまあ、「恋」というものはこんなに落ち着かないものなのかと今身をもって思い知らされている。親父もお袋も大恋愛して俺が生まれたというから、昔の二人もそうだったのかと思いながら。俺の場合、相手が同性で士官学校の後輩という違いはあれど。
 俺は気持ちを切り替え、瞑想することにした。
 胡坐をかき、心を静め、呼吸に集中し、感覚に注意を置く。
 空、海、山、宇宙のイメージを思い浮かべながら―
 …ふと、普段瞑想の時には出てこない、得体のしれないもやのようなものが俺の脳裏によぎった。軽く流そうとするも、煌めく世界が訪れる。その世界の中で、もやはだんだんと人の形をとり、完全に俺の心の中にはっきりと浮かび上がった。明るい茶色の髪と、緑色の目をした一人の青年。イメージの中の彼は一糸まとわぬ状態で、目を細めている。
 丸くて大きい瞳。
 柔らかそうな髪。
 あどけない笑顔。
 俺の名前を呼ぶ、甘く、それでいて爽やかな声。
(……雅人?!)
 あまりにも生々しい雅人のイメージに、俺は動揺した。俺が今「無心」とは程遠い域にいるという現実を知ったこともそうだが、ここまで雅人にやましい心を持っているとは。
 「…修行が足りんな」
 俺はため息交じりに呟くと、少しでも気が落ち着くように遠くの景色を見に行こうと思った。
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