番外編1
ついに最後のお仕事だ。
因縁の地に立った郁は、かつて熾烈な戦いが行なわれた建物を見上げた。
多くの図書隊員と良化隊員が血を流したその場所は、今は嘘のように静かだった。
正化39年、5月。
郁が水戸準基地に赴任したのは、ゴールデンウィークが開けたばかりの時期だった。
配属は業務部、勤務期間は2か月。
そして託された任務は、リストラする隊員のピックアップだった。
赴任した時点で、郁には何の策もなかった。
単に転属を言い渡されてから、実際に赴任する日まで時間がなかったせいだけではない。
あえて何も考えなかったのだ。
実際の雰囲気がわからないのに、あれこれ考えても仕方がない。
結局ノープランで因縁の地に乗り込む形になった。
だが状況は予想以上に悪かった。
さすがに今は「業務部の方が偉い」などと口に出す者はもういない。
だが染み付いてしまった意識は、なかなか消えないのだ。
須賀原館長になる前、または茨城県展後に入隊した者はまだいい。
問題は須賀原時代に入隊し、しっかりと新人の頃に差別意識を刷り込まれた者がやっかいだ。
しかも表立って不満を口に出せない分、ストレスが溜まっている。
その結果、女子寮にとどまらず、図書館内も雰囲気が悪くなっているのだ。
おそらく横田一監は、いろいろ試行錯誤したのだろう。
ここにいる以上、郁以上に雰囲気の悪さは感じているのだろうから。
それで選んだ最後の手段がリストラ。
きっと苦渋の決断だったのだろう。
それならば郁もそれに応えなければならない。
郁らしいやり方で。全力で。
そこで郁は隊員たちを、食堂に集めた。
こそこそと調べ回るようなやり方は、もうやりたくない。
最後の任務は正々堂々、真っ向勝負をして終わらせてやる!
郁は集まった隊員たちを見回すと、おもむろに口を開いた。
あたしは、みなさんの中からリストラする人を選ぶためにここに来ました!
郁は力強くそう宣言した。
食堂に集まった一同はシンと静まり返る。
だが次の瞬間、ザワザワと小さな喧騒がさざ波のように広がっていった。
郁は全員が静まるのを待ち、再び口を開く。
そこで来月末、利用者向けにイベントをやりたいと思います!
郁が再び宣言すると、またしてもザワザワが広がる。
2度目のこのザワザワは、正当なものだ。
「リストラをします」と言った数秒後に「そこでイベントをやります」という宣言。
なにがどうつながって「そこで」なのか、聞いている方は理解不能だろう。
だが郁はニッコリ笑って、さらにわかりにくい宣言をした。
イベント開催日は来月最後の土日を使います。
皆さんはこのイベントを、心から楽しんでください。
楽しめなかった方をリストラの対象とさせていただきます!
郁の高らかな宣言に、本日3度目のザワザワが広がる。
楽しむとか、楽しまないとか、いったい何をどうやって評価するのか。
だが郁はそんな根本的な疑問はそのままに、イベントの詳細を語り始めた。
かくして郁の最後のミッションが始まったのだった。
因縁の地に立った郁は、かつて熾烈な戦いが行なわれた建物を見上げた。
多くの図書隊員と良化隊員が血を流したその場所は、今は嘘のように静かだった。
正化39年、5月。
郁が水戸準基地に赴任したのは、ゴールデンウィークが開けたばかりの時期だった。
配属は業務部、勤務期間は2か月。
そして託された任務は、リストラする隊員のピックアップだった。
赴任した時点で、郁には何の策もなかった。
単に転属を言い渡されてから、実際に赴任する日まで時間がなかったせいだけではない。
あえて何も考えなかったのだ。
実際の雰囲気がわからないのに、あれこれ考えても仕方がない。
結局ノープランで因縁の地に乗り込む形になった。
だが状況は予想以上に悪かった。
さすがに今は「業務部の方が偉い」などと口に出す者はもういない。
だが染み付いてしまった意識は、なかなか消えないのだ。
須賀原館長になる前、または茨城県展後に入隊した者はまだいい。
問題は須賀原時代に入隊し、しっかりと新人の頃に差別意識を刷り込まれた者がやっかいだ。
しかも表立って不満を口に出せない分、ストレスが溜まっている。
その結果、女子寮にとどまらず、図書館内も雰囲気が悪くなっているのだ。
おそらく横田一監は、いろいろ試行錯誤したのだろう。
ここにいる以上、郁以上に雰囲気の悪さは感じているのだろうから。
それで選んだ最後の手段がリストラ。
きっと苦渋の決断だったのだろう。
それならば郁もそれに応えなければならない。
郁らしいやり方で。全力で。
そこで郁は隊員たちを、食堂に集めた。
こそこそと調べ回るようなやり方は、もうやりたくない。
最後の任務は正々堂々、真っ向勝負をして終わらせてやる!
郁は集まった隊員たちを見回すと、おもむろに口を開いた。
あたしは、みなさんの中からリストラする人を選ぶためにここに来ました!
郁は力強くそう宣言した。
食堂に集まった一同はシンと静まり返る。
だが次の瞬間、ザワザワと小さな喧騒がさざ波のように広がっていった。
郁は全員が静まるのを待ち、再び口を開く。
そこで来月末、利用者向けにイベントをやりたいと思います!
郁が再び宣言すると、またしてもザワザワが広がる。
2度目のこのザワザワは、正当なものだ。
「リストラをします」と言った数秒後に「そこでイベントをやります」という宣言。
なにがどうつながって「そこで」なのか、聞いている方は理解不能だろう。
だが郁はニッコリ笑って、さらにわかりにくい宣言をした。
イベント開催日は来月最後の土日を使います。
皆さんはこのイベントを、心から楽しんでください。
楽しめなかった方をリストラの対象とさせていただきます!
郁の高らかな宣言に、本日3度目のザワザワが広がる。
楽しむとか、楽しまないとか、いったい何をどうやって評価するのか。
だが郁はそんな根本的な疑問はそのままに、イベントの詳細を語り始めた。
かくして郁の最後のミッションが始まったのだった。