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番外編2

ったく、こいつは。
堂上は拳を手に当てて、吹き出してしまうのを堪えた。
郁の奇想天外な発想は、いつもながら斜め上だ。

つらかった郁の査問も終わり、年が明けた。
そして郁と手塚は入隊して1年と10ヶ月、晴れて昇任試験の受験資格を得た。
異例の初年度配属の特殊部隊隊員として、2人とも頑張っている。
堂上は上官として実に嬉しく、誇らしい気分だったのだが。

喜んでばかりはいられなかった。
2人の部下のうちの1人は、とにかく体力方向へベクトルが偏っている。
堂上としては、気合いが入るところだ。
全ての業務に精通しているとされる特殊部隊隊員が学科で落ちたなど、シャレにならない。
何より郁をこんなところで躓かせたくなかった。
査問の波は完全には引いておらず、未だに郁を無視したり陰口を叩く者はいる。
そんなヤツらを見返すためにも、何としても合格させたい。

そして学科試験まであと1週間。
堂上と郁は課業後、特殊部隊の事務所に残っていた。
もちろん甘いムードになるはずなどなく、容赦ない猛特訓である。
堂上手製の問題集で、郁にひたすら座学を叩き込むだけだ。

何でここまでやって、合格ラインすれすれなんだ?
堂上は郁の答案を見ながら、こっそりとため息をついた。
最初の壊滅的な正解率を見れば、合格ラインまで来たことは快挙ではある。
だがここまでの勉強時間を考えたら、せめて合格確実くらいの点は叩き出してほしい。

そんな堂上の心のうちなど知らない郁は「もう無理ぃ!」などと弱音を吐いている。
思いっきり拳骨を落としてやりたい衝動に駆られた堂上だったが、何とか踏みとどまった。
迂闊に叩いて、せっかく今まで覚えたことがこぼれ落ちてしまってはまずい。
そんな心配が必要なほど、郁の頭はショート寸前だった。

そうだ!時間を止めれば、少しは点数が上がりますかね?
2時間ほど堂上のマンツーマン指導を受け、疲労困憊の郁がそんなことを言い出す。
堂上は思いっきり眉間にシワを寄せながら「どういうことだ?」と聞き返す。
郁が持っている特殊能力を使えば、確かに点数を上げることは可能なのだ。

最近は30秒近く止められるんですよ。
だから他の人より考える時間が多いから、有利かな~と思って。
郁が大真面目な顔でそう言った途端。
堂上は「アホか、貴様!」と迷うことなく郁の頭に拳骨を落とした。

いったぁぁ~い!今ので確実に脳細胞が何個か死にましたよ!?
今日覚えたところは、もう飛んじゃってます!!
郁は頭を押さえながら、涙目で抗議をしてくる。
ったく、こいつは。
堂上は拳を手に当てて、吹き出してしまうのを堪えた。
郁の奇想天外な発想は、いつもながら斜め上だ。

時間を止める能力があり、それを昇任試験で使えないかと考える。
そうなると普通思いつくのは、カンニングだろう。
当日一緒に受ける手塚なり柴崎なりの答案をのぞけば、間違いなく学科は合格する。
だがそこに辿り着かないのが、郁だ。
考える時間が増えればなんてバカなことを考えるくせに、不正など夢にも思いつかない。

そもそも覚えてなければ、いくら考えても無駄だろうが。
堂上がもっともらしい顔でそう言ってやると、郁が「デスヨネ~」と肩を落とした。
そんな様子も可愛いと思う自分に、堂上はもう笑うしかない。

かくして郁は必死に勉強を続け、何とかスレスレの点数で学科をクリアした。
そして実技では鮮やかにトップクラスの評価をたたき出し、図書士長になったのだった。
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