薔薇バラバラ
「なぁ笠原って、やっぱり贔屓されてんだろ?」
共同ロビーで、無遠慮な声が聞こえてきて、堂上は思わず足を止めた。
お試し期間とやらで班編成が変わってから、あと少しで1ヶ月になる。
それが過ぎれば、再び堂上班は元に戻ることになっている。
当初は理不尽なことをすると思った。
自分や小牧や手塚はともかく、郁のことが心配でならなかった。
経験もなく、郁に反感を持っていると思われるお試し隊員と組ませるなんて、危険すぎると。
だが結果的には、三宅班は思いのほかうまくいった。
最初は郁のことが気に食わなかったであろう3人のお試し隊員たち。
でもやっているうちに、きちんと班の形を成してきた。
いい意味で、郁に感化されたからだ。
ひた向きに頑張る郁を見て、彼らもまたそれに倣うようになった。
だが班での連係は、堂上班には遠く及ばない。
郁のスピードに他の班員がついてこられず、ケガをすることはしょっちゅうだ。
堂上も小牧も手塚も、他の班にいて学ぶことは多くあり、意味がある時間だったとは思う。
だがやはり生傷が絶えない郁が心配で、この1ヶ月はとにかく長かった。
そして1日の業務を終えて、寮に戻った堂上はそれを聞いたのだ。
共同ロビーには、若い防衛部の隊員たちがたむろしている。
気配を殺し、そっと物陰に身を隠した堂上は、そのメンツを確認した。
やはり郁が特殊部隊に配属されたのが気に食わないと、悪口を言っているグループだ。
そしてその中には、佐竹と山岡がいた。
「なぁ笠原って、やっぱり贔屓されてんだろ?」
グループの中の1人が、佐竹と山岡に聞いている。
この中では一番年長で、特殊部隊入りを熱望している男だ。
だが堂上は、この男が特殊部隊入りすることはないと思っていた。
郁がどうこう以前に、よく入隊できたと言いたくなるくらい、能力が低いのだ。
そんな男がよくも郁を貶められるものだと、堂上はもはや怒りより呆れてしまっていた。
「笠原には贔屓なんかじゃなく、能力で選ばれてますよ。今回の件でよくわかりました。」
「あいつを侮ってました。実力は俺らより格段に上です。」
佐竹と山岡がそう告げると、彼らを取り巻いていた防衛員たちが白けたような表情になる。
そして先程の年長の男が「なんだよ。お試し期間で洗脳されたのかよ」と舌打ちした。
「そういう考えを捨てない限り、特殊部隊どころか考課もつかないっすよ。」
佐竹が静かにそう告げると、さっさと男子寮へと引き上げていく。
山岡がそれに続き、残された防衛員たちは微妙な雰囲気のまま残された。
確かに件の年長の男は、未だに士長なのだ。
完全に笑い飛ばすことのできない、心に刺さる言葉だっただろう。
彼らが三々五々、散らばるのを確認して、堂上は部屋に戻った。
その夜、堂上は小牧と手塚、3人での部屋飲みで、この1件を話した。
郁に対する理不尽な噂や陰口は未だになくならず、堂上たちはいつも歯がゆい思いをしている。
だけどこれは少しだけ、明るい気分になれるネタだった。
共同ロビーで、無遠慮な声が聞こえてきて、堂上は思わず足を止めた。
お試し期間とやらで班編成が変わってから、あと少しで1ヶ月になる。
それが過ぎれば、再び堂上班は元に戻ることになっている。
当初は理不尽なことをすると思った。
自分や小牧や手塚はともかく、郁のことが心配でならなかった。
経験もなく、郁に反感を持っていると思われるお試し隊員と組ませるなんて、危険すぎると。
だが結果的には、三宅班は思いのほかうまくいった。
最初は郁のことが気に食わなかったであろう3人のお試し隊員たち。
でもやっているうちに、きちんと班の形を成してきた。
いい意味で、郁に感化されたからだ。
ひた向きに頑張る郁を見て、彼らもまたそれに倣うようになった。
だが班での連係は、堂上班には遠く及ばない。
郁のスピードに他の班員がついてこられず、ケガをすることはしょっちゅうだ。
堂上も小牧も手塚も、他の班にいて学ぶことは多くあり、意味がある時間だったとは思う。
だがやはり生傷が絶えない郁が心配で、この1ヶ月はとにかく長かった。
そして1日の業務を終えて、寮に戻った堂上はそれを聞いたのだ。
共同ロビーには、若い防衛部の隊員たちがたむろしている。
気配を殺し、そっと物陰に身を隠した堂上は、そのメンツを確認した。
やはり郁が特殊部隊に配属されたのが気に食わないと、悪口を言っているグループだ。
そしてその中には、佐竹と山岡がいた。
「なぁ笠原って、やっぱり贔屓されてんだろ?」
グループの中の1人が、佐竹と山岡に聞いている。
この中では一番年長で、特殊部隊入りを熱望している男だ。
だが堂上は、この男が特殊部隊入りすることはないと思っていた。
郁がどうこう以前に、よく入隊できたと言いたくなるくらい、能力が低いのだ。
そんな男がよくも郁を貶められるものだと、堂上はもはや怒りより呆れてしまっていた。
「笠原には贔屓なんかじゃなく、能力で選ばれてますよ。今回の件でよくわかりました。」
「あいつを侮ってました。実力は俺らより格段に上です。」
佐竹と山岡がそう告げると、彼らを取り巻いていた防衛員たちが白けたような表情になる。
そして先程の年長の男が「なんだよ。お試し期間で洗脳されたのかよ」と舌打ちした。
「そういう考えを捨てない限り、特殊部隊どころか考課もつかないっすよ。」
佐竹が静かにそう告げると、さっさと男子寮へと引き上げていく。
山岡がそれに続き、残された防衛員たちは微妙な雰囲気のまま残された。
確かに件の年長の男は、未だに士長なのだ。
完全に笑い飛ばすことのできない、心に刺さる言葉だっただろう。
彼らが三々五々、散らばるのを確認して、堂上は部屋に戻った。
その夜、堂上は小牧と手塚、3人での部屋飲みで、この1件を話した。
郁に対する理不尽な噂や陰口は未だになくならず、堂上たちはいつも歯がゆい思いをしている。
だけどこれは少しだけ、明るい気分になれるネタだった。