「黒子のバスケ」×「俺ガイル」
【黒子テツヤの孤独で静かな夏は過ぎていく。】
「これってバスケ部の為になっているのかしら?」
雪ノ下は少々剣を含んだ声で、咎めるように黒子を見た。
黒子はいつもの無表情でその視線を受け止める。
そして平坦な声で「ボクの自己満足です」と答えたのだった。
夏の大会が終わり、黒子はバスケ部を去った。
実際は辞めさせられたような形だ。
黒子のやり方はバスケ部には合わない。
部員たちにそう言われ、身を引くことにしたのだ。
黒子にしたら、シンプルでわかりやすい事実。
だが事情を知らない生徒たちには、いろいろと噂された。
全国制覇なんてうそぶいて結局1回戦負け、だから逃げた。
校内ではそれが定説となっているようだ。
つまり黒子が一方的に悪者になっているのである。
だが黒子としては、別にどうでもよかった。
自分が正しいと言いたいなら、勝って証明する。
それが帝光、そして誠凛で学んだことだ。
敗者は何も語らない。
その代わりに自分なりのケジメをつける。
黒子は1人静かにそう決意した。
その成果が、小ぶりの紙袋に詰め込まれている。
中身は数冊のノートと20枚程度のディスク。
千葉県内の主要な高校バスケ部の夏の大会のデータだ。
誠凛の先輩にも手伝ってもらい、試合をチェックしてまとめた。
次の大会以降、勝ち進んでいくためには役に立つはずだ。
「これ、塔ノ沢君に渡してもらえませんか?」
7月某日、黒子は奉仕部の部室に現れ、紙袋を託した。
そして奉仕部の3人に「今までありがとうございました」と頭を下げる。
彼らにもかなり協力してもらった。
その結果が1回戦負けなのだから、正直かなり情けない。
「自分で渡した方がいいんじゃね?」
比企谷が紙袋をチラリと一瞥した後、そう言った。
素っ気ない口調だが、心配してくれているのがわかる。
バスケ部とこのままでいいのか、これを手土産に和解したらどうか。
おそらくそんなことを思っているのだろう。
だが黒子は「いいえ」と首を振った。
「偉そうなことを言って1回戦負け。会わせる顔がありません。」
黒子はそう言って、比企谷を見た。
比企谷は一瞬何かを考えているようだったが、結局「わかった」と頷いた。
これで最後の仕事も終わり、黒子なりにケジメをつけたと思ったのだが。
「これってバスケ部の為になっているのかしら?」
雪ノ下雪乃が少々剣を含んだ声で、咎めるように黒子を見る。
黒子は黙ったまま、静かにその視線を受け止めた。
雪ノ下の言いたいことは、わかった。
バスケ部から離れたのなら、こんな風に関わるべきではない。
本来、データを取って分析し、それをプレイに生かすのも彼ら自身がすべきこと。
安易に手を差し伸べるのは、もしかしたら彼らの成長を妨げているのかもしれないのだ。
「ボクの自己満足です。」
黒子は正直に白状した。
ここでのバスケは中途半端に終わってしまった。
気持ちに決着をつけるため、つまり自分のために必要なことだったのだ。
「わかりました。これを渡して、この依頼は終了ね。」
「はい。」
雪ノ下に念を押され、黒子も頷く。
そして黒子は一礼すると、奉仕部の部室を出た。
さて。これからどうしよう。
黒子はゆっくりと廊下を進みながら、そんなことを考えた。
とりあえず高校の間は静かに過ごすつもりだった。
なのに期せずしてバスケ部に関わり、それは思いのほか楽しかった。
やはり自分にはバスケなのだと思い知った今、明るい気分になるのは無理のようだ。
*****
「やっはろー!」
聞き覚えがあるにも関わらず、聞き慣れない声に黒子はかすかに眉を潜めた。
振り返れば予想通り、クラスメイトの女子生徒がニコニコと手を振っていた。
8月某日、夏休みの最中。
黒子は蒼白な顔で佇んでいた。
ここは千葉駅、モノレール乗り場の階段近く。
呼吸を整えていたところで、能天気な声をかけられたのだ。
「黒子く~ん、久しぶり!」
ニコニコと手を振りながら駆け寄ってきたのは、由比ヶ浜結衣。
奉仕部の部員で、バスケ部の件では世話になったクラスメイトだ。
転校してきたばかりの黒子にとって、まぁまぁ話しやすい相手ではある。
だが人が多い駅前、しかもこちらのコンディションが悪いとき。
無駄なハイテンションで話しかけられるのは、少々キツい。
「こんにちは。由比ヶ浜さん」
それでも黒子は何でもない顔で挨拶をした。
だが由比ヶ浜は「顔色悪いよ。大丈夫?」と聞いてくる。
黒子はあっさりと「大丈夫じゃないです」と答えた。
「何度乗っても怖いです。モノレール」
「え?モノレール?」
予想外の答えに、由比ヶ浜は呆然としている。
だが黒子にとっては、かなり真剣な問題だった。
比企谷にも散々言ったが、黒子は本当に苦手だった。
懸垂式、いわゆる吊り下げるタイプのモノレール。
決して高所恐怖症ではないし、肝試し系も怖くない。
だけどこれだけはどうしてもダメだ。
強度が信用できないというか、落ちる気がしてならないのだ。
今日のように乗客が満員のときは特に。
結局乗っている間中、緊張状態で過ごすことになる。
だからこうして降りた直後は、こんな感じになるのだ。
「そんなに怖いかなぁ?」
「なかなか慣れません。」
「よく乗ってるの?モノレール」
「はい。通院してるので。」
「そっか。事故に遭ったんだもんね。」
「ええ。もう痛みはないんですが、まだ完治はしていなくて」
当たり障りのない会話に答えながら、黒子は由比ヶ浜が眩しいと思う。
いや由比ヶ浜だけではない。
ここにはいない雪ノ下や比企谷もそうだ。
彼らは否定するかもしれないが、悩みながらもしっかりと生きている。
奉仕部といういささか特殊な部活で、ちゃんと存在感を放っているのだ。
対する黒子は事故というアクシデントで、ここに飛ばされてしまった。
例えるなら侵入者、もしくは異端者。
自分の居場所はここではなく、今は居候しているという感じが取れない。
バスケ部で活動することで、その感覚はなくなるのではないかと少し期待した。
だが今はもうそれもなく、夏休み中もずっと1人で過ごしていた。
「この間、奉仕部の合宿だったんだよ。黒子君も呼べばよかったね。」
「どこに行ったんですか?」
「千葉村でボランティア。」
「ボランティア。合宿でも無料奉仕なんですね。」
「うん。だって奉仕部だからね!」
ケラケラと笑う由比ヶ浜に、黒子は「なるほど」と頷いた。
だけど実際、今の黒子にはボランティアなんてする余裕はない。
まずは普通にモノレールに乗れるのが今の目標。
こんな低い志で、人に奉仕ができるとは到底思えなかった。
*****
「今度は君ですか。」
黒子はいつもの平坦な声で、そう言った。
特に何も考えずに出たセリフだ。
だがなぜか「嫌そうな声を出すなよ」と返された。
またしても千葉駅のモノレール乗り場近く。
佇んでいた黒子は、見知った顔を見つけた。
向こうもこちらに気付いたようで、こちらに歩み寄って来た。
「大丈夫か?具合悪そうだけど。」
「今度は君ですか。」
「嫌そうな声を出すなよ。」
彼、比企谷八幡は思いっきり顔をしかめている。
黒子は不本意だったが、何も言わなかった。
心配してくれたのに、素っ気ない答えだったことは認める。
だが別に嫌そうな声を出したつもりはないのだが。
「大丈夫です。モノレールが怖かっただけですから。」
黒子は特に弁明せず、それだけ答えた。
前回の通院は2週間前。
そこで由比ヶ浜に会って、同じことを説明したばかりだ。
「お前、つくづく千葉をディスるよな。」
「そんなつもりはありません。むしろ逆です。」
「逆?」
「あれに平気で乗れているなんて、度胸が違いますよ。」
「褒められている気はしねぇ。」
「それは不本意です。」
比企谷がため息をつくのを見て、黒子はまたしても不本意だと思う。
千葉をディスるつもりなど、さらさらない。
だけどどうしても比企谷にはそれが伝わらないようだ。
「お前、本格的に社会人チームでやるの?」
不意に真顔になった比企谷が意外なことを言い出した。
黒子は「え?」と首を傾げたが、すぐに「ああ」と納得した。
そう言えばバスケ部の試合の後、社会人チームの勧誘を受けた。
それを見られたのだろう。
「ことわっちゃいました。」
「何で?もったいなくねぇ?」
「あの時はバスケ部をクビになるとは思っていなくて」
「それならなおさらだ。今すぐでも連絡取れば」
「それは考えてませんでした。」
本当にまったく予想外の提案だった。
社会人チームから勧誘は黒子にとって、もう終わったこと。
バスケ部をやめたこととはまったく別の話だった。
「比企谷君って、本当にいい人ですね。」
黒子は何のてらいもなくそう言った。
比企谷が「何言ってんだ!?」と驚き、赤面している。
だけど黒子は「本心ですよ」と答えた。
比企谷は実は面倒見の良い性格なのだ。
雪ノ下や由比ヶ浜のことも良く見ている。
口では悪態をつきながら、さり気なく手を差し伸べ、フォローしていたし。
そしてこうして縁が切れたはずの黒子のことも心配してくれている。
まぁそういう人柄でなければ、奉仕部なんてやっていられないだろう。
「あのチームはボクには合わない気がして。バスケ部を言い訳にことわったんです。」
「・・・ならいいけど」
「心配してくださってありがとうございます。」
黒子は比企谷に一礼すると、歩き出した。
心配してくれる人がいるというのは、案外心地が良い。
だけど自分の進む道は自分で決めなければならない。
黒子は駅の雑踏の中を歩きながら、やはり自分は1人なのだと感じていた。
【続く】
「これってバスケ部の為になっているのかしら?」
雪ノ下は少々剣を含んだ声で、咎めるように黒子を見た。
黒子はいつもの無表情でその視線を受け止める。
そして平坦な声で「ボクの自己満足です」と答えたのだった。
夏の大会が終わり、黒子はバスケ部を去った。
実際は辞めさせられたような形だ。
黒子のやり方はバスケ部には合わない。
部員たちにそう言われ、身を引くことにしたのだ。
黒子にしたら、シンプルでわかりやすい事実。
だが事情を知らない生徒たちには、いろいろと噂された。
全国制覇なんてうそぶいて結局1回戦負け、だから逃げた。
校内ではそれが定説となっているようだ。
つまり黒子が一方的に悪者になっているのである。
だが黒子としては、別にどうでもよかった。
自分が正しいと言いたいなら、勝って証明する。
それが帝光、そして誠凛で学んだことだ。
敗者は何も語らない。
その代わりに自分なりのケジメをつける。
黒子は1人静かにそう決意した。
その成果が、小ぶりの紙袋に詰め込まれている。
中身は数冊のノートと20枚程度のディスク。
千葉県内の主要な高校バスケ部の夏の大会のデータだ。
誠凛の先輩にも手伝ってもらい、試合をチェックしてまとめた。
次の大会以降、勝ち進んでいくためには役に立つはずだ。
「これ、塔ノ沢君に渡してもらえませんか?」
7月某日、黒子は奉仕部の部室に現れ、紙袋を託した。
そして奉仕部の3人に「今までありがとうございました」と頭を下げる。
彼らにもかなり協力してもらった。
その結果が1回戦負けなのだから、正直かなり情けない。
「自分で渡した方がいいんじゃね?」
比企谷が紙袋をチラリと一瞥した後、そう言った。
素っ気ない口調だが、心配してくれているのがわかる。
バスケ部とこのままでいいのか、これを手土産に和解したらどうか。
おそらくそんなことを思っているのだろう。
だが黒子は「いいえ」と首を振った。
「偉そうなことを言って1回戦負け。会わせる顔がありません。」
黒子はそう言って、比企谷を見た。
比企谷は一瞬何かを考えているようだったが、結局「わかった」と頷いた。
これで最後の仕事も終わり、黒子なりにケジメをつけたと思ったのだが。
「これってバスケ部の為になっているのかしら?」
雪ノ下雪乃が少々剣を含んだ声で、咎めるように黒子を見る。
黒子は黙ったまま、静かにその視線を受け止めた。
雪ノ下の言いたいことは、わかった。
バスケ部から離れたのなら、こんな風に関わるべきではない。
本来、データを取って分析し、それをプレイに生かすのも彼ら自身がすべきこと。
安易に手を差し伸べるのは、もしかしたら彼らの成長を妨げているのかもしれないのだ。
「ボクの自己満足です。」
黒子は正直に白状した。
ここでのバスケは中途半端に終わってしまった。
気持ちに決着をつけるため、つまり自分のために必要なことだったのだ。
「わかりました。これを渡して、この依頼は終了ね。」
「はい。」
雪ノ下に念を押され、黒子も頷く。
そして黒子は一礼すると、奉仕部の部室を出た。
さて。これからどうしよう。
黒子はゆっくりと廊下を進みながら、そんなことを考えた。
とりあえず高校の間は静かに過ごすつもりだった。
なのに期せずしてバスケ部に関わり、それは思いのほか楽しかった。
やはり自分にはバスケなのだと思い知った今、明るい気分になるのは無理のようだ。
*****
「やっはろー!」
聞き覚えがあるにも関わらず、聞き慣れない声に黒子はかすかに眉を潜めた。
振り返れば予想通り、クラスメイトの女子生徒がニコニコと手を振っていた。
8月某日、夏休みの最中。
黒子は蒼白な顔で佇んでいた。
ここは千葉駅、モノレール乗り場の階段近く。
呼吸を整えていたところで、能天気な声をかけられたのだ。
「黒子く~ん、久しぶり!」
ニコニコと手を振りながら駆け寄ってきたのは、由比ヶ浜結衣。
奉仕部の部員で、バスケ部の件では世話になったクラスメイトだ。
転校してきたばかりの黒子にとって、まぁまぁ話しやすい相手ではある。
だが人が多い駅前、しかもこちらのコンディションが悪いとき。
無駄なハイテンションで話しかけられるのは、少々キツい。
「こんにちは。由比ヶ浜さん」
それでも黒子は何でもない顔で挨拶をした。
だが由比ヶ浜は「顔色悪いよ。大丈夫?」と聞いてくる。
黒子はあっさりと「大丈夫じゃないです」と答えた。
「何度乗っても怖いです。モノレール」
「え?モノレール?」
予想外の答えに、由比ヶ浜は呆然としている。
だが黒子にとっては、かなり真剣な問題だった。
比企谷にも散々言ったが、黒子は本当に苦手だった。
懸垂式、いわゆる吊り下げるタイプのモノレール。
決して高所恐怖症ではないし、肝試し系も怖くない。
だけどこれだけはどうしてもダメだ。
強度が信用できないというか、落ちる気がしてならないのだ。
今日のように乗客が満員のときは特に。
結局乗っている間中、緊張状態で過ごすことになる。
だからこうして降りた直後は、こんな感じになるのだ。
「そんなに怖いかなぁ?」
「なかなか慣れません。」
「よく乗ってるの?モノレール」
「はい。通院してるので。」
「そっか。事故に遭ったんだもんね。」
「ええ。もう痛みはないんですが、まだ完治はしていなくて」
当たり障りのない会話に答えながら、黒子は由比ヶ浜が眩しいと思う。
いや由比ヶ浜だけではない。
ここにはいない雪ノ下や比企谷もそうだ。
彼らは否定するかもしれないが、悩みながらもしっかりと生きている。
奉仕部といういささか特殊な部活で、ちゃんと存在感を放っているのだ。
対する黒子は事故というアクシデントで、ここに飛ばされてしまった。
例えるなら侵入者、もしくは異端者。
自分の居場所はここではなく、今は居候しているという感じが取れない。
バスケ部で活動することで、その感覚はなくなるのではないかと少し期待した。
だが今はもうそれもなく、夏休み中もずっと1人で過ごしていた。
「この間、奉仕部の合宿だったんだよ。黒子君も呼べばよかったね。」
「どこに行ったんですか?」
「千葉村でボランティア。」
「ボランティア。合宿でも無料奉仕なんですね。」
「うん。だって奉仕部だからね!」
ケラケラと笑う由比ヶ浜に、黒子は「なるほど」と頷いた。
だけど実際、今の黒子にはボランティアなんてする余裕はない。
まずは普通にモノレールに乗れるのが今の目標。
こんな低い志で、人に奉仕ができるとは到底思えなかった。
*****
「今度は君ですか。」
黒子はいつもの平坦な声で、そう言った。
特に何も考えずに出たセリフだ。
だがなぜか「嫌そうな声を出すなよ」と返された。
またしても千葉駅のモノレール乗り場近く。
佇んでいた黒子は、見知った顔を見つけた。
向こうもこちらに気付いたようで、こちらに歩み寄って来た。
「大丈夫か?具合悪そうだけど。」
「今度は君ですか。」
「嫌そうな声を出すなよ。」
彼、比企谷八幡は思いっきり顔をしかめている。
黒子は不本意だったが、何も言わなかった。
心配してくれたのに、素っ気ない答えだったことは認める。
だが別に嫌そうな声を出したつもりはないのだが。
「大丈夫です。モノレールが怖かっただけですから。」
黒子は特に弁明せず、それだけ答えた。
前回の通院は2週間前。
そこで由比ヶ浜に会って、同じことを説明したばかりだ。
「お前、つくづく千葉をディスるよな。」
「そんなつもりはありません。むしろ逆です。」
「逆?」
「あれに平気で乗れているなんて、度胸が違いますよ。」
「褒められている気はしねぇ。」
「それは不本意です。」
比企谷がため息をつくのを見て、黒子はまたしても不本意だと思う。
千葉をディスるつもりなど、さらさらない。
だけどどうしても比企谷にはそれが伝わらないようだ。
「お前、本格的に社会人チームでやるの?」
不意に真顔になった比企谷が意外なことを言い出した。
黒子は「え?」と首を傾げたが、すぐに「ああ」と納得した。
そう言えばバスケ部の試合の後、社会人チームの勧誘を受けた。
それを見られたのだろう。
「ことわっちゃいました。」
「何で?もったいなくねぇ?」
「あの時はバスケ部をクビになるとは思っていなくて」
「それならなおさらだ。今すぐでも連絡取れば」
「それは考えてませんでした。」
本当にまったく予想外の提案だった。
社会人チームから勧誘は黒子にとって、もう終わったこと。
バスケ部をやめたこととはまったく別の話だった。
「比企谷君って、本当にいい人ですね。」
黒子は何のてらいもなくそう言った。
比企谷が「何言ってんだ!?」と驚き、赤面している。
だけど黒子は「本心ですよ」と答えた。
比企谷は実は面倒見の良い性格なのだ。
雪ノ下や由比ヶ浜のことも良く見ている。
口では悪態をつきながら、さり気なく手を差し伸べ、フォローしていたし。
そしてこうして縁が切れたはずの黒子のことも心配してくれている。
まぁそういう人柄でなければ、奉仕部なんてやっていられないだろう。
「あのチームはボクには合わない気がして。バスケ部を言い訳にことわったんです。」
「・・・ならいいけど」
「心配してくださってありがとうございます。」
黒子は比企谷に一礼すると、歩き出した。
心配してくれる人がいるというのは、案外心地が良い。
だけど自分の進む道は自分で決めなければならない。
黒子は駅の雑踏の中を歩きながら、やはり自分は1人なのだと感じていた。
【続く】