「黒バス」×「俺ガイル」×「BLACK LAGOON」

なぁ、どこに行くんだ?
俺は無表情なまま進む黒子にそう聞いている。
するとヤツは涼しい顔で「パスポートを買いに」と言いやがった。

俺はロアナプラの街を歩いていた。
日本とはまるで違う光景だ。
建物はどれも朽ち果てそうなほど古い。
そして道端にはゴミが溢れて、埃っぽい風が吹いている。
黒子に言わせれば犯罪都市、いかにもって雰囲気だった。

住民と思しき人たちも、そんな雰囲気だ。
咥えタバコも、おっかないタトゥーも珍しくない。
たまにスーツのヤツもいるけど、ほぼ例外なく黒ずくめでサングラスをしてる。
つまりいかにもカタギじゃないって感じなんだよな。

黒子はそんな危ない街の中を平然と歩いている。
でも俺にはそんな度胸もなく、どうしてもビクビクオドオド。
時折黒子に「普通にして下さい」と言われるけど、無理だろ。
むしろ平然としていられるお前の方が、かなりおかしいぞ。

なぁ、どこに行くんだ?
俺は黒子にそう聞いた。
実は黒子には「出かけましょう」としか言われていないんだ。
それで言われるままに黒子の服を借りて、着替えて部屋を出た。
ちなみにこれが初外出。
俺の人生初のロアナプラ観光ツアーである。

すみません。言ってませんでしたね。
これからパスポートを買いに行きます。

黒子は涼しい顔でそう言った。
俺は一瞬「そっか。買い物か」と納得する。
だが次の瞬間「ハァァ!?」と声を上げた。
パスポートを買うって、偽造だよな。
確かに死んだことになってる俺が日本に入国する手段はそれしかない。
だけど違法行為なんだよな。う~ん。
そんな俺の葛藤などお構いなしに黒子は淡々と話を続けた。

比企谷君、外国語は話せますか?
英語は日常会話程度。それだけだ。
よかった。じゃあ通訳はいらないですね。
は?それよりパスポートを買うって、どういう。。。
あ、着きました。ここです。

全くもって間尺が合わない会話が唐突にぶった切られた。
黒子が立ち止まったのは、実に胡散くさい雑居ビルの前だ。
俺は思わず「マジ?」と聞き返す。
だって平和な日本人が入れるような感じじゃないからだ。

マジです。大丈夫ですから。
黒子はあっさりそう答えると、入口に立つ見張りらしき男に声をかけた。
いかにもマフィアって感じの、黒スーツと黒いタイ、黒サングラス。
目元がわからないけど、おそらく東洋人だ。

こんにちは。張さんはいらっしゃいますか?
黒子は流暢な英語で、言った。
男は「ああ。クラッカーか」と応じている。
少し驚いた様子なのは、きっと黒子の影が薄く目の前に来るまで気づかなかったせいだ。

男が顎をしゃくるような仕草をした。
どうやら入っていいということらしい。
黒子は「どうも」と頭を下げると、平然とビルの中に入っていく。
俺は一瞬躊躇ったが、黒子に従った。
正直こんなビルに入りたくないけど、ここで置き去りにされるよりマシだ。

黒子は慣れた様子で、狭い階段を登っていく。
俺は後に従いながら、階段が崩れ落ちないか心配になった。
それくらい荒れた感じのビルだったんだ。
黒子は2階まで上がると、とある部屋をノックする。
そして迷う素振りもなくドアを開けて、中に入った。

こんにちは。張さん。
彼のパスポートを作って欲しいんですが。

黒子は窓際のソファにどっかりと座っていた男に声をかけた。
張と呼ばれた男は「挨拶もなしに用件かよ」と呆れた様子だ。
ちなみに会話は全て、英語だ。
張という男は名前からして中国人、日本語は通じないんだろう。

彼は日本人か?
はい。でもパスポート名義は中国人でかまいません。
街で作れるところがいくつもあるのに、わざわざここに来たのか。
ええ。精巧なヤツが欲しいんです。それならやっぱり張さんかと。
おだてても、ディスカウントはできないぞ。

いかにもマフィアのボスって感じの男と、黒子は淡々と会話している。
あまりにも非現実的な光景。
でも俺は黒子と同じ無表情のまま、話を聞いていた。
人間ってあまりにも驚いた時、逆に冷静になるんだなと思いながら。

変装もした方がいいんだよな。ちょっと待ってな。
張は部屋の隅に控えていた男に、何やら指示を出した。
おそらく中国語だ。
その間に黒子は俺に日本語で「一応説明しておきます」と言った。

ここはチャイニーズマフィア、三合会(トライアド)のタイ支部です。
張さんはそのトップで、いろいろ仕事を回してもらっています。
今回みたいに、こちらからお願いすることもありますが。

黒子の説明に、俺は絶句した。
なぜなら今日一番の驚きだったからだ。
チャイニーズマフィアのタイ支部のトップ?
そいつに仕事をもらったり、回したりしている?
平和な日本人がどこをどうすれば、そんなことになるんだよ。

それから俺は別室に案内され、着替えさせられた。
俺だったら、いやほとんどの日本人は絶対に選ばないド派手なピンクのアロハ。
それを羽織った上に、金髪ロン毛のズラまで被らされて、写真を撮られたのだ。
これが俺のパスポートに貼られる写真か。
不本意だけど、いっそまったく違う人間になった方がいいような気もした。
軽薄な中国人に徹した方が、気持ちも吹っ切れるだろう。

じゃあ、明日取りに来ます。
俺が写真撮影を終え、元の服に着替えて戻ると、黒子は張に頭を下げていた。
張が「ああ。残金はそのときに」と答える。
どうやら前金は払い終えたらしい。

じゃあ、次に行きますよ。
黒子はそう言って、先に立って歩き出した。
俺は慌てて、その後を追う。
内心「次があるのかよ」と文句を言いながら。

ちなみに俺は次の場所で、さらに驚くことになる。
さっき思った「今日一番の驚き」があっさり更新されることになるのだ。
だけどそれは、まだまだほんの序の口。
俺が踏み入れてしまったこの世界のささやかなプロローグに過ぎなかった。

*****

次は、銃の調達です。
影が薄い男は事もなげにそう言った。
俺は「マジ?」と軽口を叩きながら、背筋に冷や汗が伝うのを感じていた。

俺と黒子はチャイニーズマフィアの事務所を出た。
目的は偽造パスポートの発注。
と言っても、俺は黒子について歩いているだけだ。
平和な日本人である俺は、それが精一杯なのだ。
だが黒子はまるでコンビニで買い物するように淡々としていた。

だが黒子の買い物(?)はそれだけではなかった。
またしても物騒な街中を歩いていく。
その道すがらで、ガラの悪い連中が何度も声をかけてきた。

よぉ、クラッカー。
久しぶりだな。生きてたのかよ。
クラッカーじゃない。寄って行きなよ。
どこに潜ってたんだよ?

老若男女問わず、さまざまな人間が声をかけてきた。
俺は思わず「お前って結構、人気者?」と聞いてみる。
黒子はあっさりと「珍しいだけですよ」と答えた。

そうかな?すっげぇ話しかけられてるのに。
俺は納得いかず、首を傾げる。
すると黒子は「君のせいですよ」と言った。

みんなが久しぶりみたいに言ってますけど、ボクはほぼ毎日来てます。
1人で歩いているときには、気配を消してるんで気付かれません。
今日は君が隣にいるんで、バレてるんですよ。

黒子にそんな種明かしをされ、俺は「そうなの?」と声を上げた。
相変わらず影が薄い上、気配を消してる。
そういうところは昔と変わらないんだな。
少しホッとした俺は「次はどこ行くの?」と聞いた。
だが黒子の答えに、俺は愕然とすることになった。

次は、銃の調達です。
黒子は事もなげにそう言った。
じゅう?拳銃、だよな。
俺は「マジ?」と軽口を叩きながら、背筋に冷や汗が伝うのを感じていた。

買うんじゃないですよ。レンタルです。
日本で受け取って、帰国前に返却もします。
それにあくまで万一に備えての保険です。
治安の良い日本で使うことは、そうそうないでしょうから。

黒子はそんな説明をしてくれる。
俺はそれを聞いて少しホッとした。
どうやら銃は標準装備ではないらしい。

そうこうしている間に、別のビルに到着した。
先程のチャイニーズマフィアの事務所より、少し広いか?
荒廃した雰囲気は変わらない。
だけどさっきのビルより、若干ヨーロッパ感があるような。

その理由はすぐにわかった。
入口のところに立っていた見張り(?)の男が欧州系だからだ。
目付きとか、雰囲気が何となくロシアっぽい。
そして羽織っている上着は軍服か?
黒子はその男に「こんにちは。バラライカさんいらっしゃいますか?」と声をかけた。

顔馴染みらしく、あっさり許可が下りたらしい。
俺たちはビルの中に入り、またしても古びた階段を登った。
辿り着いた部屋は、またしても事務所。
そしてそこには、存在感がハンパないド迫力の女性が立っていた。

こんにちは。バラライカさん。
日本で銃が使いたいので、手配をお願いしたいんですが。

黒子は挨拶もそこそこに彼女に話しかけている。
だが俺はそれを聞く余裕がなかった。
身体がかすかに震えるほど、怖かったんだ。
なぜなら黒子が「バラライカ」と呼んだ女は異様だった。
黒子より背が高く、体格が良くて、顔は結構な美人の部類。
だけど彼女の顔や首筋、胸元には大きな火傷の跡があったのだ。
そんな女が見張りの男と同じ軍服を羽織っている姿は、とても怖かった。

わかったわ。手配をしておく。
俺が怯えている間に、話は終わったらしい。
それならさっさと帰りたい。
だけどなぜか彼女-バラライカは俺をジロジロと見た。

クラッカーの友人ね。名前は?
バラライカは俺を見ながら、黒子に話しかけた。
黒子は少し首を傾げ、逡巡するような様子を見せる。
だけどすぐに「ヒッキーって呼んであげてください」と答えた。

ハァァ?ヒッキー?
俺は思わず声を上げる。
するとバラライカが「何だ。英語はできるのか」と言った。
どうやらずっと黙っている俺は言葉が理解できないと思われていたらしい。

ヒッキー、お前もロアナプラの住人になるのか?
バラライカが愉快そうにそう聞いてきた。
俺はそこで考える。
この先、俺はどう生きるのか。
俺は少しの間の後「まだわかりません」と答えた。
本当にまだ何もわからないのだ。
それをはっきりさせるために、日本に行く。

ヒッキーって何だよ!?
帰りの道すがら、俺は黒子に文句を言った。
黒子は「すみません。咄嗟に」と答える。
相変わらず少しも悪いと思っていないような淡々とした声で。

ロックさんは本名が「ろくろう」だから、ロックなんです。
その理屈だと比企谷君は「ハッチ」とかになるかなと思いました。
でもロクとかハチとか、日本人的には笑えちゃいますからね。

黒子は淡々と感情のこもってない声で、脱力するようなことを言う。
完全に反論する気が失せた俺は、少しだけ笑った。
ヒッキー。
俺をそう呼ぶ旧友を思い出したからだ。

あの頃から随分遠いところまで来てしまった。
俺はそんなことを思い、少しだけ切なくなった。
黒子はそんな俺の気持ちを察したのか、それ以上話しかけてはこなかった。

*****

それでは、撃ってください。
黒子は流暢な英語でそう言った。
すると両手に銃を持った女が、その銃口を俺に向けた。

偽造パスポートの注文と、銃のレンタル。
日本から遠く離れたロアナプラで、俺は生まれて初めてのことを2つやった。
とはいえ、正確に言うならやったのは俺じゃない。
影が薄い友人が淡々とこなし、俺はただついて歩いていたに過ぎなかった。

次で最後です。
黒子は軽い口調でそう言った。
どうやらまだあるらしい。
俺は「ああ」と頷いたが、内心はため息だ。
はっきり言って、もうお腹いっぱい。
だけど犯罪都市と呼ばれるこの街では、俺は黒子に従うしかない。

そしてやって来たのは、またしても古いビルだった。
だがここは見張りがいない。
黒子は特に警戒する素振りもなく、階段を昇っていく。
俺は黙ってその後に続いた。
どうやらさっきの二か所よりは、穏便な場所らしい。
そう考えてしまうのは、楽観的過ぎるだろうか?

こんにちは。みなさん。
黒子はある一室の扉を開けると、そう言った。
すると中から「よぉ!」「来たな」などと声が聞こえる。
俺は黒子越しに室内を見た。
そして予想通り、先程までより砕けた雰囲気であることにホッとしていた。

よぉ、クラッカー!
待ってたぞ。お前から依頼なんて久しぶりだからな。

まず声をかけてくれたのは、スキンヘッドの黒人だった。
その迫力に俺は思わず後ずさりしそうになる。
だがすぐに「やぁ。比企谷君」と日本語で呼ばれたおかげで、踏みとどまった。
こちらは俺が見慣れているスーツ姿の日本人。
先日、黒子に紹介されたロックと呼ばれていた人だ。

ちなみに部屋にはあと2人いた。
この前、ロックと一緒にいた確かレヴィとかいう名前の美人。
もう1人はメガネをかけた白人の青年だ。

比企谷君。ここはロックさんの職場のラグーン商会です。
スキンヘッドの人がボスのダッチさん。
メガネの人がベニーさんで、ハッキングのスペシャリストです。
ロックさんとレヴィさんは覚えてますよね。

黒子は英語から日本語に切り替えて、説明してくれた。
俺は「ああ」と頷く。
おそらく非合法な組織なんだろう。
だけど中国やロシアのマフィア組織の後だと、マイルドに見える。

それじゃダッチさん。レヴィさんを2時間ほどお借りします。
黒子はスキンヘッドの黒人に声をかけた。
ダッチは「ああ。またな」と頷く。
すると本を読んでいたロックが「俺も行くよ」と立ち上がった。

かくして黒子と俺、ロックとレヴィの4人でラグーン商会を出た。
やって来たのは、徒歩で2分もかからない別のビル。
レヴィが先頭で、今度は地下へと降りていく。
ロック、黒子が続き、俺が最後だ。
そして地下室に降りた俺は思わず「マジか」と声を上げた。

そこは学校の教室くらいの広さの部屋だった。
壁はコンクリートむき出しの、いわゆる打ちっぱなしってやつ。
床は割れた酒瓶とか、タバコの吸い殻とかゴミだらけ。
そして奥の壁には、何重もの円が描かれて、弾痕らしき穴がたくさん。
つまりそれは的であり、ここは射撃練習場ということか。

比企谷君。これを使ってください。
黒子はそう言って、腰の辺りから何か黒い塊を出して、差し出す。
深く考えもせず受け取った俺は「うわ!」と声を上げた。
予想外というか、ある意味予想通りのもの。
銃だった。

ボクの私物です。
黒子はそう言った。
するとレヴィが「男のくせに小さい銃を使いやがって」と文句を言う。
だが黒子は「初心者ですから」と平然と受け流した。
そう、冷静に見れば口径が小さい銃なのだ。

とりあえず練習のためにお貸しします。
日本ではこれと同じやつを借りられますから。
それじゃ撃ってみてください。
レヴィさんがチェックしてくれます。

黒子は淡々と説明してくれる。
もちろん俺としては、山ほど言いたいことがあった
お前、銃を日本で借りるとか言って、こっちでも持ってるのかよ!
しかも俺にも撃てだって?

俺はそのまま怒鳴ろうとして、やめた。
ここは日本の常識が通用しない世界。
そして黒子は俺に銃が必要になるかもしれないと思った。
だから練習させようとしたのだ。
それならその判断に従うべきだ。
なぜなら俺はここにきたばかり、何もわかっていないのだから。

俺は1つ深呼吸をすると、銃を構えた。
するとレヴィが「銃口が下がってる」と舌打ちをした。
そこからはスパルタ教育の始まりだ。
レヴィ先生は初心者の俺に手取り足取り教えて下さった。
構え方、持ち方、狙い方、全部舌打ちと罵倒付きだ。

クラッカー。とりあえずこんなもんでどうだ?
かなりの数の弾丸を撃ったところで、レヴィが黒子にそう言った。
黒子は「そうですね」と頷く。
そして初めての射撃に放心状態の俺から、銃を取った。

それじゃ比企谷君。今度は壁際に立ってもらえます?
俺は深く考えずに言われた通りにする。
すると黒子はレヴィに「それでは、撃ってください」と言う。
レヴィは頷き「1ミリも動くなよ!」と叫んだ。
そして両手で銃を構えると、2つの銃口を俺に向けた!

そこから先はもう思い出したくない。
俺は壁際に震えながら立ち、レヴィが操る2つの銃に狙われることになった。
顔や身体のすぐ脇を銃弾がかすめていく恐怖。
俺は漏らしてズボンを汚さなかった自分を心底褒めたいよ。

ちなみにこれは万が一銃を向けられた場合のトレーニングだそうだ。
自分が狙われ、至近距離で撃たれれば、誰でもビビる。
もしそんな状況になっても冷静でいられるようにって、黒子がレヴィに頼んだんだって。
黒子曰く「万一のための備えです」とのこと。
その万一が起こらないことを、俺は心の底から祈るだけだ。

こうして俺はこの物騒な街で、着々と日本行きの準備をした。
果たして何が待ち受けているのか。
そして俺と雪ノ下雪乃の物語は、どんな結末を迎えるのだろう。

【続く】
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