亮と雅人が同棲する話

「…あちゃー…」
窓の外がオレンジ色から夜の色に染まろうとしている時、キッチンで見るも無残な形になったゆで卵を前におれは呟いた。
今日は亮が久しぶりに早めに帰れるとのことで、お疲れだろうからスタミナが付く回鍋肉と、亮の好きなゆで卵の入ったサラダ、豆腐とわかめの味噌汁を作って待っていようと思った。
今晩の料理は、我ながらいい出来だと思う。ご飯ももうすぐ炊けるし。ただ…ゆで卵を除いては。
本来ならば、ゆで卵二つを綺麗に輪切りにしてサラダを彩りよくするつもりだったのに、おれとしたことが茹でてる途中で割ってしまって、白身が飛び出してしまったんだ。あろうことか、二つとも。
形は歪だけど、食べられるゆで卵。こういうときは…ミモザサラダにしちゃえばいいんだ。そう思いなおし、卵を茹でてた鍋に水を入れて冷やし粗熱を取り、注意深く殻を剥いた。何しろ形がアレだから、慎重に剥かないと。
黄身と白身にわけてみじん切りにし、サラダの真ん中に白身、黄身の順にのせてドレッシングを回しかける。うんうん、当初の予定とは違ったけど、綺麗にできたと思う。
それと同時に、玄関からガチャっと音がした。亮が帰って来たんだ。
おれはエプロン姿のまま、玄関に向かった。
「おかえりなさい、アナタ♡今ご飯できたとこだけど、ご飯にする?それともお風呂?」
亮はおれの顔を見るなり、自然と笑みがこぼれる。それはおれも同じだ。
「ただいま、雅人。じゃあ飯にするか」
「いえい、ちょうどお腹空いたと思ってね」

やがてテーブルに並んだのは、野菜もお肉もたっぷりな回鍋肉、亮の好きな豆腐とわかめの味噌汁、炊き立てのつやつやな白いご飯、そして予定外だけどカラフルなトマトとレタスとパプリカのミモザサラダだ。
「あ、このサラダ」
いつもの部屋着の亮が呟く。
「あ、ごめん…それね、輪切りにしたゆで卵のせようと思ったら、途中で割れちゃってね」
「誰にだって失敗はあるさ。それよりこれ、花畑みたいで綺麗じゃねぇか」
確かに緑をベースに赤、黄色、白とお花がいっぱい咲いてるようにも見えたけど、普通はこんな誉め言葉思いつかないと思う。こういうことをさらりと言える亮は、やはりおれの王子様だ。なんか「花畑みたいで」って表現も王子様っぽいなと感じて、おれはつい笑みがこぼれた。
「味は変わらないと思うけど…早速食べようか。いただきます」
「ああ、いただきます」
静かな部屋に食器の触れ合う音が響く。
亮は落ち着いた仕草でサラダを口にした。
「爽やかで美味い」
「食べづらくないかな」
「いや?そんなに変わらないな」
どうかなと思ったので、この感想はありがたい。
回鍋肉と味噌汁は疲れた体にしみるのか、亮の箸がどんどん進む。
「だいぶ料理上達したな。元から上手だが」
「えへへ…ありがと。亮」
「何だ?」
「やっぱおれの手料理をおれと食べると美味しい?」
「ああ、もちろんだ。昼休みに食う愛妻弁当も美味いがな」
「愛『妻』ね…」
もう同棲してる仲なのに、この表現には照れと笑いがこみ上げる。
食べ終えた後(今日も完食だ)の、後片付けの時間も亮と一緒だと心地よいし、めんどくさいと感じない。
たとえ料理が特別なメニューとかじゃなくても、怪我の功名だったとしても、大切な人と食べるご飯とそこで交わす会話、そしてそこで穏やかに流れる時間こそ何より一番のご馳走だなとおれは改めて思ったのだった。
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