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向日葵まわり

「笠原!タスクフォース復帰、おめでとう!」
特殊部隊の事務所に出勤した途端、全員が笑顔で郁を迎え入れた。
郁は「ありがとうございます」と敬礼をしたが、その表情に笑顔はなかった。

良化法賛同団体「麦秋会」による図書館襲撃事件は、少しずつ終息しつつある。
身柄を確保された襲撃犯の男たちから、ある程度の事情は聴けた。
彼らはほぼ全員が、良化隊で狙撃手をしていた者たちだった。
銃の腕前のみで良化隊内の地位を維持していた者たちは、火気使用禁止でその価値を失った。
閑職に追いやられ、立ち位置を失った彼らは、退職して「麦秋会」に加入した。
賛同団体なら、遠慮なく銃が使える。
ここで図書隊を襲撃し、検閲図書をすべて焼き捨てて、完膚なきまでに叩きのめす。
そうなれば図書隊は音を上げ、再び火気使用の復活を働きかけてくるだろう。

もちろんそれを扇動した者がいる。
安達を使って、郁の情報を得た良化隊の幹部候補生。
彼は当麻事件の立役者であり、特殊部隊の紅一点でフラッグシップ的な存在の郁を目障りに思っていた。
だから郁の排除も作戦に組み込んだのだ。
襲撃犯たちの証言で、その男も警察に逮捕されている。
良化隊は例のごとく、勝手に暴走した男の犯行であり、自分たちは無関係であると言い切った。

ここで動いたのが、折口と手塚慧である。
折口は図書隊側でのこの事件の中心人物である郁にインタビューをし、それを雑誌に掲載した。
手塚慧は積極的にテレビに出演し、この事件についての持論を語り続けた。
どちらも銃を取った図書隊員、つまり郁にも非はあることは否定しなかった。
だがそれは卑劣な襲撃犯に対抗し、被害を最小限に食い止めるための措置であったこと。
郁が迷った末に取った手段であり、本人が苦悩していること。
2人はそれぞれの方法で、郁の立場や心境を代弁した。

世論は当麻事件並みに、盛り上がっていた。
良化法不要の声はますます大きくなり、それは同時に図書隊を擁護するものになった。
そして名前こそ伏せられているが、郁を称賛する声も大きくなっていく。
そうなるといかに頭が固い幹部たちも、郁を査問にかけるなどとは言えなくなっていた。
玄田がしっかりと、そんなことをすれば「新世相」に記事を書かせると脅しをかけたのだ。
かくして郁は図書隊に復帰した。
処罰は当麻事件と同じく、始末書のみだ。

「笠原!タスクフォース復帰、おめでとう!」
特殊部隊の面々は、娘っ子の復帰に大いに喜び、沸いた。
これで全て元通り、何もかもうまくいくと誰もが信じたのだが。

「ありがとうございます。」
歓声に応えるように挨拶した郁の声は、固かった。
そして表情は、冷たく凍り付いている。
それを見て取った特殊部隊の事務室はシンと静まり返ったが、郁は何も言わずにさっさと自席についてしまった。

一連の事件は、郁を変えてしまった。
夏の向日葵のような笑顔が消えてしまったのだ。
彼らはそこをこれからまざまざと思い知ることになった。
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