「黒バス」×「俺ガイル」×「BLACK LAGOON」

ようこそ、ロアナプラへ。
黒子は街に足を踏み入れるなり、声をかける。
言われた比企谷は力強く「ああ」と頷いた。

黒子と比企谷、そしてレヴィとロックはロアナプラに戻った。
偽のパスポートを使い、関係のない国を2つも経由して。
その足で向かったのは、ラグーン商会だった。

帰ったぞ、ダッチ!
真っ先に飛び込んだレヴィが、賑やかに挨拶。
続いてロックが「ただいま」と手を上げる。
そして黒子が「いろいろありがとうございました」と一礼。
最後に比企谷が無言のまま、所在なげな様子で入室した。

よぉ!帰ったな。クラッカー。預かってたもんはそこだ。
スキンヘッドの黒人、ダッチが部屋の隅を指差した。
黒子は「どうも」と応じて、すぐにそこに向かう。
預けていたのは小型のスーツケースだ。

それでは失礼して。
黒子はその場でスーツケースを開けると、中から包みを取り出す。
出てきたのは黒子の元の髪型、髪色のウィッグだった。
黒子はそれを被ると「ふぅ」とため息をついた。

あの~黒子さん?それはいったい何ですか?
比企谷は黒子の行動に驚き、問いかける。
黒子は「貴重品を預かってもらってました」と答えた。

ここは治安が悪いどころではない。
治安などないに等しいロアナプラなのだ。
だから今回の任務にあたり、盗まれては困るものをラグーン商会に預けていた。
ひとり暮らしの部屋を長く開けたら、それはもう無事では済まないからだ。
とはいえ、それはそんなに多くない。
わずかばかりの金と武器、そして身の回りの品が少々。
その身の回りの品の中に、ウィッグがあったのだ。

じゃなくて。なんでウィッグ?
髪の色を戻せばいいだけじゃねーの?

不思議そうな顔の比企谷に黒子は「染め直せばお金がかかるし、髪も痛みます」と答える。
なら伸びるまで、そのままにしたら?
そもそもそのウィッグ作る方が、金がかかるんじゃね?
比企谷はそう思ったが、黒子は「これが落ち着くので」と先手を取られた。

で、今回の依頼の清算ですが。
ウィッグで元の髪型に戻った黒子が、ダッチを見た。
するとダッチがベニーを見る。
呼ばれたベニーは操作していたノートパソコンから目を上げた。
一見優男風の彼はラグーン商会の優秀な情報収集担当だ。

ああ。お金はしっかり回収したよ。
ええと、ミスターユキノシタだったよね。
彼の隠し口座のお金は押さえた。
ヒッキーの元婚約者の家は、なかなかの資産家なんだね。

明るく笑うベニーに、比企谷の顔が歪む。
ヒッキーと呼ばれるのが、嫌なようだ。
だけど仕方ない。
日本人の名前は発音しにくいようなので。
だから緑郎はロック、黒子はクラッカー、比企谷はヒッキーだ。

こちらで押さえた金額を、ラグーン商会と君たちで山分けでいいかな。
ベニーはそう言って、パソコン画面を指差す。
黒子はそこに表示された金額を見て「了解です」と頷いた。
雪ノ下家は確かに結構な金額を貯めこんでいたらしい。
これを半分、そしてさらに比企谷と2人で分ける。
それでもかなりの金額が今回の報酬になった。

よかったですね。比企谷君。
これならしばらく収入がなくても暮らせます。

ずっと英語で喋っていた黒子が日本語に切り替えて、そう言った。
比企谷が「確かに大金だな」と呻く。
恋人の、いや元恋人の実家の資産にドン引きしているらしい。
さすが政治家、きっと悪いことをいっぱいしてるんだろうな。
奇しくも黒子と比企谷が同じことを考えた瞬間だった。

比企谷君。これから忙しくなりますよ。
黒子は比企谷を見て、心持ち頬を緩めた。
一応笑顔である。
比企谷は「しばらく遊んで暮らせるんじゃないのか?」と顔を歪ませる。
だが黒子は一瞬で笑顔を引っ込め、顔をしかめた。

誰が遊ぶと言いましたか?
君もこの街で生きると決めたんでしょう?
だから生きていくために身に付けることがたくさんあるんです。
ズルい相手と駆け引きする方法、暴力から自分を守る方法。
この街で生きていくためのルールを叩き込むための時間ですよ。

黒子にそう言われて、比企谷は表情を引き締めた。
そう、平和な日本とは違うのだ。
日本では当たり前だった安全が、ここにはない。
生きていくために、まず努力する必要がある。

よろしくお願いします。
比企谷は真面目な顔で、頭を下げた。
黒子は「わかりました」と頷く。
そして彼らはラグーン商会を後にした。
こうしてロアナプラに新しいコンビが誕生したのである。

*****

派手にやられたわね。
姉の陽乃が歪んだ笑顔で、皮肉っぽく揶揄する。
妹の雪乃は熱を持った頬を押さえながら「この程度、謝罪にもならないわ」と答えた。

雪ノ下雪乃は1枚のハガキを受け取った。
差出人の名前はかつての婚約者、比企谷八幡。
内容は世間を騒がせた詫び、そしてしばらく旅に出るという報告だった。
自筆ではなく、素っ気ない印刷された文章。
その言葉遣いから多くの人に同じものを送っていることがうかがえた。

その数日後、雪ノ下家に来客があった。
かつての友人の由比ヶ浜結衣と、後輩の一色いろは。
そして比企谷の妹の小町だ。
雪乃は無駄に豪華な客間で、彼女たちと相対した。

ヒッキー、どこに行ったの?
挨拶もそこそこに本題に入ったのは、由比ヶ浜だった。
雪乃は「わからないわ」と首を振った。
おそらくはロアナプラだろうと思っているけれど、とても言えない。

それも気になりますが!婚約解消ってマジですか?
今度は一色いろはが聞いてきた。
雪乃は「ええ」と頷く。
表向きはあくまで冷静に。
だけど内心は心が痛く、ジクジクと疼いていた。

そう、今になって雪乃は自分のしたことを後悔していた。
いや、正確には何もしなかったことをだ。
父が事務所ぐるみで行なっていた不正と犯罪。
雪乃はそれを知らされてはいなかったが、察していた。

それを知った社員をロアナプラで葬り去った。
たまたま彼と一緒にいた比企谷も一緒にだ。
これも知らされなかったけれど、嫌な予感はあったのだ。
そして比企谷が日本に戻って来た時、勘が当たったのだとわかった。

比企谷が生きていたと知った時は嬉しかった。
だけど打算も働いたのだ。
この犯罪が全て明るみに出たら、雪ノ下家は終わりだ。
でも比企谷は黙っていてくれる。
雪乃を愛しているなら、きっと。
そしてそう仕向けることは可能だと思っていた。

だがその結果、手痛いしっぺ返しを食らった。
比企谷は自分の名誉の回復を望んだ。
だから殺人以外の犯罪を明るみにすることになった。
おそらく最悪の事態は避けられたはずだ。
その代わりに海外にあった資産の隠し口座は空にされた。

雪ノ下家の最大の誤算は黒子テツヤが現れたことだった。
海外をさすらううちに行方不明になった元クラスメイト。
彼がおそらくロアナプラで比企谷を救った。
比企谷が雪乃を雪ノ下家もろとも見限ったのは、黒子の存在も大きいのかもしれない。

そうして比企谷が去った後、雪乃は空虚な日々を送っていた。
父の犯罪は大々的にニュースになり、対応で忙しい。
だけどふと1人のなった瞬間、思い出すのだ。
大好きだった比企谷の笑顔を。
雪乃は彼を愛しており、その想いは今も消えていない。

でもさぁ、ヒッキーが戻って来たら、また。
由比ヶ浜は未練がましく言い募る。
だが「それはない」と割り込む声があった。
今までずっと黙っていた比企谷の妹、小町だ。

兄はもう帰って来ません。
多分もう戻るつもりはないと思う。
わかるんです。

小町は淡々とそう言った。
一色が「え?嘘!」と驚き、由比ヶ浜が「何で」と詰め寄る。
だが小町は答えなかった。
その代わりに勢いよく席を立ち、雪乃の頬を打った。
まるでコントのような見事なビンタだ。

何があったか、細かいことは知らない。
だけどお兄ちゃんはあなたを許さなかった。
それだけのことをしたんでしょう!?

小町はそう叫ぶと、踵を返した。
そしてそのままドアへと向かう。
だが部屋を出る前に雪乃に向き直り、一礼した。

もう二度とお会いすることはないと思います。
お元気で、残念な人生を生きて下さい。

小町はそう言い放つと、怒りの勢いそのままにバタンとドアを閉めた。
そしてそのまま雪ノ下家を辞して、帰ってしまった。
残された由比ヶ浜と一色も気まずくなり、程なくして出ていく。
雪乃は見送ることもなく、誰もいなくなった客間のソファに座り込んだ。
多分彼女たちに会うことももうないだろう。

派手にやられたわね。
入れ替わるように現れた陽乃が、皮肉っぽく揶揄した。
歪んだ笑顔で指差すのは、雪乃の頬。
小町に叩かれた手の痕が、綺麗に残っていたのだ。

この程度、謝罪にもならないわ。
雪乃はきっぱりと言い切った。
兄を失った小町への謝罪、友人を先輩を失った由比ヶ浜と一色への謝罪。
そして今までの生活を全て捨てる決断をした比企谷八幡への謝罪。
全てをひっくるめれば、この程度では軽すぎる。

確かにそうかもね。
陽乃はどこか他人事のようにそう言った。
だけど彼女も平静ではないのがわかる。
比企谷の行動に驚き、傷ついているのだ。

雪乃ちゃん、このまま隼人君と婚約してていいの?
陽乃は唐突にそんなことを聞いてきた。
比企谷がロアナプラで死んだとされたとき。
即座に葉山隼人が雪乃の新しい婚約者になった。
だけど比企谷と再会した今、心は揺れている。
姉にはもちろん、そんな雪乃の気持ちなどお見通しだ。

別にそのままでかまわないわ。
雪乃は躊躇うことなく、そう答える。
その反応に陽乃は意外そうだ。
だけど雪乃は「彼じゃないなら誰でも一緒よ」と付け加える。
比企谷八幡かそれ以外のものか。
雪乃にはその二択しかないのだ。

そう。わかった。
陽乃はそれ以上追及せず、部屋を出ていく。
再び1人になった部屋で、雪乃はため息をついた。
愛する彼はもういない。
雪乃は小町がいうところの残念な人生を、1人で全うしなけれなならないのだ。

*****

ようこそ。まずは座ってくれ。
赤司は堂々たる笑顔で、招待客たちを誘う。
旧知の友である客たちは雰囲気に臆することなく、席についた。

東京都内の一等地にある高級マンション。
入口にはコンシェルジュがおり、建物内にはジムやプールもある。
高級ホテル並みのサービスとセキュリティ。
庶民には到底縁がないここに、赤司征十郎は部屋を借りている。
都内に実家もあるのにと言ってはいけない。
何しろ彼は有名財閥の御曹司であり、今は実業家でもある。
俗的な言葉でいうなら、超スーパーセレブなのだ。

その彼の部屋には、かつての仲間たちが集合していた。
中学時代、同じバスケ部だった青峰、紫原、緑間、黄瀬。
さらに高校時代に好敵手だった火神。
かつて高校バスケ界に旋風を巻き起こしたメンバーが一堂に会していた。

久しぶりにみんなで集まろう。
酒は用意するから、ツマミは適当に持って来てくれ。
赤司からそんなメッセージを受けて、彼らは集結したのだ。
そんなわけで、ひどくアンバランスな光景が展開している。
広くて豪華な部屋、オシャレなインテリア。
そのリビングのテーブルに並ぶのは、高い酒類とコンビニで買えるお手軽おつまみ。
年代物のワインの横に、まいう棒が並ぶ光景はなんともシュールである。

だけど赤司も集まった面々も誰もそこをツッコまなかった。
それどころかこの豪華マンションに対してのコメントすらない。
理由は簡単、彼らには重大な目的があったからだ。
この場所にしたのは、絶対にここでの会話を外に漏らさないため。
それほど重要で深刻な話が、彼らにはあった。

それではみんな。持って来てくれたな。
全員が客席したところで、赤司が一同を見回す。
その言葉に頷いた面々は、カバンやポケットから紙片を取り出した。
それはハガキだった。
比企谷八幡から出された1枚の挨拶状である。

赤司はこれを受け取った時、不審に思った。
比企谷八幡がある事件の犯人で、海外で死亡したというニュースは見た。
それからしばらくして、それが冤罪であり実は生きていたということも。
彼とは高校時代に交流があった。
ニュースを聞き、心を痛める程度の知り合いではあった。
だけど挨拶状をもらうほど親しい友人であったとは思えない。
その内容は事件で世間を騒がせた詫びと、しばらく旅に出るという宣言。
印刷されたその文面の下に、手書きで一文添えてあったのだ。

その手書きされた部分を見て、赤司はさらに首を捻った。
挨拶を寄越してくることも謎だが、わざわざ手書きされた文面はさらに謎。
だがすぐに思い至る。
そしてかつての仲間たちに連絡を取った。

すると彼らにも同じ挨拶状が届いていることがわかった。
そして手書きの文面は全員違う。
その内容を聞いて、赤司は謎が解けたと思った。

だから彼らを呼んだのだ。
しっかり自分の目で確認がしたかったからだ。
全員赤司の指示通り、比企谷からの挨拶状を持参してくれた。
それを改めて見て、赤司は「そうか」と頷いた。

何だよ。何を1人で納得してんだよ。
不満そうに呻いたのは、青峰だった。
黄瀬が「そうっすよ。ずるいっす!」と乗っかる。
めんどくさがりな紫原さえ「早く教えてよ」と言った。
火神は何も言わず、ただ急かすように赤司を凝視している。

そんな中、緑間が全員の挨拶状に目を通し「これは」と呻いた。
赤司は「さすが、気付いたか」と苦笑する。
そして説明は任せたとばかりに、微笑みを送る。
緑間はウンザリした表情になりつつも、ハガキをテーブルの中央に並べた。
そして「手書きの部分を見てみろ」と言った。

一番左に赤司宛ての挨拶状。
苦労ばかりの人生ですが、まだまだ捨てたもんじゃない。
元気で頑張ろうと思います。

その隣には青峰宛ての挨拶状。
論より証拠。人生は数奇なり。
そしてまだまだ先は長いようです。

さらにその隣に緑間宛ての挨拶状。
孤独もまた人生のスパイス。
一回り大きな人間になりたいです。

その隣に黄瀬宛ての挨拶状。
早ければ良いというものではない。
急がば回れとはよく言ったものです。

その横には紫原宛ての挨拶状。
無難に生きるのは、意外と大変。
それでも立ち止まらずに進みます。

最後に火神宛ての挨拶状。
人生、七転び八起き。
転んで傷だらけでも、何とか笑えています。

赤司と緑間以外の面々が並べられたハガキを覗き込む。
だけど意味がわからなかった。
前向きな格言のようなセリフが何だと言うのか。
ついに火神が「勿体ぶらずに教えろよ!」と叫んだ。

まったく。大きな声を出すな。
緑間が眼鏡の位置を指で直しながら、ため息をついた。
そして「頭の一文字を取って、つなげてみろ」と言う。
全員がそれに従い、挨拶状を見直して「あ!」と声を上げた。

そう、文面に意味はないのだ。
大事なのは、頭の一文字だけ。
それをかつて彼らが組んだチーム「VORPAL SWORDS」の背番号順に並べる。
すると一つの文章が出来上がる。
「くろこはぶじ」つまり黒子は無事であると。

おそらく比企谷八幡は事件の最中に黒子と会った。
もしかしたら冤罪を晴らすのを、黒子が手伝ったのかもしれない。
黒子のことだ。
相変わらず気配もなく、暗躍していたんだろうな。

赤司は結論と共に、唇を少しだけ緩めて笑った。
すると火神が「何で隠れてるんだよ!」と声を荒げる。
その怒声に紫原が顔をしかめ、黄瀬が「火神っち、落ち着いて」と宥めた。
だが火神は「何で」と赤司を見た。

おそらく黒子は何かに追われて、逃げている。
警察などには頼れない、巨大な敵なんだろう。
だからこそ隠れている。
こんな風に暗号でしか、無事を知らせられないんだろう。
つまりこれはトップシークレットということだ。

赤司は持論を述べながら、火神を見た。
そして一同を見回す。
赤司は正確に黒子からのメッセージを読み取った。
さらにこれが秘密であることも念押しする。
そもそも黒子の消息が掴めないのだから、動きようがない。
彼らにできるのは、信じて待つことだけなのだ。

あいつのことだ。いつか絶対戻って来るさ。
赤司はそう締めくくると、席を立つ。
そして惜しげもなく高級ワインのボトルを開けた。
さらに人数分のグラスに注ぎ、配っていく。
全員がグラスを手に取り、立ち上がった。

あいつの帰還を祈って!
赤司がグラスを掲げると、全員がそれに倣う。
こうして彼らの無駄に豪華な飲み会が始まった。
ツマミはもちろんコンビニ菓子と、ここにはいない影の薄い男の話だ。

【終】お付き合いいただき、ありがとうございました。
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