9月~運動を始めましょう~
*オリキャラの名前はある漫画のキャラから借用しております。
「お疲れ様でした!皆さん忘れないように、しっかり家でも続けて下さいね!」
郁は締めとばかりに声を張った。
これで9月の企画は全て終了、郁は安堵と充実感で高揚していた。
9月、まだまだ残暑は続くものの、朝晩はそれなりに過ごしやすくなってきた。
そしてあれほど毎日賑やかだった図書館も静かになった。
子供たちの夏休みが終わったからだ。
郁はそれを少々寂しいと思う。
だが業務部にホッとした空気が流れるのも、無理からぬことだ。
そんな中、郁の9月の企画が実施された。
今回は「正しいラジオ体操」だ。
誰もが学校などでやったことがあるラジオ体操。
それをわざわざやろうというのだ。
当然企画書を見た多くの者が「今さら?」と思った。
だが郁にすれば、もちろん真剣に考えた上でのことだ。
昨年の9月の本の貸し出しの記録をよく見ると、微妙に増えているジャンルがある。
それはストレッチやヨガなどの入門書だ。
地味に人気があるジャンルではあるのだが、9月と3月に予約待ちが増えるのだ。
それに気付いた郁は、さらにその前年も調べた。
するとやはり同じ傾向が見えたのである。
おそらく暑い8月や寒い2月のせいなのだと、察しをつけた。
猛暑や極寒では、どうしてもエアコンが効いた室内でじっとしていることが多くなる。
その反動で、動きやすくなった9月や3月に身体を動かそうと思うのだろうと。
そこで郁は、何か身体を動かす企画をやろうと考えたのである。
お金をかけて、ジムなどに通う人はいる。
だが図書館で入門書を借りる人は、そこまでしようとは思っていない。
つまりお金をかけずに、身体を動かしたいのである。
そういう人たち向けに、ヨガやストレッチよりも入りやすい運動。
そこで行き着いたのが、ラジオ体操だ。
バカにする人もいるかもしれないが、しっかりやればなかなかの全身運動になる。
そこで運動初心者に向けて「超入門編」として企画し、採用された。
場所は、防衛部が訓練で使う道場。
もちろん講師役は、郁が自ら行う。
そして人数は1回6名として、何回も開催する形を取った。
正しいやり方を覚えてもらうためには、しっかりチェックする必要がある。
それに対象は運動初心者だから、無理をしてケガをするのも避けなければならない。
そうなると、少人数でなければ目が届かないのだ。
そして最後の教室(?)を終えた郁は「お疲れ様でした!」と声を張った。
受講した利用者たちは「ありがとうございました」と頭を下げて、出ていく。
それらの1人1人に丁寧に挨拶を返した郁は「よし!」と拳を握った。
正直なところ評価はわからない。
だが参加してくれた利用者たちが笑顔だったから、郁としては万事OKだ。
最後に忘れ物などを確認して、郁は道場を出た。
「笠原。お疲れ!」
終了報告のために業務部の事務所に向かう郁は、女子隊員が声をかけてきた。
郁と同期で防衛部の梅本幸子だ。
気の良いカラッとした性格で、査問のときにも普通に接してくれた。
郁としては心許せる仲間の1人だった。
「今日で最後だったんでしょ?ラジオ体操!」
「うん。無事に終わったよ!」
「おめでとう・・・でいいのかな?」
「わかんない。でもまぁありがとう!」
梅本も同じ方向に行くらしく、ごく自然に隣に並んだ。
郁は自分より約10センチ背が低い梅本を盗み見る。
何だか少し太った気がする。
だけどそんなデリケートな話はしない。
同じ年齢で同じ寮生、しかも同じ防衛方なら他の話題にも事欠かないし。
「にしても、笠原が羨ましいなぁ。」
「そう?あたしなんか図書隊員としては未熟で怒られてばかりなのに!」
「でも特殊部隊は利用者と接する機会はあるじゃない。」
「そっか。梅本は業務部志望だったんだもんね。」
郁は申し訳ないような気分になった。
梅本は元々業務部を希望していたが、学生時代に運動部だったことを買われて防衛部になった。
これは決して珍しい話ではない。
むしろ女性隊員としては、最初から防衛方志望の郁の方が変わり種なのだ。
「あたし、図書館のお姉さんになるのが夢だったんだよな~」
「異動願とか出してるの?」
「うん。でも全然。やっぱり先輩からになっちゃうからね。」
「いずれは移れるんじゃない?」
「でもいつになることか。おかげで毎晩ヤケ酒が進んで、最近太っちゃってさぁ!」
梅本は郁が避けた話題をあっさりと口にして、豪快に笑った。
同意していいものか、どうか。
迷っているうちに、梅本は「じゃあ!」と防衛部庁舎の方へ向かう。
郁はホッと安堵すると、足早に歩き出した。
あたしって、ラッキーなんだなぁ。
郁は今さらのようにそう思った。
本を守るために戦うことと、利用者と接すること。
特殊部隊はその両方ができる唯一の部署なのだ。
そこで信頼できる仲間に囲まれ、尊敬する上官に指導してもらえる。
これこそ図書隊員として、最高の幸運だ。
郁は業務部で企画の終了を伝えると、そそくさと退出した。
企画の報告書をまとめて堂上に提出すれば、9月の企画は終わりだ。
早くそれをして、頭をなでてもらいたい。
いささか私情に走り過ぎている気がするけれど、それくらいは許してもらおう。
郁は軽やかな足取りで、堂上が待つ特殊部隊庁舎へ急いだのだった。
「お疲れ様でした!皆さん忘れないように、しっかり家でも続けて下さいね!」
郁は締めとばかりに声を張った。
これで9月の企画は全て終了、郁は安堵と充実感で高揚していた。
9月、まだまだ残暑は続くものの、朝晩はそれなりに過ごしやすくなってきた。
そしてあれほど毎日賑やかだった図書館も静かになった。
子供たちの夏休みが終わったからだ。
郁はそれを少々寂しいと思う。
だが業務部にホッとした空気が流れるのも、無理からぬことだ。
そんな中、郁の9月の企画が実施された。
今回は「正しいラジオ体操」だ。
誰もが学校などでやったことがあるラジオ体操。
それをわざわざやろうというのだ。
当然企画書を見た多くの者が「今さら?」と思った。
だが郁にすれば、もちろん真剣に考えた上でのことだ。
昨年の9月の本の貸し出しの記録をよく見ると、微妙に増えているジャンルがある。
それはストレッチやヨガなどの入門書だ。
地味に人気があるジャンルではあるのだが、9月と3月に予約待ちが増えるのだ。
それに気付いた郁は、さらにその前年も調べた。
するとやはり同じ傾向が見えたのである。
おそらく暑い8月や寒い2月のせいなのだと、察しをつけた。
猛暑や極寒では、どうしてもエアコンが効いた室内でじっとしていることが多くなる。
その反動で、動きやすくなった9月や3月に身体を動かそうと思うのだろうと。
そこで郁は、何か身体を動かす企画をやろうと考えたのである。
お金をかけて、ジムなどに通う人はいる。
だが図書館で入門書を借りる人は、そこまでしようとは思っていない。
つまりお金をかけずに、身体を動かしたいのである。
そういう人たち向けに、ヨガやストレッチよりも入りやすい運動。
そこで行き着いたのが、ラジオ体操だ。
バカにする人もいるかもしれないが、しっかりやればなかなかの全身運動になる。
そこで運動初心者に向けて「超入門編」として企画し、採用された。
場所は、防衛部が訓練で使う道場。
もちろん講師役は、郁が自ら行う。
そして人数は1回6名として、何回も開催する形を取った。
正しいやり方を覚えてもらうためには、しっかりチェックする必要がある。
それに対象は運動初心者だから、無理をしてケガをするのも避けなければならない。
そうなると、少人数でなければ目が届かないのだ。
そして最後の教室(?)を終えた郁は「お疲れ様でした!」と声を張った。
受講した利用者たちは「ありがとうございました」と頭を下げて、出ていく。
それらの1人1人に丁寧に挨拶を返した郁は「よし!」と拳を握った。
正直なところ評価はわからない。
だが参加してくれた利用者たちが笑顔だったから、郁としては万事OKだ。
最後に忘れ物などを確認して、郁は道場を出た。
「笠原。お疲れ!」
終了報告のために業務部の事務所に向かう郁は、女子隊員が声をかけてきた。
郁と同期で防衛部の梅本幸子だ。
気の良いカラッとした性格で、査問のときにも普通に接してくれた。
郁としては心許せる仲間の1人だった。
「今日で最後だったんでしょ?ラジオ体操!」
「うん。無事に終わったよ!」
「おめでとう・・・でいいのかな?」
「わかんない。でもまぁありがとう!」
梅本も同じ方向に行くらしく、ごく自然に隣に並んだ。
郁は自分より約10センチ背が低い梅本を盗み見る。
何だか少し太った気がする。
だけどそんなデリケートな話はしない。
同じ年齢で同じ寮生、しかも同じ防衛方なら他の話題にも事欠かないし。
「にしても、笠原が羨ましいなぁ。」
「そう?あたしなんか図書隊員としては未熟で怒られてばかりなのに!」
「でも特殊部隊は利用者と接する機会はあるじゃない。」
「そっか。梅本は業務部志望だったんだもんね。」
郁は申し訳ないような気分になった。
梅本は元々業務部を希望していたが、学生時代に運動部だったことを買われて防衛部になった。
これは決して珍しい話ではない。
むしろ女性隊員としては、最初から防衛方志望の郁の方が変わり種なのだ。
「あたし、図書館のお姉さんになるのが夢だったんだよな~」
「異動願とか出してるの?」
「うん。でも全然。やっぱり先輩からになっちゃうからね。」
「いずれは移れるんじゃない?」
「でもいつになることか。おかげで毎晩ヤケ酒が進んで、最近太っちゃってさぁ!」
梅本は郁が避けた話題をあっさりと口にして、豪快に笑った。
同意していいものか、どうか。
迷っているうちに、梅本は「じゃあ!」と防衛部庁舎の方へ向かう。
郁はホッと安堵すると、足早に歩き出した。
あたしって、ラッキーなんだなぁ。
郁は今さらのようにそう思った。
本を守るために戦うことと、利用者と接すること。
特殊部隊はその両方ができる唯一の部署なのだ。
そこで信頼できる仲間に囲まれ、尊敬する上官に指導してもらえる。
これこそ図書隊員として、最高の幸運だ。
郁は業務部で企画の終了を伝えると、そそくさと退出した。
企画の報告書をまとめて堂上に提出すれば、9月の企画は終わりだ。
早くそれをして、頭をなでてもらいたい。
いささか私情に走り過ぎている気がするけれど、それくらいは許してもらおう。
郁は軽やかな足取りで、堂上が待つ特殊部隊庁舎へ急いだのだった。