お兄ちゃん(お姉ちゃん)といっしょのお題
【おはなしして】
なぁ、2号。どうしたらいいと思う?
ボクに真剣な表情で質問を投げてくる火神君。
だけどボクもどうしていいかわからないし、わかってもおはなししてあげられないよ。
テツヤの記憶がないことに、一番ショックを受けたのはやはり火神君だった。
何しろこの2人は「光と影」として、ずっとコンビを組んでいたから。
2人がバスケでずっと頑張ってこられたのは、お互い相手のの存在が大きかったと思う。
そんな相手が自分のことを忘れたとしたら、そりゃ驚くし、悲しい。
だけど火神君は挫けなかった。
忘れたなら思い出せばいい。
思い出せなければ、また覚えてもらえばいい。
そう言って、ずっと学校に戻ったテツヤの世話を焼いている。
2人1組のストレッチとか、パスの練習の時は必ず一緒に組むようにしている。
以前に比べて、テツヤの動きは鈍い。
しばらく休んでしまったのと、基本練習の手順をすべて忘れているせいだ。
火神君は辛抱強く、テツヤに説明してあげている。
部活以外でも、甲斐甲斐しくしているみたい。
2人は同じクラスだから、日常の学校生活のことは助けてあげているんだって。
ただ残念なことに、勉強のことだけは無理だった。
遅れてしまった勉強をフォローするのは、もっぱら2年生。
図書委員の仕事は降旗君がカバーしているそうだ。
だけどテツヤは何も思い出さなかった。
授業や委員会の仕事なんかは、少しずつ慣れていってるみたい。
部活についてもそれは同じ。
それにバスケについては、記憶がなくなっていても身体が覚えている。
パスやシュート単体の練習では、すぐに以前の動きを取り戻した。
でも試合形式になると、テツヤは全然ダメだった。
連係プレーのパターンを全部忘れているからだ。
何よりもテツヤを語る上で欠かせない、あのタップパスが出ない。
バニシングドライブも、ファントムシュートもできない。
当然だよね。これはテツヤにしかできない技なんだから。
誰もテツヤにそれを教えてあげることができないんだ。
火神君はいつもテツヤを見ている。
とにかく早く思い出してほしいって思ってるんだ。
だから練習の時も、チラチラとテツヤのことばかり気にしてるんだ。
それに最近の火神君は、練習の合間にボクのところに来て話しかけるようになった。
なぁ、2号。どうしたらいいと思う?
ボクに真剣な表情で質問を投げてくる火神君。
あの犬嫌いがボクに話しかけるなんて、余程のことだと思う。
それだけテツヤが心配で、だけどどうにもできないストレスが溜まってるんだ。
だけどボクもどうしていいかわからないし、わかってもおはなししてあげられないよ。
*****
黒子っち!大丈夫っスか!
叫び声とともに体育館に飛び込んできたのは、言わずと知れた黄色い人だった。
しばらく練習をしたものの、テツヤの記憶は戻らない。
そこでカントクたちが考えたのは「キセキの世代」のメンバーとテツヤを会わせることだった。
何しろ中学の3年間、テツヤは帝光中でバスケをしてた。
つまり誠凛よりも多くの時間を過ごしているんだ。
それにテツヤ独特のプレイスタイルを作ったのも、この時期だ。
だから彼らと会うことで、思い出すこともあるかもしれない。
ちなみに火神君は反対した。
今のテツヤは、日常生活に慣れるだけでいっぱいいっぱいだから。
実際、記憶をなくしてからのテツヤは、部活が終わる頃にはいつもグッタリしている。
元々バスケ部の中では体力がある方じゃなかったけどね。
とにかく火神君は、これ以上今のテツヤを疲れさせるようなことはしたくないんだって。
でもきっとそれだけじゃない。
火神君は多分嫌なんだと思う。
テツヤが自分じゃなくて「キセキ」の連中によって記憶を取り戻すことが。
嫉妬、もしくは独占欲。
火神君は自分がテツヤの心の中心にいたいって思ってるんだ。
黒子っち!大丈夫っスか!
放課後の練習中、いきなり体育館の扉が開いて、聞き覚えのある声が響いた。
元々黄瀬君はモデルさんだし、そこにいるだけで目立つ。
その上テンションも高いものだから、その存在感は圧倒的だ。
彼が誠凛に来ることは時々あって、その度に部員は少々うんざりしている。
だけど今回ばかりは期待に満ちた視線で受け入れられた。
だけど肝心のテツヤはポカンとしていた。
不意打ちで現れた黄瀬君が自分に突進してきたことに、困惑している。
しばらく無言で黄瀬君をジロジロと眺めた後「声、デカイです」と言った。
その表情はいつも通りの冷静なもので、何かを思い出したようには見えない。
黒子っち、記憶がないって本当なんですか?オレのことも?
黄瀬君は縋るような目でテツヤを見ながら、そう聞いた。
テツヤは首を振ると「すみません」と答えた。
まったく変わらない表情からは、謝罪の気持ちは見えなかったけど。
*****
黄瀬君が「黒子っち~」とテツヤにまとわりついていると、またしても扉が開いた。
現れたのは緑の人と、その相棒の鷹の目を持つ人。
しかも緑の人は、大きなクマのぬいぐるみを抱えていた。
実はボク、この人、苦手なんだよね。
この人のリヤカーに乗ってしまったことで、うっかりシュートされかけたんだ。
そのときは駆けつけてきてくれたテツヤに回収されて、事なきを得たけど。
黒子、まずはこれを持て。
緑間君が怖い顔で、クマのぬいぐるみをテツヤに押し付けようとしている。
まったく、真ちゃんが自分以外のラッキーアイテムを持ち歩くなんて初めてだよ。
高尾君が苦笑しながら、そう言った。
このクマはどうやらテツヤの星座、みずがめ座のラッキーアイテムらしい。
テツヤは「ありがとうございます」とクマのぬいぐるみを受け取った。
だけど腑に落ちない表情のままだ。
高尾君が「オレらのこと、わかる?」と聞いたけど、テツヤは首を振った。
だがふと思い出したように「初めまして、黒子テツヤです」と頭を下げる。
テツヤにとっては初対面だからってことだろう。
少々場違いなテツヤのリアクションに、誠凛のメンバーは脱力している。
その後、青い人と桃色の人も来た。
かつてのテツヤの光だった青峰君には、特にみんなの期待も大きかったと思う。
だけどテツヤは何も思い出さなかった。
テツ君、大丈夫?
心配そうな声を上げながらも、テツヤにベタベタ触るのを忘れない桃井さん。
だけどテツヤは「距離、近いです」と言って、桃井さんから離れてしまった。
ったく、記憶喪失ってなんだよ。
青峰君はめんどくさそうだったけど、やっぱりテツヤを気遣っているんだろう。
でもテツヤは青峰君を珍しそうに見て「何でそんなに顔が黒いんですか?」と言った。
赤司君と紫原君にも知らせてはあります。
でも遠いから、すぐには来られなくて。
桃井さんがカントクにそう話している。
カントクは桃井さんに電話で事情を伝えて「キセキ」のメンバーに連絡を頼んだんだ。
そこでまず関東にいる3人-青峰君、緑間君、黄瀬君が来ることになったらしい。
おい、テツ!
不意に青峰君の声が響いた。
緑間君と黄瀬君も「黒子!」「大丈夫っスか!」と叫ぶ。
3人の大きな男の人に囲まれて呆然としていたテツヤが、いきなりその場に崩れ落ちたからだ。
青峰君が慌てて伸ばした腕で抱き止めたので、床にたたきつけられることはなかった。
だけど完全に意識を失っている。
部員たちが驚いて、テツヤに駆け寄る。
だけどその次の火神君の行動は、さらにみんなを驚かせた。
その部員たちをかき分けるように割って入ると、強引にテツヤの身体を青峰君から奪い取ったんだ。
ひょいとテツヤを抱き上げると「保健室、連れて行く、です」と言って、歩き出した。
部員たちも青峰君たちも、呆然と火神君を見送っていた。
テツヤ、ひょっとして君は、隠していることがあるんじゃない?
ボクは「キセキの世代」のメンバーと対面したテツヤを見て、気づいたことがあるんだ。
テツヤは確かに記憶を失っているけど、多分それだけじゃないんだと思う。
今、突然意識を失ってしまったのも、その隠していることに関係あるんじゃないかな。
とにかく今は、テツヤのことが心配だ。
でもボクにできるのは、テツヤの無事を祈ることだけだった。
【続く】
なぁ、2号。どうしたらいいと思う?
ボクに真剣な表情で質問を投げてくる火神君。
だけどボクもどうしていいかわからないし、わかってもおはなししてあげられないよ。
テツヤの記憶がないことに、一番ショックを受けたのはやはり火神君だった。
何しろこの2人は「光と影」として、ずっとコンビを組んでいたから。
2人がバスケでずっと頑張ってこられたのは、お互い相手のの存在が大きかったと思う。
そんな相手が自分のことを忘れたとしたら、そりゃ驚くし、悲しい。
だけど火神君は挫けなかった。
忘れたなら思い出せばいい。
思い出せなければ、また覚えてもらえばいい。
そう言って、ずっと学校に戻ったテツヤの世話を焼いている。
2人1組のストレッチとか、パスの練習の時は必ず一緒に組むようにしている。
以前に比べて、テツヤの動きは鈍い。
しばらく休んでしまったのと、基本練習の手順をすべて忘れているせいだ。
火神君は辛抱強く、テツヤに説明してあげている。
部活以外でも、甲斐甲斐しくしているみたい。
2人は同じクラスだから、日常の学校生活のことは助けてあげているんだって。
ただ残念なことに、勉強のことだけは無理だった。
遅れてしまった勉強をフォローするのは、もっぱら2年生。
図書委員の仕事は降旗君がカバーしているそうだ。
だけどテツヤは何も思い出さなかった。
授業や委員会の仕事なんかは、少しずつ慣れていってるみたい。
部活についてもそれは同じ。
それにバスケについては、記憶がなくなっていても身体が覚えている。
パスやシュート単体の練習では、すぐに以前の動きを取り戻した。
でも試合形式になると、テツヤは全然ダメだった。
連係プレーのパターンを全部忘れているからだ。
何よりもテツヤを語る上で欠かせない、あのタップパスが出ない。
バニシングドライブも、ファントムシュートもできない。
当然だよね。これはテツヤにしかできない技なんだから。
誰もテツヤにそれを教えてあげることができないんだ。
火神君はいつもテツヤを見ている。
とにかく早く思い出してほしいって思ってるんだ。
だから練習の時も、チラチラとテツヤのことばかり気にしてるんだ。
それに最近の火神君は、練習の合間にボクのところに来て話しかけるようになった。
なぁ、2号。どうしたらいいと思う?
ボクに真剣な表情で質問を投げてくる火神君。
あの犬嫌いがボクに話しかけるなんて、余程のことだと思う。
それだけテツヤが心配で、だけどどうにもできないストレスが溜まってるんだ。
だけどボクもどうしていいかわからないし、わかってもおはなししてあげられないよ。
*****
黒子っち!大丈夫っスか!
叫び声とともに体育館に飛び込んできたのは、言わずと知れた黄色い人だった。
しばらく練習をしたものの、テツヤの記憶は戻らない。
そこでカントクたちが考えたのは「キセキの世代」のメンバーとテツヤを会わせることだった。
何しろ中学の3年間、テツヤは帝光中でバスケをしてた。
つまり誠凛よりも多くの時間を過ごしているんだ。
それにテツヤ独特のプレイスタイルを作ったのも、この時期だ。
だから彼らと会うことで、思い出すこともあるかもしれない。
ちなみに火神君は反対した。
今のテツヤは、日常生活に慣れるだけでいっぱいいっぱいだから。
実際、記憶をなくしてからのテツヤは、部活が終わる頃にはいつもグッタリしている。
元々バスケ部の中では体力がある方じゃなかったけどね。
とにかく火神君は、これ以上今のテツヤを疲れさせるようなことはしたくないんだって。
でもきっとそれだけじゃない。
火神君は多分嫌なんだと思う。
テツヤが自分じゃなくて「キセキ」の連中によって記憶を取り戻すことが。
嫉妬、もしくは独占欲。
火神君は自分がテツヤの心の中心にいたいって思ってるんだ。
黒子っち!大丈夫っスか!
放課後の練習中、いきなり体育館の扉が開いて、聞き覚えのある声が響いた。
元々黄瀬君はモデルさんだし、そこにいるだけで目立つ。
その上テンションも高いものだから、その存在感は圧倒的だ。
彼が誠凛に来ることは時々あって、その度に部員は少々うんざりしている。
だけど今回ばかりは期待に満ちた視線で受け入れられた。
だけど肝心のテツヤはポカンとしていた。
不意打ちで現れた黄瀬君が自分に突進してきたことに、困惑している。
しばらく無言で黄瀬君をジロジロと眺めた後「声、デカイです」と言った。
その表情はいつも通りの冷静なもので、何かを思い出したようには見えない。
黒子っち、記憶がないって本当なんですか?オレのことも?
黄瀬君は縋るような目でテツヤを見ながら、そう聞いた。
テツヤは首を振ると「すみません」と答えた。
まったく変わらない表情からは、謝罪の気持ちは見えなかったけど。
*****
黄瀬君が「黒子っち~」とテツヤにまとわりついていると、またしても扉が開いた。
現れたのは緑の人と、その相棒の鷹の目を持つ人。
しかも緑の人は、大きなクマのぬいぐるみを抱えていた。
実はボク、この人、苦手なんだよね。
この人のリヤカーに乗ってしまったことで、うっかりシュートされかけたんだ。
そのときは駆けつけてきてくれたテツヤに回収されて、事なきを得たけど。
黒子、まずはこれを持て。
緑間君が怖い顔で、クマのぬいぐるみをテツヤに押し付けようとしている。
まったく、真ちゃんが自分以外のラッキーアイテムを持ち歩くなんて初めてだよ。
高尾君が苦笑しながら、そう言った。
このクマはどうやらテツヤの星座、みずがめ座のラッキーアイテムらしい。
テツヤは「ありがとうございます」とクマのぬいぐるみを受け取った。
だけど腑に落ちない表情のままだ。
高尾君が「オレらのこと、わかる?」と聞いたけど、テツヤは首を振った。
だがふと思い出したように「初めまして、黒子テツヤです」と頭を下げる。
テツヤにとっては初対面だからってことだろう。
少々場違いなテツヤのリアクションに、誠凛のメンバーは脱力している。
その後、青い人と桃色の人も来た。
かつてのテツヤの光だった青峰君には、特にみんなの期待も大きかったと思う。
だけどテツヤは何も思い出さなかった。
テツ君、大丈夫?
心配そうな声を上げながらも、テツヤにベタベタ触るのを忘れない桃井さん。
だけどテツヤは「距離、近いです」と言って、桃井さんから離れてしまった。
ったく、記憶喪失ってなんだよ。
青峰君はめんどくさそうだったけど、やっぱりテツヤを気遣っているんだろう。
でもテツヤは青峰君を珍しそうに見て「何でそんなに顔が黒いんですか?」と言った。
赤司君と紫原君にも知らせてはあります。
でも遠いから、すぐには来られなくて。
桃井さんがカントクにそう話している。
カントクは桃井さんに電話で事情を伝えて「キセキ」のメンバーに連絡を頼んだんだ。
そこでまず関東にいる3人-青峰君、緑間君、黄瀬君が来ることになったらしい。
おい、テツ!
不意に青峰君の声が響いた。
緑間君と黄瀬君も「黒子!」「大丈夫っスか!」と叫ぶ。
3人の大きな男の人に囲まれて呆然としていたテツヤが、いきなりその場に崩れ落ちたからだ。
青峰君が慌てて伸ばした腕で抱き止めたので、床にたたきつけられることはなかった。
だけど完全に意識を失っている。
部員たちが驚いて、テツヤに駆け寄る。
だけどその次の火神君の行動は、さらにみんなを驚かせた。
その部員たちをかき分けるように割って入ると、強引にテツヤの身体を青峰君から奪い取ったんだ。
ひょいとテツヤを抱き上げると「保健室、連れて行く、です」と言って、歩き出した。
部員たちも青峰君たちも、呆然と火神君を見送っていた。
テツヤ、ひょっとして君は、隠していることがあるんじゃない?
ボクは「キセキの世代」のメンバーと対面したテツヤを見て、気づいたことがあるんだ。
テツヤは確かに記憶を失っているけど、多分それだけじゃないんだと思う。
今、突然意識を失ってしまったのも、その隠していることに関係あるんじゃないかな。
とにかく今は、テツヤのことが心配だ。
でもボクにできるのは、テツヤの無事を祈ることだけだった。
【続く】