焔を纏いし者
焔を纏いし者。
ちょうどその瞬間、郁を見た男はそう思った。
とある夕方の武蔵野第一図書館。
堂上班は館内警備の任務についていた。
そろそろ学生のテストシーズンに入るため、館内に学生っぽい若者は多かった。
だからそれは起こるべくして起こったとも言える。
何しろ学生は、その若さゆえに無防備なのだ。
「待ちなさい!」
笠原郁はそう叫ぶと、凄まじい勢いで走り始めた。
本日の堂上班の警備は郁と手塚、そして堂上と小牧が組んで巡回していた。
そして郁がたまたま学生が席に置きっぱなしにしていたカバンから、財布を抜き取る男を見つけたのだ。
バディの手塚も、すかさず後を追う。
だが咄嗟のダッシュ力は、郁の方が上だ。
男が正面玄関の扉に辿り着く前に、郁が追いついた。
腕を掴みながら足を払い、男を床にうつ伏せに倒す。
そこへ追いついて来た手塚が、すかさず手錠をかけた。
その光景に、男の目は釘付けになった。
カラス張りの正面玄関には、鮮やかな夕陽が降り注いでいる。
赤い光の中、犯人を狩るべく闘争本能をむき出しにしながら立つ郁には、異様な迫力があった。
炎を纏いし者。そんな言葉がピタリとハマる。
程なくして堂上と小牧も駆け付け、巡回していた防衛員も2人やってきた。
郁と手塚は防衛員に犯人を引き渡し、堂上と小牧に敬礼すると、連行される犯人の後を追う。
調書を取るのに、協力するのだろう。
堂上と小牧は満足げな笑みを浮かべながら、彼らを見送っている。
あんなのが同じ班にいれば、そりゃ手柄も挙げられるし、出世も早いだろう。
男は堂上と小牧を見ながら、唇を歪めて嗤った。
逆に言えば俺だって「あれ」を手に入れられれば、堂上や小牧と同じ功績は上げられる。
愚かにも男は、本気でそう思っていた。
男は堂上と小牧を、敵意を込めた視線を送った。
殺気を感じたのか、2人がこちらに気付き、目を眇めて男を見返す。
だが男は平然とそれを受け流し、ゆっくりと歩き始めた。
ちょうどその瞬間、郁を見た男はそう思った。
とある夕方の武蔵野第一図書館。
堂上班は館内警備の任務についていた。
そろそろ学生のテストシーズンに入るため、館内に学生っぽい若者は多かった。
だからそれは起こるべくして起こったとも言える。
何しろ学生は、その若さゆえに無防備なのだ。
「待ちなさい!」
笠原郁はそう叫ぶと、凄まじい勢いで走り始めた。
本日の堂上班の警備は郁と手塚、そして堂上と小牧が組んで巡回していた。
そして郁がたまたま学生が席に置きっぱなしにしていたカバンから、財布を抜き取る男を見つけたのだ。
バディの手塚も、すかさず後を追う。
だが咄嗟のダッシュ力は、郁の方が上だ。
男が正面玄関の扉に辿り着く前に、郁が追いついた。
腕を掴みながら足を払い、男を床にうつ伏せに倒す。
そこへ追いついて来た手塚が、すかさず手錠をかけた。
その光景に、男の目は釘付けになった。
カラス張りの正面玄関には、鮮やかな夕陽が降り注いでいる。
赤い光の中、犯人を狩るべく闘争本能をむき出しにしながら立つ郁には、異様な迫力があった。
炎を纏いし者。そんな言葉がピタリとハマる。
程なくして堂上と小牧も駆け付け、巡回していた防衛員も2人やってきた。
郁と手塚は防衛員に犯人を引き渡し、堂上と小牧に敬礼すると、連行される犯人の後を追う。
調書を取るのに、協力するのだろう。
堂上と小牧は満足げな笑みを浮かべながら、彼らを見送っている。
あんなのが同じ班にいれば、そりゃ手柄も挙げられるし、出世も早いだろう。
男は堂上と小牧を見ながら、唇を歪めて嗤った。
逆に言えば俺だって「あれ」を手に入れられれば、堂上や小牧と同じ功績は上げられる。
愚かにも男は、本気でそう思っていた。
男は堂上と小牧を、敵意を込めた視線を送った。
殺気を感じたのか、2人がこちらに気付き、目を眇めて男を見返す。
だが男は平然とそれを受け流し、ゆっくりと歩き始めた。
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