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Morderisch(殺人的・血生臭い・残忍な)

私はとある病院で、救急救命医をしている。
元々専門は外科だったんだけど、救急に回された。
理由は簡単。うちの救急は他の病院よりハードなのだ。
ここは関東図書基地に近い。
訓練や検閲抗争で負傷した図書隊員が、たびたび搬送される。

仕事は忙しいけれど、不満はない。
だって優秀な外科医になるために、腕を磨きたいんだもの。
この日本で、被弾した患者を日常的に扱う病院なんて他にない。
それに被弾以外でも、抗争で負傷した重症患者も後を絶たないのだ。
つまりここで勤務していれば、外科医のスキルは確実に上がる。

今夜も抗争があったらしい。
ストレッチャーに乗せられて、戦闘服の図書隊員が運ばれてきた。
そしてストレッチャーと並走しながら、負傷した図書隊員に付き添っているのは堂上さんだ。
おそらく彼は一番、ここで治療した回数は多いだろう。
だからここの救急で働く医師や看護師で、彼を知らない者はいない。
必死に「しっかりしろ」とか「頑張れ」と声をかけているから、怪我人は彼の部下なんだろう。

実は私は、堂上さんに恋をしていた。
顔立ちは整っているし、細いのに筋肉質な身体もステキだ。
私は治療をするために、至近距離で何度も見て、触って、感じた。
こんな男に抱かれたら、大抵の女はメロメロに溶かされてしまうだろう。

それに少し前に世間を騒がせた、作家の当麻蔵人亡命事件。
彼はあの件で活躍し、被弾までしたらしい。
残念ながらそのときは、新宿の救急病院に運ばれたから、私が治療することはなかった。
しばらくしてリハビリのためにうちに転院したらしいけど、病棟が違うせいで会えなかった。
でもあの頃、看護師たちの噂話はよく聞いた。
図書隊の偉い人たちがたくさんお見舞いに来てて、堂上さんってきっとエリートなんだって。
あの若さで一正だそうだから、外れてないだろう。
看護師たちはこぞって、堂上さんにアプローチしたけど、全員撃沈したって聞いた。
そんな身持ちが堅い感じもいい。

ああ、いけない。物思いにふけっている場合じゃない。
堂上さんの大事な部下を、しっかり治療しなくては。
医者としてベストを尽くすことはもちろんだけど、堂上さんに近づくチャンスだものね。

だけどストレッチャーに横たわる人の顔を覗き込んで、驚いた。
血まみれで意識のないその人は、若い女性だったのだ。
女性というよりは女の子という雰囲気の彼女が、こんな血生臭い仕事をしているなんて。

私は看護師から、メモパッドを受け取った。
貼りつけられた紙には、患者さんの情報が書かれている。
それを見た私は、言葉を失い、固まった。
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