11月~落葉の感傷~
*オリキャラの名前はある漫画のキャラから借用しております。
「力強く、真っ直ぐに~♪ カミツレのように~♪」
寮の部屋で、郁の歌声が響いている。
柴崎は苦笑しながら「また苦情が来ちゃうわよ?」と注意した。
顔馴染みの高校生、大河と悠馬に作詞を頼まれた郁。
つい最近まではああでもない、こうでもないと四苦八苦していた。
それでも何とか詩を作り上げ、2人の渡した。
そして先日、大河から「曲ができました!」と報告が来たのだ。
大喜びの郁は、もらったディスクで何度もその曲を聞いていた。
「カッコいい曲に仕上がったわね。」
「でしょ?歌ってる子の声もいいよね~!」
寮の部屋で、柴崎も聞かせてもらった。
正直なところ、郁の詩だけなら少々痒いポエムにも見えなくない。
だがアップテンポのリズムに乗せて、パワフルな女性ボーカルがつけば変わる。
聞いているだけで元気になるような楽曲になるから、不思議なものだ。
「ホントに、すごい!」
郁はわかりやすく感動したようだ。
柴崎は「そうね」と素直に頷く。
自分の詩が曲になるなんて、それはきっと不思議な感覚なのだろう。
それから郁は部屋にいるときは、エンドレスでその曲を再生させていた。
すぐに口ずさむようになったのは、必然だろう。
堂上班の面々には、鳥頭のお前がよく覚えたなと揶揄われたらしい。
だが柴崎は驚かない。
部屋でこれだけ聞いていれば、嫌でも覚えるだろう。
「また苦情が来ちゃうわよ?」
柴崎はもはや全力で熱唱する郁に、声をかけた。
実は隣の部屋から、苦笑混じりのクレームが度々入っているのだ。
だが郁としては、まったくの無意識らしい。
キョトンとした表情で「え?歌ってた?」と首を傾げている。
「ダダ漏れもここまで来ると一級品ねぇ。」
「そうかなぁ?」
「次の昇任試験の時には、筆記試験の範囲を全部メロディに乗せたらいいんじゃない?」
「なんかディスられてる気がするんだけど」
やや不機嫌になった郁に、柴崎は「そんなことないわよ~」と笑って見せた。
良く言えば素直な、悪く言えば単純な。
それは柴崎にはない個性であり、これをイジるのが大好きだ。
だけどこれ以上機嫌を損ねられても困るので「ところで」と話題を変えた。
「明日はついに引継ぎでしょう?」
「あ、そうだね。」
「忘れてたの?」
「お、覚えてましたとも!」
郁は慌てて胸を張るが、おそらく忘れていたのは明白だ。
明日、郁は業務部の会議に参加する。
郁が士長昇任試験で行なった「葉っぱのパズル」。
それを正式に、業務部の担当者に引き継ぐことになっていた。
「でもまぁ、特に準備することもないしなぁ」
「まぁね。むしろ準備が必要なのは、引継ぎを受ける側だもんね。」
「黒木士長ってどんな子?」
「あんたまさか、顔を覚えてないんじゃないでしょうね?」
「顔はわかるよ!でもほとんど話したことがないんだもん!」
郁の企画を引き継ぐのは、業務部の黒木杏奈。
柴崎たちより1年後輩の士長だ。
配属は武蔵野第一図書館だが、自宅通勤で寮にはいない。
だから郁が顔と名前くらいしかわからないのは、無理のないことではあった。
「優秀よ。あの代では士長にトップ昇任した1人だし。」
「へぇぇ」
「やる気もあるわ」
「この企画の引継ぎに手を上げてくれたんだもんね。」
柴崎が「でも」と言いかけた時、郁のスマートフォンが鳴った。
郁がすかさず画面をチェックする。
どうやらメールのようだ。
文面を読んだ郁は「すごい!」と目を輝かせた。
「大河たち、の第一次審査通ったって!」
「ああ。どっかの事務所のオーディションに曲を送ったって言ってたわね!」
「プロのミュージシャンになるのかなぁ?」
「まだ第一次審査でしょう?気が早いわよ。」
柴崎はツッコミを入れながら、こっそりとため息をついた。
引継ぎの話の肝心な部分が、ぶった切られた形になったからだ。
別に黒木士長に問題があるわけではない。
だが郁とは相性が良いとは思えないタイプなのが気がかりだった。
「今のうちに、大河たちにサインをもらっておいたら?」
柴崎はウキウキと浮かれる郁に、そう言った。
引継ぎの件に柴崎がとやかく言うのは、過保護というものだ。
それに何だかんだでいろいろな乗り換えてきた郁のこと。
この程度のことで、今さら揺らぐこともないだろう。
「力強く、真っ直ぐに~♪ カミツレのように~♪」
寮の部屋で、郁の歌声が響いている。
柴崎は苦笑しながら「また苦情が来ちゃうわよ?」と注意した。
顔馴染みの高校生、大河と悠馬に作詞を頼まれた郁。
つい最近まではああでもない、こうでもないと四苦八苦していた。
それでも何とか詩を作り上げ、2人の渡した。
そして先日、大河から「曲ができました!」と報告が来たのだ。
大喜びの郁は、もらったディスクで何度もその曲を聞いていた。
「カッコいい曲に仕上がったわね。」
「でしょ?歌ってる子の声もいいよね~!」
寮の部屋で、柴崎も聞かせてもらった。
正直なところ、郁の詩だけなら少々痒いポエムにも見えなくない。
だがアップテンポのリズムに乗せて、パワフルな女性ボーカルがつけば変わる。
聞いているだけで元気になるような楽曲になるから、不思議なものだ。
「ホントに、すごい!」
郁はわかりやすく感動したようだ。
柴崎は「そうね」と素直に頷く。
自分の詩が曲になるなんて、それはきっと不思議な感覚なのだろう。
それから郁は部屋にいるときは、エンドレスでその曲を再生させていた。
すぐに口ずさむようになったのは、必然だろう。
堂上班の面々には、鳥頭のお前がよく覚えたなと揶揄われたらしい。
だが柴崎は驚かない。
部屋でこれだけ聞いていれば、嫌でも覚えるだろう。
「また苦情が来ちゃうわよ?」
柴崎はもはや全力で熱唱する郁に、声をかけた。
実は隣の部屋から、苦笑混じりのクレームが度々入っているのだ。
だが郁としては、まったくの無意識らしい。
キョトンとした表情で「え?歌ってた?」と首を傾げている。
「ダダ漏れもここまで来ると一級品ねぇ。」
「そうかなぁ?」
「次の昇任試験の時には、筆記試験の範囲を全部メロディに乗せたらいいんじゃない?」
「なんかディスられてる気がするんだけど」
やや不機嫌になった郁に、柴崎は「そんなことないわよ~」と笑って見せた。
良く言えば素直な、悪く言えば単純な。
それは柴崎にはない個性であり、これをイジるのが大好きだ。
だけどこれ以上機嫌を損ねられても困るので「ところで」と話題を変えた。
「明日はついに引継ぎでしょう?」
「あ、そうだね。」
「忘れてたの?」
「お、覚えてましたとも!」
郁は慌てて胸を張るが、おそらく忘れていたのは明白だ。
明日、郁は業務部の会議に参加する。
郁が士長昇任試験で行なった「葉っぱのパズル」。
それを正式に、業務部の担当者に引き継ぐことになっていた。
「でもまぁ、特に準備することもないしなぁ」
「まぁね。むしろ準備が必要なのは、引継ぎを受ける側だもんね。」
「黒木士長ってどんな子?」
「あんたまさか、顔を覚えてないんじゃないでしょうね?」
「顔はわかるよ!でもほとんど話したことがないんだもん!」
郁の企画を引き継ぐのは、業務部の黒木杏奈。
柴崎たちより1年後輩の士長だ。
配属は武蔵野第一図書館だが、自宅通勤で寮にはいない。
だから郁が顔と名前くらいしかわからないのは、無理のないことではあった。
「優秀よ。あの代では士長にトップ昇任した1人だし。」
「へぇぇ」
「やる気もあるわ」
「この企画の引継ぎに手を上げてくれたんだもんね。」
柴崎が「でも」と言いかけた時、郁のスマートフォンが鳴った。
郁がすかさず画面をチェックする。
どうやらメールのようだ。
文面を読んだ郁は「すごい!」と目を輝かせた。
「大河たち、の第一次審査通ったって!」
「ああ。どっかの事務所のオーディションに曲を送ったって言ってたわね!」
「プロのミュージシャンになるのかなぁ?」
「まだ第一次審査でしょう?気が早いわよ。」
柴崎はツッコミを入れながら、こっそりとため息をついた。
引継ぎの話の肝心な部分が、ぶった切られた形になったからだ。
別に黒木士長に問題があるわけではない。
だが郁とは相性が良いとは思えないタイプなのが気がかりだった。
「今のうちに、大河たちにサインをもらっておいたら?」
柴崎はウキウキと浮かれる郁に、そう言った。
引継ぎの件に柴崎がとやかく言うのは、過保護というものだ。
それに何だかんだでいろいろな乗り換えてきた郁のこと。
この程度のことで、今さら揺らぐこともないだろう。