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番外編2

俺に何か隠していることはないか?
堂上は郁の話を遮って、そう聞いた。
郁が「へ?」と間抜けな顔で首を傾げたのが、妙に癪に障った。

堂上と郁が付き合い始めて、1年が経った。
堂上の仕事は忙しい上に不規則だから、なかなか会えない。
それでも何とか時間をやりくりして、デートを重ねた。
堂上の郁への想いは色あせることなく、強まり深まっていく。
恋愛には淡白だと思っていた堂上は、自分の中から際限なく溢れる愛情に驚くばかりだ。

堂上が唯一不満に思うこと、それは2人の交際が知れ渡っていることだ。
最初は見合いで出逢い、後に郁が事件関係者となった。
つまり双方の家族にも、堂上の職場、果ては笠原フーズの得意先までバレている。
だから時間がなくて近場で会う時など、ほぼ毎回知り合いと遭遇するのだ。
ムサいおっさんに「よぉ、デートか?」なんて冷やかされれば、雰囲気は一気に盛り下がる。
また郁の家族にでも会おうものなら、意味なく後ろめたい気分になったりする。

そろそろ倦怠期になってねーか?
職場の口が悪い先輩の中には、そんなことをいうヤツがいる。
それはあながち、ありえない話ではない。
刑事と事件関係者が恋に堕ちることは、ままあることだ。
だが破局するケースも多いのだ。
それは事件という異常な状況で出逢っているせいだというのが定説だ。
いわゆる吊り橋効果で恋に堕ちたものの、平穏な生活に戻ると醒めてしまうという。
だが堂上は自分たちを茶化す声を聞くたびに、眉間のシワは深くなった。

冗談じゃない。何が倦怠期だ!
堂上は無視を決め込みながら、心の中で盛大に文句を言った。
元々可愛らしかった郁は、この1年で見違えるほど綺麗になった。
年齢イコール彼氏いない歴だった郁の全てを、堂上がすべて塗り替えたからだ。
身も心も愛した女は、元々の素直さやあどけなさはそのままに艶っぽさが加わった。
そんな最上級の恋人に飽きるなんて、絶対にありえない。

だが同時に不安もあった。
美しくなった郁を、男共が放っておくはずがない。
郁の兄である笠原三兄弟の情報によると、郁に言い寄る男は増えているらしい。
得意先の従業員や、地元で付き合いがある幼なじみ等々。
郁とお近づきになりたい男は急増中だそうだ。

これはさっさと結婚するに限る。
堂上は考えた挙句、ついに決意を固めた。
これで問題は一気に解決すると思う。
他の男共を蹴散らし、会う時間が取れない問題もクリアされる。
さらに新居でイチャつけば、街中で茶化される機会も減るはずだ。
次のデートでプロポーズしよう。
それがいい。むしろそれしかない!

だがそのデートの前日、事件は起こった。
仕事中、車で街を巡回していた堂上は見てしまったのだ。
笠原フーズから徒歩10分程の場所にあるオシャレなカフェ。
その窓際の席で、郁と若い男が向かい合って座っているのを。
しかも2人はニコニコと談笑しながら、何やら話し込んでいる。
赤信号に引っかかった車は、そんな2人の前で止まった。

誰だ。あれは。いったい。
堂上は車の窓越しに、鬼の形相でカフェを睨みつけた。
後にこの時車を運転していた手塚は「あのときの堂上先輩は心の底から怖かった」と語った。
だが実際は恐る恐る「車、止めますか」と聞いただけだ。
堂上は一瞬迷ったが「いや、いい」とことわった。

内心は、心の中で激しい嫉妬の炎が渦巻いていた。
本当はカフェに殴り込んで、その男は誰だと問いたい。
だが今は仕事中であり、そんな公私混同ができるはずもなかった。
やがて車は静かに走り出した。
去り際に一瞬だけ郁がこちらを見たような気がしたが、確かめることもしなかった。

その翌日のデートで、堂上は開口一番「俺に何か隠していることはないか?」と聞いた。
我ながら心が狭いとは思うが、聞かずにはいられない。
すると郁は「へ?」と間抜けな顔で首を傾げた。
そして「実はあたしのブログなんですけど」と、的外れなことを言い出したのだ。

とりあえず行こうか。
堂上は郁の言葉を遮るように、そう言った。
自分から話を振っていて、勝手だとは思う。
だが郁が昨日の話をしてくれないことが、どうにも癪に障ったのだ。

郁は驚いたような表情になったが、すぐに「はい」と笑った。
そして2人は並んで歩き出す。
だがいつものように手を繋ぐ気にはなれなかった。
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