番外編3
今日の課業後、部屋に来てくれないか?
堂上が小牧と手塚を誘ったのは、茨城県展警護に向かう数日前のことだった。
いったい何事だと、小牧は首を傾げる。
部屋飲みの誘いにしては改まりすぎているし、仕事の話なら業務中に言えばいい。
それでも缶ビールとツマミを抱えて、堂上の部屋に向かう。
そこで聞かされたのは、思いもよらない話だった。
これから話すことは誰にも言わず、自分の胸だけに留めて欲しい。
全員が缶ビールを1本飲んだところで、堂上が切り出した。
手塚も何かあると察していたようで、背筋を伸ばして身構えている。
小牧は「いいよ。何?」と気安い雰囲気を作りながら、堂上の次の言葉を待った。
実は笠原は、時間を止めることができるんだ。
堂上がそう言った途端、手塚が「は!?」と叫んで小牧を見た。
それはあまりにも突拍子もなく、にわかに信じられることではない。
だから堂上が冗談を言ったのかそれとも裏に別の意図があるのか、答えを求めたのだろう。
俺は瞬間移動の類だと思ってたよ。
小牧は率直にそう答えていた。
郁に何かの特殊な能力があることは気付いていたのだ。
完全に混乱したらしい手塚は、わかりやすく固まっている。
小牧は苦笑しながら「冗談じゃなくて、本当の話だよ」と言ってやった。
信じられないなら、それでもいい。
ただ頭の片隅にでも留めておいてほしい。
あいつがその力を使う場面を見ても、驚かないでやってくれ。
堂上はそう締めくくると、あっさりと話題を変えた。
手塚は表情に困惑を残しながらも「了解しました」と答えた。
小牧は「わかった」と頷きながら、微笑する。
堂上と郁だけの秘密であっただろう話を打ち明けてもらえたのは、単純に嬉しかった。
そして茨城県展警護の後、作家の当麻蔵人氏の事件もあった。
堂上が被弾して一時はどうなることかと思ったが、何とか亡命も成功。
そして堂上と郁は晴れてカップルとなり、堂上も仕事に復帰した。
そんな中起こったのが、図書損壊事件だ。
毬江が切り取られたバーコードがゴミ箱に捨てられているのを見つけたことから、発覚した。
堂上班が対応に当たることになり、手塚と郁が大学生を装って張り込みをする。
そしてついに犯人の青年が現れたが、間が悪すぎた。
堂上はまだ本調子ではなく、小牧と手塚は犯人が振り回したカッターから利用者と柴崎をかばう。
必然的に残った郁が、逃げる犯人を追走することになったのだが。
ああ。これは使うパターンかな。
小牧は瞬足を飛ばして追いかけていく郁の後ろ姿を見ながら、そう思った。
犯人の青年もなかなかの脚力であり、郁でも追いつけるかどうかきわどいところだ。
本を守るためなら、迷わず能力を使う。
それが堂上が愛した女性であり、小牧が信頼を寄せる部下なのだ。
だがそこで良い話で終わらないのもまた郁だった。
犯人の青年を確保し、満面の笑みを浮かべた郁の顔には犯人の返り血が飛んでいたのだ。
堂上に指摘され「ギャーッ!」と悲鳴を上げる郁を見ながら、小牧は苦笑した。
時間を止めている間に確保までしちゃうって発想はなかったのかなぁ。
多分追いつくことに必死で、そこまで考える余裕がなかったんだろうな。
小牧はそんなことを思いながら、濡れたハンカチで郁の顔を拭いてやっている堂上を見る。
そしてその慈しむような優しい手つきに、これ以上深く考えることを止めた。
すべてをひっくるめて、班長であり彼氏の堂上がしっかりフォローするだろう。
小牧ができることは、この面白話で笑い上戸に陥らない努力に専念することだけだ。
堂上が小牧と手塚を誘ったのは、茨城県展警護に向かう数日前のことだった。
いったい何事だと、小牧は首を傾げる。
部屋飲みの誘いにしては改まりすぎているし、仕事の話なら業務中に言えばいい。
それでも缶ビールとツマミを抱えて、堂上の部屋に向かう。
そこで聞かされたのは、思いもよらない話だった。
これから話すことは誰にも言わず、自分の胸だけに留めて欲しい。
全員が缶ビールを1本飲んだところで、堂上が切り出した。
手塚も何かあると察していたようで、背筋を伸ばして身構えている。
小牧は「いいよ。何?」と気安い雰囲気を作りながら、堂上の次の言葉を待った。
実は笠原は、時間を止めることができるんだ。
堂上がそう言った途端、手塚が「は!?」と叫んで小牧を見た。
それはあまりにも突拍子もなく、にわかに信じられることではない。
だから堂上が冗談を言ったのかそれとも裏に別の意図があるのか、答えを求めたのだろう。
俺は瞬間移動の類だと思ってたよ。
小牧は率直にそう答えていた。
郁に何かの特殊な能力があることは気付いていたのだ。
完全に混乱したらしい手塚は、わかりやすく固まっている。
小牧は苦笑しながら「冗談じゃなくて、本当の話だよ」と言ってやった。
信じられないなら、それでもいい。
ただ頭の片隅にでも留めておいてほしい。
あいつがその力を使う場面を見ても、驚かないでやってくれ。
堂上はそう締めくくると、あっさりと話題を変えた。
手塚は表情に困惑を残しながらも「了解しました」と答えた。
小牧は「わかった」と頷きながら、微笑する。
堂上と郁だけの秘密であっただろう話を打ち明けてもらえたのは、単純に嬉しかった。
そして茨城県展警護の後、作家の当麻蔵人氏の事件もあった。
堂上が被弾して一時はどうなることかと思ったが、何とか亡命も成功。
そして堂上と郁は晴れてカップルとなり、堂上も仕事に復帰した。
そんな中起こったのが、図書損壊事件だ。
毬江が切り取られたバーコードがゴミ箱に捨てられているのを見つけたことから、発覚した。
堂上班が対応に当たることになり、手塚と郁が大学生を装って張り込みをする。
そしてついに犯人の青年が現れたが、間が悪すぎた。
堂上はまだ本調子ではなく、小牧と手塚は犯人が振り回したカッターから利用者と柴崎をかばう。
必然的に残った郁が、逃げる犯人を追走することになったのだが。
ああ。これは使うパターンかな。
小牧は瞬足を飛ばして追いかけていく郁の後ろ姿を見ながら、そう思った。
犯人の青年もなかなかの脚力であり、郁でも追いつけるかどうかきわどいところだ。
本を守るためなら、迷わず能力を使う。
それが堂上が愛した女性であり、小牧が信頼を寄せる部下なのだ。
だがそこで良い話で終わらないのもまた郁だった。
犯人の青年を確保し、満面の笑みを浮かべた郁の顔には犯人の返り血が飛んでいたのだ。
堂上に指摘され「ギャーッ!」と悲鳴を上げる郁を見ながら、小牧は苦笑した。
時間を止めている間に確保までしちゃうって発想はなかったのかなぁ。
多分追いつくことに必死で、そこまで考える余裕がなかったんだろうな。
小牧はそんなことを思いながら、濡れたハンカチで郁の顔を拭いてやっている堂上を見る。
そしてその慈しむような優しい手つきに、これ以上深く考えることを止めた。
すべてをひっくるめて、班長であり彼氏の堂上がしっかりフォローするだろう。
小牧ができることは、この面白話で笑い上戸に陥らない努力に専念することだけだ。