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テーマ「切符」
登場オペレーター クリフハート、シルバーアッシュ、マッターホルン
※過去捏造と本名表記注意
「あー裾がまた引っかかっちゃったあ!」
長い丈のスカートは滅多に履かないから動きづらい。いくらスイートルームとはいってもここは列車の中。ちょっと動くたびに挟まったり引っかかったり。あたしはちょっとイライラしていた。
「エンシア、少しは大人しくできないのか」
お兄ちゃんは読んでいる本から目も上げずに言う。あたしはぷうと頬を膨らませたけど、気を取り直して窓際に誘った。
「お兄ちゃん、せっかくいい景色なのに本読んでるなんてもったいないよ。こっち来て見ようよー! あっ……」
今度は自分で裾を踏んでしまった。それでもこの服を脱がないのは「ドレスの一枚も持ってきていないのか」と呆れたお兄ちゃんが買ってくれたから。それにもう少ししたら食堂車でディナーの時間だからそれまではレディーでいたい。今日は無理にドレスアップしなくていいんだけど、そういう気分。
一昨日はヴィクトリアに一泊して、市街地の夜景を見下ろせるレストランに行った。あのステーキは美味しかったなあ。お兄ちゃんと一緒にこんな遠くに出かけるのは初めてであたしはずっとはしゃいでいた。お姉ちゃんも一緒だったらよかったのに。心の中でだけ、呟いた。
コンコンとノックのあとヤーカおじさんの声がした。
「旦那様、切符の確認だそうです」
「ああ、わかった」
お兄ちゃんが鞄から取り出した封筒をさっと奪い取る。この中のどれかがこの列車の切符。お兄ちゃんはお前はどうにも手癖が悪いな、と苦笑いしている。うちにいる時よりなんだか優しくて昔のお兄ちゃんみたいだった。
最初に取り出した一枚は日付から違う。切符の内容を確認して。あたしはそれを裏返しにして封筒に戻した。
ようやく目的の切符を見つけて、ドアの外のヤーカおじさんに渡す。
「はい、これね」
「ありがとうございます……エンシアお嬢様?」
ヤーカおじさんがあたしの顔をじっと見た。
「お嬢様、少し顔色が良くないですよ。乗り物酔いですか?」
「やだなあ、そんなことないってば。ほらライトのせいだよ」
「そうですか、具合が悪かったらすぐに知らせてくださいよ」
この場はなんとか誤魔化したけど、声はいつもどおり出せていたかな。
ヤーカおじさんがスタンプの押された切符を返してくれてもあたしは席に戻れずにいた。
もう一度、さっきの切符を取り出す。
それは列車ではなく乗合の飛行装置の切符。それにはお兄ちゃんの名前だけが書かれている。
そうだ、あたしはロドス・アイランドへ入院するために雪境を出たんだった。わかってたはずなんだけど、もう少し、あとちょっとだけ、ただの旅行だって思っていたかったな……。
「エンシア? どうかしたのか?」
お兄ちゃんがあたしを呼んだ。
「なんでもなーい!」
せっかくの兄妹旅行なんだから、落ち込んでる暇なんてない。お兄ちゃんは何も言わないけど、きっとあたしのために時間のかかる陸路の旅を用意してくれたんだから。
登場オペレーター クリフハート、シルバーアッシュ、マッターホルン
※過去捏造と本名表記注意
「あー裾がまた引っかかっちゃったあ!」
長い丈のスカートは滅多に履かないから動きづらい。いくらスイートルームとはいってもここは列車の中。ちょっと動くたびに挟まったり引っかかったり。あたしはちょっとイライラしていた。
「エンシア、少しは大人しくできないのか」
お兄ちゃんは読んでいる本から目も上げずに言う。あたしはぷうと頬を膨らませたけど、気を取り直して窓際に誘った。
「お兄ちゃん、せっかくいい景色なのに本読んでるなんてもったいないよ。こっち来て見ようよー! あっ……」
今度は自分で裾を踏んでしまった。それでもこの服を脱がないのは「ドレスの一枚も持ってきていないのか」と呆れたお兄ちゃんが買ってくれたから。それにもう少ししたら食堂車でディナーの時間だからそれまではレディーでいたい。今日は無理にドレスアップしなくていいんだけど、そういう気分。
一昨日はヴィクトリアに一泊して、市街地の夜景を見下ろせるレストランに行った。あのステーキは美味しかったなあ。お兄ちゃんと一緒にこんな遠くに出かけるのは初めてであたしはずっとはしゃいでいた。お姉ちゃんも一緒だったらよかったのに。心の中でだけ、呟いた。
コンコンとノックのあとヤーカおじさんの声がした。
「旦那様、切符の確認だそうです」
「ああ、わかった」
お兄ちゃんが鞄から取り出した封筒をさっと奪い取る。この中のどれかがこの列車の切符。お兄ちゃんはお前はどうにも手癖が悪いな、と苦笑いしている。うちにいる時よりなんだか優しくて昔のお兄ちゃんみたいだった。
最初に取り出した一枚は日付から違う。切符の内容を確認して。あたしはそれを裏返しにして封筒に戻した。
ようやく目的の切符を見つけて、ドアの外のヤーカおじさんに渡す。
「はい、これね」
「ありがとうございます……エンシアお嬢様?」
ヤーカおじさんがあたしの顔をじっと見た。
「お嬢様、少し顔色が良くないですよ。乗り物酔いですか?」
「やだなあ、そんなことないってば。ほらライトのせいだよ」
「そうですか、具合が悪かったらすぐに知らせてくださいよ」
この場はなんとか誤魔化したけど、声はいつもどおり出せていたかな。
ヤーカおじさんがスタンプの押された切符を返してくれてもあたしは席に戻れずにいた。
もう一度、さっきの切符を取り出す。
それは列車ではなく乗合の飛行装置の切符。それにはお兄ちゃんの名前だけが書かれている。
そうだ、あたしはロドス・アイランドへ入院するために雪境を出たんだった。わかってたはずなんだけど、もう少し、あとちょっとだけ、ただの旅行だって思っていたかったな……。
「エンシア? どうかしたのか?」
お兄ちゃんがあたしを呼んだ。
「なんでもなーい!」
せっかくの兄妹旅行なんだから、落ち込んでる暇なんてない。お兄ちゃんは何も言わないけど、きっとあたしのために時間のかかる陸路の旅を用意してくれたんだから。
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