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そうしてお互い反対方向を向いて歩いていく。
その時こちらを振り返った彼女の顔がやっと見えて一瞬心臓が止まったかのような感覚に陥る。かと思えばバクバクと騒ぎ出した心臓になんだこれはと思う千切。




これだけ待ち遠しく思っていた彼女の顔はほんのり赤く染まっていて本当にこの世のものなのかと思うほどの造形美。美人とも可愛いともとれるそんな顔を見た瞬間何かを伝えるように騒ぎ出した心臓にまさかそんな訳があるかと否定する。





「すっごい綺麗な子、千切も見えた？……って、顔超赤いけど大丈夫？」




「は？…いや、何でも。つか、なんだよあれ、潔俺らに秘密であんな子と会ってたってことかよ、薄情な奴だよな、教えてくれたっていいのにさ。」





指摘されるほどに赤くなっているのかと急に恥ずかしくなった千切が誤魔化すように言葉をつむぎ、同意を求めようと話せば確かにーといつも通りの蜂楽に、顔を隠すように片手で覆っている國神。その手の隙間から見える赤に、ああそういうことかと察した。




大方さっき自分たちよりも先に彼女の顔が見えたのであろう國神は思わず見惚れてぼーっとしていたのだろう。加えて先程見えた照れたような彼女の顔にカウンターパンチでも食らわせられたと言った所か。確かに國神が好きそうなタイプだと、短い間柄ながらにもそう思った。




では自分はどうなのだろうか。綺麗だし可愛くもあるけれどタイプかと言われるとそうでも無い。でもなぜだか気になるし、さっきの顔を思い出すとまた暴れ出す心臓。別にタイプでもないのにどうして。そんな、わけもわからぬ感情。




また会えばこれが何なのかわかるのだろうか。




そんなことを約数時間前に思っていたというのになんだこの状況は。




もくもくと漂う白い湯気。水の跳ねる音と暖かい空気。




千切豹馬は何故か昼時に目にしたばかりの遥と肩を並べ大浴場の湯船に浸かっていた。




『千切子さんはここにきてもう長いんですか？』




「え、ええ、そうですね」




『なんだそうなんですねー、私女の子は私とアンリさんだけだって聞いてたから心細かったんです、アンリさんはなかなか会えないし、女の子と話す機会も全然なかったから本当によかった千切子さんがいて』




満面の笑みを浮かべて千切を女だと思って疑わない遥と、いや千切子さんって誰だよと自分で自分に思いながら顔をひきつらせる千切。