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太陽を背負う者

「銃撃!?そんなバカな!!」
誰かが叫ぶ声を聞いた郁も、まさしくそう思ったところだった。
あれだけ苦労して、ようやく検閲抗争で火器の使用が禁止になった今、どうして銃の音を聞くのか。
しかも愛する人や信頼できる仲間と離れた、関西の地で。

結婚し「堂上三正」となった郁は、関西図書隊にいた。
表向きは研修、だが実際は逃げてきたと言っていいと思う。
本来ならば関東で、新入隊員の訓練に励んでいたはずだ。
だが問題が発生し、郁は錬成教官から外れた。
自ら外してほしいと、玄田に願い出たのだ。

玄田は当初、郁の要求を跳ね除けた。
夫である堂上や、もう1人の上官の小牧、一緒に錬成教官を務める手塚にも何度も説得された。
だが郁は頑強に「できない」を繰り返した。
教官は新隊員を導く立場なのに、こんなに迷っていてはとても無理だし、新隊員に申し訳ないと。
郁の意志が固いと悟った玄田が用意したのが、この研修だった。

元々郁は全国から、研修の名目で来て欲しいという依頼は多かった。
全国唯一の女性の特殊部隊隊員として名高く、一緒に訓練するだけでも隊員たちのいい刺激になる。
特にここ関西では、あの当麻蔵人の亡命事件の地であり、どこよりも郁の評価は高い。
だからすんなりと関東から出ることができたのだ。

だけどいつまでもここにはいられない。
郁は図書館内を巡回しながら、そんなことを考えていた。
冗談交じりで「このまま関西に転属しなよ」と言ってくれる者もいる。
もちろん郁が希望すれば、きっとそれも可能だ。
だけどそれは逃げただけで、問題の解決ではない。

いけない、集中しなければ。
郁は静かに深呼吸をすると、拳を握りしめた。
今はここ、大阪図書館を守るのが郁の仕事。
考え事なんかして万が一のことがあったら、堂上ら関東の図書特殊部隊の面々に申し訳ない。

気合いを入れ直した瞬間、銃声と思われる音が響いたのだ。
郁だけでなく、館内の防衛員たちが音のした方角に向かって、一気に走り出した。
誰もがまさかと思い、爆竹とかロケット花火の類であってほしいと思う。
だが今までの身体に染みついた抗争の経験が、あれが間違いなく銃声だと告げている。

そして郁は正面入口前で、短機関銃を構える2人の男を見た。
さんさんと光が差し込むエントランスホールで、太陽を背負うように立つ男たち。
良化隊の制服ではないから、賛同団体か、もしくはただのテロリストか。
いや、そう見せて実は良化隊の指示を受けている可能性もある。

だが郁は、その詮索は後回しにした。
良化隊の検閲だったら、利用者の避難をさせてからやり合うことができる。
だが今、乱入してきた男たちは、問答無用で銃を撃ち始めたのだ。
逃げ惑う利用者など、おかまいなしに。
絶対に許せない。

「ふざけるなぁぁ!!」
郁は叫びながら、男たちの方へと駆け出した。
正確にはいきなりの銃撃に驚き、男たちのすぐそばで動けなくなっている利用者を庇うために。
そのとき、男たちは郁に向かって何かを叫んだ。

今、何て言った?
いや、気にしている場合じゃない。
とにかくあたしは利用者と本を守る!
郁は圧倒的に不利な状況にありながら、強い瞳で男たちに立ち向かった。
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