12月~クリスマス・ファイト(後編)~
*オリキャラの名前はある漫画のキャラから借用しております。
「誰よ、これ!」
郁が鏡の中の自分を見ながら、驚いている。
柴崎は美しく仕上がった友人を見ながら、会心の笑みで胸を張った。
クリスマスイヴの午後、郁は図書館内の会議室にいた。
夕方はいよいよコンサートなのだ。
楽屋代わりに用意されたこの部屋で、柴崎は郁の準備を整えていた。
「うわ、なによ。この服!」
郁はまず用意された衣装を見て、悲鳴を上げた。
季節柄、サンタクロース風の赤いドレスだ。
ただし安っぽいパーティグッズのようなものではない。
それに長袖に膝丈スカートで、露出も少な目だ。
それは柴崎の趣味だった。
メインは郁自身ではなく、あくまで歌なのだ。
だから季節感は出しつつ、悪目立ちさせないように配慮した。
「先にメイクするから、座って」
柴崎は郁の動揺はサクッとスルーして、椅子に座らせた。
鏡は敢えて置いていない。
郁がメイクされる自分の顔を見れば、騒ぐのは目に見えている。
「柴崎、あんまり派手にしないでよ?」
郁は言う通りに座ったものの、安心できないようだ。
柴崎は「わかってるわよ」と答えながらも、内心は燃えていた。
無駄に派手にするつもりはない。
だけど腕の見せ所だと意気込んでもいた。
訓練のときや独身寮内ではほぼスッピン、図書館業務でもうっすらメイクしかしない郁。
悪目立ちはさせないが、郁の美しさを引き出すのは柴崎の中では必須事項だ。
「気持ちは落ち着いてる?」
柴崎は郁の顔にファンデーションを塗り広げながら、そう聞いた。
郁は「うん、多分」と曖昧に頷く。
そして「いろいろありがとうね」と笑った。
ようやくここまで来た。
それが柴崎の感想であり、郁や堂上たちもそう思っているはずだ。
コンサートが決まった後、いろいろあったのだ。
郁は暴漢と化した良化隊員の襲撃を受けた。
小牧と手塚に助けてもらって事なきを得たが、決して軽い話ではない。
なにしろ不審者の内部への侵入を許してしまったのだから。
「堂上教官、怒り狂ってたんじゃない?」
「うん。防衛部に乗り込んで、当日に入口の警備についてた防衛員をシゴキに行ってた。」
「そういう意味じゃないんだけど」
柴崎はキョトンとしている郁を見ながら、ため息をついた。
堂上は郁の危機に自分が駆けつけられなかったことを怒っているのではないかと思ったのだ。
そしてそれは当たっているはずだ。
その証拠にその後も良化隊員か賛同団体のメンバーと思しき暴漢は度々現れた。
だが郁に接触する前に、いずれも取り押さえられている。
それは堂上が万全の警備体制を敷いたからだ。
その辺りの堂上の苦労を、郁は残念ながらまったく理解していないようだ。
「堂上教官が不憫だわ。もらい泣きしそう。」
柴崎は肩を落としながら、郁の顔に色を乗せていく。
アイシャドーにチーク、そしてリップ。
サンタドレスに似合い、郁を美しく見せる色合いはすでに吟味してある。
郁が「どういう意味?」と首を傾げたが「ちょっと動かないで」とぶった切った。
「さぁ、できたわよ。」
メイクを終えたところで、柴崎は手鏡を取り出して郁に渡した。
郁は「誰よ、これ!」と鏡の中の自分に驚いている。
柴崎はフフンと鼻で笑うと、ドヤ顔で胸を張った。
郁は元々素材が良いのだ。
それがどういうわけか自己評価が低く「あたしなんて」を繰り返す。
そりゃガッツリメイクした業務部員に比べれば、派手さはない。
だがこうしてしっかりメイクをすれば、イケてる女子に仕上がるのだ。
それが普段のギャップと相まって、素晴らしいインパクトを生む。
「じゃあドレスに着替えて」
「わかった。だから柴崎はもう行って。」
「何を言ってるのよ。歌姫が完成するまでしっかり見届けるわよ?」
「でも」
郁が柴崎を追い払おうとしているのには、もちろん理由がある。
数日前に良化隊から代執行命令が出ているのだ。
そこには今日披露する曲のタイトルと郁の名がはっきりと明記されている。
つまり郁自身も検閲対象であり、一緒にいるのは危険なのだ。
「当麻先生もこんな気分だったのかなぁ」
郁は赤いドレスに着替えながら、ポツリとそう呟いた。
状況は少々異なるが、自分自身が検閲対象であるのは同じだ。
その不安、そして怒りを郁は身を持って感じているようだ。
「笠原」
着替え終わった郁に、柴崎は声をかけようとした。
とても綺麗だと伝えて、郁の不安な気持ちを少しでも軽くしたかった。
だがドアの外から慌ただしい音が聞こえたので、眉をひそめて口を噤んだ。
郁もまた黙り込み、真剣な表情になっている。
「どこだ!?」
「こっちだ!」
無遠慮な怒声とバタバタと乱暴な足音は、わかりやすい。
侵入した暴漢が郁を狙って、捜しているのだ。
柴崎と郁はじっと息を殺しながら、外の様子をうかがう。
業務部員の柴崎と、戦闘職種とはいえサンタドレスの郁。
ここで襲撃を受ければ、勝ち目はない。
でも、大丈夫。
柴崎と郁は目を合わせると、頷き合った。
堂上班が指揮をとる警備は万全のはずであり、信じていれば不安はなかった。
「誰よ、これ!」
郁が鏡の中の自分を見ながら、驚いている。
柴崎は美しく仕上がった友人を見ながら、会心の笑みで胸を張った。
クリスマスイヴの午後、郁は図書館内の会議室にいた。
夕方はいよいよコンサートなのだ。
楽屋代わりに用意されたこの部屋で、柴崎は郁の準備を整えていた。
「うわ、なによ。この服!」
郁はまず用意された衣装を見て、悲鳴を上げた。
季節柄、サンタクロース風の赤いドレスだ。
ただし安っぽいパーティグッズのようなものではない。
それに長袖に膝丈スカートで、露出も少な目だ。
それは柴崎の趣味だった。
メインは郁自身ではなく、あくまで歌なのだ。
だから季節感は出しつつ、悪目立ちさせないように配慮した。
「先にメイクするから、座って」
柴崎は郁の動揺はサクッとスルーして、椅子に座らせた。
鏡は敢えて置いていない。
郁がメイクされる自分の顔を見れば、騒ぐのは目に見えている。
「柴崎、あんまり派手にしないでよ?」
郁は言う通りに座ったものの、安心できないようだ。
柴崎は「わかってるわよ」と答えながらも、内心は燃えていた。
無駄に派手にするつもりはない。
だけど腕の見せ所だと意気込んでもいた。
訓練のときや独身寮内ではほぼスッピン、図書館業務でもうっすらメイクしかしない郁。
悪目立ちはさせないが、郁の美しさを引き出すのは柴崎の中では必須事項だ。
「気持ちは落ち着いてる?」
柴崎は郁の顔にファンデーションを塗り広げながら、そう聞いた。
郁は「うん、多分」と曖昧に頷く。
そして「いろいろありがとうね」と笑った。
ようやくここまで来た。
それが柴崎の感想であり、郁や堂上たちもそう思っているはずだ。
コンサートが決まった後、いろいろあったのだ。
郁は暴漢と化した良化隊員の襲撃を受けた。
小牧と手塚に助けてもらって事なきを得たが、決して軽い話ではない。
なにしろ不審者の内部への侵入を許してしまったのだから。
「堂上教官、怒り狂ってたんじゃない?」
「うん。防衛部に乗り込んで、当日に入口の警備についてた防衛員をシゴキに行ってた。」
「そういう意味じゃないんだけど」
柴崎はキョトンとしている郁を見ながら、ため息をついた。
堂上は郁の危機に自分が駆けつけられなかったことを怒っているのではないかと思ったのだ。
そしてそれは当たっているはずだ。
その証拠にその後も良化隊員か賛同団体のメンバーと思しき暴漢は度々現れた。
だが郁に接触する前に、いずれも取り押さえられている。
それは堂上が万全の警備体制を敷いたからだ。
その辺りの堂上の苦労を、郁は残念ながらまったく理解していないようだ。
「堂上教官が不憫だわ。もらい泣きしそう。」
柴崎は肩を落としながら、郁の顔に色を乗せていく。
アイシャドーにチーク、そしてリップ。
サンタドレスに似合い、郁を美しく見せる色合いはすでに吟味してある。
郁が「どういう意味?」と首を傾げたが「ちょっと動かないで」とぶった切った。
「さぁ、できたわよ。」
メイクを終えたところで、柴崎は手鏡を取り出して郁に渡した。
郁は「誰よ、これ!」と鏡の中の自分に驚いている。
柴崎はフフンと鼻で笑うと、ドヤ顔で胸を張った。
郁は元々素材が良いのだ。
それがどういうわけか自己評価が低く「あたしなんて」を繰り返す。
そりゃガッツリメイクした業務部員に比べれば、派手さはない。
だがこうしてしっかりメイクをすれば、イケてる女子に仕上がるのだ。
それが普段のギャップと相まって、素晴らしいインパクトを生む。
「じゃあドレスに着替えて」
「わかった。だから柴崎はもう行って。」
「何を言ってるのよ。歌姫が完成するまでしっかり見届けるわよ?」
「でも」
郁が柴崎を追い払おうとしているのには、もちろん理由がある。
数日前に良化隊から代執行命令が出ているのだ。
そこには今日披露する曲のタイトルと郁の名がはっきりと明記されている。
つまり郁自身も検閲対象であり、一緒にいるのは危険なのだ。
「当麻先生もこんな気分だったのかなぁ」
郁は赤いドレスに着替えながら、ポツリとそう呟いた。
状況は少々異なるが、自分自身が検閲対象であるのは同じだ。
その不安、そして怒りを郁は身を持って感じているようだ。
「笠原」
着替え終わった郁に、柴崎は声をかけようとした。
とても綺麗だと伝えて、郁の不安な気持ちを少しでも軽くしたかった。
だがドアの外から慌ただしい音が聞こえたので、眉をひそめて口を噤んだ。
郁もまた黙り込み、真剣な表情になっている。
「どこだ!?」
「こっちだ!」
無遠慮な怒声とバタバタと乱暴な足音は、わかりやすい。
侵入した暴漢が郁を狙って、捜しているのだ。
柴崎と郁はじっと息を殺しながら、外の様子をうかがう。
業務部員の柴崎と、戦闘職種とはいえサンタドレスの郁。
ここで襲撃を受ければ、勝ち目はない。
でも、大丈夫。
柴崎と郁は目を合わせると、頷き合った。
堂上班が指揮をとる警備は万全のはずであり、信じていれば不安はなかった。