.




「あれ、誰かいるっぽいけど」




「ん？本当だ、誰だ大浴場であんなとこ使ってんの、珍しいな。」




「あー、俺だから気にすんなー」




「なーんだお嬢か」




「なんでそんなとこでシャワー浴びてんだお前」




「そういう気分なの、放っとけって」




何だよ放っておいてくれればいいのにうるさい奴らだな。自分の計画が邪魔されて全てが無になってしまったこともあってか少し苛立ち気味な千切。
あのまま順調に行ってくれれば自分が男だとバレることもなかったのにアイツらと来たら本当にタイミングが悪い。




遥は大丈夫かと下を見れば顔を赤くさせた遥が何故かこちらを見上げていて、思ってもいなかった顔に驚いて思わず顔を手で覆いたくなったが彼女を抱き上げているのでそれも叶わず、恥ずかしいながらも遥と目を合わせる。




なんでこんな可愛い表情させてんだ、こんな状況で。





咄嗟に思いついた案はとてもいいものだったと思う。たまたま個室のシャワールームを見つけてそこに遥を連れて逃げ込もうと思った。でもそのシャワールームは足元が見えるようになっているもので、二人一緒にそこに入っていることがバレてはいけないならこうして抱っこして足が見えないようにするしかなかったのだ。加えて不自然さを無くすためにシャワーも流したが、それによって張り付いた遥の身体を隠すバスタオルが綺麗な身体を縁どっていて目のやり場にとても困った。




どうしてこんな修行僧のような目に遭わなければならないのか。精神を鍛えるための試練かなにかか？




目の前にこんなにも可愛くていい身体をした女がほぼ裸体で、しかも密着しているというのになんの手を出すことも叶わない。




と、そこまで思った千切がパタリと思考を止める。




どうして今自分はそんなことを思ってしまったのだろうか。




自分はそりゃあ女の裸体に興奮することはあれど好きだと思ってもいない人に手を出したいだとか抱きたいだとか今まで思ったことなどなかったのに。




それじゃあまるで、自分はこの人が好きだと思っているようなものだ。




そう思うと何故か心のざわつきも感じていた苛立ちも薄れていって、今目の前にいるこの女が愛しいという思いに包まれていく。