番外編2
あたしの居場所は、愛する夫が待つこの場所。
だから何年かかろうと、絶対に戻って見せる。
柴崎はそう決意し、関東図書基地を去った。
三正から士長に降格した柴崎こと手塚麻子は、千葉準基地配下の小さな図書館に赴任した。
予想していたこととはいえ、それは物議を巻き起こした。
つい先日まで武蔵野第一図書館で、同期のトップで三正を拝命していた美貌の図書館員。
それが突然、士長としてこんな片田舎に配属されたのである。
何かあったと考えるのは、当然のことだろう。
勤務する図書館員は柴崎も含めて16名。うち10名は女性だ。
そして全員がものの見事に、柴崎を色眼鏡で見た。
男性は恋愛や性欲の対象として、そして女性は嫉妬と軽蔑の対象として。
そういうものには慣れている柴崎だったが、ここまで露骨なのは珍しい。
面白い。この状況を覆して、ここを掌握してやる。
柴崎は冷静な表情の下で、秘かに燃えていた。
言い寄って来る男は、結婚指輪で躱そう。
嫉妬するヤツらは、仕事で蹴散らす。
柴崎は自分の能力を持ってすれば、それができると信じていた。
とりあえずまず親しい味方を作ることが先決。
柴崎はまず積極的に挨拶をし、声をかけるところから始めた。
だが待っていたのは、ものの見事な四面楚歌だった。
柴崎に近づこうとしていた男たちは既婚者だと知って、興味を失った。
それでもいいと強引に口説いてくる者がいないのはありがたいが、手のひらの返し方が尋常でない。
そして女たちは、柴崎を排除する対象と認識した。
美貌だけでなく自分たちより能力が高いこともわかったのだろう。
そして赴任して3日目には、仕事以外で柴崎と口をきく者は誰もいなくなった。
狡猾なのは、完全な無視ではないことだった。
仕事の上で最低限の必要な会話はするのだ。
ただ明らかに一線引かれている。
あからさまな無視ならば、業務妨害だと訴えることもできる。
だがそれもできない状態に、追い込まれているのだった。
それでもそんなことでくじけてなどいられない。
柴崎は何とかこの場所の現状を把握することに努めた。
蔵書の数、書架の配置、図書館員たちの態度等々。
とにかく問題がありすぎることはわかった。
柴崎は現在のここの問題点をレポートにまとめた。
問題点を箇条書きにして、改善点と合わせて列挙する。
簡単に実行できることは、たくさんあった。
何しろ今の状態がひどすぎるのだ。
1つ1つ地道に積み上げて、居心地のいい図書館を作っていけばいい。
だが柴崎渾身のレポートは、誰の目に触れることもなかった。
ここの館長である中年女性は、それを受け取らなかったのだ。
柴崎は「せめて読んでください」と頼んだが、ダメだった。
館長は「そういうの、ここでは必要ないから」とバッサリ切り捨てたのだ。
図書隊の中では、階級が大きく物を言う。
降格処分をされた柴崎は士長であり、女性館長は三正。
もう50代でこんな場所におり、しかも三正ってことはそれほど仕事ができるわけではない。
だが現在の階級は彼女が上であるし、書類は図書正以上の承認がなければ正式なものにはならない。
つまり彼女の判断1つで、このレポートは死ぬのだ。
残念だけど、却下ね。
彼女は柴崎が差し出した書類を見ようともしない。
悔しそうな顔を見せないことが、柴崎のせめてもの抵抗だった。
だから何年かかろうと、絶対に戻って見せる。
柴崎はそう決意し、関東図書基地を去った。
三正から士長に降格した柴崎こと手塚麻子は、千葉準基地配下の小さな図書館に赴任した。
予想していたこととはいえ、それは物議を巻き起こした。
つい先日まで武蔵野第一図書館で、同期のトップで三正を拝命していた美貌の図書館員。
それが突然、士長としてこんな片田舎に配属されたのである。
何かあったと考えるのは、当然のことだろう。
勤務する図書館員は柴崎も含めて16名。うち10名は女性だ。
そして全員がものの見事に、柴崎を色眼鏡で見た。
男性は恋愛や性欲の対象として、そして女性は嫉妬と軽蔑の対象として。
そういうものには慣れている柴崎だったが、ここまで露骨なのは珍しい。
面白い。この状況を覆して、ここを掌握してやる。
柴崎は冷静な表情の下で、秘かに燃えていた。
言い寄って来る男は、結婚指輪で躱そう。
嫉妬するヤツらは、仕事で蹴散らす。
柴崎は自分の能力を持ってすれば、それができると信じていた。
とりあえずまず親しい味方を作ることが先決。
柴崎はまず積極的に挨拶をし、声をかけるところから始めた。
だが待っていたのは、ものの見事な四面楚歌だった。
柴崎に近づこうとしていた男たちは既婚者だと知って、興味を失った。
それでもいいと強引に口説いてくる者がいないのはありがたいが、手のひらの返し方が尋常でない。
そして女たちは、柴崎を排除する対象と認識した。
美貌だけでなく自分たちより能力が高いこともわかったのだろう。
そして赴任して3日目には、仕事以外で柴崎と口をきく者は誰もいなくなった。
狡猾なのは、完全な無視ではないことだった。
仕事の上で最低限の必要な会話はするのだ。
ただ明らかに一線引かれている。
あからさまな無視ならば、業務妨害だと訴えることもできる。
だがそれもできない状態に、追い込まれているのだった。
それでもそんなことでくじけてなどいられない。
柴崎は何とかこの場所の現状を把握することに努めた。
蔵書の数、書架の配置、図書館員たちの態度等々。
とにかく問題がありすぎることはわかった。
柴崎は現在のここの問題点をレポートにまとめた。
問題点を箇条書きにして、改善点と合わせて列挙する。
簡単に実行できることは、たくさんあった。
何しろ今の状態がひどすぎるのだ。
1つ1つ地道に積み上げて、居心地のいい図書館を作っていけばいい。
だが柴崎渾身のレポートは、誰の目に触れることもなかった。
ここの館長である中年女性は、それを受け取らなかったのだ。
柴崎は「せめて読んでください」と頼んだが、ダメだった。
館長は「そういうの、ここでは必要ないから」とバッサリ切り捨てたのだ。
図書隊の中では、階級が大きく物を言う。
降格処分をされた柴崎は士長であり、女性館長は三正。
もう50代でこんな場所におり、しかも三正ってことはそれほど仕事ができるわけではない。
だが現在の階級は彼女が上であるし、書類は図書正以上の承認がなければ正式なものにはならない。
つまり彼女の判断1つで、このレポートは死ぬのだ。
残念だけど、却下ね。
彼女は柴崎が差し出した書類を見ようともしない。
悔しそうな顔を見せないことが、柴崎のせめてもの抵抗だった。