「黒子のバスケ」×「俺ガイル」

【比企谷八幡、新たな学年に新たな悩みを抱えて、戸惑う。】

「また同じクラスかよ」
俺は盛大に悪態をつく。
だが影が薄い男にあっさりと「ボクのせいじゃありません」といなされた。

何だかんだで3年生になった。
あと1年で高校生活も終わりとなれば、感慨もある。
だけどそれ以上に面倒だった。
またクラスが変わるからだ。

え?ぼっちには関係ないだろうって?
いやいや大ありなんだよ。
なるべく目立たず、穏便に生きていきたいからな。
近づいて大丈夫なヤツ、警戒が必要なヤツ。
しっかり見極めておかなきゃいけない。

そんな中、同じクラスだったヤツはわかりやすくていい。
対応がわかっているからな。
その最たるはこの男、黒子テツヤだ。
気を使ったり、深読みをする必要がないのは、本当に楽だ。

ちなみに葉山隼人と海老名姫菜も同じクラスだ。
海老名さんもそうそう警戒する必要はないし、まぁありがたい。
だけど葉山はそうはいかない。
もっと言うなら、何で同じクラスなんだよ。
俺ってもしかして前世ですごく悪いヤツで、今報いを受けてるってオチじゃね?
そうでもなきゃ、説明がつかないだろ。
わざわざお互いに「嫌い」って宣言し合っている同士が、同じクラスなんてな。

そんなこんなで新しいクラス。
俺は何となく一番気を使わなくていい黒子に話しかけた。
とりあえず「また同じクラスかよ」と悪態をついてみる。
だがヤツは涼しい顔で「ボクのせいじゃありません」だと。
まぁその通りではあるけど、相変わらずかわいくない。

「結局、火神さんは帰ったのか?」
俺は開口一番、微妙に気になっていたことを聞いた。
それは先月、四苦八苦の末に開催したプロムの最後。
黒子の元相棒の火神大我が現れた。
唐突な登場に、黒子はガラにもなく驚いているように見えた。
そして2人の間が何となく気まずそうでもあった。

その後、俺はもう1度、この2人のツーショットを見た。
春休みに1回だけ、学校に行ったんだ。
え?何しに行ったかって?
プロムの後の書類仕事だよ。
毎回毎回イベントのたびに、実にめんどくさい。
俺、本当は平日だって学校に来たくないんだぜ?
どうして休みの日にわざわざ来なきゃいけないんだ?

おっと。話が逸れた。
とにかく春休みに学校に行ったところで、黒子と火神さんを見かけたんだ。
2人ともトレーニングウェア姿で、おそらく部活中だろう。
並んで体育館に向かう2人を見送り、俺は奉仕部の部室に向かった。
多分、2人は俺に気が付かなかっただろうと思ったんだけど。

「春休み、ちょっとすれ違いましたね。」
「バレてたのかよ。」
「ええ。ちなみに火神君はもうアメリカに帰りました。学校があるそうで。」
「え?卒業じゃねぇの?」
「向こうは9月が新学期なので」

なるほど。休暇中のかつての相棒もバスケ部に奉仕させたと。
相変わらず凄まじいな。こいつの人使いの荒さ。
俺は「そうか。じゃあまだ高校生か」と頷きながら、別のことが気になった。

アメリカに帰りました。
黒子はナチュラルにそう言った。
火神さんの本拠地はあくまでアメリカなのだと。
つまりもう自分とは違う世界にいるのだと言っているような気がした。

黒子にとって火神さんって、どういう存在なんだろう。
俺は今さらのように、そんな下世話なことが気になった。
だけど黒子に聞けるものじゃない。
それはあくまで黒子の問題であり、俺が興味本位で踏み込んでいい話じゃないだろう。

*****

「キャ~!カッコいい!」
「あの人、すごい美人じゃね?」
体育館に黄色い声が飛ぶ。
だが当の青と桃色の2人はまったく動じることなく、新入部員たちの動きをチェックしていた。

新生バスケ部始動の日。
なんていうとカッコ良すぎるか?
何のことはない、新1年生が部活に参加できるようになったその初日だ。
俺たち奉仕部は、久々にバスケ部に駆り出されていた。
入部テストをするので、データのチェックを手伝ってほしいと言う。

そしてこの日から青峰さんと桃井さんが練習に参加していた。
彼らはアメリカの大学に進むので、9月の新学期まで猶予がある。
そこで黒子が夏の大会まで手伝わせることにしたそうだ。
改めて、やっぱり黒子って怖い。
キセキの世代だって、容赦なく使い倒すんだからな。

「すっごい人気だね」
驚いたように、そして呆れたようにそう言ったのは我が愛しの妹。
4月から奉仕部のメンバーに加わった、比企谷小町だ。
もちろんこのバスケ部の手伝いにもノリノリで参加。
そして体育館に来るなり、声を上げたのだ。

まぁさもありなんだよな。
バスケ部の入部テストなのに、関係ない生徒が集まっている。
もちろん全国制覇宣言をした黒子だって、そりゃ注目されている。
だけど今集まっているのは、ほぼ9割青峰目当てだ。
キセキの世代の1人、将来有望なバスケプレイヤー。
そして一緒にいる謎の桃色美女も人気急上昇中って感じかな。

とにかくそんな黄色い声援の中、新入部員希望はなんと50人を超えていた。
黒子の予想通りだな。
今のバスケ部の体制では、入部希望者を全員受け入れられない。
黒子はずっとそれを危惧していたんだ。
それにきっと心を痛めていたと思う。
なぜなら黒子は生活のほぼ全てをバスケに捧げているバスケフリークだ。
バスケがやりたいと集まった生徒を締め出すのは、多分かなりつらいはず。

「それじゃよろしくお願いします。」
黒子の号令で、俺たち奉仕部は動き出した。
新入部員たちは、走ったり飛んだり、ドリブルしたりシュートしたり。
俺たちはそれを計って数値を書き留めたり、動画撮影したりする。
黒子と青峰さんたちは、入部希望者たちに指示を飛ばした。
バスケ部員たちはそのサポート。
そして桃井さんはメモパッドに何やらいろいろと書き留めていた。

「それではお疲れ様でした。結果は明日発表します。」
入部テストが終わると、黒子はそう言った。
ちなみに本日の黒子はずっと拡声器を使っている。
声が通りにくいので、大声をあげるよりこっちをチョイスしたようだ。

一方の入部希望の生徒たちは、答える余裕もない。
体育館の床に、死体よろしく死屍累々の山になっている。
確かに見ているだけで疲れそうな内容だったもんな。

だが奉仕部の仕事は、まだ終わりじゃない。
黒子と青峰さんと桃井さんが新入部員を決める。
その話し合いの場所として、部室を提供するのだ。
部室は今日に限り、入部希望者にも着替えなどのために開放している。
落ち着いて話せる場所として、うちの部室が選ばれた。

3人は奉仕部の部室にやって来ると、真剣な表情でチェックを始めた。
計測した数値や映像を真剣な表情で見ている。
俺たちはそんな彼らの様子を気にしながらも、それぞれ定位置に座っていた。
もうできることはないからな。

「ねぇ。今日のテストだけで決められるものなのかな?」
ボソッとそう呟いたのは、由比ヶ浜だった。
俺は「決められるんじゃねぇの?」と答えながら、内心は大いに頷いていた。
そこそこ運動神経がいいヤツが集まってて、ぶっちゃけみんな同じに見えたからだ。
今日のテストでいったいどうやって選ぶんだろう。

黒子たちはそんな俺らの話が聞こえているのか、いないのか。
真剣な表情で、データや映像をチェックする。
その時間は約30分。
やがて黒子が「そろそろいいですか?」と告げた。

「せーの」
3人は桃井さんの合図で、トランプのように持っていたメモ用紙を机に出した。
それぞれが合格者を選考して紙に書き、それを同時にオープンしたようだ。
さてどうなるか。
俺たちは無関心な振りをしながら、彼らの話に耳を澄ました。

「あ、全員、同じだね。」
すぐに桃井さんが明るい声でそう言った。
小町が思わず「マジ?」と、そして雪ノ下が「すごい」と感想を漏らした。
あの3人、それぞれ勝手に決めたのに、同じ人間を選んだらしい。

「ちゃんとわかるんだねぇ。」
由比ヶ浜も感心しているようだ。
俺も内心かなり驚いていたのだけど「だろ?」とドヤ顔を作る。
たまにはカッコつけさせてくれ。
可愛い妹の前だし「俺はお見通しだよ感」を出しても、バチは当たらないだろ?

*****

「どうかしましたか?」
ハァァとため息をついた俺に、いきなり背後から声がかかる。
俺は「うわぁ!」と驚きながら、この感じ久しぶりなんて思ったりした。

昼休み、俺はいつもの場所にいた。
特別棟の1階、保健室横のベンチ。
天気が良い日はここでランチタイム。
3年になっても変わらない。
新1年生が入ってきたことで、ここに気付く生徒が増えるかなと危惧はしていた。
だけど今のところ、他の誰かが来る気配はない。
相変わらず俺とあの影が薄い男のスペシャルシートだ。

だけど今日は俺だけだった。
最近黒子は部活が忙しいみたいで、昼休みも部室に行くことが増えてきた。
だから1人で食べることも珍しくない。
俺は小町が作ってくれた弁当を開けながら、苦笑した。
最初は黒子が入り込んできたのが、邪魔くさかったんだけどな。
それが今じゃ1人なのが、ちょっと寂しいような気さえする。

「いただきます。」
育ちが良い俺は、誰も聞いていないのに律儀に手を合わせた。
そして彩りよく作られた弁当に箸を入れる。
ご飯、おかず、付け合わせの野菜等々、綺麗な三角食べ。
パクパク、うん美味い。

だけど俺はすぐにため息をついた。
いや弁当が不満なんじゃない。
それだけは小町の名誉のために、断言しておく。
俺のため息の理由は、つい先日に開催されたあるイベントにあった。
奉仕部のものじゃなくて、ごくごく個人的な俺のイベント。

「どうかしましたか?」
不意に背後から声がかかり、俺は「うわぁ!」と声を上げた。
とりあえず落とさないでよかった。
可愛い妹の弁当を死守した俺、ポイント高いだろ?

でもこの感じ、久しぶり。
俺はもう1度ため息をつきながら、振り返る。
予想通り、黒子がサンドイッチの包みを抱えて立っていた。

「お隣、失礼します。」
黒子は当たり前のように、俺の隣に腰を下ろす。
俺は「ああ」と軽く応じた。
久しぶりに、2人のランチタイム。
ちょっと嬉しいなんて、絶対に言わないけどな。

「バスケ部、どうだ?」
俺は世間話よろしく、黒子に声をかけた。
黒子が「おかげさまで順調です」と答える。
俺は「そりゃよかった」と応じたけど、わかっている。
黒子が言うほど順調じゃないってことは。
入部テストで落とされた者は、あちこちで黒子の悪口を言い回っているらしい。
それにまだまだ新入部員を含めたチームがまとまるには、時間がかかるだろう。

「比企谷君こそ、大丈夫ですか?」
「は?何が?」
「元気がなさそうだから」
「何でそう思う?」
「せっかくのお米さんのお弁当なのに、箸が進まないようなので。」

黒子に指摘され、俺はガックリと肩を落とした。
こいつの観察力に、かなうわけがない。
あ、ちなみに俺の妹の小町のことを、黒子は「お米さん」と呼ぶ。
プロムのとき、たまたま一色が黒子に小町を紹介したからだ。
あいつ、小町のことを「お米ちゃん」って呼ぶことにしちまったからな。

「なぁ。ちょっとグチっていいか?」
俺は黒子のポーカーフェイスを見ながら、そう言った。
黒子は予想通り「もちろん、かまいません」と答える。
俺が思うに、黒子ってカウンセラーになったら成功すると思う。
無駄に元気づけることも、飾ったことも言わない。
だけど思ったことをそのまま口にする。
それに何より聞き上手っていうか、思わず話したくなる雰囲気なんだよな。

「実はこの前な」
俺は静かに切り出した。
それはつい先日行われたイベント「雪ノ下家との会食」のこと。
余計な事ばかり言って、大事なことを言えなかった俺の弱さの話だ。

【続く】
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