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Finsternis(暗黒・暗闇・罪業の沼)

なんか最近、退職と異動が多くない?
あたしはバディを組んでいる同期の男性防衛部員にそう言った。
そいつは一瞬考えるように首を傾げると「そう言えばそうだな」と答えた。

図書隊の防衛員は、公務員のわりには異動が多いと思う。
火器使用の制限がついたものの、やはり検閲抗争は激しい。
ケガのせいで防衛員を続けられなくなり、業務部へ移る人は毎年何人かいる。
それに武蔵野第一はやはり一番抗争が激しいから、怖くなって他県への異動を希望する人もいる。
同じ理由で退職する人だって、決して少なくない。

かくいうあたしも、最初は業務部志望だった。
だけど錬成時代から、身体能力が高いことを評価されて、防衛部に配属された。
特殊部隊入りなんて、噂されたこともある。
あたし自身も、いつしかそれを熱望した。
防衛員として出世したいと思ったら、やはりその行く先は特殊部隊なんだから。
何年か防衛部で経験を積んで、いつかはなんて思っていた。

全国初、そして唯一の女性特殊部隊隊員。
そんな称号に憧れた時期もある。
何しろエリート集団なのだし、堂上班を筆頭にして、デキる男はたくさんいる。
そんな男たちに囲まれて、バリバリ仕事して、ゆくゆくは幸せな結婚を、なんてね。

だけどその称号も、夢見た未来も、あたしのものにはならなかった。
それを手にしたのは、3年後輩の女子隊員、笠原郁。
笠原が特殊部隊に配属されたと聞かされたその日から、あたしの心は暗黒に蝕まれた。
暗闇の中で「どうしてあたしじゃないの?」と何度も自問した。
そして笠原を憎み倒すことで、バランスを取ることにしたのだ。

それから何年、経過しただろう。
笠原はいくつもの事件を解決し、出世もして、結婚して堂上郁になった。
あたしはといえば、そこそこの仕事はこなしているが、やはり笠原ほどの派手さはない。
相変わらず独身で、バディと「最近、時季外れの異動や退職が多いね」なんて噂話をしながら、館内を警備している。
そんなとき、貸出カウンターの近くで、その会話を耳にした。

笠原、お腹、大きくなったね~!
もしかして双子だったりして
何人かの女子業務部員が、笠原を囲んで、賑やかに談笑していた。
笠原は現在妊娠中なので、特殊部隊から外れて業務部の手伝いをしている。
もう何か月だろう?
お腹はかなり大きくて、誰が見ても妊婦だとわかる。

じゃあ、あたしちょっと、特殊部隊の事務所に呼ばれてるから。
笠原は女子業務部員たちにそう告げると、輪の中から離れた。
あ、これはチャンス。
あたしはバディに「ちょっと先に行ってて」と声をかけると、笠原を追いかけた。
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