泣きたい夕暮れ
まったく、お前は。
堂上は力なくベットに横たわる郁の手を握っていた。
窓から差し込む夕日が、郁の蒼白な頬にかろうじて暖かみを添えていた。
関西出張中の郁が被弾したと聞いて、堂上は病院に駆けつけた。
郁の傷は右肩と左脇腹の2箇所、どちらも軽傷ではないが、深刻なものではなかった。
ただ出血が多かったのだ。
一時は生死の境を彷徨ったのだが、堂上が到着する頃には峠を越していた。
「篤さん、どうして?」
程なくして意識を取り戻した郁は、目を開けるなり、ベットサイドで付き添っていた堂上に驚いた。
だがすぐに「忙しいのに、すみません」と目を伏せる。
いつもとは違う弱々しい声は、喋ることさえつらいのだとわかる。
だがこんな時まで、郁は自分より堂上を気遣っているのだ。
「お前が被弾しながらも、犯人を確保したと聞いた。よくやったな。」
堂上は郁の頭に手を伸ばし、ポンポンと叩いた。
ケガ人であることを考慮して、普段より優しい手つきで。
いろいろ言いたいことはある。
だが今は、郁が生きていてくれたことに感謝している。
「あたしは大丈夫です。だから」
「俺がそばにいたいんだよ。」
仕事に戻れと言いたげな郁の言葉を、堂上が遮った。
愛する妻で、可愛い部下である郁が愛おしい。
こんな風に無防備で弱っている郁を、放っておけるはずなどないのだ。
「でも篤さん、のんびり、してられないの。」
郁はなおもそう言い募った。
それを見た堂上は思わず「おい、まさか」と声が出た。
おそらく被弾のせいで、発熱もしているのだろう。
いつもは力強く、生命力が漲る郁の瞳が、ぼんやりと熱に潤んでいる。
だからすぐに気付けなかった。
郁はこの事件を、終わったものと考えていない。
「あたしを撃ったヤツらは、あたしに『見つけた!堂上郁だ!』って言ったの。」
「・・・え?」
「ヤツらは、あたしを狙って来たんだと思う。」
「まさか。そんな」
「だからお願い。調べて。あと関東のみんなに気をつけてって、伝えて。」
「あたしは、よくやってなんか、ない。あたしのせいで、襲撃、された。」
郁はそれだけ告げると、力尽きたように目を閉じた。
2ヶ所の銃創と、大量出血による貧血、そして発熱。
もう目を覚ましていることさえ、きついのだろう。
「わかった。郁。」
堂上は寝息を立てている郁の髪をくしゃくしゃとなでた。
郁は部下として、危機を感じたことを報告した。
それなら上官として、すぐに最善の手を打たなければならない。
夫として甘やかしてやるのは、もう少し後だ。
「早く元気になれ」
堂上はそう告げると、完全に眠ってしまった郁に背を向けた。
本当はずっとそばにいたいのにかなわない、泣きたい夕暮れだった。
堂上は力なくベットに横たわる郁の手を握っていた。
窓から差し込む夕日が、郁の蒼白な頬にかろうじて暖かみを添えていた。
関西出張中の郁が被弾したと聞いて、堂上は病院に駆けつけた。
郁の傷は右肩と左脇腹の2箇所、どちらも軽傷ではないが、深刻なものではなかった。
ただ出血が多かったのだ。
一時は生死の境を彷徨ったのだが、堂上が到着する頃には峠を越していた。
「篤さん、どうして?」
程なくして意識を取り戻した郁は、目を開けるなり、ベットサイドで付き添っていた堂上に驚いた。
だがすぐに「忙しいのに、すみません」と目を伏せる。
いつもとは違う弱々しい声は、喋ることさえつらいのだとわかる。
だがこんな時まで、郁は自分より堂上を気遣っているのだ。
「お前が被弾しながらも、犯人を確保したと聞いた。よくやったな。」
堂上は郁の頭に手を伸ばし、ポンポンと叩いた。
ケガ人であることを考慮して、普段より優しい手つきで。
いろいろ言いたいことはある。
だが今は、郁が生きていてくれたことに感謝している。
「あたしは大丈夫です。だから」
「俺がそばにいたいんだよ。」
仕事に戻れと言いたげな郁の言葉を、堂上が遮った。
愛する妻で、可愛い部下である郁が愛おしい。
こんな風に無防備で弱っている郁を、放っておけるはずなどないのだ。
「でも篤さん、のんびり、してられないの。」
郁はなおもそう言い募った。
それを見た堂上は思わず「おい、まさか」と声が出た。
おそらく被弾のせいで、発熱もしているのだろう。
いつもは力強く、生命力が漲る郁の瞳が、ぼんやりと熱に潤んでいる。
だからすぐに気付けなかった。
郁はこの事件を、終わったものと考えていない。
「あたしを撃ったヤツらは、あたしに『見つけた!堂上郁だ!』って言ったの。」
「・・・え?」
「ヤツらは、あたしを狙って来たんだと思う。」
「まさか。そんな」
「だからお願い。調べて。あと関東のみんなに気をつけてって、伝えて。」
「あたしは、よくやってなんか、ない。あたしのせいで、襲撃、された。」
郁はそれだけ告げると、力尽きたように目を閉じた。
2ヶ所の銃創と、大量出血による貧血、そして発熱。
もう目を覚ましていることさえ、きついのだろう。
「わかった。郁。」
堂上は寝息を立てている郁の髪をくしゃくしゃとなでた。
郁は部下として、危機を感じたことを報告した。
それなら上官として、すぐに最善の手を打たなければならない。
夫として甘やかしてやるのは、もう少し後だ。
「早く元気になれ」
堂上はそう告げると、完全に眠ってしまった郁に背を向けた。
本当はずっとそばにいたいのにかなわない、泣きたい夕暮れだった。