”の”な10題
【疑惑の手】
「きりたんぽ、ですか。」
「そ。きりたんぽ。」
差し出された大きな包みを、黒子は戸惑いながら受け取る。
黒子を見下ろす巨体の男は手を伸ばすと、黒子の髪をわしゃわしゃとかき回した。
練習に励む誠凛高校の体育館に現れたのは、黒子のかつてのチームメイトとその先輩。
陽泉高校の紫原敦と、OBの氷室辰也だ。
氷室は高校卒業後にアメリカに渡り、かの地で大学生活を始めている。
現在日本に一時帰国している氷室から火神に連絡があり、今日訪れることは知っていた。
だが紫原が一緒に来るとは聞いていなかったのだ。
「これ、おみやげ」
紫原は挨拶もなく体育館に入ってくると、黒子に小脇に抱えていた大きな包みを差し出した。
驚く誠凛バスケ部の面々だったが、黒子は動じない。
かつて「キセキの世代」と呼ばれていた者たちは、みなマイペースで気まぐれだ。
この程度のことでいちいち驚いていたら、幻の6人目(シックスマン)なんて呼ばれていない。
「まいう棒、ですね。」
「うん。秋田限定きりたんぽ味」
「きりたんぽ、ですか。」
「そ。きりたんぽ。」
差し出された大きな包みを、黒子は戸惑いながら受け取る。
黒子を見下ろす巨体の男は手を伸ばすと、黒子の髪をわしゃわしゃとかき回した。
透明な袋でパッケージされた包みなので、中身は一目瞭然だ。
ただでさえ目立つ巨体の男が、これを秋田からずっと抱えて来たのかと想像すると少々怖い。
「でも今食べてるのは、きりたんぽ味じゃありませんね。」
「うん。ハロウィン限定パンプキン味。さっきコンビニで見つけたんだ~」
紫原は相変わらず緩い口調で、バリバリと菓子を食べながら闊歩している。
まったくこんなにジャンクフードばかり食べているのに、よくもこんなに大きくなったものだ。
「ところで今日はどうして」
「大学の推薦が決まったから東京に来たの。ついでに帰国中の室ちんに会って、一緒に来た。」
黒子は小さく「なるほど」と頷いた。
紫原は単に火神に会いに来た氷室のお供ということらしい。
そうでなければわざわざ誠凛になど来ないだろう。
その証拠に黒子の髪をかき回す動作もどこか不機嫌だ。
ちなみに誠凛バスケ部の面々は、紫原の手を「疑惑の手」と呼んでいる。
紫原と顔を合わせることは滅多にないが、たまに会うと黒子の髪をわしゃわしゃとなでるのだ。
手つきは子供をあやすような親密さなのに、発するのは「ひねりつぶしたくなる」という怖いセリフ。
このギャップが「疑惑の手」と呼ばれる所以だ。
特に同じ学年の降旗たちは、最初のストバス大会でのインパクトが強かったらしい。
だけどやられる黒子には、何となくその時々の紫原の気持ちがわかる。
今機嫌がいいとか悪いとか、その程度のことはわかるのだ。
そして今の紫原は機嫌が悪いということも。
まぁ黒子としては、知ったことではないのだが。
「黒子君、ちょっといい?」
何となく紫原との会話が途切れたところで、氷室が声をかけて来た。
そしてちょいちょいと手招きをする。
火神と話に来たと思っていたのに、どういうことだろう?
黒子は怪訝に思いながらも、氷室と一緒に体育館を出た。
*****
「黒子君は、変わらないね」
氷室は柔らかい言葉で、如才ない笑顔を向けてくれる。
だが黒子は警戒心を解くことができなかった。
「氷室さんは一段と男らしくなりましたね。」
黒子はするりとそんな言葉を口にした。
別にお世辞のつもりではなく、本心からそう思った。
元々イケメンだったが、高校時代には繊細なイメージだった。
だが渡米し、大学に進学したせいか、すっかりたくましくなったように見せる。
「実はアメリカで赤司君に会ったんだ。下見だと言っていた。うちの大学も進学先の候補らしい。」
「ああ、そういえば。彼もアメリカの大学に進むつもりだと言ってました。」
「その赤司君から、君はもうタイガの相棒を止めるつもりだって聞いてね。」
兄貴分としては気になったということなのだろう。
正直言って黒子としては、あまり触れてほしくない部分だ。
だけど心配そうな氷室の表情を見ると、頑なに拒否するのも躊躇われた。
「氷室さんは進学するとき、日本の大学から誘いがありました?」
「ああ、いくつかあった。でもアメリカでやりたいから断わっちゃったけど。」
「ボクはありませんでした。それが火神君や氷室さんとボクの差を物語っています。」
「でも君は受験するんだろ?2人一緒にバスケを続けられる学校を捜すのは難しい?」
「いえ。それは可能です。でもボクの気持ちの問題で」
確かに2人が同じチームでまたバスケを続けるのは、不可能ではない。
だがおそらく大学で終わりだ。
火神はその後、間違いなくプロのプレーヤーになるだろう。
だが黒子はおそらくそこまでは行けない。
つまり今同じ道を選択しても、4年後には間違いなく別れることになる。
「どうせ別れるなら今がいいです。今ならまだ」
「やっぱり黒子君、タイガのことを」
聡明な氷室は、そこで言葉を切ってくれた。
黒子が心の奥底に隠している悲しみを察したのだろう。
今でさえ、火神と別れることを想像だけでこんなにつらいのだ。
この上4年分の思い出を積み重ねてから別れるなんて、想像しただけで恐ろしい。
心を千切り取られて、抜け殻のように生きていくしかないと思う。
それほど深く、黒子は火神に惹かれていた。
この感情はもう間違いなく恋愛だと思っている。
「やっぱりって。。。」
「赤司君にはわかってたみたいだ。オレはまさかと思ったけど今、確信した。」
「そうですか。やっぱり赤司君には隠せないな。」
「すごく心配していたよ。」
勝手に黒子の恋心を氷室に喋った赤司を責める気持ちにはなれなかった。
赤司は単純に黒子を心配したのだろう。
むしろ人選は的確だ。
氷室は迂闊に口外しないし、また渡米するから試合で顔を合わすこともない。
「バスケ以外でパートナーになるって選択肢は?」
「まさか。そんな身の程知らずじゃありません。火神君はそんなことを望んでないでしょうし」
バスケ以外のパートナーとは、恋人という意味だろう。
そんな大それたことを望むつもりはない。
火神にしてみたら、チームメイトの男に恋心を寄せられただけで気持ち悪いことだろう。
氷室は意味あり気に「そうかな?」と微笑した。
黒子はその反応の意味が分からずに、首を傾げる。
だが考える間もなく「練習再開!」と叫ぶリコの声が聞こえた。
「ありがとうございます。話したら少しだけ楽になりました。」
黒子は氷室に頭を下げると、体育館へと戻っていた。
氷室の視線が背中に貼り付いているのを感じたが、気づかない振りをした。
*****
「久しぶりだな。」
火神は紫原に声をかけた。
紫原は特に挨拶も返さなかったが、手に持っていた袋から何かを取り出し、差し出した。
妙に派手なパッケージには「まいう棒パンプキン味」と書かれている。
火神がまいう棒を受け取ると、紫原の口角がほんの少しだけ上がった。
今日は氷室が訪ねてくることになっていて、ずっと楽しみにしていた。
事前に監督のリコにも伝えていたので、彼が姿を現すなり、休憩にしてくれた。
久しぶりに兄貴分の顔を見て、近況を報告し合って、本当に楽しかったのに。
氷室は黒子に話があると言って、2人で体育館を出て行ってしまったのだ。
そして代わりに火神の前に立っているのが、紫原だった。
「お前、大学決まったの?」
「うん。バスケ推薦で賊徒大学。今日はその手続きで東京に来たんだ。」
「賊学か。てことは東京に戻るのか。」
「きりたんぽにも飽きたしね。」
紫原は相変わらずどこか気だるそうな様子だが、問いかければちゃんと答える。
それは出逢った頃の紫原からは考えられないことだった。
才能のない者を見下し、一方的に腹が立つ物言いしかしない。
だけど1年のウィンターカップで対戦してから、彼の態度は微妙に変化した。
打ち解けたとは言わないが、どこか角が取れて、柔らかくなった気がする。
「火神は?誘い、来てるんでしょ?」
「最京と炎馬。まだ迷ってる。」
「青ちん、炎馬に決めたらしいよ。もしかしたらチームメイト?」
「マジかよ。それ。。。」
火神は思い切り舌打ちをした。
2つの大学から誘われているが、そのうちの1つ、最京大学では黒子はバスケ部に入れない。
ならもう1つの炎馬大学で、黒子とまた一緒にプレイしようと思っていたのだ。
黒子にはどうしても一緒にやりたいと告げて、志望校を変えてほしいと頼んだ。
まだ了承してもらってはいないが、何としても説き伏せるつもりだった。
だがその炎馬大学に青峰が来るなんて、想定外もいいところだ。
青峰とは敵同士として、死力を尽くして戦いたい。
同じチームで力を合わせるのも悪くないかもしれないが、やはり戦う方がピンとくる。
そしてそれ以上に脅威なのは、その選択の中に黒子がいることだ。
黒子がやはり青峰の方が自分の光に相応しいと思ってしまったら。
それは想像するだけで恐ろしく、心が冷えていくような気がした。
「皮肉だよね。バスケなんてつまらないって言ってたオレがバスケ推薦で、黒ちんが受験勉強なんて。」
「・・・そうかもな。」
「最近思うんだよね。また黒ちんのパス、受けてもいいかな、とか。」
「は?何だそりゃ?」
紫原はいつになく感傷的な気分になっているらしい。
そういえば先程、黒子の髪をなでている動作もなんだかぎこちなかった。
降旗たちが「疑惑の手」と呼んで恐れていたそれは、どこか寂しそうに見えたのだ。
この男はきっとこの男なりに、黒子を気遣っているのだろう。
「どうでもいいけど、まいう棒のパンプキンって微妙じゃね?」
火神はあえて紫原の思いについては、触れない。
もらったばかりの菓子のパッケージを破いて、思い切り齧った。
「そーお?オレは美味しいと思ったけど。」
紫原も負けじとまいう棒を齧る。
遠くからリコが「練習再開!」と叫ぶのが聞こえた。
【続く】
「きりたんぽ、ですか。」
「そ。きりたんぽ。」
差し出された大きな包みを、黒子は戸惑いながら受け取る。
黒子を見下ろす巨体の男は手を伸ばすと、黒子の髪をわしゃわしゃとかき回した。
練習に励む誠凛高校の体育館に現れたのは、黒子のかつてのチームメイトとその先輩。
陽泉高校の紫原敦と、OBの氷室辰也だ。
氷室は高校卒業後にアメリカに渡り、かの地で大学生活を始めている。
現在日本に一時帰国している氷室から火神に連絡があり、今日訪れることは知っていた。
だが紫原が一緒に来るとは聞いていなかったのだ。
「これ、おみやげ」
紫原は挨拶もなく体育館に入ってくると、黒子に小脇に抱えていた大きな包みを差し出した。
驚く誠凛バスケ部の面々だったが、黒子は動じない。
かつて「キセキの世代」と呼ばれていた者たちは、みなマイペースで気まぐれだ。
この程度のことでいちいち驚いていたら、幻の6人目(シックスマン)なんて呼ばれていない。
「まいう棒、ですね。」
「うん。秋田限定きりたんぽ味」
「きりたんぽ、ですか。」
「そ。きりたんぽ。」
差し出された大きな包みを、黒子は戸惑いながら受け取る。
黒子を見下ろす巨体の男は手を伸ばすと、黒子の髪をわしゃわしゃとかき回した。
透明な袋でパッケージされた包みなので、中身は一目瞭然だ。
ただでさえ目立つ巨体の男が、これを秋田からずっと抱えて来たのかと想像すると少々怖い。
「でも今食べてるのは、きりたんぽ味じゃありませんね。」
「うん。ハロウィン限定パンプキン味。さっきコンビニで見つけたんだ~」
紫原は相変わらず緩い口調で、バリバリと菓子を食べながら闊歩している。
まったくこんなにジャンクフードばかり食べているのに、よくもこんなに大きくなったものだ。
「ところで今日はどうして」
「大学の推薦が決まったから東京に来たの。ついでに帰国中の室ちんに会って、一緒に来た。」
黒子は小さく「なるほど」と頷いた。
紫原は単に火神に会いに来た氷室のお供ということらしい。
そうでなければわざわざ誠凛になど来ないだろう。
その証拠に黒子の髪をかき回す動作もどこか不機嫌だ。
ちなみに誠凛バスケ部の面々は、紫原の手を「疑惑の手」と呼んでいる。
紫原と顔を合わせることは滅多にないが、たまに会うと黒子の髪をわしゃわしゃとなでるのだ。
手つきは子供をあやすような親密さなのに、発するのは「ひねりつぶしたくなる」という怖いセリフ。
このギャップが「疑惑の手」と呼ばれる所以だ。
特に同じ学年の降旗たちは、最初のストバス大会でのインパクトが強かったらしい。
だけどやられる黒子には、何となくその時々の紫原の気持ちがわかる。
今機嫌がいいとか悪いとか、その程度のことはわかるのだ。
そして今の紫原は機嫌が悪いということも。
まぁ黒子としては、知ったことではないのだが。
「黒子君、ちょっといい?」
何となく紫原との会話が途切れたところで、氷室が声をかけて来た。
そしてちょいちょいと手招きをする。
火神と話に来たと思っていたのに、どういうことだろう?
黒子は怪訝に思いながらも、氷室と一緒に体育館を出た。
*****
「黒子君は、変わらないね」
氷室は柔らかい言葉で、如才ない笑顔を向けてくれる。
だが黒子は警戒心を解くことができなかった。
「氷室さんは一段と男らしくなりましたね。」
黒子はするりとそんな言葉を口にした。
別にお世辞のつもりではなく、本心からそう思った。
元々イケメンだったが、高校時代には繊細なイメージだった。
だが渡米し、大学に進学したせいか、すっかりたくましくなったように見せる。
「実はアメリカで赤司君に会ったんだ。下見だと言っていた。うちの大学も進学先の候補らしい。」
「ああ、そういえば。彼もアメリカの大学に進むつもりだと言ってました。」
「その赤司君から、君はもうタイガの相棒を止めるつもりだって聞いてね。」
兄貴分としては気になったということなのだろう。
正直言って黒子としては、あまり触れてほしくない部分だ。
だけど心配そうな氷室の表情を見ると、頑なに拒否するのも躊躇われた。
「氷室さんは進学するとき、日本の大学から誘いがありました?」
「ああ、いくつかあった。でもアメリカでやりたいから断わっちゃったけど。」
「ボクはありませんでした。それが火神君や氷室さんとボクの差を物語っています。」
「でも君は受験するんだろ?2人一緒にバスケを続けられる学校を捜すのは難しい?」
「いえ。それは可能です。でもボクの気持ちの問題で」
確かに2人が同じチームでまたバスケを続けるのは、不可能ではない。
だがおそらく大学で終わりだ。
火神はその後、間違いなくプロのプレーヤーになるだろう。
だが黒子はおそらくそこまでは行けない。
つまり今同じ道を選択しても、4年後には間違いなく別れることになる。
「どうせ別れるなら今がいいです。今ならまだ」
「やっぱり黒子君、タイガのことを」
聡明な氷室は、そこで言葉を切ってくれた。
黒子が心の奥底に隠している悲しみを察したのだろう。
今でさえ、火神と別れることを想像だけでこんなにつらいのだ。
この上4年分の思い出を積み重ねてから別れるなんて、想像しただけで恐ろしい。
心を千切り取られて、抜け殻のように生きていくしかないと思う。
それほど深く、黒子は火神に惹かれていた。
この感情はもう間違いなく恋愛だと思っている。
「やっぱりって。。。」
「赤司君にはわかってたみたいだ。オレはまさかと思ったけど今、確信した。」
「そうですか。やっぱり赤司君には隠せないな。」
「すごく心配していたよ。」
勝手に黒子の恋心を氷室に喋った赤司を責める気持ちにはなれなかった。
赤司は単純に黒子を心配したのだろう。
むしろ人選は的確だ。
氷室は迂闊に口外しないし、また渡米するから試合で顔を合わすこともない。
「バスケ以外でパートナーになるって選択肢は?」
「まさか。そんな身の程知らずじゃありません。火神君はそんなことを望んでないでしょうし」
バスケ以外のパートナーとは、恋人という意味だろう。
そんな大それたことを望むつもりはない。
火神にしてみたら、チームメイトの男に恋心を寄せられただけで気持ち悪いことだろう。
氷室は意味あり気に「そうかな?」と微笑した。
黒子はその反応の意味が分からずに、首を傾げる。
だが考える間もなく「練習再開!」と叫ぶリコの声が聞こえた。
「ありがとうございます。話したら少しだけ楽になりました。」
黒子は氷室に頭を下げると、体育館へと戻っていた。
氷室の視線が背中に貼り付いているのを感じたが、気づかない振りをした。
*****
「久しぶりだな。」
火神は紫原に声をかけた。
紫原は特に挨拶も返さなかったが、手に持っていた袋から何かを取り出し、差し出した。
妙に派手なパッケージには「まいう棒パンプキン味」と書かれている。
火神がまいう棒を受け取ると、紫原の口角がほんの少しだけ上がった。
今日は氷室が訪ねてくることになっていて、ずっと楽しみにしていた。
事前に監督のリコにも伝えていたので、彼が姿を現すなり、休憩にしてくれた。
久しぶりに兄貴分の顔を見て、近況を報告し合って、本当に楽しかったのに。
氷室は黒子に話があると言って、2人で体育館を出て行ってしまったのだ。
そして代わりに火神の前に立っているのが、紫原だった。
「お前、大学決まったの?」
「うん。バスケ推薦で賊徒大学。今日はその手続きで東京に来たんだ。」
「賊学か。てことは東京に戻るのか。」
「きりたんぽにも飽きたしね。」
紫原は相変わらずどこか気だるそうな様子だが、問いかければちゃんと答える。
それは出逢った頃の紫原からは考えられないことだった。
才能のない者を見下し、一方的に腹が立つ物言いしかしない。
だけど1年のウィンターカップで対戦してから、彼の態度は微妙に変化した。
打ち解けたとは言わないが、どこか角が取れて、柔らかくなった気がする。
「火神は?誘い、来てるんでしょ?」
「最京と炎馬。まだ迷ってる。」
「青ちん、炎馬に決めたらしいよ。もしかしたらチームメイト?」
「マジかよ。それ。。。」
火神は思い切り舌打ちをした。
2つの大学から誘われているが、そのうちの1つ、最京大学では黒子はバスケ部に入れない。
ならもう1つの炎馬大学で、黒子とまた一緒にプレイしようと思っていたのだ。
黒子にはどうしても一緒にやりたいと告げて、志望校を変えてほしいと頼んだ。
まだ了承してもらってはいないが、何としても説き伏せるつもりだった。
だがその炎馬大学に青峰が来るなんて、想定外もいいところだ。
青峰とは敵同士として、死力を尽くして戦いたい。
同じチームで力を合わせるのも悪くないかもしれないが、やはり戦う方がピンとくる。
そしてそれ以上に脅威なのは、その選択の中に黒子がいることだ。
黒子がやはり青峰の方が自分の光に相応しいと思ってしまったら。
それは想像するだけで恐ろしく、心が冷えていくような気がした。
「皮肉だよね。バスケなんてつまらないって言ってたオレがバスケ推薦で、黒ちんが受験勉強なんて。」
「・・・そうかもな。」
「最近思うんだよね。また黒ちんのパス、受けてもいいかな、とか。」
「は?何だそりゃ?」
紫原はいつになく感傷的な気分になっているらしい。
そういえば先程、黒子の髪をなでている動作もなんだかぎこちなかった。
降旗たちが「疑惑の手」と呼んで恐れていたそれは、どこか寂しそうに見えたのだ。
この男はきっとこの男なりに、黒子を気遣っているのだろう。
「どうでもいいけど、まいう棒のパンプキンって微妙じゃね?」
火神はあえて紫原の思いについては、触れない。
もらったばかりの菓子のパッケージを破いて、思い切り齧った。
「そーお?オレは美味しいと思ったけど。」
紫原も負けじとまいう棒を齧る。
遠くからリコが「練習再開!」と叫ぶのが聞こえた。
【続く】