潰れたイチゴ
「ご協力、ありがとうございました!」
郁はガバッと勢いよく、頭を下げた。
佐竹と山岡は照れながら「大袈裟だ」「別に大した手間じゃないから」と笑う。
そして三宅はそんな様子を見ながら、あと少しで終わることを残念に思った。
期間限定の三宅班を作って、3週間が過ぎた。
そしてあと1週間ほどで、この班での活動も終わる。
この先のことはわからない。
三宅としては、このままこの4人での班が続いてほしいと思っている。
だがそれが通るかどうかはわからないし、そもそも郁以外の3人が特殊部隊に配属されるかどうかもまだ未定なのだ。
「これだけあれば、明日はバッチリです!」
郁は上機嫌で、作り終えたたくさんの「それ」をダンボール箱に入れていく。
事の発端は、郁だった。
定刻に今日の業務を終え、日報を提出した郁は自分の席でいきなり折り紙と鋏を取り出し、工作を始めたのだ。
すると帰ろうとしていた佐竹と山岡が、興味津々な様子で「それ、何だ?」と聞いた。
「折り紙でイチゴを作るんです。明日の読み聞かせの時、子供たちに配ろうと思って。」
郁はそう言って、赤と緑の折り紙を使って、紙のイチゴを作り始めた。
明日、三宅班の予定は「お話し会」の警護だ。
そして郁は絵本を読むことになっているが、予定しているその本の中にイチゴを食べるシーンがあるのだ。
だから郁は紙でイチゴを作って、子供たちに渡すつもりだった。
面白がった佐竹と山岡が「俺らもやる!」「教えてくれよ」と言い出した。
三宅はそんな3人を見ながら、彼らの日報をチェックしていた。
「本当はこういうの、寮の部屋でやるんですけど、今日は柴崎が体調悪くて。」
「同室のヤツの体調が関係するのか?」
「ええ。こんなの寝ている横でやられたら落ち着かないだろうし、手伝うとか言いかねないし。」
「笠原はそういうトコは、優しいよな」
「ちょっと!今『そういうトコ』にアクセント置きませんでした!?」
3人は楽しそうに談笑しながら、紙のイチゴを作っていく。
三宅はそれを見ながら、こんな穏やかな気持ちであることが嘘のようだと思う。
三宅も佐竹も山岡も、自分たちがなぜ特殊部隊に呼ばれないのか、長年不満だった。
そして郁は、女子だから贔屓されているのだろうという嫉妬の対象だった。
だから同じ班になったとき、この女にだけは負けないと思ったし、何なら潰してもいいとさえ思ったのだ。
それが今では郁を中心に、この班はまとまっている。
ここ3週間で、笠原郁という特殊部隊隊員のポテンシャルの高さは思い知った。
そしてこちらの嫉妬心さえ消してしまうほどの裏表のないさっぱりした性格に、すっかり魅せられていたのだ。
郁は出来上がった小さな紙のイチゴを、丁寧に慎重にダンボール箱に収めていく。
うっかり乱暴にすれば、簡単に潰れてしまいそうだからだ。
そして「これ、全部本物だったら、お腹一杯になりますね」なんて言って、佐竹と山岡を笑わせている。
三宅も思わず頬が緩み、そして特殊部隊事務所を見回して「ああ」と思う。
残っている隊員たちが、全員郁を見て、笑顔になっている。
そしてあの仏頂面がデフォルトの堂上は、この上なく優しい瞳で静かに郁を見ていた。
恋人、か。
三宅は郁に視線を戻すと、苦笑した。
このまま自分の班に郁が欲しいとは思うが、堂上のあんな顔を見てしまうと、とても無理に思えた。
郁はガバッと勢いよく、頭を下げた。
佐竹と山岡は照れながら「大袈裟だ」「別に大した手間じゃないから」と笑う。
そして三宅はそんな様子を見ながら、あと少しで終わることを残念に思った。
期間限定の三宅班を作って、3週間が過ぎた。
そしてあと1週間ほどで、この班での活動も終わる。
この先のことはわからない。
三宅としては、このままこの4人での班が続いてほしいと思っている。
だがそれが通るかどうかはわからないし、そもそも郁以外の3人が特殊部隊に配属されるかどうかもまだ未定なのだ。
「これだけあれば、明日はバッチリです!」
郁は上機嫌で、作り終えたたくさんの「それ」をダンボール箱に入れていく。
事の発端は、郁だった。
定刻に今日の業務を終え、日報を提出した郁は自分の席でいきなり折り紙と鋏を取り出し、工作を始めたのだ。
すると帰ろうとしていた佐竹と山岡が、興味津々な様子で「それ、何だ?」と聞いた。
「折り紙でイチゴを作るんです。明日の読み聞かせの時、子供たちに配ろうと思って。」
郁はそう言って、赤と緑の折り紙を使って、紙のイチゴを作り始めた。
明日、三宅班の予定は「お話し会」の警護だ。
そして郁は絵本を読むことになっているが、予定しているその本の中にイチゴを食べるシーンがあるのだ。
だから郁は紙でイチゴを作って、子供たちに渡すつもりだった。
面白がった佐竹と山岡が「俺らもやる!」「教えてくれよ」と言い出した。
三宅はそんな3人を見ながら、彼らの日報をチェックしていた。
「本当はこういうの、寮の部屋でやるんですけど、今日は柴崎が体調悪くて。」
「同室のヤツの体調が関係するのか?」
「ええ。こんなの寝ている横でやられたら落ち着かないだろうし、手伝うとか言いかねないし。」
「笠原はそういうトコは、優しいよな」
「ちょっと!今『そういうトコ』にアクセント置きませんでした!?」
3人は楽しそうに談笑しながら、紙のイチゴを作っていく。
三宅はそれを見ながら、こんな穏やかな気持ちであることが嘘のようだと思う。
三宅も佐竹も山岡も、自分たちがなぜ特殊部隊に呼ばれないのか、長年不満だった。
そして郁は、女子だから贔屓されているのだろうという嫉妬の対象だった。
だから同じ班になったとき、この女にだけは負けないと思ったし、何なら潰してもいいとさえ思ったのだ。
それが今では郁を中心に、この班はまとまっている。
ここ3週間で、笠原郁という特殊部隊隊員のポテンシャルの高さは思い知った。
そしてこちらの嫉妬心さえ消してしまうほどの裏表のないさっぱりした性格に、すっかり魅せられていたのだ。
郁は出来上がった小さな紙のイチゴを、丁寧に慎重にダンボール箱に収めていく。
うっかり乱暴にすれば、簡単に潰れてしまいそうだからだ。
そして「これ、全部本物だったら、お腹一杯になりますね」なんて言って、佐竹と山岡を笑わせている。
三宅も思わず頬が緩み、そして特殊部隊事務所を見回して「ああ」と思う。
残っている隊員たちが、全員郁を見て、笑顔になっている。
そしてあの仏頂面がデフォルトの堂上は、この上なく優しい瞳で静かに郁を見ていた。
恋人、か。
三宅は郁に視線を戻すと、苦笑した。
このまま自分の班に郁が欲しいとは思うが、堂上のあんな顔を見てしまうと、とても無理に思えた。