「黒子のバスケ」×「俺ガイル」

【黒子テツヤは豊富な人脈を駆使して、全国を狙う。】

「テツ君のカノジョです!」
桃井は意気揚々と一同の前で宣言する。
だが黒子はややかぶせ気味に「違います」と訂正した。

青峰と桃井が現れたのは、黒子がバスケ部に関わり出してまもなくのことだった。
もちろん黒子が呼んだのだ。
バスケ部の面々は全国制覇を目指すと言った。
それなら黒子も全力で協力するまでの事だ。

問題なのは、夏の大会まで時間が短いことだった。
じっくり基礎からなんて言っている場合じゃない。
だから単純だが、まずはひたすら3対3で試合をさせた。
体力をつけ、試合勘を養うにはこれがベストだと思う。

だがもちろんこれだけで勝てるなんて思っていない。
全国制覇するなら、まずは千葉の大会を勝ち抜かなくてはならない。
そのために呼んだのが、情報通の桃井さつきだった。
予想通り、彼女は千葉の主要な学校のデータはしっかり押さえていた。
それを持ってきてほしいと頼んだら、2つ返事で承知してくれた。

「いたいた!テツく~ん!」
指定した時間きっかりに体育館に現れた桃井は、黒子を見つけるなり飛びついてきた。
一緒に来た青峰が「テツは足をケガしたんだぞ?」と諌める。
だが心配ご無用だ。
桃井は現れるたびに同じことをするので、もう黒子も慣れている。
予想して受け身を取るくらい、何のことはない。

「え~と。こちらの方は?」
新主将となった塔ノ沢を筆頭に、部員たちが不思議そうに桃井を見た。
キセキの世代の1人である青峰は有名だが、さすがにマネージャーの桃井の認知度は低い。
ここで桃井が「テツ君のカノジョです!」とドヤ顔で宣言するのも、想定内。
黒子にとってはもはや定番、すっかりおなじみのフレーズなのだ。

「違います。中学時代にマネージャーだった人です。」
訂正するのも、もはや慣れっこだ。
黒子はもうこれを掴みのネタと捕えている。
桃井は黒子を好きだと言うが、黒子には桃井は青峰を好きなようにしか見えない。
まぁその辺りは黒子の管轄外であり、特に何をする気も言う気もないが。

「早速ですが、ちょっと練習相手をお願いします。」
黒子は青峰に声をかけた。
データははっきり言って、送ってもらえばそれで済む。
わざわざ2人を呼んだのは、青峰のプレイを部員たちに見せるのが目的だった。

「めんどくせぇ」
青峰は文句を言いながらも、制服のジャケットを脱いだ。
嫌そうに見せても、青峰だって察していたはずだ。
比企谷が「大丈夫なのか?」と言わんばかりの顔でこちらを見ている。
だが全国制覇を目指すなら、キセキの世代は避けては通れない相手なのだ。

「テツ君もやるよね?」
桃井にすかさず声をかけられ、黒子は一瞬言葉に詰まった。
黒子は審判をやるつもりでいたからだ。
だけどそんな風に言われれば、心が揺れる。
やはりバスケは大好きだし、久しぶりに青峰とプレイできるならやりたい。

「はい。青峰君とボクの2人対うちのバスケ部で。桃井さんは」
「わかった。審判ね!」
桃井は嬉々としながら、マイホイッスルを首にかけている。
しっかり持参したバスケットシューズに履きかえる青峰といい、やる気満々だ。

「それじゃ練習再開です」
黒子自身も入念にストレッチをした後、部員たちに指示を飛ばした。
まだ全力プレイは無理だろう。
それでも久しぶりの実戦練習にやはりテンションは上がっていた。

*****

「本当にすみません。」
黒子は奉仕部の面々に頭を下げた。
だが比企谷に「すまなそうに見えねぇ」と言われ「心外です」と応じた。

桃井と青峰が現れたその翌日のこと。
黒子は奉仕部に大量の書類とDVDディスクを持ち込んでいた。
桃井たちが持ってきてくれたデータだ。
早急に解析が必要だが、黒子1人ではとても無理。
そこで奉仕部の面々に助けを求めたのである。

「すごい量のデータだねぇ」
「それなのによく整理されているわ。」
「あいつら東京だろ?よく千葉のデータをこんなに持ってるな。」

雪ノ下がパソコンでディスクを確認し、比企谷が紙の資料を読む。
由比ヶ浜は何となく騒いでいるという雰囲気だ。
とりあえず対戦相手が決まったら、そのチームに特化した練習になる。
だがその前に主要な高校はチェックしておきたかった。

「本当にすみません。」
「すまなそうに見えねぇ。」
「心外です。」

比企谷のめんどくさそうな物言いに、黒子は物申した。
奉仕部の面々の協力には感謝しているのだ。
なのにそんな風に見られるとは不本意だった。

「まずは試合ごとにまとめればいいのかしら?」
雪ノ下がパソコンを操作しながら、聞いてきた。
黒子は「はい。お願いします」と答える。
何をチェックするのか、ポイントは指示してある。
まずは各チームと選手をしっかりと数値化することから、スタートだ。

「それにしても、大丈夫ですか?」
手持ち無沙汰な様子の由比ヶ浜がそんなことを言う。
彼女が気にしているのは、バスケ部員たちのメンタルのことだろう。
青峰と黒子、2人にバスケ部員は大敗した。
2対6の変則マッチだったが、バスケ部は1点も取ることができなかったのである。

「大丈夫ですよ。」
黒子はあっさりとそう言った。
由比ヶ浜は無言のまま「本当に?」と言わんばかりの目で黒子を見る。
だが黒子はもう一度「大丈夫です」と答えた。

「全国にはあんな怪物がゴロゴロいるんですから。」
「そうなの?」
「はい。むしろあの程度で心が折れるなら、全国制覇なんて諦めることです。」

そう、キセキの世代だけでも5人いる。
無冠の五将はもういないけれど、強い相手はたくさんいるのだ。
それを身を持って知ってもらうのが、青峰を呼んだ目的だった。

「お前、本当に勝つ気なんだな。」
今度は比企谷がそう言った。
視線は桃井がプリントアウトしてくれた紙の資料に落としたまま。
だけど口調から、呆れているのがわかる。

「当たり前ですよ。」
黒子はあっさりと言ってのけた。
呆れられるとは、これまた心外だ。
持てる力の全てを駆使して、黒子は勝つつもりだった。

*****

「よぉ!来たぞ!」
「元気だったか!」
ゾロゾロと現れた懐かしい顔ぶれに、黒子の頬も緩む。
だが比企谷に「お前も笑うんだな」と言われ「失礼ですね」と答えた。

バスケ部はその後も練習を続けていた。
青峰に完敗した直後の部員たちは、さすがにかなり気落ちしたようだ。
それでも脱落する者はいなかった。
正直なところ退部者が出ることも覚悟していたが、それは黒子の杞憂に終わった。

「本当にすみません。」
黒子は比企谷に頭を下げた。
比企谷は「何のことだ?」とすっ呆けている。
だが黒子は知っていた。
比企谷が部員たちを叱咤し、気持ちを引っ張り上げたのだと。
だけどどうやらひねくれ者を自称する比企谷は、感謝されるのが苦手らしい。

助っ人第二弾が現れたのは、そんな時だった。
またしても体育館に現れたのは、6名の青年と1人の女性。
彼らは「よぉ!来たぞ!」「元気だったか!」と賑やかにやって来た。
相変わらずの頼れる笑顔に「あの頃」が蘇る。
思わず黒子の頬も緩んだ途端、比企谷がニヤリと笑った。

「お前も笑うんだな」
「失礼ですね。何か茶化されてる気がします。」
「俺は率直な感想を述べたまでだ。」
「まぁ先輩たちとの再会に免じて、許します。」

そう、現れたのは誠凛高校時代の先輩たち。
日向と木吉、伊月、水戸部、小金井と土田、そして相田リコだ。
そろそろちゃんとした練習相手が欲しいと思い、リコに頼んだ。
すると同じ学年の全員を揃えて、駆け付けてくれたのだ。
彼らはすでに卒業し、今は全員大学生。
カジュアルな私服姿もさまになっている。

「紹介します。前々回のウインターカップのチャンピオンチームです。」
黒子は体育館のバスケ部員と奉仕部員たちを見回しながら、そう言った。
心持ちドヤ顔になるのは許してほしい。
黒子と共に日本一になった、尊敬する自慢の先輩たちなのだ。
彼らは口々に「よろしく」「頑張ろうな」などと手を振る。
そしてリコが「毎日は無理だけど、できるだけ顔を出すから」と言ってくれる。
バスケ部員たちからは「おお!」「スゲェ」とどよめきの声が上がった。

「これから彼らと試合です。その後いろいろアドバイスしてもらいますから。」
黒子はバスケ部員たちにそう言った。
その間にも誠凛OBたちはバスケットシューズに履き替え、ストレッチを始めている。
いいかげん3対3にも飽きてきた頃。
強い相手との対戦は、刺激になるはずだ。

「試合までずっとあの人たちが相手をしてくれるのか?」
今日は審判をしようとホイッスルを首にかけた黒子に、比企谷が声をかけてきた。
黒子は「だけじゃないです」と答える。
そう、これは人脈のほんの一部、まだまだ使える手はたくさんある。

「公式戦の対戦相手が決まったら、また助っ人を呼びます。」
「また新しいヤツか?」
「はい。対戦相手を完全に模倣できる黄色い人がいるんで。」

比企谷が「は?」と首を傾げているが、今は詳しく説明するつもりもない。
変な説明より、見てもらった方が早いからだ。
誠凛のOBたちにはテクニカルな指導も頼めるし、黄色い男はより実践的な練習に役立つ。
赤と紫はさすがに遠方だから無理だが、緑の男も呼べるだろう。

「お前の人脈、スゲェな。」
比企谷がなぜか引き気味になりながら、そう言った。
黒子は「そうですか?」と惚けて見せる。
比企谷だってもう大事な人脈の1人なのだが、敢えて口にする必要はないだろう。

【続く】
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