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SilverAsh*Courier

「アーミヤはともかく、ケルシーからも贈られるとは……」
 薬でも盛られているかもしれないな、と戯けながらシルバーアッシュは包みを解いている。
「もしケルシー先生が旦那様を害するつもりであれば、もっと上手くやると思いますよ」
 大真面目に答えると、主人はふ、とわらった。冗談に乗ってもよいのだが、ここはロドス・アイランド。誰が聞いているかもわからない。
 そもそも、バレンタインデーに取引先やら顧客やらに配るためのチョコレートを発注したのはクロージャで、龍門で人気のあるショコラトリーから納品された段ボールを検品しそれぞれの執務室まで届けたのはクーリエ自身だ。ピンクのハートと小鳥たちのモチーフで飾られた可愛らしい小箱も、リボンすらついていないシンプルな金属のケースも本人のチョイスではない。だが、ロドスの幹部である彼女達が手渡すチョコレートに意味があるのだ、野暮は言うまい。
 アーミヤもケルシーも目の前の仕事に忙しくバレンタインデーにまで気が回らないだろう。無論個人的に贈りたい相手でもいれば別ではあるが。
 しかし、そんなお相手はいるのでしょうかね。などとぼんやり考えていると目の前に影が落ちた。顔を上げると口元に一粒差し出される。
「毒味を頼む」
 そう言われては断れず、クーリエはそっと口を開けた。放り込まれたチョコレートはすぐにとろりと甘さとほろ苦さを主張する。
「美味いか?」
「ええ、おいしいですよ。何かの酒が入っていて旦那様もお気に召すかと——」
 そうかと口端を上げたシルバーアッシュはおもむろにクーリエのくちびるを塞いだ。そうしてゆっくりと味わうように口内を掻き回す。クーリエは抵抗もしないが、応えもしない。それが気に食わないのか最後に舌先を何度か噛まれたのちにようやく開放される。
「全く……場を弁えてください! 第一同じものがそこにあと五つもありますよ!」
 息を整えながらクーリエが抗議するがどこ吹く風。
「お前が美味いと言ったものを味わいたかっただけだ」
「誰かに見られてたらどうするんですか……」
 いや間違いなく見られていたのだ。声にならない悲鳴が複数、主人にも聞こえていたはずなのに。へなりと耳を垂れたクーリエは気が付いていない。
 ——これがシルバーアッシュの牽制であることに。
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