亮と雅人が同棲する話
「…だるい」
布団の上に毛布二枚、氷枕に冷えピタという重装備の中、おれは何回こうつぶやいたかわからない。
「そりゃそうだ、三八度も熱あるんだからな」
亮はずっと看病してくれている。汗をかいたら体拭いたり、氷枕の氷を換えたり。あとたまった家事を一手に引き受けてくれている。
せっかく二人で休みが重なったというのに、おれは風邪でダウンしている。喉はやられてないから喋るのは辛くないけど、頭が痛くて重い…。
「何か食えそうか?」
亮が優しく聞く。言われてみれば、そろそろ一二時だ。しかし今はご飯粒一粒でも食べることを想像しただけでもヘビーに感じる。
「ご飯はお粥系…とかじゃなきゃ無理…かも」
「わかった、とっておきの作ってやるからな。あとすぐよくなるおまじないをしてやる」
亮はこう言うと、寝室を後にした。
(そういえば、風邪なんて久々に引いたな)
子供の頃は毎年のように風邪ひいては、周りを心配させてたっけ。うんと小さい時は、母さんが作ったアイスクリームをよく食べてた思い出がある。士官学校時代とか軍にいた時は風邪もインフルもかからなかったのに、平穏に暮らし始めたとたんこれだ。
そう言えば亮って、風邪引いたことあるのかな。思わぬところで脱ぐし、超ウルトラスーパーな抗体持ってそうだけど。今も着流しでかなり薄着なんだけど大丈夫かな。
こう考えたりボーっとしてたりしてたら、亮が戻ってきた。持ってるお盆には土鍋が載っている。なんとなく面映ゆさを感じながら、おれは上体を起こした。
「ありがと、亮」
「こんなん作るくらい朝飯前だ」
亮はベッドのそばの椅子に座っておれの膝にお盆を載せると、土鍋の蓋を開けた。すると、風邪っぴきの鼻でもわかるくらい、ふわっと美味しそうな匂いがした。雑炊の中身は卵、白菜、人参、大根かな…?すごく栄養ありそうだ。
自分で食べようと思ってれんげを持とうとしたけど、亮が食べさせてくれるようだ。しかもわざわざ息で冷ましてもくれてる…。なんという甘いシチュエーションだろう。
「雅人、遠慮するな」
「だって…恥ずかしいよ」
雑炊が載ったれんげを前に、ただでさえ熱で赤い顔をさらに赤くした。子供じゃないのになという気持ちと、亮の優しさが嬉しいという気持ちで頭の中がごっちゃになった。
「こうしてもらうのに歳は関係ねぇよ。夫婦はこうするもんだろ」
この言葉に後押しされ、おれは雑炊を口にした。
「…美味しい」
すぐにこの言葉がでるくらい、雑炊はやっぱり絶品だった。ご飯と野菜の味と、卵のふわふわもしっかり感じられる。風邪で食欲がなくなってると思ってたのが嘘のように、おれはすんなりと雑炊を平らげていた。
「ごちそうさま」
「ちゃんと食えたな、よかった」
「うん、亮が食べさせてくれたしね」
「片付けてくるからな、いい子にしてろよ」
亮は得意げな顔で、部屋を出て行った。妻扱いなんだか、子ども扱いなんだか…。いずれにしろ、風邪を引くと、元気な時以上に亮の優しさが身に沁みる。
「亮…ごめん」
亮が寝室に戻ってくると、自然と謝る言葉が出てしまう。せっかくの休日がおれの風邪でつぶれたという罪悪感で胸がいっぱいになった。本来なら午後からゆっくり買い物に行く予定だったのに、ふいになってしまったからだ。
「気にするな。新しい環境でたまった疲れで免疫落ちてたんだろうよ」
「うん…そう言えばさ、さっき言ってたおまじないって何なの?」
おれがこう言った途端、亮はおれの両頬を両手で包んできた。視線を合わせたコバルトブルーの瞳が、一層優しくなる。
「まだ熱いな…」
亮はこうつぶやくと、いきなり深くキスをしてきた。まるで、風邪を吸い出そうとでもしてるかのように、深く、激しく。
「…ぅ…んっ…」
弱った体で小さい抵抗を繰り返すも、亮の力強さの前では敵わない。しばらくの深い口づけの後、おれはようやく解放された。
「亮、風邪うつっちゃうよ…」
「これくらいなら平気だ」
「平気、って」
「明日にはよくなるだろうな、あとは大人しく寝てろ」
不安感が解消されたのか、目を閉じた途端だんだん眠くなってきた。亮に頭を撫でられていると、何の心配もない気がしてきた…。
おれは亮の宣言通り、翌朝にはすっかり良くなっていた。亮はいつも通り、ピンピンしていたのは言うまでもない。なんで亮はあそこまで心身ともに強いのか、不思議で仕方がなかった。
布団の上に毛布二枚、氷枕に冷えピタという重装備の中、おれは何回こうつぶやいたかわからない。
「そりゃそうだ、三八度も熱あるんだからな」
亮はずっと看病してくれている。汗をかいたら体拭いたり、氷枕の氷を換えたり。あとたまった家事を一手に引き受けてくれている。
せっかく二人で休みが重なったというのに、おれは風邪でダウンしている。喉はやられてないから喋るのは辛くないけど、頭が痛くて重い…。
「何か食えそうか?」
亮が優しく聞く。言われてみれば、そろそろ一二時だ。しかし今はご飯粒一粒でも食べることを想像しただけでもヘビーに感じる。
「ご飯はお粥系…とかじゃなきゃ無理…かも」
「わかった、とっておきの作ってやるからな。あとすぐよくなるおまじないをしてやる」
亮はこう言うと、寝室を後にした。
(そういえば、風邪なんて久々に引いたな)
子供の頃は毎年のように風邪ひいては、周りを心配させてたっけ。うんと小さい時は、母さんが作ったアイスクリームをよく食べてた思い出がある。士官学校時代とか軍にいた時は風邪もインフルもかからなかったのに、平穏に暮らし始めたとたんこれだ。
そう言えば亮って、風邪引いたことあるのかな。思わぬところで脱ぐし、超ウルトラスーパーな抗体持ってそうだけど。今も着流しでかなり薄着なんだけど大丈夫かな。
こう考えたりボーっとしてたりしてたら、亮が戻ってきた。持ってるお盆には土鍋が載っている。なんとなく面映ゆさを感じながら、おれは上体を起こした。
「ありがと、亮」
「こんなん作るくらい朝飯前だ」
亮はベッドのそばの椅子に座っておれの膝にお盆を載せると、土鍋の蓋を開けた。すると、風邪っぴきの鼻でもわかるくらい、ふわっと美味しそうな匂いがした。雑炊の中身は卵、白菜、人参、大根かな…?すごく栄養ありそうだ。
自分で食べようと思ってれんげを持とうとしたけど、亮が食べさせてくれるようだ。しかもわざわざ息で冷ましてもくれてる…。なんという甘いシチュエーションだろう。
「雅人、遠慮するな」
「だって…恥ずかしいよ」
雑炊が載ったれんげを前に、ただでさえ熱で赤い顔をさらに赤くした。子供じゃないのになという気持ちと、亮の優しさが嬉しいという気持ちで頭の中がごっちゃになった。
「こうしてもらうのに歳は関係ねぇよ。夫婦はこうするもんだろ」
この言葉に後押しされ、おれは雑炊を口にした。
「…美味しい」
すぐにこの言葉がでるくらい、雑炊はやっぱり絶品だった。ご飯と野菜の味と、卵のふわふわもしっかり感じられる。風邪で食欲がなくなってると思ってたのが嘘のように、おれはすんなりと雑炊を平らげていた。
「ごちそうさま」
「ちゃんと食えたな、よかった」
「うん、亮が食べさせてくれたしね」
「片付けてくるからな、いい子にしてろよ」
亮は得意げな顔で、部屋を出て行った。妻扱いなんだか、子ども扱いなんだか…。いずれにしろ、風邪を引くと、元気な時以上に亮の優しさが身に沁みる。
「亮…ごめん」
亮が寝室に戻ってくると、自然と謝る言葉が出てしまう。せっかくの休日がおれの風邪でつぶれたという罪悪感で胸がいっぱいになった。本来なら午後からゆっくり買い物に行く予定だったのに、ふいになってしまったからだ。
「気にするな。新しい環境でたまった疲れで免疫落ちてたんだろうよ」
「うん…そう言えばさ、さっき言ってたおまじないって何なの?」
おれがこう言った途端、亮はおれの両頬を両手で包んできた。視線を合わせたコバルトブルーの瞳が、一層優しくなる。
「まだ熱いな…」
亮はこうつぶやくと、いきなり深くキスをしてきた。まるで、風邪を吸い出そうとでもしてるかのように、深く、激しく。
「…ぅ…んっ…」
弱った体で小さい抵抗を繰り返すも、亮の力強さの前では敵わない。しばらくの深い口づけの後、おれはようやく解放された。
「亮、風邪うつっちゃうよ…」
「これくらいなら平気だ」
「平気、って」
「明日にはよくなるだろうな、あとは大人しく寝てろ」
不安感が解消されたのか、目を閉じた途端だんだん眠くなってきた。亮に頭を撫でられていると、何の心配もない気がしてきた…。
おれは亮の宣言通り、翌朝にはすっかり良くなっていた。亮はいつも通り、ピンピンしていたのは言うまでもない。なんで亮はあそこまで心身ともに強いのか、不思議で仕方がなかった。