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Anhauch(息吹)

大丈夫なのか?
俺は笠原の様子を見ながら、秘かに心配していた。

最近の笠原は、何だか妙に忙しそうにしている。
昼休みや休憩時間は「ちょっと用事が」と言って、すぐにどこかに行ってしまう。
そして課業後や休日も、1人で図書館の敷地内をウロウロと歩き回るのを見るようになった。

別に業務に支障がなければ、それ以外の時間に何をしようとかまわない。
だが笠原は何だか疲れているように見えた。
理由はすぐに知れた。
笠原と同室の柴崎に聞いたら、あっさりと教えてくれたからだ。

児童室のイベントで、笠原が企画した葉っぱのパズルをまたやることになったんです。
それを聞いた俺は「は?」と首を傾げた。
葉っぱのパズル。それは笠原が昇任試験の実技でやった企画だ。
図書館の庭で集められる木の葉で作ったパズル遊び。
子供の学習意欲を高める高度な企画で、あれから何度か実施している。
その都度、笠原は業務部に貸し出されて、子供たちにも大好評だと聞いている。

だが今回は業務部から依頼が来ていない。
業務の企画に参加するときには、かならず業務部から隊長に依頼があるはずなのに。
隊長が俺に伝えて、俺が笠原に指示を出すのが、普段の流れのはずだ。
俺が聞いていないなんてこと、ありえない。
そんな俺の気持ちを察したのか、柴崎が不満そうに口を開いた。

今回は笠原に頼まずに、業務部だけでやることになったんです。
業務部の女子の1人が、ぜひやらせてくれって立候補して。
笠原抜きでもできるなんて言って、実際笠原に頼み込んでパズルを作らせているんです。
要するに面倒な葉っぱ集めやパズル作りは笠原にさせて、イベントは自分がやる。
つまりいいトコ取りしようってことですよ。

そう教えてくれる柴崎の口調には、怒りが滲んでいる。
俺もはっきり言って、気分がよくなかった。
今までの依頼は正式な業務だったから、葉っぱを集めたりするのは課業扱いだ。
だがそうでないから、笠原は課業以外の時間を削って作業しているのだ。
しかも今回は用意するパズルのセット数も多いらしい。

やらせているのは誰だ?
柴崎にそう聞くと、1人の女性館員の名前を挙げた。
確か笠原や柴崎よりも2年程先輩の、業務部員だ。
俺はため息をつくと「わかった」と答えた。
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