亮と雅人が同棲する話
バレンタインと言えば。
結婚を禁じた皇帝の命令に背いて、若い兵士の結婚式を行って処刑された司祭様を祭る日。
バラやアクセサリー、そして甘~いお菓子。恋人たちが愛を確かめ合う素敵な日。そして日本ではいろんな人に感謝の気持ちを伝える日。
発祥はこんなに重いけど、この日を世界中の人々で楽しんだら、きっと司祭様も喜ぶだろうってね。
亮の用心棒の仕事は非番だけど、おれは仕事だ。
でもおれの気分は晴れやかだった。なにしろ、前もって亮にとっておきのチョコを作ってあるんだから。
おれは目の前のバイクを整備し終わった。このバイクの持ち主は店の常連さんで、ツーリングが趣味のこの近所に住んでる奥さんだ。バイクをこよなく愛してるようで、丁寧に扱うからこっちもメンテや修理のし甲斐があるというもんだ。
そして…こんなことを思うと亮に怒られるだろうけど、すっごい美人。
「メンテ終わったよ、奥さん」
ちょうど店のそばで近所の人と立ち話をしてた奥さんに、おれは声をかけた。
「ブレーキの調整もしといたんで」
「いつもありがとうね!あなたにやってもらうと早いし丁寧なのよね」
この奥さんはいつもおれを頼ってくれるのだ。奥さんと一緒に喋ってた人も、
「式部くんはよく働くね。真面目だし感心感心♪」
と言ってくれた。
「いやあ、お褒めに預かり光栄光栄♡」
おれがメンテ代を受け取ったときに、奥さんは
「あーそうそう、今日バレンタインだからこれあげるね。ちょっとした感謝の気持ち」
と言って、アーモンドチョコをくれた。
「ありがとう。愛情、しかと受け取ったぜ奥さん」
「こら、大人をからかっちゃダメよ」
決まった。我ながらカッコよかった。
二人と別れた後、ちょうど奥で事務作業をしていた店長が来た。
「お疲れさん。あ、お菓子もらったの?すごいねー、式部の人気は」
店長は笑って言う。ちなみにここの地元の人たちはおれが男と暮らしていることは知ってるけど、あれこれ干渉してこないからありがたい(なにしろおれらは駆け落ちしてきた身だし)。
「そろそろ閉店だね…あと作業やっとくから。あ、式部。これバレンタインのお菓子ね。男があげるのもおかしいかもだけど」
店長は駄菓子の詰め合わせをおれにくれた。わお、おれってモテモテ?!なんてね。
「ありがとうございます!お疲れです!」
バイクに乗って家に戻るとき、おれは上機嫌になって鼻歌交じりになっていた。ローラは葉月博士のとこで元気にやってるかな、沙羅はちゃんと忍になんかあげたかな~といろいろなことを考えながら。
家に着いたとき、亮は夕飯を作っている最中だった。以前食べたいなーと思っていた、シチューのいい香りがする。おれでも作るけど、やはり亮の作るシチューが美味しい。
「今日シチュー?やった♡」
「ああ、風呂沸いてるから入ってこい」
こうして最愛の人が待っているというのは、とても幸せな気分になるものだ。
ふと見ると、玄関に白いバラが5本飾ってあった。亮が買ってきたんだろう。これは中国式バレンタインだ。そして士官学校時代に
「白いバラには本数にも意味があってね、5本だと『あなたに出会えて幸せです』というんだよ」
と教えたのをちゃんと覚えていたんだ、と嬉しくなった。
「亮、きれいだねこのバラ!」
「だろ?雅人にバレンタインのプレゼントだ」
「ありがと!へへ…おれも亮へのプレゼントがあるから夕飯の時あげるね」
「そうか、楽しみだな」
お風呂の時も、浴室におれの歌が響き渡った。あー、亮がどんな反応するかな。楽しみ♪
「はい、ハッピーバレンタイン♡」
亮お手製のホワイトシチューとパン(これも亮の手作りだ)、ほうれん草のお浸し、いちごというメニューの夕飯の時、戸棚に隠してあった手作りチョコを亮に手渡した。
昨日おれが何時間もかけて丹精込めて作ったハート型のチョコだ。
「チョコか?日本式だとこうなんだよな」
「うん、亮でも食べやすいようにカカオ多めのビターにしたから」
「ありがとよ」
「旦那様の好み把握する雅ちゃんはできる奥さんだぜ♪」
亮はくすくすと笑う。あーもーこの笑い声は反則。
最高にクリーミーで亮の愛情感じられるシチューとパン、甘酸っぱくて大きいいちごを堪能し終わったとき、ふと以前見た映画の台詞が突如浮かび、亮にこう言ってみた。
「ねね、亮、チョコにまつわる話があるんだけど」
「ほうれん草ちゃんと食ったら聞いてやる」
まるで子供を躾ける親のような言い草だ。おれは残ってたほうれん草のお浸しに手を付けた。すると亮が作ったからか、思ったよりおいしく感じられた。
あっという間に箸がすすみ、亮はほうと感心した。
「いえい、亮が作ったからおいしく食べれたんだぜ♪ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
おれらはルンルン気分でそそくさと洗い物を済ませると、さっそくもらったお菓子を食べようと思った。
「それでね、こないだ映画で見た台詞なんだけどね、チョコって食べると恋してる気持ちにさせてくれる成分が入ってるんだって♡」
おれは職場でもらったチョコをかじりながら、亮にこう言ってみた(ちゃんと職場で感謝の気持ちとしてもらった、と注釈をつけてね)。
「それってホントか?」
チョコの包みを開け終わった亮が、訝しげに答える。
「ビターでもそうなのかな…」
おれがこう言うと、亮はチョコを手で砕いて一口食べた。
「うめぇ…本当だな」
「へ?」
亮はいきなり立ち上がると、おれを抱き寄せてきた。思わずその勢いでおれも抱かれる。
ちゅ、と音を立てて唇が触れるだけのキスをされた。
「りょ、う、んっ」
少し離れたと思ったらまた口を塞がれた。深く深く、亮の舌が侵入してくる。
「ん…んぅ」
ちゅ、くちゅという音が立ち、おれはなんだか頭がボーっとした。背中をゆっくりと撫でられ、思わずぞくっと感じてしまう。流石に苦しくなって亮の胸を軽く叩くと、ようやく解放された。
「雅人が作ったと思うと愛しくてたまんねぇ、どうしてくれるんだ」
「そう言われても…それ食べて恋してる気分になったの?」
「ああ、雅人のおかげでその成分がよく効いたのかもな。魔法か?」
「そ、そーいうことかな」
「ハート型ってのもまた可愛くてな」
亮は残りのチョコをゆっくり味わいながら呟いた。
バレンタインの本命チョコといったらハート型だと思ったからそうしたんだけど、それがより亮のおれに対する気持ちを高ぶらせたらしい。そしておれも、そんな亮を見て愛おしくて仕方ない。
「亮、恋人の日と言ったら…ね」
「ふっ、珍しく積極的だな」
「なんか、欲が出ちゃった…えへへ」
そう言って交わしたキスは、ビターチョコの味がした。しかし、おれにはとっても甘い甘いキスだった。
結婚を禁じた皇帝の命令に背いて、若い兵士の結婚式を行って処刑された司祭様を祭る日。
バラやアクセサリー、そして甘~いお菓子。恋人たちが愛を確かめ合う素敵な日。そして日本ではいろんな人に感謝の気持ちを伝える日。
発祥はこんなに重いけど、この日を世界中の人々で楽しんだら、きっと司祭様も喜ぶだろうってね。
亮の用心棒の仕事は非番だけど、おれは仕事だ。
でもおれの気分は晴れやかだった。なにしろ、前もって亮にとっておきのチョコを作ってあるんだから。
おれは目の前のバイクを整備し終わった。このバイクの持ち主は店の常連さんで、ツーリングが趣味のこの近所に住んでる奥さんだ。バイクをこよなく愛してるようで、丁寧に扱うからこっちもメンテや修理のし甲斐があるというもんだ。
そして…こんなことを思うと亮に怒られるだろうけど、すっごい美人。
「メンテ終わったよ、奥さん」
ちょうど店のそばで近所の人と立ち話をしてた奥さんに、おれは声をかけた。
「ブレーキの調整もしといたんで」
「いつもありがとうね!あなたにやってもらうと早いし丁寧なのよね」
この奥さんはいつもおれを頼ってくれるのだ。奥さんと一緒に喋ってた人も、
「式部くんはよく働くね。真面目だし感心感心♪」
と言ってくれた。
「いやあ、お褒めに預かり光栄光栄♡」
おれがメンテ代を受け取ったときに、奥さんは
「あーそうそう、今日バレンタインだからこれあげるね。ちょっとした感謝の気持ち」
と言って、アーモンドチョコをくれた。
「ありがとう。愛情、しかと受け取ったぜ奥さん」
「こら、大人をからかっちゃダメよ」
決まった。我ながらカッコよかった。
二人と別れた後、ちょうど奥で事務作業をしていた店長が来た。
「お疲れさん。あ、お菓子もらったの?すごいねー、式部の人気は」
店長は笑って言う。ちなみにここの地元の人たちはおれが男と暮らしていることは知ってるけど、あれこれ干渉してこないからありがたい(なにしろおれらは駆け落ちしてきた身だし)。
「そろそろ閉店だね…あと作業やっとくから。あ、式部。これバレンタインのお菓子ね。男があげるのもおかしいかもだけど」
店長は駄菓子の詰め合わせをおれにくれた。わお、おれってモテモテ?!なんてね。
「ありがとうございます!お疲れです!」
バイクに乗って家に戻るとき、おれは上機嫌になって鼻歌交じりになっていた。ローラは葉月博士のとこで元気にやってるかな、沙羅はちゃんと忍になんかあげたかな~といろいろなことを考えながら。
家に着いたとき、亮は夕飯を作っている最中だった。以前食べたいなーと思っていた、シチューのいい香りがする。おれでも作るけど、やはり亮の作るシチューが美味しい。
「今日シチュー?やった♡」
「ああ、風呂沸いてるから入ってこい」
こうして最愛の人が待っているというのは、とても幸せな気分になるものだ。
ふと見ると、玄関に白いバラが5本飾ってあった。亮が買ってきたんだろう。これは中国式バレンタインだ。そして士官学校時代に
「白いバラには本数にも意味があってね、5本だと『あなたに出会えて幸せです』というんだよ」
と教えたのをちゃんと覚えていたんだ、と嬉しくなった。
「亮、きれいだねこのバラ!」
「だろ?雅人にバレンタインのプレゼントだ」
「ありがと!へへ…おれも亮へのプレゼントがあるから夕飯の時あげるね」
「そうか、楽しみだな」
お風呂の時も、浴室におれの歌が響き渡った。あー、亮がどんな反応するかな。楽しみ♪
「はい、ハッピーバレンタイン♡」
亮お手製のホワイトシチューとパン(これも亮の手作りだ)、ほうれん草のお浸し、いちごというメニューの夕飯の時、戸棚に隠してあった手作りチョコを亮に手渡した。
昨日おれが何時間もかけて丹精込めて作ったハート型のチョコだ。
「チョコか?日本式だとこうなんだよな」
「うん、亮でも食べやすいようにカカオ多めのビターにしたから」
「ありがとよ」
「旦那様の好み把握する雅ちゃんはできる奥さんだぜ♪」
亮はくすくすと笑う。あーもーこの笑い声は反則。
最高にクリーミーで亮の愛情感じられるシチューとパン、甘酸っぱくて大きいいちごを堪能し終わったとき、ふと以前見た映画の台詞が突如浮かび、亮にこう言ってみた。
「ねね、亮、チョコにまつわる話があるんだけど」
「ほうれん草ちゃんと食ったら聞いてやる」
まるで子供を躾ける親のような言い草だ。おれは残ってたほうれん草のお浸しに手を付けた。すると亮が作ったからか、思ったよりおいしく感じられた。
あっという間に箸がすすみ、亮はほうと感心した。
「いえい、亮が作ったからおいしく食べれたんだぜ♪ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
おれらはルンルン気分でそそくさと洗い物を済ませると、さっそくもらったお菓子を食べようと思った。
「それでね、こないだ映画で見た台詞なんだけどね、チョコって食べると恋してる気持ちにさせてくれる成分が入ってるんだって♡」
おれは職場でもらったチョコをかじりながら、亮にこう言ってみた(ちゃんと職場で感謝の気持ちとしてもらった、と注釈をつけてね)。
「それってホントか?」
チョコの包みを開け終わった亮が、訝しげに答える。
「ビターでもそうなのかな…」
おれがこう言うと、亮はチョコを手で砕いて一口食べた。
「うめぇ…本当だな」
「へ?」
亮はいきなり立ち上がると、おれを抱き寄せてきた。思わずその勢いでおれも抱かれる。
ちゅ、と音を立てて唇が触れるだけのキスをされた。
「りょ、う、んっ」
少し離れたと思ったらまた口を塞がれた。深く深く、亮の舌が侵入してくる。
「ん…んぅ」
ちゅ、くちゅという音が立ち、おれはなんだか頭がボーっとした。背中をゆっくりと撫でられ、思わずぞくっと感じてしまう。流石に苦しくなって亮の胸を軽く叩くと、ようやく解放された。
「雅人が作ったと思うと愛しくてたまんねぇ、どうしてくれるんだ」
「そう言われても…それ食べて恋してる気分になったの?」
「ああ、雅人のおかげでその成分がよく効いたのかもな。魔法か?」
「そ、そーいうことかな」
「ハート型ってのもまた可愛くてな」
亮は残りのチョコをゆっくり味わいながら呟いた。
バレンタインの本命チョコといったらハート型だと思ったからそうしたんだけど、それがより亮のおれに対する気持ちを高ぶらせたらしい。そしておれも、そんな亮を見て愛おしくて仕方ない。
「亮、恋人の日と言ったら…ね」
「ふっ、珍しく積極的だな」
「なんか、欲が出ちゃった…えへへ」
そう言って交わしたキスは、ビターチョコの味がした。しかし、おれにはとっても甘い甘いキスだった。