7月~夏休みの静かな騒乱(前編)~
*オリキャラの名前はある漫画のキャラから借用しております。
「すみません。今日の分を下さい!」
可愛らしい子供たちの声に、柴崎は頬を緩ませる。
そして人数分の紙を取り出すと「はい!」と渡した。
7月、夏休みに突入した図書館は忙しい。
学校が休みになった子供たちが、多く来館するからだ。
また折しも暑くなる時期でもある。
読書と冷房代の節約を兼ねて、やって来る者もいる。
図書館としては、どちらも歓迎だ。
会議室などのスペースを広く開放し、多くの利用者を受け入れる体制になる。
つまり忙しくなるわけだが、受け取り方は人それぞれだ。
嬉しいと思うか、面倒だと思うか。
もちろん多くの図書隊員は前者であり、夏を乗り切ろうと頑張っている。
だが残念ながら、新しい企画が出しにくい状況でもある。
来館者や開放スペースが増え、業務部も防衛部も仕事が増えるからだ。
そこへきて隊員も、交代で夏休みを取るのだ。
必然的にイベントは冒険的なものを避け、毎年恒例の定番モノが多く採用される。
子供向けに読書感想文や自由研究の指南、大人向けには読書会。
楽しく、だけどなるべく無駄を省いて、暑い夏を乗り越えようということだ。
そんな中、郁から7月分の企画が出された。
タイトルは「ぬり絵で遊ぼう!」。
内容もタイトルそのまま、涼しい図書館でぬり絵遊びをしようというものだ。
ベースの絵は郁が全て書いた。
白い紙に黒くて太い線で書かれたシンプルな図柄。
小さな子供向けには、花とか犬とか女の子とか車など。
年齢層が少し高めの子供たちには、やや複雑で凝った絵も用意している。
それを日替わりで数枚ずつ出していくのだ。
企画書を見た業務部員たちは「え?」と驚いたものだ。
毎月ユニークな企画を出す郁にしては、地味だと思ったのだろう。
しかも季節感もない。
だけど柴崎は始まる前から、この企画の意図を見抜いていた。
夏場に人が多く集まる図書館で、どうしても「子供がうるさい」と言い出す利用者はいる。
だけどぬり絵に夢中になっている間は、大抵の子は静かになるものだ。
しかも人を集めてのイベントではなく、開放スペースで各々勝手にやる。
だから忙しい時期に、わざわざ警備の人員を割く必要もない。
日替わりで違う絵と言うのもまたミソだ。
ただ何種類かの絵を置くだけだと、一過性の興味で終わってしまう。
毎日違う絵を出すことで、子供たちのワクワクを繋ぎとめるのだ。
明日もやろう。どんな絵かな、と。
「はい!頑張って、綺麗に塗ってね!」
貸出カウンターにいた柴崎は、子供たちにまだ白いぬり絵を渡した。
子供たちは「ありがとう!」と絵を受け取ると、会議室へと駆けていく。
柴崎は「危ないから、走っちゃダメよ!」と声をかけると、早歩きに変わった。
何とも微笑ましい光景に、柴崎の頬は緩んだ。
今ではぬり絵をするために来館する子供たちもいる。
柴崎が絵を渡したあの子たちもそうだ。
一応開放している会議室には、クレヨンや色鉛筆を何セットか用意している。
だがぬり絵目当ての子供たちは、自前で色の数も多いものをわざわざ持参してくる。
こうして武蔵野第一図書館は、秘かなぬり絵ブームになりつつあった。
まったく大したものよね。
柴崎は今さらのように、郁の企画に感心していた。
活気はあるけれど子供たちの騒ぐ声は小さくなり、人手もかからない。
図書館員にとっては、ありがたい状況だ。
さて、あたしも頑張りましょうか。
柴崎は笑顔の下で、秘かに闘志を燃やしていた。
郁に負けてはいられない。頑張らなければと。
だがそんな柴崎の出鼻をくじくように、事件は起こった。
「すみません。子供がいないんです!」
カウンターに駆け込んできたのは、若い母親だった。
彼女は図書館の常連で、いつも幼い息子を伴っている。
息子はときどき館内で注意を受けるほど元気な男の子だ。
柴崎は努めて穏やかな声を心掛けながら「落ち着いて下さい」と告げた。
本当は「大丈夫」と安心させたいけれど、迂闊にそんなことは言えない。
迷子、もしくは何かの事件に巻き込まれたか。
いずれにしろ、まずしなければならないのは館内の捜索だ。
「まず、息子さんがいなくなった状況を教えてください。」
柴崎はゆっくりと、母親に冷静さを取り戻させるようにそう言った。
幸いなことに、今日は堂上班が館内警護についている。
彼らならきっと最善の方法で、子供を捜してくれるだろう。
「すみません。今日の分を下さい!」
可愛らしい子供たちの声に、柴崎は頬を緩ませる。
そして人数分の紙を取り出すと「はい!」と渡した。
7月、夏休みに突入した図書館は忙しい。
学校が休みになった子供たちが、多く来館するからだ。
また折しも暑くなる時期でもある。
読書と冷房代の節約を兼ねて、やって来る者もいる。
図書館としては、どちらも歓迎だ。
会議室などのスペースを広く開放し、多くの利用者を受け入れる体制になる。
つまり忙しくなるわけだが、受け取り方は人それぞれだ。
嬉しいと思うか、面倒だと思うか。
もちろん多くの図書隊員は前者であり、夏を乗り切ろうと頑張っている。
だが残念ながら、新しい企画が出しにくい状況でもある。
来館者や開放スペースが増え、業務部も防衛部も仕事が増えるからだ。
そこへきて隊員も、交代で夏休みを取るのだ。
必然的にイベントは冒険的なものを避け、毎年恒例の定番モノが多く採用される。
子供向けに読書感想文や自由研究の指南、大人向けには読書会。
楽しく、だけどなるべく無駄を省いて、暑い夏を乗り越えようということだ。
そんな中、郁から7月分の企画が出された。
タイトルは「ぬり絵で遊ぼう!」。
内容もタイトルそのまま、涼しい図書館でぬり絵遊びをしようというものだ。
ベースの絵は郁が全て書いた。
白い紙に黒くて太い線で書かれたシンプルな図柄。
小さな子供向けには、花とか犬とか女の子とか車など。
年齢層が少し高めの子供たちには、やや複雑で凝った絵も用意している。
それを日替わりで数枚ずつ出していくのだ。
企画書を見た業務部員たちは「え?」と驚いたものだ。
毎月ユニークな企画を出す郁にしては、地味だと思ったのだろう。
しかも季節感もない。
だけど柴崎は始まる前から、この企画の意図を見抜いていた。
夏場に人が多く集まる図書館で、どうしても「子供がうるさい」と言い出す利用者はいる。
だけどぬり絵に夢中になっている間は、大抵の子は静かになるものだ。
しかも人を集めてのイベントではなく、開放スペースで各々勝手にやる。
だから忙しい時期に、わざわざ警備の人員を割く必要もない。
日替わりで違う絵と言うのもまたミソだ。
ただ何種類かの絵を置くだけだと、一過性の興味で終わってしまう。
毎日違う絵を出すことで、子供たちのワクワクを繋ぎとめるのだ。
明日もやろう。どんな絵かな、と。
「はい!頑張って、綺麗に塗ってね!」
貸出カウンターにいた柴崎は、子供たちにまだ白いぬり絵を渡した。
子供たちは「ありがとう!」と絵を受け取ると、会議室へと駆けていく。
柴崎は「危ないから、走っちゃダメよ!」と声をかけると、早歩きに変わった。
何とも微笑ましい光景に、柴崎の頬は緩んだ。
今ではぬり絵をするために来館する子供たちもいる。
柴崎が絵を渡したあの子たちもそうだ。
一応開放している会議室には、クレヨンや色鉛筆を何セットか用意している。
だがぬり絵目当ての子供たちは、自前で色の数も多いものをわざわざ持参してくる。
こうして武蔵野第一図書館は、秘かなぬり絵ブームになりつつあった。
まったく大したものよね。
柴崎は今さらのように、郁の企画に感心していた。
活気はあるけれど子供たちの騒ぐ声は小さくなり、人手もかからない。
図書館員にとっては、ありがたい状況だ。
さて、あたしも頑張りましょうか。
柴崎は笑顔の下で、秘かに闘志を燃やしていた。
郁に負けてはいられない。頑張らなければと。
だがそんな柴崎の出鼻をくじくように、事件は起こった。
「すみません。子供がいないんです!」
カウンターに駆け込んできたのは、若い母親だった。
彼女は図書館の常連で、いつも幼い息子を伴っている。
息子はときどき館内で注意を受けるほど元気な男の子だ。
柴崎は努めて穏やかな声を心掛けながら「落ち着いて下さい」と告げた。
本当は「大丈夫」と安心させたいけれど、迂闊にそんなことは言えない。
迷子、もしくは何かの事件に巻き込まれたか。
いずれにしろ、まずしなければならないのは館内の捜索だ。
「まず、息子さんがいなくなった状況を教えてください。」
柴崎はゆっくりと、母親に冷静さを取り戻させるようにそう言った。
幸いなことに、今日は堂上班が館内警護についている。
彼らならきっと最善の方法で、子供を捜してくれるだろう。