お兄ちゃん(お姉ちゃん)といっしょのお題
【ひみつだよ】
もう1つの問題を解決しないか。
赤司君は、まるで有能なビジネスマンみたいにきっぱりとそう言った。
もちろんボクは犬だから、ビジネスマンの知り合いなんかいないけどね。
それは異様な光景だった。
誠凛高校の体育館に集まったのは「キセキの世代」の5人と、テツヤ以外の誠凛バスケ部員。
このメンバーがテツヤ抜きで集まるなんて、多分これが最初で最後じゃないかな。
そんなミスマッチな面々が、車座になっている。
バスケを辞めたいと言い出したテツヤは、赤司君に説得されて、今日のところは家に帰らされた。
赤司君がどこかに電話して、やって来たのは黒塗りの高級車。
テツヤはかなり強引にそれに押し込まれて、自宅に送り届けられることになった。
誠凛のメンバーは、高級車やそれに乗っていた使用人らしき人たちに、ただただ驚き恐縮するばかりだ。
まったく動じない「キセキ」の面々とテツヤに、やっぱり帝光のヤツらってスゲェってため息をついてた。
その中でも、赤司君はやっぱり特別みたい。
自分よりはるか年上のオジサンたちに「間違いなくテツヤを送り届けろ」って命令してた。
あれだけセンパイたちに止められてもバスケ辞めるって言い張ってたテツヤを思いとどまらせたし。
今だってこれだけの人数、しかも年上もいるのに、この場を仕切ってる。
これくらいじゃないと「キセキの世代」の主将なんて、できないんだね。
黒子君がなぜケガをしたかってこと?
赤司君の問いに答えたのは、カントクだった。
その通り、ボクも気になっていたんだ。
テツヤはボクがちょっと目を離した隙に、頭にケガをして倒れていた。
記憶を失ったのは、その時のショックだ。
じゃあどうしてケガをしたんだろう。
事故?それとも誰かに襲われたのか?
テツヤが倒れていた時、その横には血で濡れたアルミの塊が落ちていた。
いびつな長方形で、大きさでいうとペンケースくらいかな。
それで調べてみると、体育館の2階の換気窓の窓枠の一部が欠けていた。
窓枠が割れて落下して、下を歩いていたテツヤの頭を直撃した不運な事故。
学校はそう考えているみたいだ。
だけどそんな偶然あるのかな?
新設されて間もない誠凛で、そうそう窓枠が壊れるなんて。
しかも体育館なんて、あの時間は部活がある生徒ぐらいしか近づかない。
そこにたまたまテツヤが居合わせる偶然より、誰かが狙ったって考えた方が自然だよ。
バスケ部のメンバーもそう思って、何度も学校に申し入れた。
だけど学校はこのことに関して、腰が重いらしい。
だって誰かがやったのなら、犯人は学校関係者しかいない。
一般の人が校内にいたらかなり目立つからね。
先生か生徒、または職員。
学校はやっぱり不祥事を恐れているみたいだ。
赤司君が言わんとするのも、そこだった。
もし誰かが故意にしたことだとしたら、まだ犯人は野放し状態。
つまり危険なんだ。
*****
犯人はテツヤを狙ったと思うか?
赤司君が全員の顔を見渡しながら、そう言った。
まるで推理ドラマの探偵役みたい。
あ、犬だって推理ドラマくらい知ってるんだよ。念のため。
でも黒子って人に恨まれることなんかなさそうだけどなぁ。
率直な感想を口に出したのは、木吉センパイだ。
その言葉に全員が「うんうん」と頷いている。
図書委員の仕事で、トラブルとかは?
主将が降旗君にそう聞いた。
ありません。黒子はいろいろな本に詳しいから、むしろみんなに頼りにされてます。
降旗君がそう答える。
テツヤは高校でもよく本を読んでいるのか。
赤司君がそう聞くと、降旗君は「うん」って頷きながらも少々腰が引けている。
何でも降旗君は、初めて赤司君に会った日にかなり威圧されたそうだ。
その後、試合でマッチアップしても、すぐに疲労困憊で動けなくなった。
つまり赤司君が苦手ってことらしい。
恋愛。。。はないよな?
言いづらそうに口を開いたのは、伊月センパイだ。
聞かれたのは、もちろん同じクラスの火神君。
火神君は「知らねーよ!です」と相変わらず微妙な敬語で答えている。
何で知らないんスか!?同じクラスなんでしょ!?
なぜか割り込んできたのは黄瀬君だ。
黄瀬君、テツヤの恋愛、気になるのかな?
火神君が「知らねーもんは知らねーんだよ!」と怒鳴り返した。
すると今度は「お前それでもテツの光か?」と青峰君が参戦してくる。
だけど赤司君が「つまり目立つ恋愛トラブルはないんだな?」と締めくくった。
さすが「キセキ」の主将、一瞬で荒れた場の空気を戻しちゃったよ。
黒子ということではなく、バスケ部が狙われたという可能性はないのか?
おもむろに口を開いたのは、緑間君だ。
紫原くんがまいう棒をバリバリ食べながら「どういうこと~?」と聞き返している。
誠凛メンバーはキョトンとした表情で、顔を見合わせている。
バスケ部員なら誰でもよかったってことか。
赤司君が全員の疑問に答えるようにそう言った。
その場合、動機はバスケ部への妬みってところかしら。
カントクも考えるような表情だ。
頭の回転が速い2人は、みんなの1歩先を考えている。
ボクはあの日のことを思い出していた。
頭から血を流して、倒れているテツヤ。
確かに創部2年目、ウィンターカップで大躍進。
嫉妬する人もいるかもしれない。
でもだからってあんな風に人を傷つけるなんてするのかな。
*****
めぼしい手掛かりはないな。仕方ない。後はこちらで調べさせよう。
赤司君が締めくくるようにそう言った。
え?調べるの?じゃあこの時間、無駄だったんじゃない?
脱力したような雰囲気になったのは、みんながそう思ったからだろう。
何だよ、赤司!調べるなら、集めて聞く必要ねーだろ。
青峰君が全員を代表して、文句を言った。
全教職員と全生徒を調べるなら、少々時間がかかるからな。
闇雲に調べるより、何かヒントがあればと思ったんだ。
時間がかかればかかるだけ、危険になるかもしれない。
その言葉に全員が「え?」という顔で固まった。
確かに事実がはっきりしない限り、安心できない。
テツヤが、または誠凛のみんなが、危険にさらされているかもしれないからね。
だけどその前に怖いこと、言わなかった?
全教職員と全生徒を調べるって、すごく大変だと思うんだけど。
赤司君、そういうことを事もなげに言っちゃうのかぁ。
それから来週のU-17の合同練習には、テツヤも参加させる。
赤司君は呆然とする一同を見渡して、そう宣言した。
すかさずカントクが「まだ無理よ!」と反論した。
誠凛のメンバーたちも、頷いている。
テツヤも過去と向き合わなければ、先に進めない。
多分ボクたちといた方が、記憶が戻る確率が高いだろう?
赤司君がバッサリとそう言い放った。
さりげない口調だけど、有無を言わせぬ迫力があった。
さすが天帝、もう誰も逆らえない。
ボクは「キセキの世代」の面々を見た。
彼らはジッと黙ったまま、何かを考えている。
中学時代のこと?そして今1人だけ過去に引き戻されてしまったテツヤのこと?
彼らもテツヤと一緒に過去と向き合おうとしている。
そんな風に見えた。
今度は誠凛のメンバーを見た。
みんなが顔を見合わせながら「いいのかな」って顔してる。
チームメイトとして、テツヤを大事に思ってて、心配してるんだ。
でもボクも赤司君に賛成だ。
誠凛のみんなはテツヤを信じてくれてる。
だからもう1度、過去を乗り越えなくちゃいけないんだ。
最後にボクは火神君を見た。
この先、きっと苦しむであろうテツヤのことを案じているんだ。
大きな瞳が不安そうに揺れてる。
そんな火神君の横顔を、青峰君がじっと見ていた。
それから、いまここで話したことはテツヤには当分、ひみつだよ。
赤司君は思い出したようにそう言った。
そうだね。今のテツヤは知らなくていい。
全部乗り越えた後で、笑い話になればいいな。
誠凛のメンバーまで赤司君が牛耳ったんだよってね。
赤司君、みんな。黒子君をよろしくね。絶対に無理はさせないで。
カントクが「キセキ」のみんなに頭を下げた。
ボクも一緒に頭を下げてみたけど、残念ながら誰も気づいてくれなかったみたいだ。
【続く】
もう1つの問題を解決しないか。
赤司君は、まるで有能なビジネスマンみたいにきっぱりとそう言った。
もちろんボクは犬だから、ビジネスマンの知り合いなんかいないけどね。
それは異様な光景だった。
誠凛高校の体育館に集まったのは「キセキの世代」の5人と、テツヤ以外の誠凛バスケ部員。
このメンバーがテツヤ抜きで集まるなんて、多分これが最初で最後じゃないかな。
そんなミスマッチな面々が、車座になっている。
バスケを辞めたいと言い出したテツヤは、赤司君に説得されて、今日のところは家に帰らされた。
赤司君がどこかに電話して、やって来たのは黒塗りの高級車。
テツヤはかなり強引にそれに押し込まれて、自宅に送り届けられることになった。
誠凛のメンバーは、高級車やそれに乗っていた使用人らしき人たちに、ただただ驚き恐縮するばかりだ。
まったく動じない「キセキ」の面々とテツヤに、やっぱり帝光のヤツらってスゲェってため息をついてた。
その中でも、赤司君はやっぱり特別みたい。
自分よりはるか年上のオジサンたちに「間違いなくテツヤを送り届けろ」って命令してた。
あれだけセンパイたちに止められてもバスケ辞めるって言い張ってたテツヤを思いとどまらせたし。
今だってこれだけの人数、しかも年上もいるのに、この場を仕切ってる。
これくらいじゃないと「キセキの世代」の主将なんて、できないんだね。
黒子君がなぜケガをしたかってこと?
赤司君の問いに答えたのは、カントクだった。
その通り、ボクも気になっていたんだ。
テツヤはボクがちょっと目を離した隙に、頭にケガをして倒れていた。
記憶を失ったのは、その時のショックだ。
じゃあどうしてケガをしたんだろう。
事故?それとも誰かに襲われたのか?
テツヤが倒れていた時、その横には血で濡れたアルミの塊が落ちていた。
いびつな長方形で、大きさでいうとペンケースくらいかな。
それで調べてみると、体育館の2階の換気窓の窓枠の一部が欠けていた。
窓枠が割れて落下して、下を歩いていたテツヤの頭を直撃した不運な事故。
学校はそう考えているみたいだ。
だけどそんな偶然あるのかな?
新設されて間もない誠凛で、そうそう窓枠が壊れるなんて。
しかも体育館なんて、あの時間は部活がある生徒ぐらいしか近づかない。
そこにたまたまテツヤが居合わせる偶然より、誰かが狙ったって考えた方が自然だよ。
バスケ部のメンバーもそう思って、何度も学校に申し入れた。
だけど学校はこのことに関して、腰が重いらしい。
だって誰かがやったのなら、犯人は学校関係者しかいない。
一般の人が校内にいたらかなり目立つからね。
先生か生徒、または職員。
学校はやっぱり不祥事を恐れているみたいだ。
赤司君が言わんとするのも、そこだった。
もし誰かが故意にしたことだとしたら、まだ犯人は野放し状態。
つまり危険なんだ。
*****
犯人はテツヤを狙ったと思うか?
赤司君が全員の顔を見渡しながら、そう言った。
まるで推理ドラマの探偵役みたい。
あ、犬だって推理ドラマくらい知ってるんだよ。念のため。
でも黒子って人に恨まれることなんかなさそうだけどなぁ。
率直な感想を口に出したのは、木吉センパイだ。
その言葉に全員が「うんうん」と頷いている。
図書委員の仕事で、トラブルとかは?
主将が降旗君にそう聞いた。
ありません。黒子はいろいろな本に詳しいから、むしろみんなに頼りにされてます。
降旗君がそう答える。
テツヤは高校でもよく本を読んでいるのか。
赤司君がそう聞くと、降旗君は「うん」って頷きながらも少々腰が引けている。
何でも降旗君は、初めて赤司君に会った日にかなり威圧されたそうだ。
その後、試合でマッチアップしても、すぐに疲労困憊で動けなくなった。
つまり赤司君が苦手ってことらしい。
恋愛。。。はないよな?
言いづらそうに口を開いたのは、伊月センパイだ。
聞かれたのは、もちろん同じクラスの火神君。
火神君は「知らねーよ!です」と相変わらず微妙な敬語で答えている。
何で知らないんスか!?同じクラスなんでしょ!?
なぜか割り込んできたのは黄瀬君だ。
黄瀬君、テツヤの恋愛、気になるのかな?
火神君が「知らねーもんは知らねーんだよ!」と怒鳴り返した。
すると今度は「お前それでもテツの光か?」と青峰君が参戦してくる。
だけど赤司君が「つまり目立つ恋愛トラブルはないんだな?」と締めくくった。
さすが「キセキ」の主将、一瞬で荒れた場の空気を戻しちゃったよ。
黒子ということではなく、バスケ部が狙われたという可能性はないのか?
おもむろに口を開いたのは、緑間君だ。
紫原くんがまいう棒をバリバリ食べながら「どういうこと~?」と聞き返している。
誠凛メンバーはキョトンとした表情で、顔を見合わせている。
バスケ部員なら誰でもよかったってことか。
赤司君が全員の疑問に答えるようにそう言った。
その場合、動機はバスケ部への妬みってところかしら。
カントクも考えるような表情だ。
頭の回転が速い2人は、みんなの1歩先を考えている。
ボクはあの日のことを思い出していた。
頭から血を流して、倒れているテツヤ。
確かに創部2年目、ウィンターカップで大躍進。
嫉妬する人もいるかもしれない。
でもだからってあんな風に人を傷つけるなんてするのかな。
*****
めぼしい手掛かりはないな。仕方ない。後はこちらで調べさせよう。
赤司君が締めくくるようにそう言った。
え?調べるの?じゃあこの時間、無駄だったんじゃない?
脱力したような雰囲気になったのは、みんながそう思ったからだろう。
何だよ、赤司!調べるなら、集めて聞く必要ねーだろ。
青峰君が全員を代表して、文句を言った。
全教職員と全生徒を調べるなら、少々時間がかかるからな。
闇雲に調べるより、何かヒントがあればと思ったんだ。
時間がかかればかかるだけ、危険になるかもしれない。
その言葉に全員が「え?」という顔で固まった。
確かに事実がはっきりしない限り、安心できない。
テツヤが、または誠凛のみんなが、危険にさらされているかもしれないからね。
だけどその前に怖いこと、言わなかった?
全教職員と全生徒を調べるって、すごく大変だと思うんだけど。
赤司君、そういうことを事もなげに言っちゃうのかぁ。
それから来週のU-17の合同練習には、テツヤも参加させる。
赤司君は呆然とする一同を見渡して、そう宣言した。
すかさずカントクが「まだ無理よ!」と反論した。
誠凛のメンバーたちも、頷いている。
テツヤも過去と向き合わなければ、先に進めない。
多分ボクたちといた方が、記憶が戻る確率が高いだろう?
赤司君がバッサリとそう言い放った。
さりげない口調だけど、有無を言わせぬ迫力があった。
さすが天帝、もう誰も逆らえない。
ボクは「キセキの世代」の面々を見た。
彼らはジッと黙ったまま、何かを考えている。
中学時代のこと?そして今1人だけ過去に引き戻されてしまったテツヤのこと?
彼らもテツヤと一緒に過去と向き合おうとしている。
そんな風に見えた。
今度は誠凛のメンバーを見た。
みんなが顔を見合わせながら「いいのかな」って顔してる。
チームメイトとして、テツヤを大事に思ってて、心配してるんだ。
でもボクも赤司君に賛成だ。
誠凛のみんなはテツヤを信じてくれてる。
だからもう1度、過去を乗り越えなくちゃいけないんだ。
最後にボクは火神君を見た。
この先、きっと苦しむであろうテツヤのことを案じているんだ。
大きな瞳が不安そうに揺れてる。
そんな火神君の横顔を、青峰君がじっと見ていた。
それから、いまここで話したことはテツヤには当分、ひみつだよ。
赤司君は思い出したようにそう言った。
そうだね。今のテツヤは知らなくていい。
全部乗り越えた後で、笑い話になればいいな。
誠凛のメンバーまで赤司君が牛耳ったんだよってね。
赤司君、みんな。黒子君をよろしくね。絶対に無理はさせないで。
カントクが「キセキ」のみんなに頭を下げた。
ボクも一緒に頭を下げてみたけど、残念ながら誰も気づいてくれなかったみたいだ。
【続く】